真っ赤な色とユニークな形 アロエの花|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~
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はじめに
アロエは南アフリカに分布する多肉植物です。日本人の我々にも馴染みのある植物ですが、観賞用よりも食品や化粧品に使われることで有名です。ギザギザのある肉厚な葉が特徴的で、植物園はもちろん民家の庭先でもよく見かけます。南アフリカの植物なので寒さには弱いのですが、日本では太平洋側の暖かな海岸で野生化し、群生している姿も見られます。しかし、一般の方には葉の部分のイメージが強く、花の印象が薄いのではないかと思います。暖かな地域の植物ですが、意外にもアロエの花の開花期は12月から2月ほどの冬期で、長く伸びた茎の頂点に赤い房状の花が咲きます。今回はアロエの中でも、もっともメジャーなキダチアロエの花をご覧いただこうと思います。真っ赤な花色とユニークな形を活かして撮影に臨んでみましょう。
広角レンズで迫力を出す
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■撮影環境:絞り優先・12mm・F7.1・ISO200・1/250秒
12-40mmの標準ズームの広角端12mmを選択しました。広角系の画角で花を見上げることで遠近感が高まり、空へと伸び上がる力強さを表現することができます。また、見上げるだけではなく、花に近づけば、より迫力が増したように見えます。近寄りすぎると背景が入らず、かえって平面的になってしまうこともあるので、寄ったり退いたりしながらバランスの良いポジションを探しましょう。また、青空を背景に入れたかったので、順光を選びました。逆光とは違って、背景が濃い青色になることと、花の色が強く出るので、広角特有の迫力のある画面にもマッチします。
前ボケに輝きをプラス
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■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO500・1/320秒
40-150mmの望遠ズームの望遠端150mmでクローズアップしました。望遠ズームでも最望遠でピントが合うギリギリまで迫れば、花を大きく写すことができます。このようにアップで写すことによって、房状の花が密集した形のおもしろさを感じます。また、ここでは前ボケを入れているのですが、ふんわり感を出す、主役の一部を曖昧にするといういつもの使い方にプラスして、花の輝きをぼかして入れるという役割があります。左下に丸ボケが見えていますが、これは主役よりも手前側にある丸ボケです。主役のアロエが逆光で輝いていますが、前ボケになる花も同様の光が当たっています。その花が前ボケになれば輝きのある前ボケが入るというわけです。
赤色のマイナス補正は全体を見ながら判断
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■撮影環境:絞り優先・244mm・F6.1・ISO200・1/400秒
基本的に赤色はマイナス補正が必要な色です。アロエは赤色なので補正なしかややマイナスの補正をかけることが多いです。しかし、背景の色によっても左右するので、画面全体の色や光を見て判断しましょう。写真のような花に日が当たった鮮やかな赤、背景が日陰の黒といった極端なシーンではマイナス2EVの補正が必要になります。普段の撮影ではあまり大幅なマイナス補正をかける機会がないかもしれませんが、数字にとらわれず、出来上がった写真の明るさをみて判断して微調整を行いましょう。デジタルカメラの場合は撮り直しができますし、ライブビューで撮影すれば明るさを確認しながら撮影できるので便利です。
アートフィルターで柔らかに
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■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO400・1/320秒・アートフィルター「ファンタジックフォーカス」
前の作品とはたった3分差しかなく、ほぼ同じ場所で撮影しているのですが、雰囲気がガラリと変わりましたね。こちらはプラス1EV補正をかけて、明るい印象に仕上げました。少しアングルを変えただけで、背景に入ってくるものが変わります。背景の色が変われば最適な露出補正値も変わってきます。また、逆光ではハイキーもローキーも狙える場合があるので、ハイライトを活かしてローキーに、逆光の輝きを活かしてハイキーにもバリエーションを増やすことができます。ソフト効果のあるアートフィルターを使用することでも明るく柔らかな雰囲気を出すことができるので、シーンによって使ってみるのもいいですよ。
