ニコンの本気「Z 9」をポートレートでレビュー|水咲奈々

水咲奈々
01_DSC_0399_p.jpg

はじめに

 昨年12月に発売されたニコン Z 9は、ニコンのミラーレスカメラZシリーズの最高峰モデルで、発表時から話題沸騰の機種でした。ユーザーの「これが欲しい」を、すべて叶えたのではないかと言えるほどの機能を盛り込んだニコンの本気を、ポートレートの実写でレビューいたします。

ニコンユーザーなら直感で操作できる操作系統

01_DSC_0399_p.jpg
■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
■撮影環境:F1.2 1/125秒 ISO320 AWB ピクチャーコントロール:ポートレート
■モデル:大川成美

 まずは簡単にスペック紹介を。有効画素数は4571万画素、撮像素子は35.9×23.9mmサイズのCMOSセンサーで、ニコンのFXフォーマットです。ボディ手ブレ補正はイメージセンサーシフト方式5軸補正で、手持ちでも安定した撮影が可能です。記録媒体はCFexpress カード(Type B)か、XQDカードで、ダブルスロット方式を採用。

 ポートレートで使用頻度の高い縦位置撮影の操作性は、横位置と同じように直感的に操作できるメニューボタンの配置のお陰で、とても高いと言えます。また、カメラ前面にある3つのファンクションボタンは、程良い間隔を空けて配置されているので、押し間違えることもありませんでした。

 これらの操作性は、スペック上ではわかりにくいですが、使い続けていく上でとても重要なポイントです。その点、本機はいままで同社の一眼レフを使っていた方なら、すぐに馴染める操作性を受け継いでいるので、特にD6からの乗り換えを検討されている方は、ぜひ実機を触って操作性を体感されるといいのではと感じました。

動きのあるポートレートも楽々撮影できるAF性能

02_DSC_0083_p.jpg
■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
■撮影環境:F1.2 1/125秒 ISO200 WB:4700K ピクチャーコントロール:ポートレート
■モデル:大川成美
03_DSC_0088_p.jpg
■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
■撮影環境:F1.2 1/125秒 ISO200 WB:4700K ピクチャーコントロール:ポートレート
■モデル:大川成美

 本機は、ディープラーニング技術を用いて開発されたアルゴリズムを搭載しており、人物、犬、猫、鳥、車、バイク、自転車、列車、飛行機の、9種類もの被写体が検出可能です。ポートレートで重要となる人物の検出能力ですが、検出部位は顔、瞳、頭、体で、従来より小さい瞳を検出できるようになったので、モデルの全身撮影がぐっとしやすくなりました。

 スカートに動きを出したいシチュエーションや、動きのなかの自然な表情を撮りたいときに、ピントの心配をしないで、構図やモデルへの声掛けに集中できるのは、ポートレート撮影ではとても有り難いことです。

 また、強い逆光での撮影、カメラに向かって走ってくるシーン、飛んだり跳ねたり回ったりのシーンなども、何の問題もなくピントを合わせ続けてくれました。

 このカットでは、スカートはピタッと写し止めすぎないように、素材の柔らかさをブレで表現したかったので1/125秒という、少し遅めのシャッタースピードで撮影しました。瞳のピントと描写はシャープなままに、スカートの裾や動きの大きな手はリアルなブレ感を感じさせる、思い通りのカットにできました。

世界初搭載「Real-Live Viewfinder」

04_DSC_0535_p.jpg
■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
■撮影環境:F1.2 1/125秒 ISO640 AWB ピクチャーコントロール:ポートレート
■モデル:大川成美

 搭載されている電子ビューファインダーは、約369万ドットで、視野率は上下左右共に約100%です。このファインダーがまた、特筆すべき機能を備えています。ニコンのZシリーズのファインダーは、初号機のZ 7から他社を圧倒するほど抜群に綺麗な見え方だったのですが、Z 9には、「Real-Live Viewfinder」が世界で初めて搭載されました。

 連写撮影時、一眼レフカメラではミラーアップの影響で、像が消失してしまう現象が起きていました。また、従来のブラックアウトフリー撮影では、消失が起きないように同一画像を表示していたのですが、「Real-Live Viewfinder」は、実際の被写体の動きを常に表示し続けるので、ファインダー内で滑らかな動きを確認しながら撮影することができます。

 連写を使用しないシーンでも、ファインダーの見やすさがさらに上昇しているので、目の疲れを感じにくくなりました。

斜めの位置からも見やすい液晶モニター

05_DSC_0437_p.jpg
■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
■撮影環境:F1.2 1/125秒 ISO320 AWB ピクチャーコントロール:ポートレート
■モデル:大川成美

 生み出す画が綺麗なのは、言うまでもありません。今回使用したレンズ「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」との相性も良く、モデルの肌の質感から髪の毛一本一本まで、丁寧に描写してくれています。

