ニコン Z 30で描く旅と日々|クキモトノリコ
はじめに
2022年8月に発売されたNikon Z 30は日常のVLOG撮影など幅広い場面での動画撮影を意識した機種で、これまでのZシリーズの中では最も小型・軽量を誇るモデル。キットレンズである標準ズームレンズ(NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR – 35mm判換算 24-75mm)との組み合わせで540g、500mlのペットボトル1本強程度で気軽に持ち出せるサイズ感です。
このZ 30の発売から4ヶ月ほどが経ちますがその間に使ってみた感想を、実際に連れて歩いた旅と日々のスナップでご紹介します。
小型軽量ゆえの旅撮影を、動画を交えて楽しむ
「小型・軽量」と聞くとやはり旅のお供にしたくなる方は多いのではないでしょうか。Z 30はファインダーをなくしたことでカメラ上部の突起がなくなり、カメラバッグ内での収まりもよく、見た目にかなりのコンパクトさが感じられます。
今回はNIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VRのレンズキットにNIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VRの望遠レンズとNIKKOR Z 28mm f/2.8、そしてトライポッドグリップ3070を連れて北陸を、NIKKOR Z 18-140mm f/3.5-6.3 VRとNIKKOR Z 28mm f/2.8の組み合わせで九州を訪ねました。
Z 30はVLOGなど、動画撮影を念頭に置いてつくられたカメラ。私自身はこれまでさほど動画を撮ってこなかったのですが、購入時に合わせて手に入れたトライポッドグリップとマイクにつけるウインドマフを見てチャレンジしてみよう!という気に。メインは写真撮影でしたが、その静止画と動画を織り交ぜて北陸旅の初日をまとめてみました。
トライポッドグリップを手に持って歩行しながらの撮影はやはり多少手ブレが気になるものの、これは首からかけるストラップ使い、腕を伸ばしてストラップをピンと張るようにしてグリップを持つことで軽減できるとのこと。今回私はカメラが小型だったがゆえに短いタイプのストラップを使ってしまったので、今後ぜひ参考にしたいところです。
動画内のスチール写真は以下の通り。
今回は鉄道での旅。駅の時刻表も旅気分を高めてくれます
車窓の一コマ。景色だけでなく、窓枠を入れることでその乗り物に乗っている人の目線や空気感・座っている時の感じが伝わります。
THE 観光写真も、旅の思い出としてはとりあえず押さえておきます。
金沢名物の「治部煮」をいただきました。これは動画撮影中にシャッターボタンを押すことで切り出される静止画で、アスペクト比(写真の縦横比)が動画と同じ16:9になっています。また、この時はレンズを28mmの単焦点にしていますが、APS-Cサイズのセンサーゆえに、画角としては35mm判換算で42mm相当となり、標準と呼ばれる50mmとちょっと広めの35mmの間を取った、旅に連れてゆく単焦点レンズとしてはぴったりな1本です。
北陸鉄道のレトロで可愛らしい駅。人物を入れることで写真にドラマが感じられるようになります。
運転席のうしろから進行方向を望んで。バックミラーに映る運転士さんを意識して入れています。
鶴来(つるぎ)駅の駅舎がステキでした。旅写真は気になったものにはどんどんシャッターを切ります。
訪れた白山比咩(しらやまひめ)神社にて。このように写真単体としては作品にならないものも、記録としては重要となります。
小舞子海岸へ出ると大きなハロが。見せたい被写体の存在感からここはあえての日の丸構図で。
風紋がとても綺麗でしたが、風でサラサラと運ばれてゆく砂の様子を伝えたくて、静止画と動画の両方を撮影。
広くて気持ちの良い空に、雲の表情が程よく描かれていました。アクセントに人工の構造物を入れて。
トライポッドグリップを三脚として使用し、普段は滅多に撮ることのない自撮りをしてみました。グリップを手に持ってのセルフィーも可能ですが、ここは三脚を立てて少し離れた場所でリモコンを使用して撮影。
海辺の鳥を望遠レンズで。目一杯望遠にした250mm(35mm判換算375mm相当)で撮影。動画の中にうんと望遠の絵が入ることでアクセントになります。
この日は真っ赤な夕焼け……とはいかなかったものの、表情豊かな空の夕暮れを堪能。
トライポッドグリップでちょっとしたスローシャッター撮影や一人旅の記録も
購入時に同時に手に入れた「ND SmallRig トライポッドグリップ 3070」は、名前の通り三脚として使えるだけでなく、グリップとして手で握って移動しながら撮影することや自撮りにも使える便利ツール。リモコンが付属しているため、三脚を立ててのスローシャッター撮影や、離れた場所からの自撮りにとても便利です。
神社の境内の小さな滝を、参道の端にトライポッドグリップの三脚を広げて立て、スローシャッターで撮影。直接カメラに触れないようにリモコンでシャッターを切りました。
福井県の芦原(あわら)温泉に立ち寄った際に足湯があったので利用することに。少し離れたところに三脚を立ててリモコンを使用して撮影。バリアングルになっている液晶モニターを広げてレンズ側に向けることで、画角などを確認しながら撮影することができ、一人旅でもこういった写真や動画が気軽に撮れるのはとても便利です。
旅のスナップあれこれ
その他旅のスナップをいくつかご紹介します。
