ニコン NIKKOR Z 28-75mm f/2.8 レビュー|コンパクトながらボケ味の美しい標準ズームレンズ
はじめに
ズーム全域で開放F値2.8の、大きなボケと柔らかい描写を楽しめる「NIKKOR Z 28-75mm f/2.8」が、2022年1月に発売されました。今回は、小型・軽量で使い勝手のいい本レンズの魅力を、ポートレートを通してお伝えします。
ふんわりと自然なボケ味
本レンズは焦点距離28mmから75mmの、標準画角のズームレンズです。レンズ構成は12群15枚で、スーパーEDレンズ1枚、EDレンズ1枚、非球面レンズ3枚を搭載しています。絞り羽根枚数は9枚の円形絞り採用、最大絞りはF2.8、最小絞りはF22。サイズは約75mm×120.5mmとコンパクトで、重さも約565gと軽量です。
使いやすい画角とサイズ感は、スナップや旅行にもピッタリですが、広角端から望遠端までF2.8の開放F値が使用できるので、ポートレートにもお勧めのレンズです。
F2.8の描写は、ピントを合わせた片方の目の輪郭をしっかりと描き出し、もう片方の目がカメラとの距離がある場合は、ふんわりと自然なボケ方をする見やすい描写になります。F1.8のふわふわ、ぽやぽやの描写も素敵ですが、モデルの背景や周りの風景・家具などのムードを、はっきりくっきりではなく優しく描きたいときに丁度いい絞り数値です。
今回使用したスタジオはアンティークなテイストで、室内も庭も筆者好みの家具や小物が配置してあるので、どの場所でどんなムードで演じてもらうかを考えるのは、とても楽しかったです。
この写真は、広角端の28mmで撮影しています。通常、ズームレンズ使用時は望遠側を多用する筆者ですが、今回の撮影は、広角側で色々なムードを写し込むことを堪能しました。背景の枝のオブジェに太陽光が斜めに当たっていますが、同じようにモデルの髪に天使の輪ができた瞬間が美しくて、シャッターを切りました。
モデルの肌の色味、質感を柔らかく表現しながら、背景の木やレンガの堅いイメージをしっかりと描いてくれたからこその、硬軟を感じられる一枚に仕上げられました。
最短撮影距離が短いのも魅力のひとつ!
本レンズは、広角端の28mm使用時の最短撮影距離が0.19mと短いのも特徴のひとつです。被写体に魅力を感じて近付きたいと思ったとき、物理的に被写体との距離が取れないときなど、撮影の自由度が上がります。各焦点距離の最短撮影距離は、35mmでは0.22m、50mmでは0.3m、75mmでは0.39mとなっています。
また、STM(ステッピングモーター)のお陰でレンズの駆動音、動作音が静かなので、近距離撮影時にモデルへの圧迫感が少なくなるのは、ポートレート撮影では嬉しい点でもあります。顔に近い位置にあるレンズが、大きな音を立ててピント合わせを行うのは、撮られている側としてはちょっと気になるし、圧を感じることもありますので、静かならそれに越したことはありません。
素早く静かなAF
AFの性能は言うまでもなく高性能。Nikon Z 6IIとのマッチングも良く、モデルの前に被写体があり、モデルの顔が構図内で占める割合が少ないシチュエーションでも、瞳AFがしっかりと働いてストレスのないピント合わせが行なえます。
撮影しながら思ったことのひとつに、好感度の高いボケ味だということがあります。物体の輪郭を残しながら、その線は柔らかく表現し、光のあたっているところは自然に丸くボケる。このボケ味のお陰で、主役であるモデルの立体感と存在感がぐっと上がってくれました。
軽くて小さいレンズだからこそ、できる撮影もある
軽量・コンパクトなのも、このレンズの大きなメリットです。ポートレートに限らず、どんな撮影でも同じですが、ただ立ったままシャッターを押すことは少なく、しゃがんだり、這いつくばったり、台に乗ったり、段差に足を掛けながらなど、不安定な姿勢で撮影することは多々あります。
そんなとき、レンズの長さは短いほうが自身の体のバランスは取りやすくなり、重さは軽いほうが、少々不安定な姿勢でも長時間の撮影が可能になります。不安定で危険な姿勢での撮影はお勧めしませんが、安全を確保できるのであればアイレベル以外の撮影は、作品のボキャブラリーを増やしてくれるのでお勧めしたいです。本レンズは、そんな撮影のパートナーとして最適でした。
隅々までしっかりと描き出す堅実な描写性能
とにかく隅々までの描写がしっかりとしているので、構図全部を使って見せたいものを魅力的に見せることができます。広角端から望遠端まで、妙な歪みや光量落ちは見られず、余計なことを考えずに撮影に集中できるのが、何よりも嬉しい点。
前ボケ、後ろボケ共に自然な柔らかさで描いてくれるので、立体感を出したいこともあり、今回の撮影では特に前ボケを多用して楽しみました。
活躍の場が広い、一本持っておきたい明るい標準ズームレンズ
28mmから75mmという標準画角のレンズのスペック上、キットレンズをお持ちの方は食指が動かないかも知れませんが、そのような方にも、F2.8通しのメリットはかなり大きいと感じました。また、Z fcなどキットレンズが単焦点レンズだった方は、一本持っていると便利な標準画角のズームレンズとして、買い足しを強くお勧めできるレンズです。
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。 (社)日本写真家協会(JPS)会員。