ニコン Z 9の最新ムービー性能を試す!【前編】
Z 9がさらに進化
メカシャッターを廃し、EVFブラックアウトフリー、4571万画素という高画素で秒間RAW20コマ & JPEG30コマの高速連写、AIを駆使し卓越したオートフォーカス性能を誇り、スチルでもムービー撮影でも圧倒的な性能を持つ「ニコン Z 9」が、ファームウェアのアップデートによってさらに劇的に進化しました。本記事では前編と後編に分けてそのムービー撮影機能をご紹介します。
ファームウェアVer.2.00でさらなる高みへ
報道やスポーツなど過酷な環境の現場から、ネイチャーや風景、そしてポートレートやスナップショット撮影までラクラクこなすプロフェッショナル向けフルサイズミラーレス一眼「ニコン Z 9」。先日公開されたファームウェアVer.2.00で、その機能が大幅に向上したことはShaSha読者の皆さんならご存じのことでしょう。特にムービー撮影機能は予告通り素晴らしく性能アップしました。
ボクもスチル撮影に行く途中、こんな4Kショートムービーを電車移動中に手持ちで撮影したりしていますが、この手軽さと気軽さに「8.3K 60p」の内部収録が可能になるというとんでもないことになっています。
昨年の発売時でも8Kで2時間以上の撮影をラクラクとこなし、ムービー撮影時でも世界最多9種類の被写体検出が使えるなど話題をさらったZ 9。スチルはもとよりムービーでもフラッグシップ機らしい完成度の高さを誇ったのは記憶に新しいですね。さらに、これからはボディ単体で「8.3K 60p」のムービーが撮れるなんて夢のようですね!
さて、最新ファームウェアVer.2.00で機能向上した注目のムービー撮影ポイントはこんな感じです。
・8.3K/60p、4.1K/120p 「N-RAW」カメラ内記録
・4.1K/60p「ProRes RAW HQ」カメラ内記録
・編集に適したフルHDのmp4のプロキシファイルを同時記録
・8Kオーバーサンプリングによる4K UHD/60p・50p記録
・動画収録時の赤枠表示(ファインダー、モニター)
・「動画情報表示」機能
・「ウェーブフォームモニター」表示
・Mモード時の動画撮影では、1/6段で露出を調整可能
・AFエリアモードの追加
・動画記録中の拡大表示倍率に50%と200%を追加
・動画モードでの表示パネルに、画像サイズおよびフレームレートを表示
などなど多岐に渡ります。細かいところにも手が入れられうれしい限りです。とてもこちらで紹介しきれないほどの機能アップとなっていますよ。全部知りたいという方は、ニコンイメージングのサイトで「Z 9 活用ガイド(ファームウェアバージョン 2.00 補足説明書)」を参照してください。
https://download.nikonimglib.com/archive5/2KnAh00eYcw505VTuLX34vI3PN74/Z9_FU_addendum_(Jp)01.pdf
ここで注目したいのは2つのRAW、「N-RAW」と「ProRes RAW HQ」です。スチルでもセンサーの生データ「RAW」が存在するようにムービーでも生データがあるのです。これにより撮影後にホワイトバランスや露出、彩度などを自在に調整することが可能です。もちろんそれにはそれぞれのRAWデータをPCに取り込んで、対応するアプリケーションでの調整が必要です。色を補正する「カラーコレクション(カラコレ)」や色味をドラマチックにする「グレーディング」などがそれに当たります。「N-RAW」は現状DaVinch ResolveとEDIUS Xのみで、「ProRes RAW HQ」はFinal Cut Proなどの動画編集ソフトで扱うことができます。
Z 9はニコン独自の「N-RAW」と、Appleが主導している「ProRes RAW HQ」の2種類に対応しているのですが、絵の好みや用途によって使い分けることができます。8.3Kで撮影したい場合は「N-RAW」で、Macユーザーで「Final Cut Pro」を使って編集したいのなら「ProRes RAW HQ」で、といった感じです。それぞれの写りやデータ量も違ってきますので、総合的に勘案してどちらかをチョイスする必要があります。もちろん「RAW」ではなく汎用性の高い「ProRes」で記録することもあるでしょう。
「ニコン Z 9」のメニュー画面キャプチャーです。「動画記録ファイル形式」の「N-RAW」設定画面。
「画像サイズ/フレームレート」で「8.3K 60p」を選択したところ。
「画像サイズ/フレームレート」で「4.1K 120p」を選択したところ。
「画像サイズ/フレームレート」で「ProRes RAW HQ」「4.1K 60p」を選択したところ。
各々の諧調モードでは「SDR」と「N-Log」が選択可能になっています。
iメニューに「動画情報表示」を割り当てて設定を一覧することができるようになりました。これは便利ですね。
輝度情報に「ウェーブフォームモニター」が加わりました。厳密な露出合わせに役立ちます。
何といってもREC中の「赤枠表示」がとても嬉しいです。ファインダーと液晶モニターとでしっかりと記録中というのがわかるようになりました。「逆REC」というケアレスミスが防げますね。
