オリンパス M.ZUIKO DIGITAL F1.2 PRO 単焦点レンズシリーズ|ポートレート撮影に最適な明るく高画質なレンズたち
明るい開放絞り値と高画質を兼ね備えた単焦点レンズシリーズ
オリンパスのマイクロフォーサーズ用レンズのなかでも、「M.ZUIKO PRO」シリーズは高品位かつ高画質な設計を誇るレンズだ。ラインナップにはズームレンズのみならず単焦点レンズも用意されており、その中には開放絞り値F1.2という明るい単焦点レンズも用意されている。
2020年11月時点では、開放絞り値F1.2のレンズとして「M.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PRO」「M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO」「M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO」の3本がラインナップされている。いずれも解像力の高さと逆光への耐性、防塵防滴構造への対応など、PROレンズとしての高い要求に応えた高品位なレンズだ。もちろんF1.2という明るいレンズなので、非常に浅い被写界深度を活かした撮影が可能であることも大きな特徴だ。そこで今回は、これら3本のレンズを使用してポートレート撮影を行うことで、これらのレンズの「使いどころ」を探ることにしよう。
M.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PRO
■マイクロフォーサーズ規格マウント
■焦点距離 焦点距離 45mm (35mm判換算90mm相当)
■レンズ構成 10群14枚(EDレンズ1枚、HRレンズ4枚、非球面レンズ1枚)
■最短撮影距離 0.5m
■最大撮影倍率 0.1倍(35mm判換算0.2倍)
■絞り羽枚数 9枚(円形絞り)
■大きさ 最大径70mm 全長84.9mm
■質量 410g
■フィルターサイズ 62mm
■防滴仕様 保護等級1級(IPX1)*オリンパス製防滴対応カメラとの組み合わせ時に有効、防塵機構搭載
※引用:オリンパス製品ページ
M.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PROは35mm判換算では90mm相当の中望遠域となる単焦点レンズだ。一般的に中望遠レンズは「ポートレートレンズ」とも呼ばれるほど、ポートレート撮影との相性は良い。人物を同じ大きさでフレーム内に収めるのであれば、近距離から撮影することになる広角レンズのように被写体の形が歪むこともなく、正体として捉えることができる。特に縦位置構図での人物のバストアップ撮影では、フレーム内を縦に三等分した、上から1/3の位置に顔が納まるので、とてもバランスの良い構図とすることができる。
女性モデルの目にフォーカスを合わせて撮影。人物に正体しての撮影なので、人物本来のシェイプをそのままに、すっきりした印象の写真となる。また、開放絞りF1.2の浅い被写界深度と背景が大きくなる望遠効果の相乗効果で、背景を大きくボカして人物を浮かび上がらせている。
同じ状況で横位置フレーミングにて撮影。縦位置フレーミングと違って左右方向の面積が広くなるので、人物は中央ではなくフレームの右半分(もしくは左半分)に配置して、左半分(もしくは右半分)を大きな空間とした。これにより構図に安定感と広がりが生まれる。
紅葉した木の葉越しに人物を配置して撮影。フォーカスを合わせた人物は限りなくクリアに描写し、その前後は見事なまでになだらかなボケ味となっている。滲み具合もきれい。美しいボケは合焦部のクリアな描写があってこそのものだ。
引き構図でのスナップ撮影的なポートレート撮影。背景をボカすことを考えがちな中望遠レンズでの撮影だが、ときには撮影時の状況を写真に織り込むために、背景のディティールまで気を配ることも大切。人物の立体感を出すと同時に背景の黄色い木々を輝かせるために、太陽光が半逆光で差し込むようなモデルの立ち位置と背景の位置関係を構築する。
M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO
■マイクロフォーサーズ規格マウント
■焦点距離 25mm (35mm判換算50mm相当)
