ニコン Z 8 レビュー|飛行機モード“で”語り尽くす
はじめに
昨日今日と「カメラのキタムラ」に行こうかどうか迷っている皆様、こんにちは。Nikon Z 8の記事をクリックしてくださったということは、多分、迷ってらっしゃるってことですよね?あれ、もしかしてもう買われましたか?うん、それならそっとこの記事を閉じて、ぜひとも今日は撮影に行かれてください。Nikon Z 8の至高の体験があなたを待ってます。
まだ続きを読んでくださるんですね、ありがとうございます。改めまして、こんにちは、別所です。Nikon Z 8の記事を読まれる方でしたら、多分、このZ 8のプロモーション見られてますよね。あの飛行機を二刀流で撮ってたやつです。あれが間違いなく人生のピークでしょうから、あれを僕は自分の遺影にする予定です。
いきなり脱線すみません、悪い癖なんです。写真家の前は文学研究者なんてものをやっていたせいで、とにかく脱線が多い。人生も脱線続きで、写真もたまたまやり始めただけなんですが、こんなところまで来てしまいました。さて、Z 8の話に戻します。
迷う理由が金額なら買え
まず最初に、一番大事なことを書いておきます。Z 8なんですけどね、今のところ一番隙の無いカメラです。Z 8さえあれば出来ないことはない。そんなボディがね、54万円を切って売られているんですよね。これは正直言って驚愕でした。(価格は2023年5月27日現在)
僕はずいぶん長いことZ 8を触ってきて、およそ全ての機能を熟知しているんですが、今回の発表で何が一番驚いたかというとこの価格です。Z9同等以上の機能を積んだボディなので、60万くらいを予想してたんです。だから、この記事を見て「明日カメラのキタムラに行こうかなあ、どうしようかなあ」と迷っている皆さん。ここで格言を一つお伝えしますね。
「迷う理由が金額なら買え」
この格言がこれほどピッタリハマるカメラもまあ珍しい。ので、撮り溜めた作例を通じて、記事を読み終わった後には、皆さんの背中をそっとキタムラの方向に向けて押して差し上げられたらなと思っております。
その時、いったい何をお伝えしたらいいだろうかと考えました。数ある「推し機能」の中で何を僕はお話しするべきなんだろう。答えは必然ですよね、AFの飛行機モード。この記事は、そこに特化することで、Nikon Z 8というボディの持ってるポテンシャルのデカさを、皆さんにお伝えするという形を取ろうと思います。
被写体検出「飛行機モード」の凄まじさ
てことで、カタログに載ってる写真ですね。今回僕はZ 8のプロモーションには、飛行機と花火の撮影で呼んでいただきました。で、最初に依頼を受けた時、僕は割と不思議だったんです。「今更AF推すの?」って。でも触ってみてわかったんですよね。専用の被写体検出の「飛行機モード」、えぐいわって。
上のカタログ写真は飛行機撮影の聖地、千里川の土手で撮影したものです。この場所で飛行を撮る時、飛行機は常に背中側から来るんですね。そして夕方以降のこういうドラマティックな写真を狙う時は、太陽が左側から逆光気味にこちらを照らし出すんです。この条件は、ここで撮る限りは基本的には変わらない。そうなると何が起こるか。飛行機のAFを迷わす条件が揃ってるんです。例えばまず、飛行機は背中からきます。フレームを見ていると、いきなり頭の上に現れます。こんな感じに。
そして瞬く間にカタログ写真のポジションに向かって、急速に小さくなっていきます。それだけじゃない。真正面からは太陽や、あるいは誘導灯が光をこちら向きに放つので、AF検出に必要なコントラストが強い光に持っていかれがち。
そうなんです、千里川って飛行機撮影の聖地と言われながら、実は飛行機を撮影するに際して、意外と光の条件的には厳し目なんです。だからこれまで僕はここで撮影するときは、結構MFも多用しました。
特に上の写真、超望遠で離陸を狙うときには、AFだと飛行機のボディが低照度すぎて全く合わなかったんですよね。そんな条件の千里川で、今回僕は全ての飛行機写真をAFで撮っています。そのガチピンのえぐさたるや!!その凄まじさは、動画を見るとわかります。
フレームの外部から突然入ってくる真っ黒の鉄の塊を、入ったタイミングから全て、完璧にとらえています。いつAFを合わせたのかさえわからない。これ、現場は手元が見えないくらいに真っ暗で、そこに上から飛行機がフレームに飛び込んでくる状況。この動画を見たとき、僕は心底震えました。「なんちゅーAFをニコンは作ったんや、、、これじゃもう、誰でも飛行機撮れるやん!!」
