ニコン Z 7IIレビュー|フォトグラファーの細かな要望に応えた写りと操作感
はじめに
高画質を誇るニコンのフルサイズミラーレス一眼カメラ「Z 7」のバージョンアップ版「Z 7II」が2020年12月にいよいよ発売される。大口径、ショートフランジバックのニコンZマウントを採用する「Z 7」は写りの評価が高い。光学性能の高さと高画素のハーモニーが素晴らしく、極めて緻密な描写の写真を撮ることができるのだ。満を持して登場するその新モデル「Z 7II」。フォトグラファーの細かな要望に応えた写りと操作感をインプレッションしてみた。
「Z 7II」の進化点
「Z 7II」はパッと見「Z 7」と変わらないように思える。しかしマジメな会社ニコンらしく細かなところまでリファインされているのだ。一番のトピックは映像エンジンEXPEED 6をデュアルで積み、画像処理の高速化と連写時のコマ速アップを図ったことである。センサーは有効約4575万画素と据え置いているが、これは画質に定評があるため。映像エンジンEXPEED 6が2つになったことによって、この高画素センサーのデータを最大77コマ(約10コマ/秒連写時)連写できるようになった。これはストレスを感じることなく被写体を捉え続けられるようになり、シャッターチャンスをモノにできる確率が高まるので大歓迎だ。実際に撮影していても全体的な動作のキビキビ感が心地よかった。
493点ものフォーカスポイントがフレームの約90%を網羅し、ギリギリのところにある被写体にもフォーカシング可能なのは変わらないが、オートフォーカス性能もグンと進化している。まずは「ターゲット追尾AF」だ。ニコンの一眼レフで好評だった「3D-トラッキング」 AFに似た使い勝手のこの機能は、フレーム内の被写体を追いかけてフォーカスし続けてくれるので動体の撮影に大きな威力を発揮する。スポーツや野生動物などの撮影に活躍するだろう。またオートエリアAF時にしか使えなかった「瞳AF」、「顔検出AF」、「動物AF」がワイドエリアAF時にもチョイスできるようになった。フォーカスエリアを限定して機能をONにできるので、安定したフォーカシングが可能になっている。またこの設定はスチルだけでなくムービーでも使用できるのがうれしい。絞りを開いてのボケを活かしたモデル撮影や、素早く動くネコやイヌなどペットの撮影でも威力を発揮するに違いない。さらに低輝度環境下でのオートフォーカスも-3EVに強化された。「ローライトAF」機能を適用すれば-4EVでもオートフォーカスで撮影ができる。ヒトの目では真っ暗に感じるようなシチュエーションでも正確に合焦するので驚くことだろう。
マニュアルモード撮影時にはシャッタースピードを最長900秒まで延長できるようになった。シャッターボタンを1回押すだけで最長15分もの長時間露光がカンタンに行えるようになったのである。星空の撮影やNDフィルターを使っての長秒撮影で有効だろう。
ザッと見ただけでも「Z 7II」はこのように絵作りの根幹に関わるところが着実にアップデートされているのである。
ユーザーの声をくみ取った「Z 7II」ボディ
「Z 7II」は待望のデュアルメモリーカードスロットが採用された。CFexpress(Type B)/XQDカードとUHS-II規格対応SDカードに対応し、それぞれ1枚ずつを同時挿入・使用が可能になったのだ。これはメモリーカードの2枚差しを熱望するユーザーの声をニコンが聞いた形で、フォトグラファーの声にしっかりと耳を傾けるメーカーの姿勢が素晴らしいと思う。記録方式は「順次記録」、「バックアップ記録」、「RAW+JPEGの分割記録」ができ、挿入したカード同士での画像コピーも可能になっている。高速で信頼性バツグンのCFexpress(Type B)の書き込みスピードは一度使うと止められなくなるはずだ。ちなみにPCへの撮影データコピーも爆速である。
「Z 7II」は新開発のLi-ionリチャージャブルバッテリー「EN-EL15c」を採用。USB充電に加えて給電も可能になったので、長時間の撮影やタイムラプス撮影時でもバッテリーの保ちを気にすることなく撮影に臨めるようになった。
別売りにはなるが、縦位置撮影に有効なシャッターボタン、AF-ONボタン、メイン・サブコマンドダイヤル、マルチセレクターなどを搭載したパワーバッテリーパック「MB-N11」も用意されている。Li-ionリチャージャブルバッテリー「EN-EL15c」を最大2本搭載できるので長丁場の現場でも安心だ。撮影を続けながらのバッテリー交換「ホットスワップ」ができるところもニクい。またUSB端子を給電および充電に使うこともできるので便利である。何よりも縦位置撮影時のホールド感と操作感が向上するので、ポートレート撮影や望遠レンズを多く使用するフォトグラファーはこの「MB-N11」を装着するといいだろう。
