ニコン NIKKOR Z 85mm f/1.2 S ポートレート作品で速報レビュー!
はじめに
2023年3月24日に発売された「NIKKOR Z 85mm f/1.2 S」は、開放F値1.2の大口径中望遠単焦点レンズで、ニコンのZマウントユーザー待望のレンズと言えるでしょう。85mmの画角と明るい開放値は、ポートレート撮影に最適!ということで、今回は本レンズをポートレート作品でレビューします。
背景も撮影者の心もとろけさせるボケの描写性能
まず、ポートレートで気になるボケの描写について。高い光学性能と85mmの画角のお陰で、被写体と背景の距離を遠くすればするほど、とにかくとろけます。この大きなボケのお陰で、背後に人が映り込む場所であっても、ピントを合わせた被写体以外を大きくボケさせて、いなかったことにできるほどです。この大きいだけではなく、柔らかくて丁寧なグラデーションのボケは、主役の被写体の存在感と立体感をぐっと強調してくれます。
レンズ構成はEDレンズ1枚、非球面レンズ2枚を含む10群15枚で、EDレンズで色収差を、非球面レンズで球面収差を抑制しています。ポートレートでは主役の人物と背景に輝度差が出やすいのですが、開放絞りでの撮影でも、ボケのエッジ部分に余計な色が乗らないようにしてくれて、解像感の高さを感じさせてくれます。
ナノクリスタルコートによって逆光耐性があるので、ゴーストやフレアはしっかりと抑制されています。逆光や準逆光で撮影することの多いポートレート撮影では、とてもありがたく、クリアーな画を得るのに効果的です。
絵筆で描いたような繊細なピント面
ポートレートなので、重要視したいのはボケとともにピント面の描写性能です。ピントを合わせた瞳、上まつげ、ピント面に入っている髪の毛など、こまかい線を、まるで細い絵筆で強弱をつけて描くように、繊細に描写していました。
また、今回の撮影時は本当に春なの?というくらい、日差しが強かったので、ハイライト部をあえて白飛びさせるような、夏っぽい画を狙ってみました。それでも目に刺激的すぎない、ふんわり感のある画になったのは、階調表現性能の高いNikon Z 6IIとの相性の良さもあるでしょう。
難しいシーンでも素速いAF性能
F1.2の浅い被写界深度でのAF性能ですが、Nikon Z 6IIの瞳AFを使用することで、目が見えにくいような状況や、低コントラストのシーンでも、ストレスなく撮影を進められました。
本レンズは、AFアクチュエーターにSTM(ステッピングモーター)を2個搭載した、マルチフォーカス方式を採用しています。このマルチフォーカス方式は、複数のフォーカスレンズ群の位置を緻密に制御することで高い結像性能を実現するもの。これにより近距離での撮影時に、ピントが合っているはずなのに、くっきりとしたシャープな画が得られないという現象を、軸上色収差を補正することで、色にじみのないクリアーでシャープな画に仕上げてくれます。
また、STM(ステッピングモーター)を採用しているので、ピント合わせの音が本当に静かです。外でのポートレート撮影ではそれほど気になりませんが、スタジオでの撮影時は、壁の材質によって音が響きやすいスタジオも多いので、AF駆動音がその場のムードを削ぐことがあり、最近は重要視しているレンズの性能のひとつです。
ガラリとムードを変えてくれる魔法のレンズ
冒頭で背景のボケについて触れましたが、本レンズでさらに楽しかったのが、背景に反射物や光が多いシチュエーションでの撮影です。都会の雑多な街中、ラーメン屋の看板や、海鮮居酒屋のネオン、頭上に近いところにある太陽が、歩いている人の髪や肩を照らす……そんな光を、すべて玉ボケに変えてくれました。
かなり複雑な背景なのに、肉眼で見えているものとはガラリと違う、ムードある画に仕上げてくれる。それって写真の醍醐味ですよね。
ボディデザインは、色味はシンプルながら、S-Lineの「S」の文字がマットな質感のシルバー色で、いいアクセントになっています。ボディラインはカメラ装着部から4段階を経て大きく広がっていくようなデザインで、指先を見なくてもどの辺を触っているかがわかりやすいです。フォーカスリングと絞りリングのシボの形状が違うのも、操作ミスを防いでくれるので便利でした。
いろいろなシチュエーションを試したくなってしまう!
本レンズの最短撮影距離は、撮像面から0.85mなので、顔のパーツを接写するような撮影でなければ不自由は感じないでしょう。というよりも、このレンズ、どこまで寄れるかを気にするよりも、ボケのグラデーションに魅了されて、どの背景をボカしてみようか、ここをボカしたらどんなムードになるだろうかを、より考えたり、実験したりしてみたくなるレンズですね。
ただ、重さ約1160g、最大径約102.5mm、長さ約141.5mmとそこそこ重量級ですので、撮影に夢中になりすぎて、撮り終わった頃には左手が筋肉痛に!とならないように、計画的にご使用ください。
■モデル:大川成美(@naru_coco)
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。日本写真家協会(JPS)会員。