ニコン Z 6II レビュー|AF性能も堅実にレベルアップした進化機種
はじめに
2020年11月6日に発売されたニコンのフルサイズミラーレス「Z 6II」は、約2年前に発売された「Z 6」が正常進化したといえる待望の新機種です。今回は、「Z 6」を発売すぐに手に入れて、メイン機種として使い込んできた筆者から見た「Z 6II」のレビューをお送りします。
また、私事ですが、筆者は現在所持している「Z 6」に加えて本機も購入しました。なぜ買い増しという選択をしたのかについても、レビューに交えてお話したいと思います。
Zシリーズならではの丁寧な描写性能
本機の有効画素数は2450万画素、撮像素子は35.9×23.9mmサイズCMOSセンサーの、FXフォーマットです。手ブレ補正はイメージセンサーシフト方式の5軸補正、AFフォーカスポイントは273点、ISO感度は100~51200(ISO 204800相当の増感可能)、モニターは3.2型TFT液晶のタッチパネルモニターを搭載、幅約134mm、高さ約100.5mmと、ここまでは「Z 6」とまったく同じスペックです。
大きさでいうと、本機は奥行きが約69.5mmで「Z 6」は約67.5mmなので、ほんの少しだけ厚くなりました。重さも、本機が本体のみで約615gのところ「Z 6」は約585gと、こちらもほんの少しだけ重くなっています。ですが、この2mmと30gには代えられないほど、「Z 6」にはなかったものが詰まっているのが本機です。
画像処理エンジンは「デュアルEXPEED 6」を新採用しています。EXPEED 6を2基搭載して処理能力が上がったことから、高速連続撮影と連続撮影コマ数が増えました。低速連続撮影は約1~5コマ/秒、高速連続撮影は約5.5コマ/秒と「Z 6」と同等ですが、拡張の高速連続撮影は約14コマ/秒で、最大124コマまで可能となりました。
そして、「Z 6」を使い続けてきた筆者が作例のカットを撮ったときに感じたのが、Zシリーズならではの繊細で丁寧な描写性能でした。
キャンプ場で朝方の焚き火を撮ったカットですが、炎の柔らかいゆらぎ、薪の質感、立ち上る煙の濃淡、華美すぎない自然な色味など、すべてが「ああ、Zで撮ったなぁ」と思える、手に馴染んだカットになりました。
筆者がこの2年間で一番使用したカメラが「Z 6」だったので、メニューの操作系統がほぼ同じで、描き出される写真がイメージに沿っていることは、当たり前ですが、写真を撮る道具として理想的なのです。
暗いシーンで活躍する低輝度性能と手ブレ補正
暗いシーンでのAF撮影に効果的なのが低輝度性能です。「Z 6」では-3.5EVまででしたが、本機は1段分改善して-4.5EVまでのAFが可能になりました。さらに静止画では、ローライトAFを使用すれば-6EVの暗さまでAFでの撮影が可能です。夜景だけではなく、アンダー部分を重視したシックなムードのポートレートで、筆者がよく使用する機能でもあります。
作例のカットは、椿山荘で行われている東京雲海の夜バージョンです。撮影時に開催されていた、人工的に雲海を作り出すイベントで、宿泊している部屋から見下ろすと本物の雲海のように見えました。せっかくなので、雲海の中に入るというなかなかできない体験をしたくて庭園に出て撮ったのが、このカットです。
庭園はLEDのライトアップがされていましたが、かなり暗い状態でした。ISO感度は12800まであげて手持ちで撮影しています。本機は5.0段のボディ内手ブレ補正を搭載しており、Yaw、Pitch、Roll、上下、左右の5軸のブレを補正してくれます。この手ブレ補正のお陰で、三脚を使用しないで撮影できるシーンが増えました。
筆者は薄暗い水族館での撮影が多く、本機の低輝度性能がアップした点には大いに着目しました。それプラス、手ブレ補正機能で安定した撮影ができることは「Z 6」でも確証済みでしたので、買い増しに心が動いた理由のひとつと言えます。
瞳AFが動画撮影で使える!
