スマホ感覚で一眼クオリティが楽しめるニコン NIKKOR Z 26mm f/2.8
はじめに
2023年3月3日に発売された、ニコンのNIKKOR Z 26mm f/2.8。このレンズが発売になると初めて耳にした時に真っ先に思い浮かんだのは「なぜ26mm?」ということでしたが、これはきっと私だけではなかったのではないでしょうか。本レンズは一見不思議なその焦点距離と、レンズ本体の厚みが23.5mm(付属のレンズフードを装着しても約35mm)と非常に薄いパンケーキレンズであること、また発売時点でのZシリーズレンズの中では最軽量ということが大きな特徴として挙げられます。今回はこのレンズで日常の一コマと春の訪れを撮り歩いたスナップ写真でご紹介します。
とにかくレンズが薄いので、小型のインナーケース(H9.5×W9.0×D16.5cm:公式HPより)にもほぼジャストサイズで収まりました。友人との食事など、「撮影目的ではない、ちょっとしたお出かけ」の際にも、念のためカメラは持ち歩きたい。そんな時に「カメラバッグではない普通のカバン」にこのセットを入れて出かけていますが、フルサイズ機をこの感覚で持ち出せることに驚きと喜びを感じます。
また、付属の薄型レンズフードはレンズの薄さを維持しつつ鏡筒と一体化するデザインで、収納時もそのままつけっぱなしにできる点もありがたいところ。レンズの保護フィルターはレンズフードの先端に装着でき、レンズフード+保護フィルターをつけたままでかぶせ式のレンズキャップを装着できます。
なぜ26mm?iPhoneとの比較
冒頭にも書きましたが、そもそもなぜ焦点距離が26mmなのか。Zシリーズには約1年半前に世に出たNIKKOR Z 28mm f/2.8という焦点距離が非常に近いレンズがあり、より一層「なぜ?」が強くなるところですが、その答えは、今や世界中の人々、特に私たち日本人の多くが手にしている最も身近なカメラ、iPhoneにあるのだとか。iPhoneの標準カメラの画角は、35mm判換算で26mm。スマートフォン全般の台頭により「カメラ」が売れにくくなっている昨今、スマートフォンユーザーがいつもの見慣れた画角で撮れる!というアプローチに、なるほどー!と唸ってしまいました。
そこで、自らもiPhoneユーザーである私が試してみたくなったことといえば、やはりこれ。本レンズとiPhone(13)との撮り比べをしてみました。尚、ニコンのカメラのアスペクト比(写真の縦横比)は3:2なのに対して、iPhoneは4:3。見比べやすくするためにiPhoneの写真も3:2に整えた以外のトリミング、またレタッチ等は一切施していません。
神戸港に停泊中の帆船「日本丸」を、船全体が入るように撮影。上下左右、厳密には全く同じ範囲とは言えないものの(これはそもそもセンサーサイズが違うので仕方のないこと)、もう誤差と言っても良さそうなくらい「同じ大きさで写っている」という印象です。
▼Z 6II
▼iPhone13
建築家 フランク・ゲーリー氏の設計で同じく建築家 安藤忠雄氏監修による、鯉をモチーフにしたオブジェ「フィッシュダンス」をローアングルで見上げるように撮影。ちょうど逆光となる時間帯だったのですが、こういった場面では、影になる部分が黒く潰れてしまいがちです。そこで自動的に暗部を持ち上げ、全体的に明るく仕上げてくれる点において「iPhoneってすごいな~」と感心します。
一方でニコンのカメラも「アクティブDライティング」という機能を活用することで、明暗差がある場面での白飛びや黒潰れを軽減し、見た目に近いディテールの表現が可能となります。
▼Z 6II
▼iPhone13
背景をぼかしたい、そんな時に「被写体にできるだけ近づき、被写体から背景に奥行きを持たせる」ことで、iPhoneも含むどんなカメラやレンズであってもその機材でできる限りのボケを作ることができます。その上で「F値を小さくして絞りを大きく開く」ことでボケをできるだけ大きくすることができる中、今回撮影した写真の撮影データを見ると、Z 26mmが絞り開放の「F2.8」に対して、iPhoneのF値は「F1.6」。
数値だけ見ると「F1.6」の方が絞りを大きく開いているためより大きなボケが得られそうに思えますが、そこはセンサーサイズの違い(センサーサイズが大きい方がボケも大きくなる)による差が顕著に現れています。また、花弁の透明感や色のやわらかさはやはり一眼カメラの方が透明度が高く、またやわらかく感じられます。
▼Z 6II
▼iPhone13
最短撮影距離20cmでの描写と絞り開放F2.8のボケ感
本レンズの最短撮影距離(センサー面から被写体までの距離)は0.2m、つまり20cm。カメラ上部の距離指標マークから、女性が手を開いたくらいの長さに相当し、「被写体にかなり寄れる」という印象です。
本レンズを手にしてすぐに出かけた食事の席で試し撮り。最短撮影距離まで近づいた際の様子を、向かいの席からスマートフォンで撮影してもらいました。
夕刻に咲き始めの桜を撮影。後ろのボケをできるだけ大きくするためにピントの合うギリギリの距離まで近づいて。背景中央の点光源が綺麗な玉ボケになりました。また同じF値の場合、焦点距離が短い(広角である)ほどボケは小さくなるのですが、ゆえに周りの情景といった情報も伝えやすくなります。
焦点距離が26mmと画角が広いため背景も広く入ります。背景の飛び石のボケ加減の調節のため、絞りを1段絞りました。
