オリンパス OM-D E-M1X レビュー|持てる力を全て注ぎ込んだプロスペックミラーレス一眼
小型軽量という呪縛を自ら振り解いたマイクロフォーサーズ機
2019年を振り返ると実に多くの新しいカメラが登場した一年であった。カメラメーカー各社からはフルサイズミラーレス一眼が出揃い、さらには、これまでにはないほどの高解像度モデルまでもが登場した。
また、従来の流れを汲む一眼レフにはミラーレス一眼で培われたライブビュー技術が逆フィードバックされる形で投入されたことで、一眼レフとミラーレスの融合が進んだ年であったことも興味深い。
そのなかで、マイクロフォーサーズ規格を推し進めるオリンパスから突然発売された「OM-D E-M1X」(以下、E-M1Xと表記)は、パワーバッテリーホルダー一体型プロフェッショナル仕様のミラーレス一眼であった。
E-M1Xは、それまで軽量コンパクトをメリットとして掲げてきたマイクロフォーサーズ規格のカメラとは思えないほど立派なサイズと質量を持つ。縦位置シャッターボタンを備えるパワーバッテリーホルダーと一体化されたボディーサイズは、W144.4mm × H146.8mm × D75.4mm、質量は約1000gと同社のミラーレス一眼のなかではもっとも大きく重い。
それまでのオリンパスOM-Dシリーズのなかでハイエンドモデルとされてきた「OM-D E-M1 MarkII」(以下、E-M1 MarkIIと表記)にパワーバッテリーホルダーHLD-9を装着した状態(W134.1mm × H139mm × D68.9mm、約900g)よりも大きく重い。正直言うと、筆者でもE-M1Xの開発が発表された際には「小型軽量が売りなシステムなのに、なぜいまさら大きくする?」と思ったくらいだ。(サイズ・質量はE-M1X、E-M1 MarkIIともに付属充電池2個、メモリーカード2枚を装填した状態での実測数値)
だが、E-M1 MarkII + HLD-9の組み合わせを日常的に使用している筆者が、実際にE-M1Xにレンズを装着して撮影に使用してみると意外なほどその差を感じないことに気がついた。
その理由をいくつか考えてみたところ「使用するレンズの多くはマイクロフォーサーズ用レンズのなかでは比較的大きく重いオリンパスのPROレンズシリーズなので、総重量からすると100g程度の差は気にならないこと」「E-M1 MarkII よりグリップが大きく深くなったことでよりしっかりとホールドできるようになったこと」「ボディーとパワーバッテリーホルダーの接合部がなくなり一体化されたことでカメラボディー全体の剛性があがったこと」などが考えられる。
特に握力に関してはボディーとパワーバッテリーホルダーの接合部を安定させるために握力を余計に使う必要がなくなり、結果長時間の撮影での疲労軽減を実感している。つまりE-M1Xはカメラとしてのトータルバランスがすこぶる良いのだ。これは恒常的にカメラを長時間使用するプロカメラマンにとって、非常に重要なファクターの一つとなる。
E-M1X(左)とE-M1 MarkII(右)を並べる。両者の最大の違いはE-M1Xではパワーバッテリーホルダーがボディー一体型となったことだ。
カメラ上面から見比べる。E-M1X(左)ではE-M1 MarkII(右)からダイヤルやボタンの配置や数が変更されていることがわかる。
パワーバッテリーホルダーHLD-9を装着したE-M1 MarkII(左)とE-M1X(右)。E-M1Xではグリップの形状がより太く、より深く、変更されていることが判る。
主なスペックと外観
OM-D E-M1X の主なスペックは下記の通り
●製品スペック
・マイクロフォーサーズ規格マウント 有効画素数約2037万画素4/3型Live MOSセンサー採用
・スーパーソニックウェーブフィルター搭載
・常用ISO感度200-6400 / 拡張ISO感度 L64(ISO64相当)
・L100(ISO100相当)・8000-25600
・連写H 最高15コマ/秒・連写L 最高10コマ/秒
・低振動連写L 約8.5コマ/秒・静音モード連写H 最高60コマ/秒
