ニコン NIKKOR Z 40mm f/2 レビュー|クリアーな描写でリズミカルにシャッターを押せる単焦点レンズ
はじめに
10月1日に発売された「NIKKOR Z 40mm f/2」は、焦点距離40mmの使いやすい標準画角で小型・軽量な、フルサイズ対応の単焦点レンズです。今回は、本レンズとNikon Z 6IIの組み合わせで、街中のスナップとともにレビューをお送りします。
四隅まで歪みのない美しい描写
まず気になるその描写性能ですが、価格からは信じられないほどクリアーで美しい画を生み出してくれました。特に、明暗の差が大きなシーンでも色のにごりなどを作らずに、ヌケの良い描き方をしているのが好印象。絞り開放でも四隅まで手を抜かずに描ききっているので、構図内に何をどのように配置するかを考えるのが楽しいスナップ撮影では、構図の自由度がさらに上がります。
レンズ構成は4群6枚で、非球面レンズを2枚採用しています。本レンズは、この非球面レンズのおかげで歪曲収差と球面収差が抑えられて、自然かつ見やすい画像を楽しむことができます。街中のスナップでは構図内に縦横のラインが入ることが多く、また、それを楽しみたい気持ちも強いので、余計な歪みが少ないことは嬉しいです。
絞り開放での撮影が楽しい自然なボケ味
開放絞り値はF2、絞り羽根枚数は9枚のレンズ構成によって、自然で柔らかいボケを味わうことができます。スナップ撮影時はF5.6前後の絞り値を使うことが多いのですが、本レンズは絞り開放値のF2のボケ具合が心地よく、ボケのグラデーションもとても自然だったので、絞り開放での撮影を堪能しました。
わざとらしく見えないボケ味は焦点距離も手伝っていると思いますが、レンズの性能の良さを感じさせてくれます。ピントが合っているところのシャープさと、その周辺部のすっきりとした描き方は筆者の好みでした。このような建造物の写真は、レンズの解像性能が低いと眠い写真になってしまうのですが、そんな心配はいらないほど、アンダー部も綺麗に描き出してくれています。
この写真では、クリエイティブピクチャーコントロールの「トイ」を使用しています。彩度を高めることで床の木目の色味を強調して、周りの金属的な縦横のラインも温かみのある色味にしてくれるので、全体にこってり感のある深みのある写真に仕上げてくれるモードです。暗部をぐっと引き締めたいこのような写真で使用すると重厚感が出るので、スナップでは時折使用するクリエイティブピクチャーコントロールです。
取り回しのいいコンパクトサイズ
本レンズの全長は約45.5mm、重さは約170gとかなりコンパクトなのも特徴のひとつです。今までのZマウントの単焦点レンズは長いものが多かったのですが、この薄さならカメラに装着した状態でも、バッグからの出し入れが容易に行なえます。
また、ホコリや雨、飛沫などの侵入を防ぐ防塵・防滴設計ですので、天候や撮影状況に左右されずに撮影が可能。繰り出しの動作がいらない非沈胴式なのも、シャッターチャンスを逃さないためには嬉しい点です。
ここでは、クリエイティブピクチャーコントロールの「ソンバー」を使用しました。ポートレートではふんわりした写真が好きな筆者ですが、本レンズで撮影するとコントラストの高い、くっきりとした画を描き出したくなり、彩度を高めて暗部を引き締めてくれる「ソンバー」がぴったりハマりました。
STM採用の素早く静かなAF性能
本レンズはSTM(ステッピングモーター)を採用しており、ピント合わせはより静かに素早くなっています。その素早さのおかげもありますが、筆者は最近マニュアルフォーカスのレンズを使うことが多かったので、オートフォーカスでの撮影はよりリズミカルに行えて楽しかったです。
今回のNikon Z 6IIでの撮影は、ファインダーと液晶画面の両方を使用してピント合わせを行っています。ファインダーを覗くのが難しいローアングル撮影時や、街中でカメラの存在感を誇張したくないときなどは、液晶画面をタッチしてピントの箇所を指定して、シャッターボタンでシャッターを切る方式で撮影しています。
また、STM採用の効能として、動画撮影時に気になるピント合わせの駆動音の低減があります。カメラを回しながら、液晶画面をタッチしてAF箇所を指定し、ピント変えを行うときなどは駆動音が気になってしまうのですが、本レンズはかなり静かでした。さらに、コントロールリングをクリックレスにすることができるので、絞りの操作音やリング操作の駆動音などを入り込ませない動画撮影が可能です。
最近開発されるレンズは動画撮影についても考慮されているものが多く、ミラーレス機で動画撮影を行うことが日常化してきたことを強く感じます。
コンパクトなサイズ感、絞りとレンズの駆動音が軽減されていること、フォーカスを前後に動かすときに発生する画角変動(フォーカスブリージング)を抑制して、不自然な画角変化が起きないようにしていることの3点について対応されているレンズは、動画撮影に出動する機会が多いレンズになりますね。
奇をてらわないシンプルデザイン
本レンズの好感が持てる点のひとつに、奇をてらわないシンプルなデザインということがあります。色や形で主張しないレンズは、街中でのスナップにぴったりです。
また、コントロールリングには、カメラ側からAF時にコントロールリングを操作することでMFに切り替えられる「M/A」機能の他、「絞り値」、「露出補正」、「ISO感度」の4つの項目のいずれかを割り当てて使用できます。素早く操作したい機能を割り当てておけば、シャッターチャンスに強くなるのと同時に、動画撮影時の操作音対策にもなります。
初めての単焦点レンズに一番お勧めできるレンズ
描写の美しさ、デザインのシンプルさ、動画撮影にも考慮した設計など、撮影するには十分魅力的な性能を有しているのですが、一点だけ、小型のレンズフードを付属させて欲しかったなと思いました。フレアー、ゴースト軽減にプラスして、スナップシューターとして多用する場合、レンズフードを装着していれば、レンズキャップを付けずにさっとバッグに出し入れできるので、シャッターを切るまでのタイムを最速にできます。レンズ先端からレンズ面の距離が短いので、レンズ保護の意味合いももちろんあります。
52mmのレンズフードを探して別途購入すればいいのですが、レンズのデザインにマッチしたフードを探すのって結構難しいので、筆者は同梱を望みますが、カスタムを楽しむという意味では、丸型か、角型か、自分好みのレンズフードをセレクトして装着すると楽しいかも知れませんね。
今回はスナップでのレビューでしたが、DXフォーマットのカメラでポートレートや、最短撮影距離が0.29mを活かしたテーブルフォトなど、活躍の場が広そうなレンズです。キットレンズを卒業して2本目のレンズとして単焦点レンズを検討されている方に、一番お勧めできるレンズと言えるでしょう。
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。 (社)日本写真家協会(JPS)会員。