Z 30のキットレンズとなっているNIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR は、最短撮影距離が0.2m (=20cm ※焦点距離24mm時)。イメージセンサーが大きくなると、マイクロ(マクロ)レンズ以外ではどうしてもレンズの最短撮影距離も長くなってしまい、このように手に持った小さな被写体にピントを合わせることが難しくなりますが、その点このレンズだとこういった撮影も可能です。
今は廃駅となった旧加賀一の宮駅は登録有形文化財としてレトロでかわいい駅舎が残されており、現在は資料の展示と休憩施設として利用されています。駅の裏手の線路跡は遊歩道となり、かつての線路をイメージさせるラインが引かれているのがとてもユニーク。駅舎の中と外との明暗差も自然な見た目でまとめてくれています。午後のやわらかな光をうまく活かして透明感のある色づくりをしてくれるのはZシリーズで気に入っている点のひとつであり、Z 30も例外ではありません。
動画だけでなく静止画もしっかり撮りたいのであれば、やはり望遠レンズも必須アイテム。NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VRは「キットレンズの望遠ズーム」の常識、「どうせ大した写りをしないのであろう」という私の先入観を見事に覆してくれた過去を持つ1本で、それでいて見た目に比べて随分と軽く、ちょっと嵩張りはするもののぜひ旅に連れて行きたい1本です。
石川県加賀市の山中温泉を訪れた際に、宿の近くの道の駅にかつて北陸鉄道 加南線として運転されていた「しらさぎ号」が静態保存されていたので、お散歩がてら見学へ。ホワイトバランスは自然光オート、仕上がり設定はスタンダードですが、外観はレトロな車両にぴったりな浅い色の仕上がりとなり、自由に見学のできた車内は西陽を受けて車体のメタリックな質感がとてもよく伝わる仕上がりとなりました。
NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR は、広角側が35mm判換算で24mm。この広い画角があるからこそ、背景を広く入れつつ遠近感をしっかり持たせることができます。
長崎の波佐見町にあるやきもの公園にて。強い逆光を見るとついこのような光条を画面に入れたくなってしまうのですが、レンズによっては絞りをしっかり絞ってもなかなか光条が出ないことも。このレンズは、針のようなシャープな光条とはいかないものの、しっかりとした光条を出してくれます。また逆光ゆえに暗部が暗く落ちますが、アクティブDライティング(白とびや黒つぶれを抑えてくれる機能)を「弱め」に設定しておいたところ、しっかりディテールを表現してくれています。
夕方のやわらかな光を真正面から受ける逆光で撮影。逆光ゆえのふわっとしたフレアは、個人的には決して嫌いではありません。ここでもやわらかく透明感のある絵づくりをしてくれるのはやはりZシリーズの好きな点です。
日々のスナップあれこれ
旅以外の日常においても、カメラが小型軽量なだけでなく他のZシリーズのような頭頂部の出っ張りがなくなったため、カバンの中での収まりもよいので気軽に持ち出すことができます。
ある晴天の日に、ロケハンを兼ねて海の近くのとある施設へ。めちゃくちゃ良いお天気の日で液晶モニターが非常に見づらく、このような時はやはりファインダーが欲しいなぁと思ったものの、撮影モードで「DISP」ボタンを何度か押し、画面の端に小さくヒストグラムを表示させておくことで白とびや黒つぶれを確認しながら撮影することができます。
コントラストの高いパキパキな仕上がりの写真も好きですが、日差しの強い日でもどこかやわらかみのある仕上がりとなるZシリーズの仕上がりをとても気に入っています。
Nikonならではの多彩な機能を楽しむ
Zシリーズの登場以来、Nikonのカメラでの写真表現の幅を広げてくれているクリエイティブピクチャーコントロールももちろん搭載されており、見た目通りよりも表現したい気持ちを写真に乗せたい時に、画面を見ながら直感的に選ぶことができます。
複数の画像を重ねて1枚の写真に仕上げる多重露出や画像合成機能も備わっており、「加算」「加算平均」のみならず「比較明合成」と「比較暗合成」も搭載されています。全体的なスペック面からハイエンドモデルではないZ 30ですが、これらの4パターンがしっかり搭載されているので、様々な写真表現を楽しむことができます。
撮影時にその場の被写体を組み合わせて画像を仕上げる方法では、1枚目の画像を見ながら2枚目を重ねることができるミラーレス機の機能はやはりとても便利です。また、RAWデータで撮影しておくことで、別々に撮った画像をカメラ内で重ねることも可能です。
町の風景と自室の壁紙を、比較暗合成で重ねてみたところ、テクスチャーのある下地に風景が浮かび上がり、面白い仕上がりになりました。
まとめ
DXシリーズとしてはこれまでにZ fcを所有しており、スチール写真を撮る上でスペックに大幅なバージョンアップがないことと、ファインダーが搭載されていないことから当初はZ 30の購入は見送るつもりでいました。しかしこれからの時代は、本格的なものではなくとも日々のSNS発信などにおいての動画撮影の必要やニーズがあると考えたこと、そしてこのカメラならばそれが手軽に撮れそうだという印象を持ち、購入を決めました。
実際に使用してみて、Zシリーズの中で最も小型・軽量であるがゆえに、「ちょっと出かけるだけ」という際にも気兼ねなく持ち出せ、それでいて高画質な写真や動画が撮れるということは、旅行という特別な機会だけでなく日々の写真ライフを楽しいものにしてくれると実感しました。小型・軽量で高画質な写真や動画が撮れるカメラを求めている人や、手軽に動画撮影を初めてみたい方にはオススメのカメラです。
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員