・静音モード連写L 最高18コマ/秒
・プロキャプチャー連写H 最高60コマ/秒
・プロキャプチャー連写L 最高18コマ/秒
・メカニカルシャッター1/8000〜60秒・電子先幕シャッター1/320〜60秒
・静音シャッター(電子シャッター)1/32000~60秒
・ハイスピードイメージャAF 121点(クロスタイプ位相差AF)/121点(コントラストAF)
・撮像センサーシフト式ボディー内手ぶれ補正 5軸7段分(対応レンズ使用で7.5段分)
・視野率約100%/約1.48倍~約1.65倍 アイポイント約21mm 約236万ドット液晶ビューファインダー
・3.0型2軸可動式 約104万ドット背面液晶モニター
・UHS-I/II対応 SDXC/SDHCダブルメモリーカードスロット
・MOV(MPEG-4AVC/H.264) C4K 24p・4K 30p/25p/24p・FHD・HD、ハイスピードムービー120fps、タイムラプス動画 4K/FHD/HD
・三脚ハイレゾショット(50M画素相当、25M画素相当、RAW 10368 × 7776)
・手持ちハイレゾショット(50M画素相当、25M画素相当、RAW 8160 × 6120)
・無線LAN(IEEE 802.11a / b / g / n / ac)・Bluetooth(Bluetooth Ver.4.2 BLE)内蔵
・GPS(GLONASS、QZSS)、方位センサー、圧力センサー、温度センサー、加速度センサー内蔵
・防塵防滴耐寒仕様 動作保証気温-10℃~+40℃(動作時)
製品外観
カメラ前面。パワーバッテリーホルダーとの一体型となったことで、E-M1 MarkIIのようにパワーバッテリーホルダーから分離してカメラ単体で使用することは出来なくなったが、その分、接合部における歪みが発生しなくなりカメラ全体の剛性があがった。
イメージセンサーには有効画素数2037万画素4/3型Live MOS センサーを搭載。これはE-M1 MarkII、E-M5 MarkIIIと同等のもの。またE-M1Xではセンサー前に設けられたフィルター表面のコーティングが、よりゴミやホコリが付着しにくいものに刷新されている。
さらにこのフィルターを超音波で振動させることでゴミやホコリを強力に除去する。オリンパスのダストリダクションシステムはとても強力なので、これまでの経験上、屋外でも安心してレンズ交換ができる。
カメラ上面。露出モードダイヤルの位置こそE-M1 MarkIIと共通ではあるが、メイン&サブダイヤルやボタン類の構造や位置は大きく変更されている。基本的には1ボタンに1機能が割り当てられているのが特徴だ。
ファインダー上部のいわゆるペンタプリズム部と呼ばれる箇所にはGPSユニット用のアンテナが内蔵されている。このGPSユニットは日本の衛星測位システム「みちびき(準天頂衛星システム)」にも対応しているので、より精度の高い位置情報の記録が可能だ。
カメラ背面。EVFは約236万ドットの液晶パネル。ファインダーに非球面レンズや高屈折率ガラスを使った4枚構成の光学系を新たに採用したことで、歪みを抑えると同時に倍率が最高約0.83倍とE-M1 MarkIIの最高約0.74倍よりも引き上げられている(いずれも35mm判換算値)。
また、十字キーや各ボタンの配置レイアウトはE-M1Xの背面面積の広さに合わせ再構成された。OM-D初採用となるスティック状マルチセレクタが搭載されており、AFターゲットやメニュー項目の素早い移動選択が可能となっている。
さらに縦位置/横位置撮影時の操作感を統一するため、それぞれ同じ指の位置にマルチセレクタ、AEL/AFLボタン、縦位置リアダイヤルなどが設けられている。
またC-LOCKレバーは縦位置レリーズスイッチのロック機能に加え、ロック項目を好みにカスタマイズ可能など実際の撮影時にとても便利な工夫が施されている(縦位置撮影時に前ダイヤルは使えるが後ろダイヤルは使用不可にするなど)。もちろん各ボタンもメニュー設定にて好みの機能を割り当てることが可能だ(一部制限あり)。