■レンズ構成 14群19枚(スーパーEDレンズ1枚、EDレンズ 2枚、E-HRレンズ 1枚、HRレンズ 3枚、非球面レンズ 1枚)
■最短撮影距離 0.3m
■最大撮影倍率 0.11倍(35mm判換算0.22倍)
■絞り羽枚数 9枚(円形絞り)
■大きさ 最大径70mm 全長87.0mm
■質量 410g
■フィルターサイズ 62mm
■防塵防滴仕様 保護等級1級(IPX1)*オリンパス製防滴対応カメラとの組み合わせ時に有効、防塵機構搭載
※引用:オリンパス製品ページ
M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PROは、35mm判換算では50mm相当の標準域となる単焦点レンズだ。人の目で見たときの画角に近い見え方となり、背景との遠近感も自然になる。またポートレート撮影においては、手を伸ばすと被写体に手が届くようにさえ感じられる距離感が得られるのも特徴だ。モデルの全身を捉えるにも、バストアップを収めるにも扱いやすい焦点距離なので、初めて手にするポートレート用レンズとしてもおすすめしたい。
屋外にて洋風建築物の壁面を使って撮影。モデルには壁面にもたれかかるほど近づいてもらうことで、白い壁面に反射する太陽光がレフ板同様の効果を生み出す。これはレフ板が使用できない室内などでも有効なテクニックのひとつだ。このレンズは標準域の焦点距離なので、手前から奥までの壁面の奥行き感も自然になる。さらに絞りをF2.8まで絞ることで、人物の顔と胸元、手元などが均一にフォーカスを合わせられるとともに、背景がボケすぎないようにコントロールしている。
明るいレンズは被写界深度のコントロールが画作りのキモ。被写体との距離が近ければ被写界深度は浅く、被写体との距離が離れれば被写界深度は深まる。ここでは十分に被写体との距離はあるので、開放絞りF1.2でも人物全体にフォーカスが合っているように見える。また絞りを絞っていないことで、背景の廊下は奥に行くに従ってディティールを残しながらも、ほどよいボケとなっている。結果的に撮影場所の状況も伝わる写真となっている。
モデルに近づき、横位置でフレームいっぱいに入れて撮影。目元にピントを合わせる。被写体に近い距離からの撮影なので相対的に被写界深度もより浅くなるが、絞りを開放から2段ほど絞ったF2.2に設定することで、浅くなった被写界深度分を補っている。また、このレンズの特徴として、フォーカスが合った箇所の描写は繊細かつクリアに、背景などのアウトフォーカス部は非常に柔らかな描写となる点が挙げられる。
古い木造校舎の教室にて撮影。カメラ背中側の窓から差し込む午後の斜光と、机の天板に反射した光が壁に囲まれた教室のなかで複雑に交じり合う。ここでは客観的な視点の写真となるように意識して、壁面や人物に歪みが起きにくい焦点距離50mm相当のこのレンズを選択。モデルの全身がフレームに収まるように被写体から距離を取り、カメラの水平垂直を保ちながらカメラを構える。これにより、モデルのボデイラインがすっきりとしたシェイプで表現できた。
M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO
■マイクロフォーサーズ規格マウント
■焦点距離 17mm (35mm判換算34mm相当)
■レンズ構成 11群15枚(スーパーEDレンズ1枚、EDレンズ3枚、ED-DSAレンズ1枚、EDAレンズ1枚、スーパーHRレンズ1枚、非球面レンズ1枚)
■最短撮影距離 0.2m
■最大撮影倍率 0.15倍(35mm判換算0.3倍)
■絞り羽枚数 9枚(円形絞り)
■大きさ 最大径68.2mm 全長87.0mm
■質量 390g
■フィルターサイズ 62mm
■防塵防滴仕様 保護等級1級(IPX1)*オリンパス製防滴対応カメラとの組み合わせ時に有効、防塵機構搭載
※引用:オリンパス製品ページ
M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PROは、35mm判換算で34mm相当となる広角レンズだ。ポートレート撮影において広角レンズは画角の広さと、カメラに近いものは大きく離れたものは小さく写るという遠近感の誇張が強くなるため、モデルに近づいてのバストアップ撮影などでは少々扱いにくいレンズである。しかし、逆にこの特性をうまく活かす撮影方法を探ることで、周囲の環境を写し込んだ広角レンズならではの写真構成が可能だ。
