オリンパス OM-D E-M1X ファームウェア Ver2.0で鳥認識AFを試す|礒村浩一
OM-D E-M1X ファームウェアVer2.0は新機能満載
いまやテクノロジーの最先端製品でもあるデジタルカメラは、さまざまな電子機器を組み合わせることで一つの製品(ハードウェア)として構成されている。だがハードウェアのみではカメラとしての機能を発揮することができない。そのカメラ本体の機器を正しく制御する為にはファームウェアと呼ばれる制御ソフトウエアが必要不可欠なのである。これらがうまくリンクすることで、はじめてカメラとして動作させることができる訳だ。
デジタルカメラのファームウェアはカメラ内に組み込まれたメモリに記憶されている。いったん製造してしまうとメーカーの工場などで再組み立てをしなければ更新できないハードウェアと違い、多くのデジタル一眼カメラはファームウェアをユーザー自身で新しいものに書き換えることが可能だ。この作業をファームウェアのアップデートと呼んでおり、発売開始時のファームウェアから最新版のファームウェアにアップデートを行うことで、動作の安定性や機能の向上が行われる。またファームウェアによっては機能が拡張・追加されることもある。
オリンパスのミラーレス一眼カメラであるOM-Dシリーズもユーザーによるファームウェアアップデートに対応しているカメラだ。各カメラメーカーからもファームウェアアップデートに対応したカメラが発売されているが、そのなかでもオリンパスは比較的細やかに新しいファームウェアを公開している印象だ。ファームウェアのアップデートは、カメラを付属のUSBケーブルを使用してパソコンに接続したうえで、オリンパスの画像編集ソフト「OLYMPUS Workspace」を介してアップデートを行う。今回紹介するOM-D E-M1X用の最新ファームウェアは2020年12月3日に公開されたVer 2.0だ。このバージョンではこれまでのE-M1X Ver1.xの機能に加え、いくつかの新たな機能が追加されている。
OM-D E-M1X ファームウェアVer2.0で新たに追加された機能
・インテリジェント被写体認識AFに鳥認識AFを追加
・HDMI接続された外部機器への動画RAWデータ出力に対応
・深度合成対応レンズに新発売予定のM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROを追加
・動画撮影時の手ぶれ補正の安定性を向上
・マニュアルフォーカス時にフォーカス距離指標表示を選択可能
ついに鳥認識AFがインテリジェント被写体認識AFに追加された!
今回のバージョンアップのなかで、もっとも大きな変化といえるのが「インテリジェント被写体認識AFに鳥認識AFが追加」されたことが挙げられる。ここで簡単に「インテリジェント被写体認識AF」について解説すると、OM-D E-M1Xに搭載された独特なAFシステムのひとつの機能のことである。これまでにオリンパスが蓄積してきた膨大な被写体の情報を基に、人工知能(AI)の基礎技術のひとつであるディープラーニングにより画像を統計的に判別し、被写体を認識させたうえでフォーカスを合わせ、同時に移動する被写体を追尾する技術である。
参考:オリンパスOM-D E-M1Xレビュー|持てる力を全て注ぎ込んだプロスペックミラーレス一眼
そこで今回のレビューでは主に鳥認識AFの使い勝手と、鳥撮影におけるメリットなどについて検証してみたいと思う。なお、最初にお伝えしておきたいのだが、私はプロ写真家ではあるが普段は鳥の撮影を行うことはほとんど無い。それゆえ鳥のように小さくてすばやい被写体を追いかけながら撮影することは正直言って苦手なのである。そういう意味では、鳥の撮影においては読者のみなさんと技量的にさほど差がないと思ってもらって良いだろう。そんな「鳥撮りが苦手なカメラマン」が、このE-M1X Ver2.0でどれほど上手く撮れるのかといった検証作業でもある。
被写体認識AFの設定方法