背面液晶モニターは約104万ドット3.0型静電式タッチパネル、2軸可動のバリアングル方式を採用。プラスマイナス7ステップの輝度/色温度調整が可能。
カメラ左側面には入出力ポートが用意されている。上から順に、マイク端子Ø3.5ステレオミニジャック(プラグインパワーOn/Off 可)、ヘッドホン端子Ø3.5ステレオミニジャック、HDMIマイクロコネクター(タイプD)、USBタイプCとなる。端子カバーは三分割。
リモートケーブル用Ø2.5ミニジャック。E-M1 MarkII、E-M5 MarkIIIとリモートケーブルRMC-B2が共用可能。リモートケーブルを挿した状態でも防塵防滴効果を確保できるようにラバー製シーリングが用意されている(ただしリモートケーブルRMC-B2は防塵防滴構造ではない)。
カメラ右側面にUHS-I/II対応 SDXC/SDHCメモリーカードスロットを二基搭載。両スロット共にUHS-IIに対応した。標準、自動切換、振り分け、同一書き込みが可能。スロットの蓋はゴムパッキン入りの防塵防滴仕様となっている。蓋は回転式のロックを回して解除する方式だ。
充電池室にはカメラ下部にバッテリーカートリッジを使用して付属のリチウムイオン充電池を二個装填可能。充電池はE-M1 MarkIIと共通のBLH-1を使用する。両者で充電池が共用できるのはありがたい。バッテリーの残容量、撮影回数、劣化度をカメラメニューから確認できる点もバッテリー管理に役に立つ。
またE-M1Xではカメラに充電池を装填した状態のまま、USB-Cポートに挿したケーブルを仕様して充電できるようになった。出先などでちょっと充電したい時などに便利。さらにUSB-PD規格に対応した外部のモバイルバッテリーや給電機器を繋げば、給電しながらカメラを稼働させ撮影することもできる(使用するケーブルがUSB-PD規格に対応している必要がある。付属USBケーブルは非対応)。
縦位置グリップの下部にあたる箇所にはDC入力端子が用意されている。ACアダプターAC-5を挿し込むことでE-M1Xに給電/充電が可能。AC電源が用意できる環境であれば充電池を交換することなく長時間の稼働が可能となる。
E-M1XにM.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PROを装着。やはりE-M1Xには大口径のPROレンズがよく似合う。カメラを掌で包んだときの凝縮感が気持ちを臨戦態勢へと向かわせる。
オリンパス悲願のプロフェッショナルモデル誕生
E-M1Xはこれまでに培ったオリンパスの技術の粋を集めたカメラといえる。同社がかつてフィルム一眼レフカメラを開発販売していたことはよく知られていることだが、特にOM-1(発売初期の機種名はM-1)から始まった、小型軽量でありながら高性能なカメラというコンセプトの下で開発されたOMシリーズは、その独自の設計思想から多くの優れた製品を生み出した。
「宇宙からバクテリアまで」というテーマを掲げたOMシステムは、まさにマクロレンズから1000mm超望遠レンズまでも網羅する壮大なものであったのだ。しかし、その後の時代の流れでカメラの電子化が進むにつれ、AF化の遅れなどの影響もあり販売台数が低迷し、OMシリーズの生産販売を終了。オリンパスはフィルム一眼レフカメラ事業から撤退したという経緯がある。
その後はオリンバスもフィルムカメラからデジタルカメラへと開発主軸を移し、2003年にはデジタルカメラ専用規格のフォーサーズ規格を採用。Eシステムとして再び一眼レフカメラの開発を進め多くの機種を世に送り出している。
そのうえでさらに、フォーサーズ規格のメリットのひとつであるカメラの小型化を突き進めることを目標に据え、カメラからミラーボックスを省くという斬新な機構を実現したマイクロフォーサーズ規格を2008年に採用。これによりミラーレス一眼カメラという新しいカテゴリーのカメラが誕生したのである。