ちょうど逆光になる屋外のテラス席で、少し傾いた陽射しを受けての撮影は明暗差によるコントラストが強く出る場面です。ここでもアクティブDライティングを強めにすることで自然な明暗差になりました。また、画面奥で日差しを受けて輝いていた部分がキラキラとした玉ボケに。
様々な場面でのスナップ(FX=フルサイズの場合)
「スマホ感覚で、画質やボケは一眼クオリティが楽しめる」、そんな本レンズで日々のスナップ撮影を楽しんでみました。
休業日の店先にあったかわいい缶。被写体にぐっと寄ることで主役を大きく捉えつつ、広い画角に伴って広く入る背景にこのお店の印象的な入口の扉を入れました。
チューリップ畑の続く広大な公園のスケール感も、26mmの画角であれば広さと奥行き感から十分に伝えることができます。
広角の特徴(手前のものが大きく写り、遠くのものは小さく写る)を活かして、チューリップの林越しに広がる春の公園を。
繁華街の路地裏を歩いていてふと目に止まった……白蛇!?一瞬、本当に白ヘビのように見えたのですがもちろんそのようなことはなく(笑)。自分の目線、視界の中で目に止まった被写体を表現するために程よく周りの情景を入れるにあたり、ちょうど良い画角でした。尚、この日は曇天で、薄暗い路地裏に白く浮かび上がる白いホースの印象を強くするため、仕上がり設定にクリエイティブピクチャーコントロールの「ソンバー」を選択しました。
雨上がりの大阪・道頓堀にて。本レンズはすべての条件で完全な防塵・防滴を保証するものではないものの「防塵・防滴に配慮した設計」とのことで、小雨程度なら安心して持ち出せます。また、開放絞りがF2.8と明るいレンズであるため、ISO感度をさほど上げなくても手ブレの心配がないシャッター速度を確保できました。
35mm判換算39mm DX(APS-C)との比較
Zシリーズのカメラ本体は、センサーサイズの違う2種類(FX=フルサイズ、DX=APS-C)がありますが、レンズマウントが同じなのでFX用のレンズをDX機に装着して撮影することも可能です。ただしDX機はセンサーサイズが小さいため、焦点距離×1.5の画角となり、本レンズの場合は26×1.5=39mm相当の画角となります。では、同じ本レンズをFX機(Z 6II)とDX機(Z 30 / Z fc)に装着した場合、どのくらいの違いが現れるのかを見てみましょう。
まずは非常にシンプルに「写る範囲」を比較。26mmと39mm相当ではかなりの差があることがわかります。
▼FX=フルサイズ
▼DX=APS-C
2車線の道路越しに向こうの建物を撮影。ここは26mmだと周囲に余計なものが写り過ぎる上に被写体までが遠い印象となりました。39mm相当だとスッキリとまとまり、距離感的にも伝えたい建物の雰囲気が伝わりやすくなりました。
▼FX=フルサイズ
▼DX=APS-C
花壇の同じお花にそれぞれ最短撮影距離まで寄って撮影。周囲まで入れたい場合はFXが良さそうですが、39mm相当になるDX機だと、奥の壁がほとんど入らずに済みました。DX機の場合、マイクロレンズには到底敵わないとしても、「マクロ的な撮影」も楽しめることがわかります。
▼FX=フルサイズ
▼DX=APS-C
様々な場面でのスナップ(DX=APS-Cの場合)
ZシリーズにはNIKKOR Z 40mm f/2というレンズがあり、以前ご紹介した通り非常に使い勝手の良い画角なのですが、本レンズをDX機に装着すると、FX機に40mmのレンズを装着したときとほぼ同じ画角となり……つまり、こちらもまた「非常に使い勝手の良い画角」に!今回はZ fcに本レンズを装着して撮り歩いてみました。
街の雰囲気や奥行き感などが、肉眼で見えている世界の中で視認できている範囲と比較的近く、「とても自然な街の光景」になりました。
昭和レトロな喫茶店の店先で目に留まった黄色いお花。そばに置かれていた青い自転車との組み合わせもまた目を惹きます。周囲の余計なものが入りすぎず、撮りたいものがちょうどよくまとまった感覚でシャッターを切りました。
逆光がとても綺麗で思わず道端にしゃがみこんでしまった昼下がり。ほぼ真正面からの光を受けてキラキラと輝く葉がたくさんの玉ボケとなりました。
39mm相当の画角は、メインのお皿+周囲のものをいくつか、または料理+背景など、テーブルフォトにも重宝する画角です。このことを考えると、DX機ユーザーが旅行の際、荷物を減らしたい場合に高倍率ズームレンズ(例:NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VR)と明るい単焦点である本レンズの2本、という選択はとても使い勝手の良い組み合わせでおすすめです。
まとめ
とにかく小型軽量でストレスなく持ち歩くことができ、FX機の場合はスマートフォンと同じ感覚でより高画質の写真が撮れることから、本レンズが手元に届いて以来「とりあえずつけっぱなしにしておくレンズ」となっています。ある意味、ボディキャップ代わりのような存在でもあります。またDX機の場合は、見た目に近い自然な画角を楽しめて、お散歩レンズとしても、旅レンズとしても重宝すること。これらがこのNIKKOR Z 26mm f/2.8を持つ理由となっており、おすすめしたいポイントです。
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員