ニコン Z6III|ワンランク上の旅と日々の撮影を叶えてくれる1台
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はじめに
2020年11月に発売されたZ6IIから約4年。待望の後継機、Z6IIIが発売されました。円安の影響もあってか想定していた価格よりも随分と高かった!(涙)という方は少なからずおられるのではないでしょうか(筆者もそのひとりです)。一方で、搭載された機能はむしろZ9やZ8にかなり近付いており、思っていたよりも高スペックだと感じた方も多いのではないかと思います。ゆえにこの価格もやむなしなのかな……とは思いつつ、実際のところはどうなのか。
今回、カタログに記載されているスペックをなぞるよりも、これまでのZ6、Z6II同様に筆者のライフワークである旅と日々での撮影を通していくつかの新しい機能を検証してみました。
先にボディの大きさについて触れておくと、筆者自身、前述の通りこれまでZ6、Z6IIと使い続けてきたのですが、この2機種は外観上に大きな違いはほとんどなく、機種名を隠してしまうと見分けがつかないほどでした。一方でZ6IIIは全体的にひと回り大きくなり、それは見た目にも、また手にした感触でもわかるほどです。とはいえ、Z8ほどの大きさはなく、グリップも女性の私の手には収まりがよく感じられるもので、個人的には大きさが理由で(大きすぎて)購入を見送る、という理由にはならないと感じられました。
もうひとつ、Z6IIからの大きな変更点としてモニターがバリアングル式になったことが挙げられます。個人的にはこれも待ち望んでいた機能で、特にローアングルの縦構図が非常に撮りやすくなりました。Z9やZ8のチルト式モニターと違ってローアングルでの横構図ではモニターがカメラの左側に飛び出す形になり、光軸がずれてしまうので好みが分かれるところではありますが、これに関しては使ってみると案外平気(慣れる)という印象で、全体としてはやはり使いやすくなったのではないかと思います。
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待望の被写体検出機能の拡張
今回、個人的にZ6IIから買い替える決断をした一番のポイントと言っても過言ではない機能が、AF時の被写体検出機能でした。Z6IIにも人物と犬・猫に対する「瞳AF」「動物AF」は搭載されており、人物および犬と猫に対しては十分使える機能でした。しかし、犬・猫以外の動物には対応しておらず、Z9やZ8の被写体検出機能を非常に羨ましく思い、Z6IIIの登場を心待ちにしていました(尚、大きさの観点からZ6シリーズの後継を待っていました)。
Z6IIIの本機能は、人物・犬・猫・鳥・飛行機・車・バイク・自転車・列車の9種類に対応となっており、動物に関しては引き続き「犬・猫」となっていますがZ9やZ8で試した経験から、きっと広く動物全般に対して使えるのではないかと期待していました。尚、この被写体検出機能を使うにあたっては、AFエリアモードを「ワイド(L)」または「オートエリア」に設定し、被写体検出を「犬・猫」としました。
今回撮影した動物の中で一番犬・猫に近い動物が鹿でしたが、こちらは何なくクリア。ひょいと振り向いたタイミングでもしっかり瞳を捉えてくれました。
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撮影環境:64mm, F4, 1/500秒, 露出補正 0段, ISO 400, WB 自然光オート, PCスタンダード
▼ピント位置を確認
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そして大きな進化を感じたもののひとつが鳥でした。室内の木が覆い茂る薄暗い場所にいた、鳩の仲間であるオウギバトの目をしっかり捉えてくれました。また、動かない鳥として有名なハシビロコウは、大きな嘴にピントを持っていかれそうなところですが、こちらもしっかり目を認識し、ピントを合わせてくれました。
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撮影環境:105mm, F4, 1/250秒, 露出補正 -0.3段, ISO 3200, WB オート, PC:スタンダード
▼ピント位置を確認
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撮影環境:84mm, F8, 1/320秒, 露出補正 0段, ISO 400, WB オート, PC:スタンダード
▼ピント位置を確認
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更に金魚でも試してみたところ、見事に目をキャッチ。これにより、暗い上に被写体が素早く動くので非常に難しい水族館での撮影も撮れ高がぐんと上がることが検証でき、撮影しながら私のテンションも上がり、予定よりも長い時間を過ごしてしまいました。
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撮影環境:120mm, F4, 1/125秒, 露出補正 +0.3段, ISO 1250, WB オート, PC:スタンダード
▼ピント位置を確認
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プリキャプチャーと高速連写
もうひとつ楽しみにしていた機能がプリキャプチャー記録撮影でした。鳥が羽ばたいた場面など、気づいた瞬間にシャッターを切っても飛び立った瞬間には間に合わない、ということがよくありますが、これはそんな場面で活躍してくれる機能です。シャッターボタンを押してから最大で1秒前まで遡り、かつハイスピードフレームキャプチャーによる超高速連続撮影により決定的な瞬間を逃さず記録することができます。また、この超高速連続撮影中もファインダー内がブラックアウトすることなく被写体を追い続けることができる点も非常に大きなポイントです。
