ニコン NIKKOR Z 35mm f/1.2 S レビュー|キレの良さと柔らかな描写がポートレート撮影に最適!

高橋伸哉
ニコン NIKKOR Z 35mm f/1.2 S レビュー|キレの良さと柔らかな描写がポートレート撮影に最適!

はじめに

今回はニコンの「NIKKOR Z 35mm f/1.2 S」をレビューしていく。同社のレンズは「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」を所有して多数の作品を撮ってきたが、今回のレンズは筆者が得意とする35mmの画角、そしてポートレートで抜群の威力を発揮する開放F1.2の大口径ということで、135mmとはまた一味違った作品が撮れる期待感があった。

実際に使ってみると、今まで使ってきた35mmレンズの中で一、二を争うほど素晴らしい写りを見せてくれ、最新の大口径レンズの出来栄えをまざまざと見せつけられた。今回もポートレート作品とともに、この魅力的なレンズの写りを解説していきたいと思う。

こちらのレンズはニコン公式のスペシャルコンテンツも担当させていただいたので、ぜひそちらもご覧いただきたい。

▼NIKKOR Z 35mm f/1.2 Sスペシャルコンテンツ
https://nij.nikon.com/sp/nikkor_z/photographers/takahashi_35mm_f12_s/

肌の描写が最高

■撮影機材:Nikon Z6III + NIKKOR Z 35mm f/1.2 S
■撮影設定:F1.2 1/1250s ISO320

ニコンのZレンズは高解像でよく写る、というイメージを持っている人も多いと思うが、人物を撮影する際にカリカリに解像してしまうと硬い印象になって逆効果にもなりかねない。その点、このZ 35mm f/1.2 Sは服の質感などはしっかりキレのある写りをしているのに、人の肌は柔らかさを感じられるような滑らかな描写をみせてくれるのが好印象だった。

Z 135mm f/1.8 S Plenaも非常に綺麗でクリアな写りなのだが、ちょっと方向性が違うというか、筆者の作風に欲しいしっとりとした雰囲気をまとわせるような、空気感を作品に込められるのはこちらのZ 35mm f/1.2 Sだと感じた。例えば評価の高いライカのレンズなんかは、なかなか言葉では表しにくい絶妙な描写をしてくれるが、それに似たニュアンスを持っているのが本レンズの特徴だ。

■撮影機材:Nikon Z6III + NIKKOR Z 35mm f/1.2 S
■撮影設定:F1.2 1/100s ISO160
■撮影機材:Nikon Z6III + NIKKOR Z 35mm f/1.2 S
■撮影設定:F1.2 1/100s ISO160

肌が美しく感じられる要因としてF1.2の大きなボケも関係していると思う。被写界深度が非常に浅く、横顔で瞳にピントを合わせたら手前の頬はうっすらボケているので、柔らかさが加わったような良い効果が生まれていると感じた。同じ35mmでもF1.8やF1.4のレンズではここまでボケないので、F1.2ならではの写りと言えるだろう。

スナップで使うのにもいいレンズなので、建物を入れた都市風景も撮ってみた。こちらはF6.3まで絞ってみたが、画面の隅々まで高い解像感を誇っており、かつ歪みも全く無いことが分かる。高価なレンズだけあって基本の描写性能が高いので、ポートレート撮影以外でも大いに活躍してくれることだろう。

■撮影機材:Nikon Z6III + NIKKOR Z 35mm f/1.2 S
■撮影設定:F6.3 1/100s ISO100

F1.2の圧倒的なボケ

■撮影機材:Nikon Z6III + NIKKOR Z 35mm f/1.2 S
■撮影設定:F1.2 1/320s ISO100

F1.2で撮るとどれだけのボケ感になるのか、作品を見ていただければボケの大きさがよく伝わると思う。35mmの画角でも背景がとろけるようにボケて被写体をグッと浮かび上がらせることができるのは大口径F1.2だからこそ。背景に写り込んだ街中の様子や建物などは存在感を感じつつも美しくボケてくれるので、ポートレートスナップで使うのにも最高のレンズだ。

被写界深度が極めて浅いので、ピントが合ったモデルさんの瞳に自然と視線誘導され、その表情に惹き込まれる感覚を生み出してくれる。顔に寄ってわざと前髪にピントを合わせると、そのすぐ奥にある瞳がいい感じにボケてくれるので、アンニュイな雰囲気や柔らかな質感をまとわせたい時にも非常に有効だ。

大きなボケを楽しめるのはもちろん、暗い室内や陽が落ちてきたマジックアワーなどのシーンでも、開放F1.2ならシャッタースピードを稼げるのでISO感度をそこまで上げずに済む。光量が少ない環境だと手ブレやノイズを気にして撮影しないといけないが、そんな心配もなく安心して撮影に臨むことができるのは開放F1.2のメリットだ。

■撮影機材:Nikon Z6III + NIKKOR Z 35mm f/1.2 S
■撮影設定:F1.2 1/50s ISO800
■撮影機材:Nikon Z6III + NIKKOR Z 35mm f/1.2 S
■撮影設定:F1.2 1/3200s ISO64

また、ニコンのミラーレスはEVFがとても綺麗に見えるので、開放での大きなボケ感や美しい写りを損なうことなくそのまま確認できることに感動した。今回の撮影ではZ8やZ6IIIを使用したのだが、他社カメラ以上に明るく綺麗に見えるEVFのおかげで、MFでもピント合わせはしやすかった。