 モニターは、チルト式の3.2型TFT液晶モニターを搭載しています。筆者は、ポートレート撮影時に、周囲の人や物の状況を確認しながらシャッターを切りたいときは、ファインダーではなく液晶モニターを使用して撮影を行います。

 ファインダー撮影は被写体に集中したいときに、モニター撮影は少し客観的に構図や、撮影状況を見たいときに使用すると、テンションを高めたり、逆に冷静に撮影シーンを設定できたりと、それぞれにメリットがあります。

 ワンショットや短時間のアオリや俯瞰の撮影では、チルト式のモニターではありますが、フットワークを重視して液晶モニターを動かさずに、斜めの位置からモニターを見ながらシャッターを切ることもあるのですが、本機のモニターは斜めからでも視認性がとても良く、ピント位置や色味などを、リアルタイムで確認しながら撮影を楽に行えました。

静かなシャッター音

06_DSC_0509_p.jpg
■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
■撮影環境:F1.2 1/125秒 ISO320 AWB ピクチャーコントロール:ポートレート
■モデル:大川成美

 本機のシャッター音は、メカシャッター非搭載なのでとっても静かです。ポートレートでムードのあるシーンや、しっとりとした空気を演出したいときは、静かなシャッター音は雰囲気に合った撮影の手助けをしてくれます。

 昨今のように、マスクをしていて声が籠りがちで、でも大きな声を出すことがはばかれるような撮影時には、モデルとの会話の妨げにならない、静かなシャッター音は助かります。

 さらなる静音を求めるときはサイレントモードに設定して、VRロック音やメニュー操作音を消すことも可能です。逆に、望遠レンズなど、レンズの開閉をモデルが視認できない遠距離での撮影では、モデルにシャッター音が聞こえたほうが、ポーズ替えのタイミングがわかりやすくなるので、電子シャッター音を設定するといいでしょう。

細かいけど待ち望んでいた機能が搭載された!

07_DSC_0104_p.jpg
■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
■撮影環境:F1.2 1/125秒 ISO320 WB:5000K ピクチャーコントロール:ポートレート
■モデル:大川成美

 筆者のZシリーズ唯一不満点は、撮影時の液晶モニターに表示される、絞りや露出などの撮影情報を消せないことでした。Z 6IIでやっと、静止画撮影時に録画ボタンを押すと、この撮影情報を消すことができるようになったのですが、なぜディスプレイボタンに当てはめないのかが不思議でした。が、本機でそれが解消されました。

 ポートレートはもちろんそれ以外の被写体の撮影でも、隅々まで確認して構図を決定したいのですが、撮影情報が表示されているせいで、その確認がしにくくて、とてもストレスを感じていました。Zシリーズ以外では、どんなカメラでも通常設定では表示をオフにしている撮影情報が、本機で簡単に設定できるようになってホッとしました。

深い切り込みで握りやすいグリップ

08_DSC_0558_p.jpg
■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
■撮影環境:F1.2 1/125秒 ISO640 AWB ピクチャーコントロール:スタンダード
■モデル:大川成美

 本機のサイズは約149×149.5×90.5mm、重さは本体のみで約1160g。決して軽くて小さいボディではありませんが、本機に求めるのはコンパクトさではありません。サイズ感で言えば、この性能でこのサイズなら、お釣りが来るほどコンパクトとも言えます。

 カメラボディは、スペック上の大きさも大切ではありますが、持ちやすいかどうかも重要です。筆者のような手の小さい女性にも持ちやすいかどうかは、ニコンのカメラボディに共通する、グリップの切り込みの深さが解消してくれます。

 小型のボディでも切り込みが深ければ、指を曲げてグリップをしっかりと握れます。逆に、大きめのボディでグリップの切り込みが浅いと、右手でボディを持って、左手でさらに支えなければならないので、重さを分散できずに、スペックよりも重く感じてしまうのです。

 本機のように深い切り込みのグリップならば、グリップを握る右手の力だけで大部分を支えられるので、左手はレンズ操作のためにフリーにすることができます。筆者は、ニコンのこの深い切り込みのグリップに出会ってから、グリップの形状の大切さに気が付くことができました。

イメージを具現化してくれる本気のカメラ

09_DSC_0588_p.jpg
■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
■撮影環境:F1.2 1/125秒 ISO640 AWB ピクチャーコントロール:ポートレート
■モデル:大川成美

 本機のようなフラッグシップ機は求めるものが多すぎて、あれもこれもと試したり、お話したくなってしまうのですが、今回は、あえて静止画のポートレートの実写のみにこだわってみました。そのお陰で、自分が多用する機能の操作性や、一番求める画質について、しっかりと向き合えた気がします。

 まさに、頭に思い描いたイメージを具現化してくれる頼もしいパートナーになり得る、本気のカメラを体感できました。

■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。 (社)日本写真家協会(JPS)会員。

その他の商品はこちらから

関連記事

人気記事