確実に鳥が飛び立つ場面を求めて、日頃から野鳥などを撮影しているわけではない私は過去に何度も撮影したことのある施設でのバードショーを舞台に選びました。前回の記事の中でもご紹介したように、これまで飛んできた鳥の着地に関してはしっかり捉えられることが検証できていましたが、飛び立つ瞬間はそれ自体のタイミングがわかってはいてもやはりシャッターを押した時点ではすでに「その時」は過ぎてしまっており、決定的瞬間はなかなか撮れずにいました。そんな中、今回このプリキャプチャー機能を用いることで飼育員さんの手を離れる直前、及び直後を捉えることができました。
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撮影環境:230mm, F8, 1/5000秒, 露出補正 0段, ISO 800, WB オート, PC:スタンダード
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撮影環境:230mm, F8, 1/5000秒, 露出補正 0段, ISO 800, WB オート, PC:スタンダード
また、水滴が落ちる瞬間というのもまたなかなか撮影が難しいものですが、この機能を用いることで神社の手水舎の龍の口先から水滴が落ちる直前、また水滴が水面で跳ね返った瞬間を捉えることができました。
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撮影環境:120mm, F4, 1/1000秒, 露出補正 -0.3段, ISO 800, WB 自然光オート, PC:オート
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撮影環境:90mm, F4, 1/640秒, 露出補正 -0.3段, ISO 800, WB 自然光オート, PC:オート
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撮影環境:88mm, F5, 1/800秒, 露出補正 -0.3段, ISO 1600, WB 自然光オート, PC:オート
このハイスピードフレームキャプチャーは、約30コマ・60コマ・120コマ/秒から選べるのですが、それぞれどのくらいの連写となるのか試してみました。約60コマ/秒での撮影はZ9とZ8にも搭載されているものの、DX(APS-C)フォーマットでの記録となってしまうのに対し、Z6IIIはFX(フルサイズ)フォーマットで記録されるため、より高画素(24.4メガピクセル)での記録が可能となっています。尚、約120コマ/秒の設定では今回のZ6IIIもDX(APS-C)フォーマットでの記録となります。
ここで作例をご覧いただくにあたりスチール写真を並べると膨大な量となってしまうため、それぞれのコマを繋ぎ合わせたタイムラプス動画にしました。
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最後にひとつだけ。このプリキャプチャー撮影は、何度もチャレンジしていると当然膨大な枚数を撮ることになります。後のデータ整理が大変であるとともに、撮影時は超高速連写も用いることからバッテリー残量がみるみる“溶けてゆく”のでくれぐれもご注意を!(予備バッテリーは必携です)
暗所での撮影
カタログによるとZ6IIよりも約20%速いAF速度を実現したことで、一段と素早いピント合わせが可能となっているとのこと。またZ9、Z8以上に強力な8.0段の手ブレ補正を持つことで手持ちでのスローシャッター撮影がしやすくなった一方で、高感度でもノイズの少ない画像にしてくれることから手持ちでも安心して夜の撮影に出かけられます。
広島県の宮島(厳島)へロケに出かけたのですが、初めて島内で宿を取りました。三脚は持たずに身軽に夜のお散歩へ。この時はISO感度を3200に設定して撮り歩きましたが、強力な手ブレ補正の効果を十二分に感じることができました。
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撮影環境:87mm, F4, 1/40秒, 露出補正 -1.7段, ISO 3200, WB オート, PC:スタンダード
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撮影環境:51mm, F4, 1/15秒, 露出補正 0段, ISO 3200, WB オート, PC:スタンダード
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撮影環境:69mm, F4, 1/3秒, 露出補正 -1.7段, ISO 3200, WB オート, PC:スタンダード
一方で、そういえばISO6400を試していなかったことに後で気付き……。大阪の繁華街でトライ。一昔前では考えられないほどノイズの少ない仕上がりとなりました。
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撮影環境:24mm, F5, 1/100秒, 露出補正 -1.7段, ISO 6400, WB オート, PC:オート
色づくりを追求できる「フレキシブルカラーピクチャーコントロール」
Z6IIIで新搭載された「フレキシブルカラーピクチャーコントロール」は、色相・彩度・明度を自由に、かつ直感的に組み合わせて自分好みの色味を楽しめる機能で、フィルムっぽい色味にしたい、などのイメージに合わせて色づくりができます。ニコン純正の画像編集ソフト「NX Studio」で調整した色味をカスタムピクチャーコントロールとして登録、ファイルに書き出してメモリーカード経由でカメラに読み込ませて登録することで、カメラ上でもその設定で撮影することが可能となります。
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撮影環境:98mm, F4, 1/500秒, 露出補正 0段, ISO 400, WB 自然光オート, PC:スタンダード
▼NX Studioでレタッチ後
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撮影環境:97mm, F8, 1/200秒, 露出補正 0段, ISO 200, WB 自然光オート, PC:スタンダード
▼NX Studioでレタッチ後