その後のミラーレス一眼カメラの人気のほどは、読者のみなさんも十分にご存知だろう。オリンパスはEシステムをミラーレス一眼カメラのOM-Dシステムに統合する形で、デジタル一眼レフカメラの開発を事実上終了。
現在はミラーレス一眼カメラに開発力を集中させている。このように長年のカメラ開発を経て培った技術とノウハウの蓄積を元に、現在のオリンパスが持ちうるほぼ全ての技術を注ぎ込み開発されたカメラが、このE-M1Xというミラーレス一眼カメラなのである。
現在オリンパスOM-Dシリーズにラインナップされているカメラのなかで、実質的なハイエンドモデルであるE-M1Xだが、実は筆者の知る限りでは、オリンパスのカメラのなかでは初めてのプロフェッショナルモデルでもある(E-M1 MarkIIは同じくハイエンドモデルではあるが当初はプロフェッショナルモデルとはされていなかった)。
フィルム一眼レフカメラのOMシリーズでもデジタル一眼レフカメラのEシステムにしても、当時のハイエンド機を愛用するプロは筆者を含め多く存在してはいたが、なぜかオリンパスとしてはプロフェッショナルモデルという表現を避けていたように思える。そんなどこか奥ゆかしい(?)オリンパスがついにプロフェッショナルモデルとして発売したE-M1Xは、まさに悲願の一眼カメラだといえるだろう。それだけに盛り込まれた技術は、まさに持てる力をすべて注ぎ込んだと言えるものとなっている。
メカニカルとデジタルのハイレベルでの融合
プロフェッショナルモデルとして誕生したE-M1Xは、OM-D史上もっともパワフルかつ高機能なカメラとなった。ここではその実態についてより詳しく見ていくことにしよう。また同じくハイエンドモデルと位置付けられているE-M1 MarkIIとは何が異なるのか、その観点からも見ていきたい。
イメージセンサー
イメージセンサーはデジタルカメラの心臓部ともいえるパーツだ。E-M1Xのイメージセンサーは有効画素数約2037万画素4/3型Live MOS センサーで、これはE-M1 MarkII、E-M5 MarkIIIと同じものだ。
したがって撮影画像の画質はほぼ同等といえる(E-M1 MarkIIはファームウェアVer3.0以降でE-M1X同等画質に改善された。以下同条件)。しかし、E-M1Xではカメラ内での画像処理も受け持つ画像処理エンジン「TruePic VIII」が二つ搭載されている(E-M1 MarkII、E-M5 MarkIIIはTruePic VIIIを一つ搭載)。これ自体は画質に大きく影響する違いではないようだが、画像処理速度の向上や、ダイヤルやボタン操作時の反応の速さなども含めた、カメラ全体のパフォーマンスをより高いものとしている。
ISO感度の設定枠はIS0200-6400(拡張ISO64,100,8000-25600)。低感度拡張域ではISO100相当より低感度であるISO64相当も設定することができる。これにより水の流れを表現するなどスローシャッター撮影時でも露出オーバーとならないようにできることや、明るい単焦点レンズで開放絞りのまま撮影しても露出オーバーを避けられる可能性が増えるなど、設定可能な範囲が広がる。
さらに、E-M1Xには擬似的にNDフィルターの効果を得ることができる「ライブND」が搭載された。これは撮影時に複数の画像をリアルタイムに合成することで、相対的に露光時間を延ばすことができる新しい技術だ。使用できるND効果はND2(-1EV)〜ND32(-5EV)までの5段階から選ぶ事ができる。このライブNDと低ISO感度を組み合わせることで、カメラに取り込む光量を抑えた効果を得る事ができる。
ただこのライブNDがあるからといって、長秒露光時にまったくNDフィルターが不用になるかといったらそういうものではない。晴れた日中などの明るさでは、最高効果のND32では減光効果が足りず、水の流れなどを大きくぶらして表現しようと思った場合は、レンズの絞りを最小のF22などにしなければならないことも珍しくない。
しかしF22まで絞ってしまうと小絞りによる回折現象により、極端に解像力が低下してしまうからだ。これを防ぐ為にも適切なISO感度設定とフィルターの選択に、ライブNDを組み合わせての撮影が理想的な選択肢であると筆者は考える。
