秋を彩る桃色の花 シュウカイドウ|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~
はじめに
秋海棠(シュウカイドウ)という花をご存知ですか。春に咲く海棠(カイドウ)に似た可憐な花で、秋に咲くことから「秋海棠」と名付けられたそうです。しかし、カイドウはバラ科の落葉樹なのに対して、シュウカイドウはシュウカイドウ科の草花です。ピンク色で可憐な花を咲かせるという点は同じですが、木と草ですから、全く異なる種類なのです。
そんなシュウカイドウをアップで写した画像を見ていただくと、何かの花に似ているとお気づきになりませんか。花芯部、花弁をよく見ると・・・そう、ベゴニアに似ていますよね。ベゴニアはシュウカイドウ科の植物です。シュウカイドウは日本各地に分布していますが、もとは中国原産で、古くから日本に生育しています。そのため、近年流通している園芸品種のベゴニア属とは分けて、ベゴニアではなく、シュウカイドウと呼ばれています。今回はそんなシュウカイドウをアップで、そして風景的に狙ってみました。
ハイキーに仕上げる
群生した姿を狙うことが多いシュウカイドウですが、このようにアップで狙っても可愛い花ですね。マクロレンズを使って一輪に迫り、背景にも花をぼかして写しました。こうして見ると艶やかな花弁や存在感のあるシベから、ベゴニアの仲間であると感じます。
夕暮れの優しい逆光で撮ったので、花びらが透けて、日が当たった背景も明るく写りました。もちろん、逆光なのでそのままの露出では暗く写ってしまうので、プラス2.3EVの大幅な補正をかけてハイキーに仕上げています。このようにコントラストの低い部分では明るく写しても白飛びしにくいので、明るめのトーンで撮るのに向いています。
望遠レンズで寄る
花全体の様子がわかる程のアップで写しました。レンズにもよりますが、1作品目ほどのクローズアップをするならマクロレンズが必要になりますが、これくらいのアップなら望遠ズームでも被写体自体に迫れば、大きく写すことができます。お持ちの望遠レンズがどこまで遠くを写せるのかだけではなく、どこまで寄ってもピントが合うのかは一度試しておきましょう。
ここでは背景には木々があり、光が当たった葉がぼけて、丸く輝いています。背景をぼかすには望遠レンズを使うと良いのですが、ただぼかせば良いというわけではありません。主役の花を引き立たせるような美しい背景選びをしたいものですね。
明暗で変化を出す
縦位置と横位置の違いはありますが、2作品目とまったく同じ花を写したものです。しかし、がらっと雰囲気が変わり、薄暗い森の中でひっそりと花を咲かせるイメージになりましたね。まず、露出をマイナスにして暗くアンダー気味に写しています。
しかし、前の作品でただマイナス補正をかけただけでは全体が暗いだけの失敗写真になったことでしょう。ここでのポイントは明るい木漏れ日と花を重ねたことです。画面全体を暗くしても木漏れ日があればハイライト部が残るので、そこで目を引くことができるのです。人は明るい部分に目を向けがちですので、主役と明るいボケを重ねることで、暗いながらも見る人の視線を主役に集めさせることができたのです。このように露出の違いでバリエーションを増やすこともできます。
僅かな奥行きの差をいかす
シュウカイドウは群生する草花なので、このように密集して咲いている姿を狙うのもいいですね。全体的にシャープに写すのもいいですが、ここでは少し奥をぼかしています。全体的にシャープに写したければ奥行きのない平面的な部分を狙い、絞りは絞り込みましょう。ボケを作りたいなら奥行きのある部分を狙って、絞りは開け気味にします。
望遠レンズとはいえ、遠くを写しているのでクローズアップ撮影時のような大きなボケを作ることはできませんが、このような僅かな奥行きの差があればほんのりとぼかすことができます。主役の部分と脇役の部分の差ができるので、見せたい部分を伝えることができますね。
スローシャッターで水の流れを表現