一番の注目は外部レコーダーを使わずにZ 9単体で「8.3K 60p」の記録ができるということでしょう。これは機材をスチル撮影時並みにコンパクトにでき、フットワークを活かした動画撮影が可能になるということです。また「N-RAW」、「ProRes RAW HQ」も同様に内部記録できることから、編集時に「カラーコレクション」や「グレーディング」などがしやすくなって、露出や色味などを撮影者が自在にコントロールできるということを意味します。
Z 9での撮影風景
さて、いつもはスチル撮影のイメージで「8.3K 60p」や「N-RAW」、「ProRes RAW HQ」を撮影をしていますが、このような機材構成とスタイルになっています。
■使用機材
カメラ&レンズ:ニコン Z 9 + NIKKOR Z 24-120mm f/4 S
メモリーカード:SUNEAST ULTIMATE PRO CFexpress TypeB Card【pSLC】
三脚&雲台:Leofoto LVM-324C + BV-15
ガンマイク:RØDE VideoMic GO II
カメラ&レンズ:ニコン Z 9 + NIKKOR Z 24-120mm f/4 S
Z 9にレンズはNIKKOR Z 24-120mm f/4 Sを主に装着しています。狭い室内からちょっと遠いものまでこのレンズなら高画質でカバーできるからです。また、Z 9はFX(フルサイズ)とDX(APS-C)という2種類の画角を切り替えて撮影できるので、より遠い被写体でも捉えることができるのです。オートフォーカスも静かなのでムービー撮影でも安心です。
メモリーカード:SUNEAST ULTIMATE PRO CFexpress TypeB Card【pSLC】
膨大なデータ量になる8Kや4Kムービー撮影で大事なのはメモリーカードです。Z 9は高速で信頼性の高い「CFexpress TypeB」カードをダブルスロットで採用しています。ニコンの推奨カードは「ProGrade Digital COBALT 650GB」および「ProGrade Digital COBALT 325GB」となりますが、自分は「SUNEAST ULTIMATE PRO CFexpress TypeB Card【pSLC】」の640GBのものを使用しています。
最大読込速度1700MB/秒、最大書込速度1500MB/秒で、快晴無風約20℃の河川敷で容量一杯まで停止せずに「8.3K 60p」で記録ができました。容量だけでなくSLC(Single Level Cell)採用の信頼性高いカードをチョイスしたいものです。
三脚&雲台:Leofoto LVM-324C + BV-15
三脚も重要ですね。8Kの高解像度のムービーを記録するにはしっかりとカメラとレンズを保持する製品が必須です。レオフォトの新製品「LVM-324C」はレバーロックを採用し、足の伸縮が即座に行えるのでとても便利です。また、ハーフボールを搭載しているので水平出しも楽チンです。以前使っていた製品より操作しやすく、キッチリと水平を取ることができるので気に入っています。
雲台の「BV-15」も以前使っていた製品よりしっかりとしていて大きいのでZ 9にピッタリという感じです。テンション調整も細かく可能なので、上下・左右方向に振るときも思い通りの速度と粘りで撮影できます。
ガンマイク:RØDE VideoMic GO II
環境音を録ることが必要な場合は「RØDE VideoMic GO II」を装着しています。ホットシューに付けたり、ハンドルを装着してその上に載せたりして使っています。プラグインパワーで価格の割にいい音質ですね。
最小の機材体制はこんな感じです。場合によってはマイクを装着しないこともありますよ。
Z 9はこれから長く使えるフルサイズ機
ザッと「ニコン Z 9」の新しいファームウェアでの機能をピックアップしましたが、デビュー時の「8K 30p」でもスゴかったのに、「8.3K 60p」での内部記録までついに実装されました。これは本当にスゴいですね。ところで「8Kで撮っても見る環境がないよ」と思う人もいるでしょう。たしかに8Kのディスプレイは高価で一般的ではありません。4K解像度のディスプレイを使っている人が多いのではないでしょうか。
しかし、YouTubeはすでに8Kに対応しているのです。視聴画面の右下にある歯車アイコンをクリックすると解像度を調整できるメニューがあります。そこで「4320p(8K)」を選ぶことによって8K対応コンテンツなら視聴可能なのです。
ここで解像度を「1080p(HD)」や「2160p(4K)」などに切り替えてみると、やはり8Kムービーの方が高精細で美しいことが分かります。Z 9で撮影した8Kタイムラプスムービーをアップしておいたので確認してみてください。
このように間近に迫る8K時代に「ニコン Z 9」は早くもしっかりと備えていることが分かります。長く使えるカメラに仕上がっているので、世界中で人気が爆発しているのも頷けます。本機をお持ちの方はぜひファームアップをしてみてください。これだけの機能向上にかかわらず無料(!)なのですから。さて、次回の後編では編集などについてお伝えしたいと思います。
■写真家:三井公一
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービー、執筆、セミナーなどで活躍中。有限会社サスラウ 代表。