そう、本当に。このボディさえあれば、あとはもう何も考えなくていいんです。その恩恵は、もちろん飛行機撮影初心者の方にも大きいのですが、それ以上に、ハイアマやプロの方に巨大な恩恵をもたらします。絶対にミスりたくない撮影で、完璧に飛行機をとらえ続けるAF、それはもう何にも増してこういう高速の物体を撮影するときに欲しいものだからです。
あ、もしかしたら「飛行機って、毎日飛んでるから、毎日撮れるやん?別に今日撮れなくても、明日再チャレンジしたらよくない?」って思いませんでしたか。半分正解なんですが、半分は違うんです。それはこういう写真を見るとわかります。
光芒が降り注ぐ空の下、一機の飛行機が美しい軌跡を描くこのシーン。この写真、今回の僕の撮影した飛行機写真の中でも一番好きな一枚ですが、この写真、やはりAFが外れやすいシチュエーションです。何せ飛行機が凄まじく小さい。その上、暗いところから明るいところへと抜けていく瞬間です。外れる要素満載ですが、この前後20枚くらいの連写のショット中、一枚もAFを外していませんでした。
でも大事なことは、この写真はこの一枚前の写真でも、一枚後の写真でもダメなんです。ちょうど機体の真ん中のところに光が入っているこの一枚だけが「採用カット」なんですね。このAFがもし外れていたとしたら、もうこの一連の写真は全てボツになるところでした。そしてこういう気象条件が明日や明後日に揃うかというと、やはりそれも難しい。結局写真というのは、一期一会の「瞬間」を切り取るアートだからこそ、AFの信頼性ってすごく大事なんです。特にこういう、高速で動く被写体を扱った撮影の時は。
例えばこれも飛行機モードの真髄が出てる一枚。空気の揺らぐ暑い日、何キロも離れた都市のごちゃごちゃビルが立ち並ぶ中を通り抜けていく飛行機を、シャッター押す間、一度も外すことなく追い続けていました。
ニコンの技術の結晶こそがZ 8
ということで、Nikon Z 8に搭載された「飛行機モード」だけを今回は深掘りしてみました。「私、飛行機撮らないんだけど…」って思われた方、もしかしたらいらっしゃいますでしょうか?大丈夫です、この飛行機モードって、このボディの真髄を、一事が万事で語り尽くす機能だと思うんです。それはどういうことか、端的にいうと、この飛行機モード、新機能だってことなんです。中身はZ 9同等で仕上げてきたZ 8ですが、サイズが小さいところにこの機能を乗せてきた。それが意味するのはたった一つで、このボディに対してニコンが並々ならぬ力を注いで作りあげたってことなんです。
考えてみてください。Nikon Z 9はそもそもモンスターカメラなんです。その化け物を、機能追加することなく、サイズダウンしただけのカメラをもしニコンが作っていたら、おそらくそれでも需要はあったんです。今回もし、そういうボディであったとしても僕はこの話を引き受けていたと思います。それくらい「機能を落とすことなく物理的にサイズを小さくする」というのは至難の業なんですね。
ボディサイズが小さくなるとともに、そこに入っている基盤が小さくなり、高機能を維持するための高い電圧も取り払われた。排熱も圧倒的にZ 9より苦労したはずです。こうした「純粋な物理的マイナス」は、ソフトウェアでは本来如何ともし難い部分を、ニコンは持ち前のクラフトマンシップでクリアしてZ 8に結び付けたんです。より簡単だったはずの道を選ばず、新しい機能を載せるという困難な道のりを選択した。例えばそれはこの飛行機モードと呼ばれる専用の被写体検出AFだったり、あるいはHEIF形式の採用だったりに現れているんですね。貪欲に「より良いカメラ」を目指した結晶が、Nikon Z 8だということを、新しい機能の完成度を見ることで理解できるんです。
だから、信頼してください。僕じゃないですよ、ニコンという会社のクラフトマンシップを信じて欲しいんです。出来上がっているボディは極上、皆さんを虜にします。
というわけで、初のShaShaの記事をこの辺で終えようと思います。もしかしたらまた登場するかもしれません、その時はぜひ皆さんまたご贔屓に。
■写真家:別所隆弘
フォトグラファー、文学研究者、ライター。関西大学社会学部メディア専攻講師。毎日広告デザイン賞最高賞や、National Geographic社主催の世界最大級のフォトコンテストであるNature Photographer of the Year “Aerials” 2位など、国内外での表彰多数。写真と文学という2つの領域を横断しつつ、「その間」の表現を探究している。滋賀、京都を中心とした”Around The Lake”というテーマでの撮影がライフワーク。日経COMEMOで記事配信中。Nikon Z 8のプロモーションで飛行機と花火の撮影を担当。