ハイレゾショット
E-M1Xでは手ぶれ補正機構を利用して高解像度画像を生成するハイレゾショット機能にふたつのモードが搭載された。
ひとつはカメラを三脚などに固定することが前提の「三脚ハイレゾショット」で、一度の撮影でイメージセンサーをわずかにずらしつつ8ショットの画像を得て、その情報を基に画素間の情報を補完することによりJPEG記録で約5000万画素もしくは約2500万画素相当(RAW記録では約8000万画素相当)の画像の生成を可能とする機能だ。この機能を使用すれば高解像度フルサイズ機にも引けを取らない精緻な画像を得ることができる。
もうひとつはこれまで不可能とされてきた、手持ち撮影においてハイレゾショットを可能とする「手持ちハイレゾショット」である。こちらはカメラをブレないように固定することが前提の「三脚ハイレゾショット」とは発想を逆転させて、手持ち撮影ではわずかながらでも必ず1コマごとにフレーミングがずれることを利用し、一度の撮影で16ショットの微妙に異なる画像を得て、お互いを補完しあうように合成してしまうという画期的な手法だ。
このモードでは、JPEG記録で約5000万画素もしくは約2500万画素相当(RAW記録では約5000万画素相当)の画像が生成される。まさに発想の逆転が生み出した新しい機能だといえる。なおこの「手持ちハイレゾショット」はこの記事執筆時点ではE-M1Xにのみ搭載されている機能だ。
■撮影環境:ISO200 F4.0 1/2.5 絞り優先モード CWB6000K
■撮影モード:三脚ハイレゾショット RAWデータより現像書き出し
■撮影環境:ISO200 F5.6 1/1000 絞り優先モード +0.3EV WBオート
■撮影モード:手持ちハイレゾショット RAWデータより現像書き出し
AFシステム
E-M1XのAFシステムはE-M1 MarkIIのAFシステムをベースに、より高機能かつ使い勝手の良いシステムへと改良されている。像面位相差AFとコントラストAFの両方式に対応した121点のクロスセンサーAFポイントが搭載されており、大口径レンズ使用時でも高いAF精度を得ることができる。
また連写中の測距も可能で動体追従精度も高い。AFポイントの選択はシングルの1点、全面自動の121点に加え、グループターゲット(5点、9点、25点)、よりスポット的な測距点となるスモールが選択可能。
さらにカスタムAFターゲットモードとして縦11点、横11点から任意の奇数AFポイントを組み合わせたオリジナルのAFターゲットを組み上げることができる。これにより被写体の形状や動く範囲に合わせた自分好みのAF撮影が行える。
さらにE-M1XのAFシステムでは、これまでには考えられなかった画期的なAFシステムが導入された。それがインテリジェント被写体認識AFだ。これは、これまでにオリンパスが蓄積してきた膨大な被写体の情報を基に人工知能(AI)の基礎技術のひとつであるディープラーニングにより、統計的に判別し被写体を認識させたうえで、移動する被写体をAFで追尾してしまうという技術だ。
少しわかりにくいかもしれないが簡単に言うと、空に飛行機が飛んでいればその形状からカメラが自ら「これは飛行機です」と認識することで、移動する飛行機に対してAFを合わせ続けてくれるというものだ(C-AF+TR時のみ有効)。
現時点でE-M1Xには車やオートバイの「モータースポーツ」、飛行機やヘリコプターの「飛行機」、電車や汽車の「鉄道」の三種類が登録されている。また単に全体にフォーカスを合わせるだけではなくオートバイならライダーのヘルメットに、電車なら先頭車両の運転席の窓にフォーカスを合わせるといった具合に、まさに撮影者が通常ピントを合わせたいと考える箇所に合わせてくれるという芸の細かさだ。frameborder
実際に筆者もいくつかの被写体で撮影を試しているが、いずれもかなり高い認識率を発揮している。まさに新しいフォーカスシステムと言えるだろう。
