まるでSFの世界!?光を利用した劇的な撮影テクニックをご紹介
はじめに
皆さんこんにちは。今回はSFのような世界観の写真が撮れる?というテーマでお話ししたいと思います。SFというと科学が進んだ未来の社会とか宇宙とかを舞台とする、映画のような空想的な世界を指しますね。私たちのリアルな日常の世界にも沢山の不思議な人工物や珍しい自然現象がありますので、それらを上手く作画するとSFの一場面のような作品が撮れることがあります。
また、ご存知の通り、写真は光で描く表現方法です。その光を思い描いたように自在に操る手法を使えばよりインパクトのある、印象的な作品が撮れる可能性が大きくなります。今回はそんな非現実的な写真を撮るには、どのようにアプローチすればよいかを考えてみました。
空想=非現実な世界観
SFというと筆者は最近のSFX映画を想像するのですが、現実の世界でもそのような場面に遭遇することがあります。下の写真のように塀にユニークな壁画があり、夕方の強い黄色い光で非現実的な表現を試みました。強い赤色の壁画に負けないくらいの強い赤い色の車が脇役に合うと思い、車が来るまで待機していました。シャッタースピードを遅くして少し車をブラすことで、よりSFの世界観を表現出来ました。
この写真は倉庫の中の窓を撮影したものですが、倉庫内に車用のミラーがあり、その部分を上手く利用してコマ送りのような雰囲気にフレーミングしました。
空想撮影のポイント
SFのような世界観を表現するのには、想像とは違う大きさのモノを入れて撮影することも一つの手段です。作例のように現実離れした大きさの物体(サイコロトイレなんですよ!)を配置することで、不思議な空間を表現できることもあります。木の部分は影になっており、影=黒の背景になりますので丁度いいタイミングで地元の方が通ったときにシャッターを切りました。また、水たまりの映り込みを利用してシンメトリーにしてより不思議感を強調しました。
こちらは以前、瀬戸内国際芸術祭で展示されていた作品で、そのままの形で現在も使用されているトイレです。巨大なシャボン玉のようなものを表現している現代アートとバイクの対比がとても新鮮に感じシャッターを切りました。奇麗な雲と青空の空気感も出したかったのでこのような表現としました。
空想撮影テクニックあれこれ
テクニック1:夜に撮影
SF写真を表現するのに簡単な方法があります。それは夜に撮影することです(笑)。夜に撮影すると背景が暗くなることが多く、昼間は見慣れた被写体でも怪しく、幻想的に表現できます。
この作例のように、昼間は見慣れた田舎の消防車ですが夜になるとこんな感じに表現できます。また、昼間でもライトを使用したり暗い背景を使用したりすると同じような効果を得られます。
こちらは金魚ねぶたのライトアップを撮影した1枚。今年もコロナ渦で縮小して開催していたイベントですが、逆に人も少なくじっくりと撮影できました。アクセントが欲しかったので傘を差したシルエットの人物を入れて幻想的に表現してみました。
こちらは工業地帯と車の光跡を三脚を立てて長時間露光で表現したものです。肉眼ではこの様には見えませんが、車のライトの光をスローシャッターで取り入れることでこのような表現になりました。
こちらの作例は神戸のルミナリエです。美しいライトアップに魅了されました。このような大きなライトアップはフレーミングが非常に大切になります。
そこにしかない珍しい被写体は時間をかけてじっくり撮影することもお勧めします。この被写体は昔使用されていた太陽望遠鏡で今はモニュメントとして存在しており、昼間はあまり感動しませんでしたので夜にもう一度訪れて星を入れて撮影しました。
テクニック2:夕暮れ時に撮影する
この作品は日が沈むタイミングに逆光で撮影したものです。日が沈む頃には影が長く伸び、影の部分を狙うことで非日常的な作品が撮れたりします。
テクニック3:光と影を強調する
この作例は近所の川ですが、水の流れの波紋がいい感じでしたのでシャッターを切りました。露出補正をマイナスにして、全体的に暗く表現をして波紋の面白さを表現しました。
肉眼ではどこにでもありそうな空間に見える古民家の部屋も、光を影を利用してフレーミングするとこのようなSFチックな新しい発見があります。
車で走っていて偶然見つけた古いガレージです。もともとはこの色ではないのですが、レタッチで全体的に青くすると私のイメージ通りになりました。
テクニック4:多重露出機能を使う