大正期に建てられた写真館を再現した建物。ふんだんに外光を取り入れる自然光スタジオのキレイな光を活かしての撮影。広角レンズの広い画角で、床に座ったモデルの足先からスタジオの天井までを入れて広がりのある構図を作る。広角レンズはその特性から、望遠レンズと比べると背景がボケ難いが、F1.2という明るい絞りであれば背景もほどよくボカすことができる。
古民家の縁側に腰掛けるモデルを庭先から撮影。レンズの近くに草花を入れることで前ボケとした。引き戸のガラスに秋空が写り込むように、ローアングルの角度を合わせて撮影している。撮影場所の状況が見るものにも伝わるようにした構図。
こちらは縦位置構図でのローアングル撮影。階段に腰掛けるモデルの足元に近づき、あえて遠近感を誇張させることでダイナミックさを感じる構図にした。背景には洋館の独特な造りを取り込むと同時に、晴れた青空も入れて広がりと爽やかさを感じられるようにした。
煌びやかな繁華街の灯りを背景に夜景ポートレート撮影。撮影時は路上での安全確認を怠らず、かつ歩行者や車の通行の妨げにならない位置で機材を手持ちにして撮影。人物のライティングはオリンパスの電波式ワイヤレスストロボ「FC-WR+FL-700WR」を使用。光量を最小限に絞り、かつ発光部を斜め上に持ち上げたうえで、反射板で反射させた光を斜め上から人物に照射。周囲に影響を与えないように最大限の配慮を行っての撮影だ。広角レンズの特性を活かしてカメラアングルは低めの位置にして、人物の存在感と背景のビルの大きさを表現した。M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PROは広角レンズでありながらも、街の灯りの滲み具合がとても美しく表現できるレンズだ。
単焦点レンズでポートレート撮影をするということ
今回はオリンパスの開放絞り値F1.2の単焦点PROレンズ3本を使用して、女性ポートレート撮影を行い、その特徴から各レンズの使いどころを探った。これら3本のレンズに共通して言えることは、開放絞り値での撮影でも非常に解像力が高く、同時にアウトフォーカス部のボケ味も非常に美しいということだ。これは一般的に言われている「マイクロフォーサーズはセンサーサイズが小さいのでボケが出にくく美しくない」といったマイナス面を補うに十分な要素だと言える。開放絞り値が明るいというだけでなく、ボケの美しさはピントの合った箇所の解像感の高さも重要だからだ。たとえボケが大きく出たとしても解像感に乏しいレンズではその効果を十分に活かすことはできない。
もちろんポートレート撮影はボケの良し悪しだけでは、その魅力を語ることはできない。その点では単焦点レンズではなくとも、ズームレンズでも良いポートレート撮影は可能だ。ただ、画角が固定されている単焦点レンズでは、カメラマン自身がその画角に合わせて立ち位置を調整する必要がある。つまり裏を返せば、同じレンズで、かつ被写体をある程度同じ大きさになるように撮るのであれば、自ずと被写体との距離も定まってくるわけだ。これは被写体であるモデルとの程よい距離感となり、お互いの関係を構築する過程においては、けっこう大切な要素だと私は考える。人と人である以上、距離感を保つことは大切なのだ。これは撮られる側のモデルにとっても安心感に繋がる。
こういった面からも、あえて単焦点レンズを選んで撮影するということは、作品を創り上げるという気持ちを盛り上げることにも繋がり、メリットは大きいと言える。併せてPROレンズが持つ外観の高級感や信頼性、F1.2の大口径レンズの存在感も、いわゆる「写欲」を刺激してくれるはずだ。ズームレンズ撮影の枠を超えたい、作品を次のステージに押し上げたいと考えている人には、おすすめできるレンズたちだと私は思う。
※本記事における撮影は安全かつ適切な方法で行われています。また、感染症予防の観点からも十分な措置を講じて行われています。なお、北海道開拓の村での撮影は所有者である北海道立総合博物館による撮影許可を得て行われたものです。
■写真家:礒村浩一
写真家。女性ポートレートから風景、建築、舞台、製品広告など幅広く撮影。全国で作品展を開催するとともに撮影に関するセミナーの講師を担当。デジタルカメラの解説や撮影テクニックに関する執筆も多数。写真編集を快適に行うためのパソコンのプロデュースも担当。
■モデル:夏弥
■撮影地協力:北海道立総合博物館 北海道開拓の村