E-M1Xで被写体認識AFを使用するには事前にいくつか設定しておく項目がある。MENU画面からカスタムメニューA3(AF/MF)画面に入り[追尾被写体設定]で[鳥]を選択。そのうえでE-M1XのAF方式を[C-AF+TR]もしくは[C-AF+TR MF]を選ぶと鳥認識AFが使用可能となる。
E-M1X Ver1.xとVer2.0の被写体認識AFの違い
オリンパスのOM-Dシリーズのカメラのうち、インテリジェント被写体認識AFが搭載されている機体は、現時点においてはプロ機として開発されたE-M1Xのみだ。その理由のひとつとして、E-M1Xには画像処理の心臓部である画像処理エンジンが2機搭載されていることが挙げられる。どうやら被写体をリアルタイムで識別してそれを追いかけ続けるには相応の高速情報処理能力が必要とされるらしい。
E-M1Xには発売当初から「モータースポーツ」「飛行機」「鉄道」の追尾被写体設定が用意されており、今回のVer2.0へのファームウェアアップデートでは「鳥」が追加された。この「鳥」認識AFでは鳥の全身、頭部、瞳をピンポイントで識別し、シャッターボタンを半押しするとフォーカスを合わせてくれる。この時点でAFの追尾がスタートし、フレーム内に鳥を捉えている限りフォーカスが追いかけるというものだ。
ファームウェアVer1.xとVer2.0それぞれの被写体認識AFの状況を、ファインダー内をカメラで直接撮影して動画に記録した。Ver1.xでは被写体認識「鳥」に近い「飛行機」で、Ver2.0では「鳥」に設定している。Ver1.xでは海面の物体ごと被写体として認識してしまい、鳥のみを認識することが難しい。一方Ver2.0では鳥のみを被写体として認識できているのに加え、複数羽の鳥を個別に認識している。
ファームウェアVer2.0にアップデートしたE-M1Xを鳥認識AFに設定して干潟に集まる鳥を撮影。こちらもE-M1Xのファインダー内画像をカメラで動画撮影したものだ。水面を歩く鳥や飛翔する鳥を、鳥認識したAF枠がフォーカスを合わせながら追尾していることがわかる。また鳥の頭部や瞳が判別できる大きさである場合はAF枠はそれらを追いかける。さらに杭の上に何羽もの鳥が止まっているシーンでは同時に複数の鳥を見分けていることがよく判る。E-M1Xでの鳥認識AFは同時に8羽までの鳥を識別して判別が可能ということだ。この動画を見ているだけでもなかなか興味深い。
E-M1Xでの鳥認識AFの使い所を考える
ここではフレーミングする範囲の違いによって、一羽の鳥を鳥認識AF枠がどう変化して捉えるかを確認した。わずかな構図の変化ではあるが3パターンのいずれの場合でも、的確に状況を判別し、迷うことなく鳥の頭部もしくは瞳を捉え続けていることが判る。
足首から上、主に鳥の胴体と頭部で画面の中心を占めるフレーミング。被写体認識が鳥の頭部を認識してAF枠を頭部に合わせている。
鳥の全身が入るフレーミング。画面全体に対する頭部の大きさの比率が小さくなってもAF枠はしっかりと頭部を捉えている。
鳥の頭部にカメラを近づけてフレーミング。AF枠は鳥の瞳を判別してフォーカスを合わせているのがわかる。
鳥認識AFに設定してAFターゲットモードで121点オールターゲットを選択。追尾AF(C-AF+TR)で鳥を追尾した。通常の121点オールターゲットでのAFは画面内を占める面積が広いものや、カメラからもっとも近い距離にある被写体にフォーカスを合わせる傾向があるが、E-M1X Ver2.0の鳥認識は鳥の形状そのものを判別してフォーカスを合わせてくれる。この画像のように手前側にススキがあったとしても、E-M1Xの鳥認識AFならススキにフォーカスが取られてしまうこともないので構図を優先してフレーミングすることができる。またE-M1Xでは121点の周辺エリアに鳥がいても問題なく鳥認識してフォーカスを合わせてくれる点も心強い。これらは構図構成を自由にしてくれる大きなメリットとなる。
鳥認識AFとプロキャプチャーモードの最強コンボが可能!
