ニコン NIKKOR Z DX 12-28mm f/3.5-5.6 PZ VRで描く旅の記録
はじめに
2023年5月19日にニコンから発売された、NIKKOR Z DX 12-28mm F3.5-5.6 PZ VR。このレンズの大きな特徴は、なんといっても35mm判換算で18mmという超広角を持つズームレンズであるという点と、Zシリーズ初のパワーズームが搭載されていることでしょう。これは、Vlogをはじめとする動画撮影、さらには自撮りを視野に入れた設計であることが窺えます。
サイズ感としてはNIKKOR Z MC 50mm f/2.8のマイクロレンズと同程度の大きさですが、重量は55g軽い205gで、Z 30装着時には安定感がありつつ持ち運びしやすい大きさに収まっています。また、インナーフォーカス方式ゆえにズームしてもレンズの全長が変わらないので、小型のトライポッドグリップを使用してのリモート撮影時にも、バランスを崩す心配がない点が大きなポイントです。
今回はこのレンズで久しぶりの海外(オーストラリア・シドニーと台湾)へ出かけた際のスナップ写真と旅の記録動画で、このレンズの特徴と使用感をご紹介します。
35mm判換算18mmと42mmって、どのくらい?
ワイド側では35mm判換算で18mm相当。一般的に、標準ズームレンズの広角側は35mm判換算で28mmまたは24mmですので、それよりも広い「超広角」となります。画角が広いとそれだけ多くの情報を画角内に取り入れることができるとともに、遠近感が強調され、ダイナミックな印象を与えやすくなります。また、望遠側の28mmは35mm判換算で42mm相当となり、人間の視野の中で自然に認識できる範囲に近く、肉眼での印象に近い画角となります。
まずこの12mmと28mmそれぞれの焦点距離で写る範囲を比較してみましょう。
台湾北部の港町、基隆の近くでカラフルに塗られた建物が並ぶ漁港。同じ位置でそれぞれ12mmと28mmで撮り比べてみると、ひとつの景色の中で左右だけでなく奥行きにおいても写る範囲の違いがわかります。
▼12mmで撮影
▼28mmで撮影
主役となる被写体(ハイビスカス)の大きさはおおよそ同じくらいになるように配置し、やはりそれぞれ12mmと28mmで撮り比べてみました。結果として背景の入り方が大きく異なるとともに、被写体の歪み(広角は歪みが大きくなる)にも違いが出ることがよくわかります。
▼12mmで撮影
▼28mmで撮影
また、この「超広角」は、冒頭でもお伝えしたように「自撮り撮影」に使われることが前提とされています。Z 30と同時に発売されたトライポッドグリップを手に自撮りをすると、カメラの位置は自分が手を伸ばした先となります。この際に超広角レンズで撮影をすると、自分自身を画角内にほどよい大きさで入れつつ背景もしっかり写し込むことができる、というメリットがあります。
画角が広いほど背景も広くなるため、標準ズームレンズよりも大きなアドバンテージがあります。尚、後述の動画も含めて作例を撮影するにあたり、至近距離での顔出し撮影は如何とも耐え難い年頃ゆえ(お察しください……笑)後ろ姿となっていますが、人物のスケール感は伝わるかと思いますので、どうかご了承いただきたく!
撮影前の設定ののち、パワーズームも使って動画撮影
もうひとつ、本レンズの大きな特徴であるパワーズーム。発売時はZ 30とZ fcのみの対応ですが、カメラ側でカスタムボタンやリモコン(ML-L7)、またスマートフォンからのズーム操作が可能です。これにより動画撮影中に滑らかなズーミングを実現してくれます。尚、カメラやスマートフォンアプリ(SnapBridge)のバージョンアップとボタン割当ての設定をお忘れなく(当初このボタン割当てをしておらず、パワーズームが使えない?!と焦りました)。
尚、動画撮影にあたりカスタムボタンの機能登録で、カメラ背面のAE/AFロックボタンに「動画撮影」を割当てておくこと、パワーズームボタンの操作設定で「拡大/縮小ボタンの使用」をONにしておくことで、録画のスタート/ストップとズーム操作がすべて右手親指でできて、とてもスムーズに操作ができました。
ここまでの、超広角から見た目に近い画角で撮れること、またパワーズームといった本レンズの特徴をふまえ、今回のシドニーと台湾への撮影旅を、それぞれ静止画と動画(タイムラプス動画を含む)を織り交ぜてダイジェスト動画にまとめてみました。
ズーム全域で最短撮影距離19cm、被写体に寄れる!
