落ちても画になる花 ツバキ|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

吉住志穂
落ちても画になる花 ツバキ|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

はじめに

ツバキは1月から4月にかけて開花する花で、ツバキ科ツバキ属の常緑樹です。日本原産の花で古来よりなじみ深く、『万葉集』にも「つらつら椿つらつらに」と言葉のリズムを楽しみつつ、大きく赤いツバキが点々と咲く春を思った歌が登場します。花色は赤が主で、白、ピンク、斑入りなどがあり、品種改良が盛んです。同じツバキ科のサザンカと見分けがつきにくいのですが、サザンカは秋から冬にかけて咲くのに対し、ツバキは冬から春です。また、サザンカは花びらが一枚ずつ落ちますが、ツバキは花ごと落ちます。サザンカの花芯は広がっていますが、ツバキは筒状です。花を見かけたら、ぜひ、ツバキかサザンカか、見分けてみてください。

露光間ズームでインパクトを与える

■撮影機材:OMシステム E-M1 MarkII + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・12mm・F5.0・ISO200・0.5秒

ツバキが飛び出したように見えますね。これはイルミネーション撮影で使われる「露光間ズーム」というテクニックを使っています。露光中にズームを広角から望遠にズームすることで画角が変化し、白い部分が放射状に写るのです。手動でズーム操作をするため、シャッター速度がある程度遅くないと撮れません。薄暗い日を狙うか、NDフィルターで光量を落としてください。ここでは0.5秒間に広角から望遠へとズームしました。ブレを防ぐためにも三脚は必須です。全体的に画角が変化しているのですが、白い部分は明るく目立つので、効果が感じられやすくなります。このテクニックを使うときは曇り空を入れて撮るといいでしょう。

クローズアップで造形の美しさを表現

■撮影機材:OMシステム OM-1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
■撮影環境:絞り優先・90mm・F3.5・ISO200・1/125秒

「乙女椿」という品種は“千重咲き(せんえざき)”と呼ばれ、多くの花びらが重なるのとともに、ツバキの特徴でもあるシベが花びらに隠れています。丸型で整った花びらが美しく、その重なりだけを切り取りました。バラでもこのような撮り方をすることがありますが、背景は少しも入れずに花びらだけで構成するにはクローズアップする必要があります。通常のレンズで寄れないときはマクロレンズがあるといいですね。また、花びらの重なった部分は陰になりますが、直射日光が当たるような状況では陰がキツく感じます。日陰か逆光になるような向きで咲いている花を選ぶといいでしょう。

ボケを入れて明るい印象に

■撮影機材:OMシステム E-M1 MarkII + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO200・1/160秒

草花の作品では背景に花の彩りをぼかして入れることが多いのですが、木の花は周囲の花との密度が少ないものが多く、いつも背景作りに悩みます。そこで、ここでは木漏れ日の丸いボケを入れました。ただの緑の背景よりも輝く木漏れ日があることで要素が増え、作品の印象も明るくなります。花と重なるようにボケを配置したのには理由があり、花に視線を行きやすくするためです。ひとはシャープな部分や明るい部分に視線が行くので、ピントを合わせた花と明るいボケを重ねることで、より見せたい部分に視線が行きやすくなります。木漏れ日のボケは重ねるだけではなく、対角側に配置することでバランスを取ることもあります。いろいろと試してみてください。

黒バックで深みを表現

■撮影機材:OMシステム E-M1 MarkII + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・40mm・F2.8・ISO320・1/80秒

木漏れ日に続いて、背景選びに困った時の選択として黒バックがあります。中途半端な葉っぱや枝のボケよりも、真っ黒な背景は深みがあり、被写体を浮かび上がらせる効果があります。まるでスタジオで撮影したみたいに見えますね。日の当たった花に対して日陰を背景にすると、明暗差が生じて黒バックになります。ここでは逆光側の幹を背景にしました。黒い面積が多いので露出はマイナス0.7EV補正で適正露出となりました。幹に光が当たれば薄茶やグレーのように明るく写りますが、逆光では幹が陰になるので黒く写るのです。単純な背景だからこそ、花を真ん中に入れてインパクトを強めました。