インテリジェント被写体認識AF「飛行機」でのAF追尾の様子(ファインダー内の画像を撮影)。飛行機の形状にあわせて白枠が変化しながら自動的にフォーカスを合わせ続けている様子がわかる。飛行機がフレームからはみ出しても、再度フレームインすると即座に再認識する。望遠撮影時など被写体を追いかけるのが難しいシーンでも効果的だ。
ところで、ここ最近のトレンドともなっている瞳検出AFだが、かなり早い時期からオリンパスのデジタル一眼には顔認識AFと共に搭載されている。もちろんE-M1Xにも顔認識AF/瞳検出AFが搭載されており認識率も高い。AFポイントの位置に縛られることなく、ファインダーのフレーム内に入ってさえすればちゃんと顔/瞳を追いかけフォーカスを合わせ続けてくれる。たとえば被写体と共に歩きながらのポートレート撮影など、工夫次第で便利に使用できる機能だ。
手ぶれ補正
E-M1XにはこれまでのどのOM-Dよりも強力な手ぶれ補正機構が搭載された。E-M1 MarkII同様、角度ぶれ補正(ヨー、ピッチ)、シフトぶれ補正(上下、左右)、回転ぶれ補正に対応したボディー内5軸手ぶれ補正に対応しているが、E-M1 MarkIIがシャッタースピードにしてボディー単体で最大約5.5段分の効果であるのに比べ、E-M1Xでは最大約7.0段分の効果を実現している。
また「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO」のようにレンズ内に手ぶれ補正ユニットを内蔵した対応レンズとの組み合わせでは、より強力な5軸シンクロ手ぶれ補正となり最大7.5段分の補正効果となる(E-M1 MarkIIでは最大6.5段分)。これを実現する為に開発陣はより高い精度を持つジャイロセンサーを新開発したという。もうここまで来てしまうと、夜景撮影においても数秒であれば手持ちでの撮影も可能なほど強力な補正力だ。
シャッター性能
プロフェッショナルモデルの条件のひとつには高速連写性能の高さがある。これを1コマでも速くしようと、カメラメーカー各社はフィルム一眼レフの頃から開発にしのぎを削ってきた。
当時はメカニカルシャッターの動きとフィルムの巻き上げを高速に同期することで高速連写を実現していたのだが、デジタルカメラになってからはフィルムの巻き上げの代わりに、イメージセンサーで光から変換された電気信号をいかに速く処理し記録メディアに書き出し、次の露光に備えられるかが重要なファクターとなった。
つまりプロフェッショナルモデルには、より高性能なメカニカル性能と高速なデジタル処理能力が同時に要求される。E-M1Xはこの要求にもしっかりと応えられる性能が与えられている。
まずメカニカルシャッターとしては現在限界値とも言われている1/8000秒の高速シャターに対応しており、連写速度もAF/AE追随で最高で約15コマ/秒となっている。
さらにメカニカルシャッターを使用しない電子シャッターでの撮影では最高1/32000秒、連写速度はAF/AE追随で最高で約18コマ/秒、AF/AE固定では最高で約60コマ/秒となる。なおE-M1 MarkIIも同じシャッター性能を持っているので、この点ではどちらの機種を選んでも大きな違いとはならないだろう。
なお参考までにキヤノンのプロフェッショナルモデルEOS-1D MarkIIのシャッター性を挙げると、ファインダー撮影でAF/AE追随最高約16コマ/秒と、わずかだがE-M1X / E-M1 MarkIIを上回る。
ただし、こちらはフルサイズであると同時にミラーを駆動させる必要があることを考慮すると、E-M1Xでさえまだまだ追いつけないほどの差があるといえる。もっとも長年プロフェッショナル高速モデルとしてカメラ業界をリードし続けてきたカメラと比較するのも酷な話といえなくもないが。
その他、特徴的な機能
E-M1Xにはその他にも特徴的な機能が多く用意されている。シャッターボタンを押したタイミングから最大35コマ遡って画像を記録できるプロキャプチャーモードは、鳥や蝶などが飛び立つ瞬間の撮影など、これまで熟練が必要であった撮影でもより簡単確実に行うことができるようになった。
