ニコン NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S|野鳥、飛行機撮影でのインプレッション
はじめに
ニッコールZ超望遠レンズ豊作の年である2022年を締めくくる1本として、待望のNIKKOR Z 600mm f/4 TC VR Sが2022年11月25日に発売された。筆者は発売と同時に購入し、約1ヶ月にわたり野鳥撮影と飛行機撮影の現場でメインレンズとして使用してきたので、そのインプレッションをお届けする。
1.4倍テレコン内蔵で840mm f/5.6に早変わり
本レンズ最大の特徴は600mm f/4レンズに1.4倍テレコンバーターを内蔵していることであり、鏡筒脇のレバー操作で瞬時に840mm f/5.6に早変わりする。超望遠ユーザーにとって1.4倍テレコンは必須アイテムだが、テレコン着脱時のタイムロスでシャッターチャンスを逃す可能性があることや、テレコン使用時の画質低下が悩みの種だった。だが本レンズのような内蔵型ならファインダーを覗いたまま一瞬にしてテレコンの切り替えが可能だし、テレコン込みで光学設計・調整されているため画質面でも有利だ。
このNIKKOR Z 600mm f/4 TC VR Sは2月に先だって発売されたNIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR Sとコンセプトや造りは共通で、400mm f/2.8の描写力やAF性能などが素晴らしいだけに今回の600mm f/4にも期待が膨らむ。
手持ち撮影も快適な600mm f/4
レンズ筐体はFマウントのAF-S NIKKOR 600mm f/4E FL ED VRとほぼ同じサイズながら約550gもの軽量化を達成し、しかも1.4倍テレコンを内蔵して質量は3,260gに抑えられている。600mm f/4ながら500mm f/4クラスの重量感でしかも重量バランスが絶妙なので、超望遠レンズの扱いに慣れているユーザーなら500mm f/4のように手持ちでも振り回せるレンズに仕上がっている。
極めてシャープでクリアな描写性能
20群26枚の光学系にはEDレンズ3枚、スーパーEDレンズ1枚、蛍石レンズ2枚、SRレンズ2枚と高級硝材を惜しみなく組み込んでおり、画質は極めてシャープでクリア。筆者は野鳥や飛行機撮影を専門としていることからこれまで500mm f/4、600mm f/4、800mm f/5.6クラスの優れた描写力を持つ大口径超望遠レンズを多数使用してきたが、それらと比べてもNIKKOR Z 600mm f/4 TC VR Sの描写力は別格だ。画面中央部はもちろん周辺画質まで高画質が維持されているのには驚きだ。また超望遠レンズということもあり、もともとの被写界深度の浅さも手伝って、とろけるようなボケ味を堪能できる。
メソアモルファスコートで優れた逆光性能
耐逆光性能についてはNIKKOR史上最高の反射防止効果を誇るメソアモルファスコートと定評のあるナノクリスタルコートの組み合わせにより、さまざまな方向からの入射光によるフレアやゴーストを低減し、朝日や夕陽の光線を生かした逆光の野鳥写真などでも優れた描写が得られる。
内蔵および外付けテレコンとの相性も抜群
内蔵1.4倍テレコン使用時はわずかにシャープネスが損なわれる感があるものの、あくまでテレコン無しのキレキレの状態との比較であって、通常の840mm f/5.6という観点では極めて優秀な画質だ。さらに外付けのテレコンにも対応しており、840mm f/5.6にTC-1.4xを組み合わせた場合は1,176mm f/8、TC-2.0xを組み合わせた場合は1,680mm f/11となる。
さらにDXクロップ撮影すれば最大2,520mm相当の超望遠撮影も楽しめる。当然ながらテレコンの倍率が上がるにつれAF合焦精度が低下するものの、画質そのものは1,000mmオーバーの焦点距離かつダブルテレコンであることを考慮すると優秀だ。そもそもこれくらいになると陽炎の影響を受けやすいので、常用するならTC-1.4x、条件が良ければTC-2.0xというように使い分けるのがいいだろう。
▼内蔵テレコンおよび外付けテレコン使用時の画角比較
高速かつ静音のオートフォーカス
AF駆動用モーターにはシルキースウィフトVCM(SSVCM)を採用し、高速・高精度かつ静音化を同時に実現している。被写体にカメラを向けてAFを作動させると無音でピントが合う感覚だ。このシルキースウィフトVCMを採用しているZレンズは現時点ではこのNIKKOR Z 600mm f/4 TC VR SとNIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR Sのみであることから、この2本は最高のパフォーマンスを発揮できるよう設計された別格のレンズであることがうかがい知れる。
VR SPORTモードで安定したフレーミングが可能
手ブレ補正機構VRは補正効果5.0段で、Z 9との組み合わせではシンクロVRにより5.5段の補正効果が得られる。もちろんSPORTモードも搭載しているので、動体撮影時に被写体を追い続けやすく流し撮りの歩留まりも高い。
手探りでも操作しやすい操作部
操作系統はレンズ先端側から手前側に向かってL-Fn2ボタン、Fnリング、コントロールリング、フォーカスリング、三脚座リングと並ぶ。マウント基部には上部にΦ46mm組み込み式フィルターホルダー着脱部があり、右手側にはメモリーセットボタンと内蔵テレコンバーター切り替えスイッチ/スイッチロックがある。そして左手側にはL-Fnボタン、フォーカスモード切り替えスイッチとフォーカス制限切り換えスイッチが配置されている。
各種リングやボタン類は材質や大きさ、ゴム成型パターンなどに変化が付けられているため、ファインダーを覗きながらの手探りでも操作しやすくなっている。ただしNIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR Sと同様にフォーカスリングが手前側にレイアウトされているため、手持ち撮影時のマニュアルフォーカス操作はしづらくなっている。
野鳥撮影や飛行機撮影で最強の超望遠レンズ
ニッコールZ超望遠レンズの真打ちとして登場したNIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S。「Zレンズにハズレ無し」と言われるほど評価の高いZレンズに最強レベルの600mm f/4が加わったことで、ニコンZシステムはひとつの完成形の迎えたといえよう。野鳥写真や飛行機写真、スポーツ写真など、超望遠レンズが必要かつ動きの激しい被写体において、Z 9と本レンズの組み合わせが、Z世代の超望遠撮影を席巻するに違いない。
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■写真家:中野耕志
1972年生まれ。野鳥や飛行機の撮影を得意とし、専門誌や広告などに作品を発表。「Birdscape~絶景の野鳥」と「Jetscape~絶景の飛行機」を二大テーマに、国内外を飛び回る。著書は「侍ファントム~F-4最終章」、「パフィン!」、「飛行機写真の教科書」、「野鳥写真の教科書」、「飛行機写真の実践撮影マニュアル」など多数。