最短撮影距離とは、被写体に最も近づいてピントが合う際の、撮像素子面から被写体までの距離ですが、多くのズームレンズでは、広角側と望遠側でこの距離(被写体に近づける距離)が変わります。ところが本レンズの最短撮影距離(センサー面から被写体までの距離)はズーム全域で0.19m=19cm。常に「寄れる」という点は、さまざまな撮影シーンにおいて写真や動画での撮影用途や表現の幅を広げてくれます。
シドニーで有名なボンダイ・ビーチの南にあるブロンテ・ビーチから海岸線に沿って続く遊歩道脇に綿毛を見つけました。一番広角側で綿毛に近付いて撮影しましたが、広角ゆえにうんと近付いても背景がうんと広く入ることがわかります。尚、この時のカメラと被写体の距離感を、スマートフォンでも撮影してみました。
台南で100年を超える歴史を持つ市場「東菜市」へ。果物屋さんの店頭に並んだドラゴンフルーツに目が留まり、撮影させてもらいました。表面を覆う水滴からみずみずしさを伝えるため、水滴にギリギリまで近付いて撮影。やはり「寄れる」というのは楽しいものです。
夏場に台南へ来たらぜひ食べたいのがフレッシュマンゴー。街のあちこちにある水果店(フルーツパーラー)では、オーダーしてからカットしてくれました。ここではシンプルにマンゴーをクローズアップするためにレンズの一番望遠側で。余談ですが、このお店ではちゃんと陶器のお皿で出してくれたのですが、そのお皿が日本でも見かけるレンコン柄のもの(おそらく美濃焼?)で、ちょっと嬉しくなってしまいました。
35mm判換算18mmで超広角撮影を楽しむ
感動した場面を撮影する際に、目の前の光景を自分の視野そのままに撮りたくなるのは自然な心理。人間の視野はかなり広いため、同じような感覚で広い画角を持つレンズを選んで撮影した結果……あとでその写真を見た際にあの感動が甦らない!という経験をされたことのある方も多いのではないでしょうか。肉眼では立体的に物事を捉えて見ていますが、写真は平面の世界ゆえになかなか見た目通りに伝わりにくいものです。そして広角レンズは画面内に多くの情報を取り入れることができるので情報過多となり、結果として「何を撮りたかったのかがわからない」という現象に陥りやすい側面があります。
そんな理由から「難しい」と思われることも多い広角レンズですが、その特徴である「写る範囲が広い」のみならず「近くのものが大きくデフォルメされる」「遠近感が強調される」という点を活かして撮影することで、肉眼とはまた違った表現や、伝えたいことが伝わりやすくなる、という利点があります。
オーストラリア・シドニーの象徴ともいうべきオペラハウスとハーバーブリッジ。そのふたつともを見渡す公園より、まずは全景を。超広角ゆえに画面端は歪みが生まれますが、超広角だからこその全景です。
次に橋の下付近にあった水たまりを活かして。この超広角ゆえにシンメトリーとなる構図を取りつつ橋のスケール感を伝えることができています。
クラシカルな造りや装飾が印象的なビルの3階から吹き抜けを見下ろして。
今回シドニーでは友人宅に滞在させてもらったのですが、その友人宅は郊外の住宅地にありました。この「郊外の住宅地」は日本の都市部と比べて街灯が少なく、夜は足元を照らすライトが欲しくなるほどに暗くなります(とはいえ治安に関しては心配のない地域でしたが)。それだけ暗いとなると、空を見上げるとそこには満天の星!せっかく超広角のレンズがあるのですから、深夜、周囲の家の電気が消えた頃を見計らい、家の前で撮影しました。
台南の東菜市内を撮り歩いていると、八百屋のおじさんに声を掛けられました。おじさんのお店とすぐ隣のお肉屋さんとは隣接する別の建物になっていて、古くからある市場が拡張されたんだ、ここがその境目なんだよ!と……。中国語はさっぱりわからないのですが、どうやらそんな説明をしてくれたみたいでした……たぶん(笑)。せっかくなので、説明のあとに奥のお肉屋さんも画角に入れて広角側でおじさんを撮らせてもらいました。
台湾へ行く目的のひとつが小籠包!もう大好き過ぎて、特に台北滞在中はいつも朝から小籠包三昧に。お気に入りのお店のひとつは朝ごはん専門店なのですが、地元の人たちと観光客が入り混じって行列のできる人気店。その様子を伝えるべく、背景にしっかり行列を入れて撮影。
様々な場面でのスナップ
今回のシドニーと台湾滞在中、持参したZ 30には本レンズをつけっぱなしにし、レンズ交換をすることなく撮影していました。このレンズでのその他の焦点距離で撮影したスナップをご紹介します。
海辺の遊歩道で健気にご主人様を待つワンちゃん。ご主人様は視線の先にあるプールでしょうか。ちょっと待ちくたびれた様子のワンちゃんの心情を表すために視線の先の遠近感を強調して撮影。
シドニー中心部の一角で、ビルの隙間からちょうどシドニータワーが見えるポイントがあるのですが、やはり撮りたくなってしまうもの。タワーの大きさを決めるのに、やはりズームレンズは便利です。
帰国前、お気に入りの魚屋さんでフィッシュ&チップスをオーダーし、熱々のそれを近くのビーチでいただきました。画角的に、旅先のお料理を撮っておきたい場面でも活躍してくれます。
3年半ぶりのシドニーに到着した日は素晴らしいお天気でしたが風が強く、海はかなりの大波が押し寄せていました。ちょうど日没の頃、白波が押し寄せる様を高台のトレッキングコースより撮影。沈みかけの太陽が木々に重なるタイミングで絞りを絞ることで、光条を出すことができました。
台南で、3つ並んだ黄色い公衆電話ボックスが可愛くてレンズを向けました。焦点距離20mmでは大きな歪みが感じられずに収まっています。
市場のお肉屋さん。あまり笑顔がないように見えますが、声をかけると快く撮らせてくださいました。35mm判換算で30mmとなる20mm付近は使いやすい画角です。
店の軒先で蒸籠を蒸すスタイルの路地裏の小籠包屋さん。熱々の小籠包が顔を出す瞬間は、邪魔にならないように少し距離をあけたところから一番望遠側の28mmで。
まとめ
すでに動画撮影を手掛けている方はもとより、これから動画にチャレンジしてみようかな、という方にとっては、風景を広くダイナミックに伝えたり、自分と風景を同時に伝えたりすることができるということ、そして肉眼での見た目に近い表現もできるという点で、ぜひ持っておきたい1本です。
一方で現状、静止画撮影がメインというDX機ユーザーにとっても、遠近感が強調されることや手前の被写体が大きくデフォルメされるといった特徴を活かすことで、伝えたいことを強調して伝えるための、標準ズームレンズではカバーできない画角を持つレンズとしてオススメの1本です。このレンズを機にVlogなどを始めてみるのもよいのではないでしょうか。
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員