流れの両脇にシュウカイドウがびっしりと咲いていました。花だけを撮るときのシャッター速度は被写体ブレしない程度の速さがあればいいのですが、水の動きがあるのでシャッター速度の選択で作品の印象が変わってきます。水の流れを感じさせたい場合は、少し遅めのシャッター速度で水の動きをぶらしてみましょう。手ブレを防ぐためには三脚があるといいですね。
手持ちの場合はしっかり構えるのとともに、岩や柵など腕を置いて固定できそうな場所があれば利用しましょう。最近のカメラやレンズには手振れ補正が搭載されているものが多く、とても便利です。写真は1/10秒でしたが手持ちでもぶれることなく撮ることができました。手ぶれ補正の強力さは製品によって異なりますが、自分の持っている機材で、どの程度までシャッター速度が遅くてもぶれないのかを知っておくといいでしょう。
前ボケを入れて華やかに
花の賑わいを感じさせたかったので、前ボケを入れて花の面積が増えるよう華やかに仕上げました。ボケを作るには望遠系のレンズで絞りを開ける必要があります。それとともに、手前をぼかすには前ボケの花からは距離の離れた奥側にピントを合わせるのと、手前の花には近づきましょう。
絞り値、焦点距離、ピント位置、前ボケになる花との距離。この4つの要素を取り入れれば、風景的な写真の中でも前ボケを作ることができます。ボケが少なく感じるときは要素のどれかを足しましょう。花の輪郭がわかるほどのボケはかえって主役を邪魔するようになり、うるさくなるので、すっきり大きくぼかしましょう。
自然の色味をいかす
すっかり日が暮れて辺りは薄暗くなっていました。写真で見るよりも実際は暗く感じるほどです。このような時間帯に撮影すると全体が青みがかって写ります。写真の色合いの調整はホワイトバランスで行いますが、オートホワイトバランスに設定されている方が多いかと思います。しかし、自動で補正がかかるので便利なぶん、自然の光の色まで補正されてしまいます。
ここでは色の補正がかからないホワイトバランス晴天(太陽光)に合わせ、自然の青みをそのままに再現しました。晴れた日の太陽光はニュートラルな光なので、それに合わせたホワイトバランス晴天は何の色も加えない、色の補正をかけない設定となっています。
背景が単調にならないように工夫する
強い西陽が差し込んで花だけを照らしていました。露出はもちろん花に合わせたいのですが、画面が黒色で覆われているシーンで露出補正をかけないと、花が白く飛んでしまうので注意が必要です。黒の面積に応じて、マイナス側への補正を行いましょう。
ここでは黒い部分が多いので、マイナス2.3EVの大幅な補正をかけています。ローキー気味の作品は暗くすることで周囲の煩雑な部分が目立たなくなり、花だけが引き立ちます。しかし、背景が黒一色だけだと寂しいので、水面の反射を入れました。舞台のスポットライトのように主役だけを照らす光は主役の花を目立たせる効果があるので、見つけたら積極的に狙ってみてください。
さいごに
このシュウカイドウの群生地へは毎年のように訪れているのですが、今年は花の付きが少なく感じました。以前の花が多いシーズンを見ているので、残念に感じましたが、同じポイントへ何度も通って、毎年の花の変化を見るのもおもしろいものです。行ったことのない場所へ出かけることはとても新鮮ですが、同じ場所でも朝、昼、夕と時間帯を変えて行けば光の色の変化を出すことができるし、天候が違えば光の当たり具合も違います。ローキー、ハイキーの撮り分けにも挑戦できそうですね。
また、レンズが増えれば寄り引きのバリエーションも増やせます。同じ被写体だからこそ、以前の自分よりもステップアップできているかを測ることができかもしれません。撮影に出かけるにはいい季節になってきました。じっくりと秋の花を堪能してみてください。
■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。
・日本写真家協会(JPS)会員
・日本自然科学写真協会(SSP)会員