白バックで儚い雰囲気に

■撮影機材:OMシステム E-M1 MarkII + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・80mm・F2.8・ISO5000・1/160秒

前の黒バックの写真と同じエリアで撮影したのですが、こちらはその逆で、白バックです。花は日陰で背景が日向だったので、花よりも背景が明るい状況です。露出は花に合わせてプラス3.3EVという大幅な補正をかけているので、背景は明暗差から真っ白になりました。写真ではあまり見かけませんが、無背景でやわらかな世界は日本画の花鳥画に似ています。花を左、幹を右に入れて左右のバランスを取っています。しかし、花が向いている方向を空けるのが基本ですから、ここでは本来左に空間を作るのですが、早春の儚い雰囲気に合わせて、花が向いている方を切り詰めて、窮屈なフレーミングにしています。

落ちても画になるツバキ

■撮影機材:OMシステム E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
■撮影環境:絞り優先・60mm・F2.8・ISO200・1/160秒

ツバキとサザンカの見分け方として、花の落ち方の違いを紹介しました。サザンカは花びらが一枚ずつ落ちていくのに対し、ツバキは花ごと落ちます。ツバキは花びらと雄しべがくっついているので、落ちるときは花全体が一気に落ちるのです。花ごと落ちる姿が首切りの様子と重ねて不吉とされますが、それは近代から広まったようです。江戸の武士は一気に落ちる姿をむしろ潔しと思っていたとか。どう見るかで印象は変わるものですね。落ちた花ですから、旬を終えているはずですが、外見では痛みがなく綺麗な花も見られますので、それを探して写しました。花の周囲を暗い色でまとめることで、ツバキの花だけが浮かび上がるようにしています。

多重露光でバリエーションを増やす

■撮影機材:OMシステム E-M1 MarkII + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・200mm・F2.8・ISO250・1/200秒・多重露出

草花に比べると、ツバキをはじめとした木の花は密集度があまり高くありません。そのため、背景を彩りで埋めることは難しいものです。枝の先にたまたま綺麗な花壇があるならそれを活かすこともできそうですが、そう都合よく色のある被写体がないことがほとんどです。そこで、多重露出を使って花の彩りを重ねてみました。核となるツバキの写真はシンプルに写し、重ねた方のカットはレンギョウとサクラをぼかしたものです。黄色とピンクがちょうど半々になるように配置し、大きくぼかしました。ぼかす度合いを変えたり、重ねる色を変えたりしてバリエーションを増やしてみるといいでしょう。

風流に有終の美を添えて

■撮影機材:OMシステム PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro
■撮影環境:絞り優先・35mm・F3.5・ISO400・1/80秒

神奈川県の鎌倉は一年を通じて花を楽しめるお寺が多数あります。お寺によって花の種類は異なりますが、ツバキは多くのお寺で見られます。カメラ片手に花のお寺めぐりも楽しいものですよ。苔むした石鉢に竹樋から水が流れていました。それだけでも風流なのに、そこにツバキが浮かべられていました。庭師の方が飾られたのでしょうか。波紋がわかるように真上から狙いました。花と竹樋とは高さの差があるので、花にピントを合わせると樋はボケますが、程よいボケ具合なのでかえって目立たなくなって好都合でした。花を終えても、まだ美しさを残すツバキならではの姿だと思います。

さいごに

ツバキは昔から愛されている花なので身近な場所で見られますし、品種も多様です。和の風情を感じながら愛でるといいでしょう。しかし、被写体として、木の花は枝の処理をうまくしないと背景が煩雑になるという難しさもあります。枝の重なりが少ない枝先の花を選ぶことと、すぐ後ろに枝があるとボケにくいので、背景が遠くになるようなポジションを選ぶといいでしょう。今回ご紹介したような白バックや黒バック、木漏れ日のボケなども取り入れてみてください。ツバキに姿が似ているサザンカの作品もいずれお見せしたいと思います。お楽しみになさっていてください。

 

 

写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。

 

 

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