ペンギン世界への撮影記 ~ ニューアイランド島編 ~|岡田裕介
はじめに
アカデミー賞まで受賞した大ヒットドキュメンタリー映画『皇帝ペンギン』。
僕も例に漏れず、そのよちよち歩くペンギンの愛嬌ある姿や、真剣だけどなんとも言えないコミカルな様子に魅了されました。
映画鑑賞当時、水中を中心にネイチャーカメラマンとして活動していた僕ですが、すぐに被写体としてペンギンに興味を持ち、南極はもちろん世界中のペンギンの生息地について調べた中で撮影地として目に止まったのが、南米大陸の右下にあるフォークランド諸島でした。
ペンギンの島と言っても過言ではない程、山や海など様々な環境に5種類ものペンギンが生息する、絶景の中でペンギン撮影ができる楽園です。
ただ行くのは少し…いや結構大変な場所……
今回はフォークランド諸島でも1番遠い最西端の島”ニューアイランド”でのエピソードをお届けします。
ニューアイランド島に到着
この細長く連なった島がニューアイランド島です。
島全体が自然保護区になっており、許可を得た学者やジャーナリストのみが立ち入ることが出来ます。
フォークランドの首都スタンリーの空港から軍のヘリにのって島の管理人の所ヘ向かい、そこから更に車で数時間かけて撮影の拠点となる山小屋に到着しました。
ここまで来るのに日本を出発してから5日…… 乗り継ぎの都合もありますが、移動だけで5日間かかります!
僕は3回フォークランド諸島を訪れたのですが、そのうち2回はこの行くだけで大変なニューアイランド島に訪れました。その理由は、ほとんど人がいない(島の管理人と、その時滞在している学者などが数名)島で、あたり一面数千数万羽のペンギンたちに囲まれ、その言葉通り寝食を共にしながら24時間撮影出来るというペンギンの楽園だからです。
ジェンツーペンギンとイワトビペンギン
山小屋の外に出たら目の前にこの光景。粒々しているのは全てジェンツーペンギンです。
僕の山小屋での滞在は5日間だったのですが、島の管理人が迎えに来てくれる日までは完全に一人きり。当時、携帯や無線の電波もなかったので、怪我をしても助けは来ません。ともかく安全第一!
山小屋にはガスコンロがあり火は使えるので、日本から持ち込んだフリーズドライ食品を中心に、スタンリーのスーパーで購入した果物や缶詰を食べます。ポリタンクで持参した貴重な水は、残りを計算しながら慎重に使います。
シャワーもトイレもなし!トイレはペンギンたちに見られながら、大地を少し間借りします(笑)
ニューアイランド島には、ジェンツーペンギンとイワトビペンギンが生息しているのですが、ジェンツーペンギンは砂浜のビーチに程近い平原に生息しています。
夕方、海で捕食した後、お腹をパンパンにして一生懸命走って帰るなんとも言えない可愛らしい姿にも遭遇します。
もう一種のイワトビペンギンの生活は、人間から見るとかなり過酷です。
崖の上に生息する彼らは、毎日崖を下り、天敵のオタリアなどに遭遇する危険がある中海で餌をお腹いっぱいに溜め込んで、岩場に激しく打ち付ける波に乗って飛び出るように上陸、そしてまた遠い崖の上まで飛び跳ねながら帰っていくのです。
ペンギンのコロニーと保育園(クレイシ)
そんな彼らと冒険小説のような出会いがありました。
ある時、遠くの崖を見たら小さい粒々が見えたので、そこまで歩いて向かってみることにしました。
途中険しい岩場を飛び跳ねながら小さい体で登るイワトビペンギンたちと一緒に歩いていると、粒々に見えていたペンギンのコロニーに到着。
その周りに背丈程のブッシュが生い茂っていたのですが、この中にもペンギンたちがいるのではないかと思いブッシュをかき分け進んでみたら、草むらに隠れる様にペンギンたちの保育園”クレイシ”が広がっていました!
親ペンギンが捕食にいっている間、天敵から身を守る為に残されたヒナたちが集団になって待つ習性があるのですが、図鑑でしか知らなかったその世界が目前に広がっていたのです。
草でできたトンネル
さらにブッシュをかき分け探索を続けていると、水溜りで水浴びをしていたり、散歩を楽しむかの様にのんびり歩いている光景に出会ったりしました。
そんなペンギンの世界に迷い込んだガリバーの気分で写真を撮っていると、全長2m程の草でできたトンネルを発見!不自然に切られ組み上げられたような草が壁となり、道にはペンギンの足跡が。これはペンギンが作った通り道なのではと思い、出口の付近で静かに寝そべりペンギンが歩いてくるのを待ってみました。
待つこと2~3時間。気長に待てるのもネイチャーカメラマンの大事な素養の一つです。
そんな時ついにトンネルに勢いよく入ってきたペンギンが登場!ずっと待っていた“トンネルを通る正面顔のペンギン”を撮影出来ました!しかし相手は野生のペンギン。すぐに僕に気づいて引き返してしまいました。
驚かせてごめんね…… と申し訳ない気持ちもありつつも、待ち焦がれた光景を撮影出来た高揚感に包まれたあの瞬間は今でも鮮明に覚えています。
さいごに
フォークランド諸島、それもこのニューアイランド島の魅力は「ペンギンの世界に人間が1人で遊びに行ったような感覚を味わうことが出来る場所」。「地球は人間だけのものではない」という当たり前のことを、身をもって体感し気付くことが出来ました。
次回は、フォークランド諸島の中でも比較的行きやすい観光地“ボランティアポイント”でのエピソードをお届けします!
■写真家:岡田裕介
埼玉県生まれ。2003年より、フリーランスフォトグラファーとして独立。沖縄・石垣島、ハワイ・オアフ島への移住を経て現在は神奈川県の三浦半島を拠点に活動中。 水中でバハマやハワイのイルカ、トンガのザトウクジラ、フロリダのマナティなどの大型海洋ほ乳類、陸上で北極海のシロクマ、フォークランド諸島のペンギンなど海辺の生物をテーマに活動。2009年National Geographicでの受賞を機に世界に向けて写真を発表し、受賞作のマナティの写真は世界各国の書籍や教育教材などの表紙を飾る。温泉に入るニホンザルの写真はアメリカ・ スミソニアン自然博物館に展示。国内でも銀座ソニーアクアリウムのメインビジュアルをはじめ企業の広告やカレンダーなどを撮影。
写真集「Penguin Being -今日もペンギン-」
今回のフォークランド諸島のペンギンの作品は岡田裕介さんの写真集「Penguin Being -今日もペンギン-」から数枚をピックアップして紹介頂きました。可愛らしくも美しい大自然のペンギンたちを数年かけて捉えた作品の写真集です。
写真集「Penguin Being -今日もペンギン-」
https://yusukeokada.stores.jp/items/5f23c6c4afaa9d53818f9ddd
発売日:2019年7月20日
仕様:B5変型判 96ページ
出版社: 玄光社