花以外が地味なほど赤が引き立つ
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■撮影環境:絞り優先・12mm・F2.8・ISO200・1/1000秒
日が陰り始め、高い位置にある花だけに光が当たった状態。低い位置にある葉は影になってすでに暗くなっています。花だけが明るく、鮮やかな姿が目を引きました。ここで花の部分だけをクローズアップしてしまうと、花にだけ光が当たっていることが伝わりません。そこで、影になった葉の部分を大きく入れ、日が当たった花と対比させました。暗い部分があるからこそ、光が当たった部分が目立ってくるのです。ここで葉にも光が当たっていたら花は目立たなくなりますし、花以外に鮮やかな色があると視線が分散してしまいます。葉や空が暗く、地味なほど赤い花が引き立つのです。
小さな花のクローズアップはマクロレンズを使う
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■撮影環境:絞り優先・90mm・F3.5・ISO200・1/160秒・アートフィルター「ヴィンテージI + ソフトフォーカス効果」
アロエの花に迫りました。下段から房状の花が次々に咲いていくのですが、花の先端部分が開いて、雌しべと雄しべが姿をのぞかせます。アロエの花をクローズアップするにしても、ここまでアップで写した作品はなかなか見ませんが、花の間から見た姿が可憐だったので、可愛らしく撮りました。小さな花のクローズアップとなるとマクロレンズが1本あると便利ですね。通常のレンズでは迫れないほどの倍率での撮影が可能で、近接撮影時の画質もシャープなものがほとんどです。被写体に迫ることで大きなボケも得られるので、写真のように花と花との距離が近くても大きな前ボケを作ることができます。
淡い光で不思議な魅力を引きたたせる
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■撮影環境:絞り優先・40mm・F5.8・ISO400・1/80秒
日が沈むと、ほんのりと空が赤色に染まり始めました。空の色が映って海も赤く見えます。雲がなかったので、期待するような夕焼け空とはいきませんでしたが、淡い感じがとても素敵でシャッターを切った一枚です。辺りはかなり暗かったのですが、アロエの赤色もうっすらと感じられるようなトーンが残っていました。派手目な花だからそこ、この淡い光の中でも存在感が出たのかなと思います。アロエが日本的な植物ではないので、ちょっと海外の風景にも思えてきますね。アロエはそんな不思議な魅力を持った植物です。
画像合成や多重露出に挑戦
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■撮影環境:絞り優先・12mm・F2.8・ISO500・1/60秒・画像合成
夕暮れの写真を撮影した後に撮っているので、かなり暗い状態で撮影しました。それでも空にほんのりと明るさがあったので、アロエをシルエットで撮ってみました。形が特徴的な花はシルエットにしても、その花が何なのかわかりますね。ここで初めての試みをしたのですが、シルエットの写真で画像合成(多重露出でもOK)をするとどう写るのか。一枚はピントを合わせて、一枚はピントをぼかして撮りました。するとシルエットの黒い部分にぼけた明るい部分が染み込むように滲み、ソフトな印象に仕上がりました。ぼかしすぎると明るい部分が侵食し過ぎてしまうので、ちょっとぼかすのがポイントです。
さいごに
アロエは真っ赤な花の色を鮮やかに見せるのもいいですが、ハイキーに仕上げて淡く写すのも意外性があっていいと思います。群生しているところでは冬の澄んだ青空を入れて全体を写したり、前後にボケを入れて密集感を出すこともできます。海岸沿いで見られるアロエは背景に海を入れるのもいいでしょう。日没後の姿をシルエットで写すという変わり種もありましたね。好きな撮り方、イメージというのがあって、いつも同じような撮り方をしてしまいがちなのですが、今までにない撮り方を試してみると発見があります。もちろんボツ写真になることは多いですが、とにかく挑戦することが大切です。新たな年を迎えて、みなさんそれぞれの新たな花へのアプローチを探してみてください。
写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。