■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 24-70mm f/4 S
■撮影環境:ISO 10000
本機は動画撮影時に、瞳AFと動物AFが使えるようになりました。さらに、オートエリアAFだけではなくワイドエリアAF(L)でも瞳AFと動物AFが選択できるので、人物や動物が複数いて、ピントが任意の被写体から他に移ってしまいそうなときの撮影が格段に楽になりました。
理由は多数ありますが、筆者が本機を買い増しした理由の大きな点はここにあります。2年前よりも動画の撮影がぐんと多くなった最近では、レンズを変えたり、ジンバルや三脚に付け替える手間と時間が増えてしまい、撮影時間が今までよりも長くなってしまったり、リズムの良い撮影ができなくなってきたジレンマがありました。
「Z 6」と「D850」を併用していた時期もあるのですが、レンズのマウントが違うこともあり(急いでいるときは、マウントアダプターをつけるのすら手間に感じることも…)、いっそ「Z 6」を2台体制にしようかと考えていたところに、動画で瞳AFの使える本機の登場です。
レンズ資産はあるのだから、「Z 6」を静止画用に、本機を動画用にした2台体制がベストなのではと思えました。また、サイズと重量がほとんど同じ本機と「Z 6」なら、たとえジンバルに乗せ替える必要があっても、大きなバランス調整は必要ありません。
作例の動画では、花火の煙で瞳が隠れてしまうようなシーンでも、体付近にピントが合っているのがわかると思います。瞳が見えなくなっても顔検出が行われて、顔と平行の位置にある身体にもピントが合っているので、再度瞳が見えたときに、ピントが迷わずに瞳に合うのです。今回はジンバルを使用して、テスト的に色々と動かして撮影してみています。
しっかり進化していたAF機能
静止画の瞳AFと動物AFも、もちろんオートエリアAFとワイドエリアAF(L)の両方で使用できます。オートエリアよりもAFの範囲が小さいワイドエリアは、撮影中に被写体以外の人が前後を横切る可能性があるシーンなどで、ピントをメインの被写体から外さないために使用すると便利です。
作例は、前述の東京雲海のなかで撮影中の子供を撮りました。雲海のスモークが出ているときは、肉眼でも近くの人が見えないくらいですので、スモークが少し引いてきたところを撮影しています。それでも、夜とスモークというピントの合いにくい状況で、顔と瞳を認識してくれるのは感動ものです。
本機はデュアルエンジンとAFアルゴリズムの改良のお陰で、「Z 6」よりも動体追従性能がかなり向上しているとのことですが、瞳と顔の検出性能の向上も感じられました。
また、操作系ですと「Z 6」では、メニュー画面から瞳AFと動物AFの切り替えをしなければならなかったのですが、本機はiメニューのAFエリアモードの項目から、ワンタッチで切り替えられるようになりました。これ、地味にストレスだったので助かります。
待ってました!撮影時の情報・アイコン表示OFF機能
これは「Z 6」発売時から要望を出していた機能なのですが、「Z 6」では撮影時に背面液晶のライブビュー画面に、撮影設定などの数字情報やアイコンが表示されて、消すことができません。特に絞り数値、シャッタースピード、ISO感度は画面下に大きめに表示されるので、構図を作るときに心の目でその部分を取り除かなくてはならず、「D850」のようにすべて消せるようになることを熱望していました。
本機は、その願いを叶えてくれました。初期設定時、静止画撮影時の動画撮影ボタンにあらかじめ「ライブビュー情報表示の消灯」機能が割り当てられているのです。これ、実はレビュー機を触った段階では気が付かず、静止画撮影時に間違えて動画ボタンを押してしまったことで発見しました。動画撮影時にはカスタムメニューで、カスタムボタンの設定で機能を割り当てることで使用できます。
これで、画面全部を使って構図を作ることができます。ただ、電源をオフにして少し経つと設定がリセットされるようでまた情報が表示されたので、願わくば、電源を入れ直してもリセットされないようにアップデートをお願いしたいです。
安心のダブルスロット搭載
本機はダブルスロット機構を搭載しています。CFexpress/XQDカードと、SDカードを1枚づつ使用でき、「順次記録」、「バックアップ記録」、「RAW+JPEG分割記録」の3種類から記録形態を選択できます。さらに、CFexpress/XQDのスロットは「Z 6」よりも高速な書き込みが可能です。
筆者はシングルスロットでもそれほど不便を感じたことはなかったのですが、近年、動画撮影が増えるにつれて、撮影容量の増加と万が一のアクシデントへの恐怖など、ダブルスロットの便利さを再認識していました。それでも、カメラが大きくなるくらいならいらないと思っていましたが、こんな誤差の範囲程度のサイズアップでダブルスロットが手に入るのでしたら、やっぱりその恩恵に与りたいと素直に思いました。
これからのカメラには必須!USB給電・充電対応
筆者個人的に、これからのカメラには全部対応して欲しいと思う機能がUSB給電・充電です。普段はスマホの給電のためにモバイルバッテリーを持ち歩いていますが、これを使用してカメラの給電・充電が行えるのは、1日中出歩いて静止画と動画の両方を撮影しているような、バッテリーの消費の激しいシチュエーションでは、とても重宝します。
本機には、Li-ionリチャージャブルバッテリー「EN-EL15c」が付属しています。USB給電機能はこの付属バッテリーの他、「EN-EL15b」「EN-EL15a」「EN-EL15」でも可能です。さらに「EN-EL15c」と「EN-EL15b」では、USB充電も可能となっています。筆者は「D850」付属の「EN-EL15a」、「Z 6」付属の「EN-EL15b」も所持しているので、いつも予備バッテリーとして持ち歩いていたのですが、これからはさらに荷物を少なくできそうです。
「これ欲しかった」を叶えてくれた機種
2年前に発売された「Z 6」ユーザーの「もっとこうなって欲しい」、「これも入れて欲しい」を叶えてくれた機種が本機なのでしょう。進化したことをわかりやすくしようとデザインや操作系統、ボタン位置などを変えたりせず、中身を堅実にレベルアップさせているのが、真面目なニコンらしい新機種だと思いました。
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。 (社)日本写真家協会(JPS)会員。
Z 6IIと他カメラを比較
「Z 6II」と「Z 7II」、「Z 7」、「キヤノン EOS R6」、「ソニー α7C」の価格や主要なスペックの比較表をこちらのページで紹介していますので是非ご覧ください。