また、フォーカスブラケットは被写体のピント位置をずらしながら複数回撮影を行うことができる機能である。さらにはその機能を活かし最大15枚の画像をカメラ内で合成することで、被写界深度を擬似的に深める深度合成機能も搭載されている。この機能はマクロ撮影や静物の撮影時など被写体全体にピントを合わせなければならない場合にとても有効だ。
室内の蛍光灯照明やLED照明の明滅周期とシャッター速度の関係で、撮影画像に露出ムラや色ムラが出るフリッカー現象を軽減する、フリッカーレス撮影およびフリッカースキャン機能も日常的に役立つ機能だ。メカニカルシャッター使用時はフリッカーレス撮影が、電子シャッター使用時およびムービー撮影時はフリッカースキャン機能により悪影響を抑えることができる。
その他、夜景撮影において星や飛行機のライトなど暗い中で移動する輝点を比較明合成によって輝線として表現することができるライブコンポジットや、長秒撮影の効果をリアルタイムにモニター画面で確認できるライブバルブ/ライブタイムなど、デジタル撮影ならではの機能が満載されている。
E-M1X 実写作例
■使用機材:E-M1X,M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:ISO200 F5.6 1/1000 絞り優先モード -0.3EV WBオート
■使用機材:E-M1X,M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:ISO200 F5.6 1/320 絞り優先モード -1EV WB晴天
■撮影環境:ISO200 F5.6 1/1250 絞り優先モード WBオート
■撮影環境:ISO200 F4.0 1/500 絞り優先モード +1.0EV WBオート
■使用機材:E-M1X,M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:ISO200 F3.5 1/800 シャッター優先モード +0.3EV WB晴天
■使用機材:E-M1X,M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO+MC-14
■撮影環境:ISO400 F9.0 1/500 シャッター優先モード WBオート
■撮影モード:インテリジェント被写体認識AF「飛行機」
■撮影環境:ISO200 F5.6 1/1250 絞り優先モード WBオート
■撮影モード:インテリジェント被写体認識AF「飛行機」
■使用機材:ISO200 F4.5 1/800 絞り優先モード +0.3EV WBオート
■撮影環境:ISO200 F9.0 1/500 絞り優先モード WBオート
■撮影環境:ISO200 F6.3 1/640 絞り優先モード +0.7EV WBオート
■撮影環境:ISO400 F2.8 1/1.6 ライブコンポジット2977枚 マニュアルモード カスタムWB
■撮影環境:ISO200 F5.6 1/1.3 ライブコンポジット101枚 マニュアルモード カスタムWB
オリンパスが目指す次世代のカメラ
オリンパス初のプロフェッショナルモデルとなったE-M1Xは、極めて高いレベルのメカニズムと最新のテクノロジーが融合した、これまでにない新しい時代のカメラである。一見ではここまでの性能がはたして本当に必要なのかと思ってしまうかもしれないが、カメラの世界でも自動車の世界でも、プロ/レース仕様の機体開発で培われた技術はいずれ一般ユーザー向けの機体へと広く浸透していく。その為にもメーカーがプロフェッショナルモデルを開発し続ける意義はとても大きいのだ。
このE-M1Xに搭載された技術もそう遠くないうちに、最適化されたうえで各一般モデルにも搭載されるはずだ。もはや写真において、デジタル表現は欠かせないものとなっていることからも、今後もより新しい技術の登場と共に新たな表現方法が生まれてくるに違いない。きっとこのE-M1Xの登場は、オリンパスが次世代に目指すカメラの方向性を示す、マイルストーンとなるはずだ。