E-M1Xの鳥認識AFはプロキャプチャーモードとの併用使用が可能だ。プロキャプチャーモードとは、レリーズボタンを全押しした瞬間からさかのぼって、最大35コマまで記録することができる連写モードだ。レリーズボタンを半押しした時点からカメラ内のメモリ上に画像記録を始め、全押しで連写を始めると同時に、過去に遡り画像を記録することができる。この機能は、たとえば枝にとまっている鳥が飛び立つ瞬間などでも、一瞬の挙動を撮り逃さずに撮影できるという便利で確実な撮影方法だ。プロキャプチャーモード自体はE-M1 MarkIIIにも搭載されているが、この鳥認識AFとの組み合わせが可能なE-M1Xでは、動きの素早い鳥をより確実に撮影することができる。まさに鳥撮影における最強な組み合わせといってよいだろう。
鳥認識AFとプロキャプチャーモードを組み合わせて、高い木の上にとまる鳥の挙動を撮影した。人差し指をレリーズボタンにかけ半押しにして鳥認識AFを発動させた状態でフレーミングを行い、鳥が枝から飛び立とうとする挙動を見せた11コマ目あたりでレリーズボタン全押しで撮影を開始した。おそらく通常の連写モードだと10コマ目の、鳥が大きく翼を広げた瞬間は撮り逃してしまう可能性が高い。だが、プロキャプチャーモードのおかげでバッチリ写真に納めることができたのである。
E-M1X Ver2.0 鳥認識AF作例
東京湾に面した干潟に飛来する野鳥を撮影
E-M1Xの鳥認識AFを利用して干潟に集まる野鳥を撮影した。この干潟は野鳥観察の施設もあり、また日頃から観察に訪れる人も多く、比較的野鳥撮影もしやすいスポットとなっている。それでも野鳥である以上、私のように鳥の生態に詳しくない者にとってはいつ飛来するかも、またどのような動きを見せてくれるかを予測することは難しい。したがってこの撮影ではほとんどE-M1X任せでの撮影であったと言って良いだろう。なお、ここでの使用レンズは「M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS」と1.4倍テレコンバータ「MC-14」の組み合わせである。この組み合わせでは35mm判換算で最大1120mm相当にもなる超望遠レンズである。
動物園で飼育されている鳥を撮影
E-M1Xを携え動物園に赴き飼育されている鳥たちを撮影した。いろいろな鳥の種類を撮影することで、鳥認識AFの反応の違いが出るかを確かめてみた。結果としては顔の大きな鳥、顔の小さな鳥、首の長い鳥、くちばしが細長い鳥、くちばしが太くて短い鳥など特徴が異なっていてもちゃんと鳥認識AFが働いてくれた。このことからも、おそらく鳥認識のアルゴリズムを生成する過程でさまざまな鳥の写真をデータとして取り込んだのであろうことが想像できる。
また檻の中にいる鳥でも撮影を行ってみた。通常、檻越しに撮影しようとすると、鳥ではなく手前の格子にフォーカスが合ってしまうことも少なくないが、今回の撮影においては121点オールターゲットモードの場合でも、おおよそ2回に1回の割合で鳥にフォーカスを合わせてくれた。更にAFターゲットモードを9点や1点に絞ったうえで鳥の顔の位置に配置することにより、フォーカスが鳥の顔に合う割合を上げることができる。また、121点オールターゲットモードでも、C-AF+MFモードでいったん大まかにマニュアルフォーカスにより鳥の顔にフォーカスを持って行った上で、レリーズボタンを半押しすることによりかなり高い確率で鳥の顔および目にフォーカスを合わせることができた。こういった方法が檻越しに鳥認識AFをうまく活用する際のコツのようだ。
なお、ここでは「M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS」と「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」のレンズを、被写体との距離に合わせて使い分けて撮影している。鳥の手前にある檻の格子を大きくぼかして目立たなくするために、極力望遠側の焦点距離で撮影を行っていることから、自ずと鳥の体や上半身が背景から浮き上がる絵柄が多くなっている。この撮影を進めるうちに被写体認識AFで鳥の瞳にフォーカスをあてて撮影していると、まるで人物のポートレート撮影を行っているかのような感覚になったのが印象的だった。AF枠の動きは人物の顔認識AFや瞳AFとほぼ同じ挙動であるからだ。鳥ポートレートという新たなジャンルが生まれるかもしれないとも思ってしまった程だ。
鳥撮影の楽しさが爆発するかもしれない予感を感じたOM-D E-M1X Ver2.0
オリンパスのフラグシップ機であり、かつプロ機であるという役割を担って生まれたOM-D E-M1Xは、それまでのOM-Dシリーズのカメラを総括するような高機能なカメラだ。とくにAFシステムに関しては最上位モデルに相応しく、AIによる被写体判別のデータを活かした被写体認識という、新たな可能性を提案したカメラとしてとても印象強いものであった。それだけに発売直後から新たな被写体への対応も望まれ続けている。
Ver2.0へのファームウェアバージョンアップによって追加された「鳥」認識機能の有効性は、今回のテスト撮影で十分に証明されたと感じている。何より鳥撮影を苦手とする私でさえ、わずかな時間の練習だけで飛翔する鳥を追いかけながら撮影できるようになったくらいなのだから。
兼ねてよりファームウェアの更新により、機能の向上や新機能の追加を積極的に行ってきたオリンパスのデジタルカメラだが、今回のバージョンアップで改めてその可能性を感じている。そうとなったらもっと色々な被写体にも対応していただきたいと思ってしまうのも当然なことだろう。今後のファームウェアアップデートにおいても、認識する被写体を追加していただけることを期待したい。ぜひとも。