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尚、クリエイターが作成したピクチャーコントロールをクラウドからダウンロード、またはメモリーカード経由でカメラに登録し、そのクリエイターの色味を自分のカメラで楽しむことができるサービス「イメージングレシピ」も楽しむことができます。
旅スナップ
今回、ちょうどデモ機をお借りしたタイミングと宮島へロケに出る予定とが重なりました。ここまでご紹介した以外の旅スナップをいくつかご紹介いたします。
宮島へ向かう前に呉で潜水艦を間近に眺めることのできる「アレイからすこじま」へ立ち寄りました。手持ちのレンズのテレ端(一番望遠側)、120mmではちょっと物足りなく感じられたので、撮像範囲をDXフォーマットに変更(DXクロップ)。180mm相当の画角だと潜水艦の迫力が伝わる一枚となりました。尚、この撮像範囲の変更はメニューから行うことができますが、私は比較的よく使う項目であるためiメニューまたはボタン割当のカスタマイズですぐに呼び出せるようにしています。
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撮影環境:120mm, F8, 1/500秒, 露出補正 0段, ISO 100, WB 自然光オート, PC:スタンダード
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撮影環境:180mm相当(DXクロップ), F8, 1/400秒, 露出補正 0段, ISO 100, WB 自然光オート, PC:スタンダード
宮島で厳島神社の大鳥居を背景に鹿が!周囲には観光客が多くおられ、鳥居と鹿だけを撮影するのは困難な状況でしたが、被写体検出AFを使ってピントをカメラ任せにできることで意識を構図とタイミングに向けることができました。
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撮影環境:91mm, F8, 1/125秒, 露出補正 +1.3段, ISO 200, WB 自然光オート, PC:スタンダード
厳島神社の能舞台と大鳥居を画角に収めてみました。能舞台には屋根があることで屋根の下は暗くなり、同じ画面内に大きな輝度差(明暗差)ができてしまいます。こういった場面で肉眼では暗い部分も難なく見えるものですが、写真に撮ると真っ黒になってしまいがちです。
そこで、ハイライト部の白とびを抑えてシャドー部の黒つぶれを軽減してくれる効果がある「アクティブD-ライティング」を使用することで、肉眼でのコントラストに近づけてくれます。ここでは「アクティブD-ライティング」を「強め」に設定したことでシャドー部のディテールがしっかり表現できました。
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撮影環境:35mm, F8, 1/200秒, 露出補正 0段, ISO 500, WB 曇天, PC:スタンダード
厳島神社へは早朝(開門の6時半過ぎ)に参拝しました。インバウンド効果もあってか、日中は非常に混雑していたものの、この時間帯はほぼ貸切状態でした。お詣りを終えて出口へ向かう途中、神職の方にお会いして少し立ち話をしたのち、去り行く後ろ姿を撮らせていただきました。
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撮影環境:80mm, F4, 1/200秒, 露出補正 -0.3段, ISO 500, WB 曇天, PC:スタンダード
厳島神社参拝ののち、少し山手の方にある大聖院へ向かいました。こちらには参道の階段からちょうど見下ろせる位置に五百羅漢の像がずらりと並ぶ小径がありなかなか壮観な眺めなのですが、暑さ対策からか、時折ミストが噴出されてなんとも幻想的な光景を作り出していました。
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撮影環境:51mm, F5.6, 1/100秒, 露出補正 -1.0段, ISO 500, WB 自然光オート, PC:スタンダード
朝のお散歩から戻る途中で鹿の親子を見かけました。慌ててピント合わせの設定を動物を認識する設定に変えて撮影、親子でお鼻をチョンとする場面を撮ることができました。
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撮影環境:180mm相当(DXクロップ), F5.6, 1/500秒, 露出補正 0段, ISO 500, WB 自然光オート, PC:スタンダード
今回の宿泊先では夜と朝にお弁当スタイルの食事が付いており、夜は宮島名物の穴子飯を選ぶことができました。夜の室内でシャッター速度がかなり遅くはなりましたが、強力な手ブレ補正のおかげで手持ちで撮影ができました。
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撮影環境:46mm, F4, 1/25秒, 露出補正 +0.3段, ISO 1600, WB オート, PC:スタンダード
まとめ
発表された当初、「想定よりも10万円高かった……(涙)」というのが本音でした。しかし実際に手にして使ってみると、「機能的にはすごく欲しいけれどもボディの大きさから見送り」となっていたZ8にかなり近いスペックでありながらこれまでのZ6IIに近いサイズ感であり、理想的な仕上がりとなっていました。Z9やZ8に近いスペックとインフレや円安の影響を考慮するとこのくらいの価格になってしまうものなのかなと思います。
とはいえ、Z6IIから大幅に性能が進化し、中級機という位置付けの中では圧倒的なスペックが備わっていますので、日々の撮影のあらゆる場面で目一杯活用して撮影を楽しみたい、また様々な撮影の楽しみ方を提案したいと思えるカメラです。
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撮影環境:120mm, F4, 1/400秒, 露出補正 -1.0段, ISO 400, WB 自然光オート, PC:スタンダード
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員