他の細かいアップデートを見てみると、チルト式画像モニター使用時に不用意にEVFに切り替わらない点、撮影画面での情報表示を消してフレーミングに集中できる点など、ニコンがユーザーの意見を真摯に汲んだ様子がうかがえる。
ルックスにも手が入れられている。「Nikon」の文字が輝くペンタ部(ペンタプリズムは中にないが)がエッジの立った精悍(せいかん)なフォルムに変更された。APS-Cフォーマットの兄弟機「Z 50」のようにシャープな印象になる端正な顔立ちに。グリップもさらに深く握りやすくなり、ホールド感が高まっている。効きがいいと評価の高い5軸5段のボディ内手ブレ補正と相まって、安定したシューティングを約束してくれる。
ニコン「Z 7II」はデュアルエンジンを搭載しただけでなく、そのフォルムも一新されているのである。スペックなど詳細はニコンの公式サイトを参照して欲しい。
実写
さてここからは「Z 7II」の写りを見ていこう。サンプル機での撮影となるが画質の良さは素晴らしいものであった。
公園内の池にレンズを向けてF8に絞ってシャッターを切ったがその精細感に驚いた。フレーム中央部はもちろんのこと、周辺部までキッチリと解像しきっている描写はスゴい。ニコンZマウントの底力を感じた。
高山にある林道から沸き立つ雲を狙ったカット。やや湿り気を帯びている白い雲の立体感が好ましい。雲の端の写り、シャドウ部に見え隠れする立ち枯れの木と、わずかに積もった雪まで描ききる2基搭載された映像エンジンEXPEED 6の力に感服だ。
信州にあるワサビ田を訪れた。秋の太陽は動きが速くすでに夕方の色づきである。その微妙なカラーを「Z 7II」は的確に表現してくれた。また近景の石ころから、遠景の建物までシャープかつクリアに捉えてくれるカメラとレンズのパワーにニコンの底力を感じた。
これはとある日の午後、ブラブラと散歩していた時のカットだ。踏切の遮断機が下りていたため、何気なく「非常停止ボタン」の標識を撮ったのだが、そのリアルな表現に舌を巻いた。ISO感度オートのためISO 90で撮れたが、ベース感度がISO 64(ISO 32相当まで減感も可能)と、広いダイナミックレンジと階調を実現しているのがいい。明るいレンズも開放域で日中にガンガン使えるところもうれしい。
東京のシンボル・東京タワーを見上げてシャッターを切った。クリアでスッキリとしたヌケ感があり、かつリベットやグレーチングまで確実に解像する「Z 7II」の写りはスゴいのひと言だ。EVF(電子ビューファインダー)も「Z 7」 同様、約369万ドットのQuad VGA有機ELパネルで、見やすさも変わらず撮影が快適だった。
初冬なのに暖かい日が続いている。公園でやや色づいた葉をようやく見つけてシャッターを切った。高速かつ正確なオートフォーカスは的確に狙った葉に合焦した。その解像感が実にいい。輪郭はもちろん虫食いの感じ、葉脈のリアル感が素晴らしい。揺れ動く枝にもしっかりと追従するフォーカスも頼もしい。
「Z 7II」は撮影していて気持ちのいいカメラだ。まずしっかりとホールドできるグリップと使いやすいボタンおよびダイヤルレイアウトのボディがいい。そして被写体をクリアかつクリーンに捉えられるEVF(電子ビューファインダー)がいい。さらにレスポンスよく美しいシーンをキャプチャーできるセンサーと映像エンジンがいい。先ほどのカットと同じ公園で撮った落ち葉だがこの立体感がとても気に入った。
お城の瓦屋根に留まっているユリカモメ。ちょこまかと移動を繰り返す鳥に正確にフォーカシングし続け、羽毛の解像感と立体感豊かにその様子をキャプチャーしてくれた。連写速度もアップし、デュアル化されたカードスロットによって撮影枚数も増え、「Z 7II」はスキのないカメラに仕上がっている。
高感度というと兄弟機の「Z 6II」や「Z 6」を思い浮かべるが、「Z 7II」もなかなか素晴らしい高感度特性を持っている。「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S」を装着してヨコハマの夜を撮ったが、ISO 1400でクリーンかつ情感あふれるカットが撮れた。ISO 102400相当までの増感に対応しているので、もっと条件の厳しい低照度下でも撮影できる頼もしい高解像度機になっている。
まとめ
ニコン「Z 7II」は派手さこそないが、着実かつ確実に撮り手の要望に応えて進化したフルサイズミラーレス一眼カメラと言えるだろう。使いやすいのはもちろん、何よりも大口径、ショートフランジバックのニコンZマウントの写りが素晴らしい。極上の写りをこの高解像度で味わえるのが至福である。この仕上がりぶりをキタムラの店頭で実感して欲しいと思う。
■写真家:三井公一
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービー、執筆、セミナーなどで活躍中。有限会社サスラウ 代表。
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