最近のカメラにデフォルトで搭載されている機能の一つに、「多重露出」というものがあります。その機能を使うと、簡単にSF的な撮影が出来ますので是非使用してみてください。
今はコスモスが沢山咲いている時期でもありますが、見慣れた風景を撮影することに飽きたら、多重露出機能を使用してみることをお勧めします。この作例では1枚目に花畑を撮影後、2枚目に自分の左手を空にあげて右手でシャッターを切りました。その際、指と指の隙間に太陽を入れることで光条を出してみました。
テクニック5:魚眼レンズを使う
上の作例2点のように、普段の視線より極端にデフォルメされた表現が出来るのが魚眼レンズです。広い空間を1枚に写し入れた印象的な表現ができますので是非使ってみてください。注意することは、魚眼レンズを使用したらこんな風に撮れるかな?という実験的な視点が必要となります。
作品にタイトルを付けてみよう
SFチックな表現の作品には幻想的なタイトルが似合いますので、作品タイトルも重要となります。また、写真コンテストなどにも応募するのには絶対に欠かせない要素です。
こちらは吉野川のシラス漁を撮影した1枚です。よく見受けられるのが、あるがままをタイトルとしている方がおられます。この作品はタイトルを「シラス漁」よりも自分がどう見えたのかどう感じたのかが重要となり、タイトルのヒントにもなります。私には宇宙船のように見えましたので、タイトルは「宇宙船」としたほうが良いと思いました。
この作品は「沈む太陽」を撮影したものですが、人物をわざとシルエットにして太陽を二人の隙間に入れこんだ作品です。二人の距離感というものを感じましたので、タイトルは「二人」ということにしました。タイトルを出来るだけシンプルにすることで、自分の作品を見る人それぞれに考えてもらえる余地を残すことも大切です。
この作品は最近撮影した彼岸花ですがこの日は気温が高く、昆虫も沢山居ました。そのなかでじっと動かず獲物を待っている蜘蛛を見つけました。蜘蛛の糸の張り方が標識のように見えたので、均等に花の茎を配置して作画しました。主役は「彼岸花」ではないので、タイトルは「獲物待ち」としました。
空想撮影におすすめのカメラ機材
SFのような写真を撮影するのには特別な機材は必要ありません。あくまで自分の所有している機材で十分だと思います。最近ではスマホカメラでも十分奇麗な写真が撮影できますが、望遠でより大きく撮影したり被写体に近寄ってクローズアップしたりするような撮影は、まだまだ専用カメラに分がありますね。
筆者が使用しているミラーレス一眼カメラは、文字通りミラーが無いためファインダーから目を離さずに撮影画像を確認でき、被写体に集中できるメリットが素晴らしいです。また、カメラ本体に強力な手ぶれ防止機能がある機種が多く、暗い場所でも三脚いらずで撮影できます。そしてミラーが無い分、本体は小さく軽量で撮影がしやすいです。
使用したレンズは、主に高倍率ズームのM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROです。このレンズは接写も得意とするレンズで、様々な撮影に使える便利さがあります。しかも、OM-D E-M1 Mark IIIに装着するとなんと7.5段という手ぶれ補正効果を発揮します。筆者は夜景撮影で手持ちでのシャッタースピード2秒でも手ぶれしませんでした!
もう1本、よく使用している魚眼レンズを紹介します。M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROです。上記の作例のようにデフォルメされた仮想現実のような世界観を表現するのにも最適ですし、広角レンズの代わりにもなる、一石二鳥のレンズなのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか、被写体を求めてわざわざ遠くへ行くことも大切ですが、逆に遠くへ行かずとも身近な場所でもリアルSF(空想)的な写真を撮影できることが理解いただけたと思います。皆さんの新たな表現手段として参考になれば幸いです。
■写真家:虫上智
1968年岡山県生まれ。高校を卒業後、写真家 緑川洋一氏に師事。地元のカメラ店で撮影業務などを学び2000年に独立。現在はスタジオ撮影、フォト講座、執筆、フォトコン審査、講演等を受け持つ。ライフワークでは心象風景、自然写真、水中写真を撮影。
日本写真家協会(JPS)会員、日本写真講師協会 認定フォトインストラクター、OM SYSTEMゼミ講師、フォトカルチャークラブ講師、フォトマスターEX(総合)一級