ボディとの組み合わせでいうと、Z8に装着すると2㎏近い質量になるので、そうなると気軽に持ち出す感じではなくなる(Z 35mm f/1.2 S:約1060g、Z8:約910g)。明るいレンズだけにサイズは大きめなので、Zfよりはグリップがしっかり握り込めるボディの方がいい。総合的に考えるとZ6IIIで使うのがベストマッチなのではないだろうか。

余白を活かす35mm画角

■撮影機材:Nikon Z6III + NIKKOR Z 35mm f/1.2 S
■撮影設定:F1.2 1/50s ISO1000

ポートレート撮影をするときに個人的に最も好んで使っている焦点距離がこの35mm。準広角の広さを活かして、モデルさんの周りに適度な余白を作ってあげることでバランスの取れた構図になり、作品としての完成度も高くなると考える。周囲の様子を入れ込むことで、日常感を垣間見せるような情景ポートレートに仕上げることができる。

ただ、35mmの距離感に慣れないと中途半端な構図になってしまうため、50mmに比べると難しいと感じる人も少なくないだろう。ここに関してはたくさん撮って感覚を覚えていくしかないが、シーンによっては意図的に足先や頭の先を切ることで全体のバランスが整うように意識して撮っている。

■撮影機材:Nikon Z6III + NIKKOR Z 35mm f/1.2 S
■撮影設定:F1.2 1/5000s ISO100

中望遠のZ 135mm f/1.8 S Plenaを使うとザ・ポートレートという構図で撮ることが多くなるが、準広角の35mmなら背景を広く取り入れてみたりモデルさんに寄ってみたり、多様な撮り方ができるのも魅力だ。画角の広さを活かせば、若干のパースが効いた奥行き感を出したような表現もすることができる。

特にこのレンズは最短撮影距離が30cmということで、筆者が愛用しているズミルックスの35mmより10cmも近接することができるスペックであり、今まで以上に寄った作品が撮れることに感動した。レンズ自体がそこそこの長さがあるので、最短の30cmまで寄ると思った以上に被写体に近い感覚になる。

■撮影機材:Nikon Z6III + NIKKOR Z 35mm f/1.2 S
■撮影設定:F1.2 1/200s ISO100

かなり寄れることに加えて開放F1.2だと極薄の被写界深度になるので、カメラ側の瞳AFの精度が高いとはいえ、意図した箇所にピントが合っているか撮影毎にきちんと確認してほしい。とはいえ、前髪が目にかかっているようなシーンでもZ8やZ6IIIの瞳AFはバッチリ効いてくれるので、基本はカメラ任せでなんら問題はなかった。

時にはMFでピント位置をわざと瞳から外すこともあるのだが、レンズ横にはAF/MFの切り換えスイッチがついているのでフォーカスモードの変更も瞬時に行えるのが便利だ。

安心して撮影できる逆光耐性

■撮影機材:Nikon Z6III + NIKKOR Z 35mm f/1.2 S
■撮影設定:F1.2 1/2000s ISO100

本レンズは「メソアモルファスコート」、「ナノクリスタルコート」、「アルネオコート」という独自のコーティングが施されているおかげで、逆光耐性も非常に高いと感じた。太陽の光が正面や斜めから差し込む角度でカメラを構えてもフレアやゴーストはほぼ発生しておらず、逆光でモデルさんを撮っても解像感が落ちることなくバチっとクリアに撮れるのが気持ちよかった。

オールドレンズみたいな逆光を活かしてふわっと柔らかなポートレート、という感じの表現はこのレンズではできないが、余計なフレアなど被写体を邪魔するものがなにもなく、逆光でこれだけ綺麗に撮れることに感動を覚えた。光を受けてモデルさんの輪郭が強調されるとともに、F1.2のボケ感も相まってなおさら背景から分離しているように感じられる。大きくプリントしたときにこの美しさがより伝わるのではないかと思う。

もちろん、逆光でモデルさんの顔が暗くなっても被写体検出でバッチリ瞳を捉えてくれるので、ピント合わせのストレスもなく構図決めに集中することができるのはありがたかった。

■撮影機材:Nikon Z6III + NIKKOR Z 35mm f/1.2 S
■撮影設定:F1.2 1/200s ISO100

さいごに

肌の柔らかな描写、被写体が引き立つF1.2の開放F値、質感が際立つキレの良い解像性能、さらにはAFも速いし逆光耐性も素晴らしいということで、「最強」の35mmレンズがここに誕生したのではないだろうか。筆者の作品撮りには欠かせない35mm、作品の幅が広がる準広角ということで、ポートレートやスナップを撮影する人にぜひ手に取ってほしい一本だ。

 

 

■モデル
春日久瑠実(@kuuurumin321
白川うみ(@umiiiii17
まゆめ(@mayume73
風音(@n_zaza0027
清成月恵(@yk_Luce_diem

 

■写真家:高橋伸哉
スナップからポートレートまで幅広く撮影をする写真作家。写真集「堕花」「impermanence」、書籍「写真からドラマを生み出すにはどう撮るのか?」「情景ポートレートの撮り方」など出版。共同執筆の書籍も多数。
写真教室も定期的に開催しており常に満員になるほどの人気。最近ではインドやタイを旅をしており世界中でスナップを撮るなど自分の好きを追求して写真を撮る日々。

 

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