1月から3月に咲く花 クリスマスローズ|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~
はじめに
クリスマスローズという名前なのだから、クリスマスの時期に咲くのかと思いきや、花が見られるのは1月から3月です。もともとはクリスマスローズの原種であるキンポウゲ科ヘレボルス属ニゲル種はクリスマスの時期に咲き、バラのような美しい花であることから名付けられました。しかし、日本ではニゲル以外のヘレボルス属も含めてクリスマスローズと呼んでいて、それらの開花期が1月から3月でクリスマスを過ぎたあとなのです。そのため、名前にクリスマスとついているのに、早春になってから花が咲くのです。花色は白やピンクのほか緑色をしたものや黒に近い色の花もあります。また、一重咲きのものや八重咲きのタイプが見られます。今回は早春の花壇を彩るクリスマスローズの作品を見ていきましょう。
黒色の品種に挑戦
ピンクや白、緑といった花色のクリスマスローズを多く見かけますが、黒色の品種にも挑戦してみましょう。しかし、花色が地味なので、なかなか作品として仕上げるのが難しいです。そこで、露出を明るめにしつつ、ホワイトバランスを変えて青みを加えてみました。花の黒い部分は青に、葉の緑の部分は水色の色がつきました。また実際よりも明るい露出で撮影しているので、軽やかな印象です。しかし、明るい露出=元気なイメージになるとは限らず、寒色系の色合いを選んだり、花自体が下を向いていたり、小さめに配置するといった要素が入ることで、明るい写真であっても寂しい雰囲気を出すことができます。明るくも寂しい“冬の花らしさ”が感じられるのではないでしょうか。
背景選びに気を配る
クリスマスローズは公園の花壇や鉢植えなどで見ることができます。そのため、どのような場所に植えられているかによって、背景選びも決まってきます。写真は花壇に植えられていたクリスマスローズですが、背景に菜の花と桜が咲いていたので、その黄色とピンクを背景にいただきました。背景がうるさくならないように望遠ズームの最望遠側の150mmを選択し、絞りを開けて背景を大きくぼかしました。この色の組み合わせはよく使うのですが、春にぴったりの華やかな色合いですね。クリスマスローズが濃い目のピンク色だったので、背景の色に負けることなく、しっかり引き立ってくれました。
強い光の露出選び
花の背後から強い光が当たった逆光の状態です。私は軟らかな光が好きなので、他の作品を見ても、薄曇りや木陰で撮影されたものがほとんどです。しかし、強い光しかなければ強い光なりの撮り方をしてみましょう。バリエーションを増やすためにも、どんな光であってもそれに合う撮り方を探そうとすることが大切です。光が強い時は露出の選択が難しいのですが、ハイライト部が白飛びしないように露出補正を行います。光が当たった最も明るい部分が白く飛ばない露出を選ぶといいでしょう。花は光が当たって明るいのですが、背景は日陰というシーンでは主役と背景とに明暗差があるので、背景が真っ黒く引き締まってくれます。
画面全体をボケで覆う
主役以外の、画面のほとんどがピンク色のボケで覆われています。これはクリスマスローズの前ボケです。奥の花にピントを合わせつつ、手前の花をぼかしました。前ボケを作るためには長い焦点距離のレンズを選び、絞りを開けます。また、前ボケになる花には近づいて、主役と前ボケにする花との距離は離れているという場所を選びましょう。そして、トンネル型にボケを作るには花と花との狭間を見つけ、その隙間から奥の花を覗くようにピントを合わせてみてください。前ボケを入れる場合は、すっきりとぼかさないとかえって主役の邪魔をしてしまいます。ぼかす花の輪郭がわからないくらいにぼかしましょう。
前ボケでごちゃごちゃを隠す
画面下には前ボケ、上には丸ボケを入れました。ボケというのは画面に軟らかな雰囲気を出すことができます。それにプラスして、下に入れた前ボケには主役の周囲のごちゃごちゃした部分を隠す役割があります。茎や葉を見せなくすることで花だけが目立ってきます。また、背景の丸いボケは木漏れ日をぼかしたものです。キラキラとしたボケはきらめきを感じさせることができます。前ボケ、木漏れ日のボケの両方を入れるにはローポジションかつ、少し見上げるようなアングルで撮る必要があります。ここでは斜面に咲いたクリスマスローズを狙ったので、ローポジションで見上げるアングルがとりやすかったです。
黒バックで白い花を引き立てる
白いクリスマスローズと黒い背景の組み合わせです。色々ある背景のパターンの中でも黒バックは明暗差から、花の白さを引き立ててくれます。黒バックを作るには花と背景とにコントラストが必要です。3枚目の作品でも黒バックを選んでいて、そのときよりもコントラストが弱いシーンだったのですが、背景の林がとても暗かったために花と背景に明暗差が生じて、黒く写りました。加えて、木漏れ日のボケを入れることで単調な黒一色よりも変化が生まれ、ボケが空間を埋めています。丸ボケの配置にも工夫をし、花を包むように配置されるようなポジションを選びました。
ハイキーは主役の階調を残す
早春らしくハイキーに仕上げた作品です。ハイキーとは全体が明るい調子の画像のことを指しますが、ただ露出を明るくすれば成功するわけではありません。選択を間違えれば露出オーバーの失敗写真にもなりかねません。ハイキーと露出オーバーでは主役の階調が残っているか、白飛びしているかで分けることができます。強く光が当たっているところでは花の中にも日向と日陰ができ、暗部を明るくしようと露出を上げると明部が白く飛んでしまいます。一方、日陰や薄曇りの日、弱めの逆光ではコントラストが低いので、暗部を明るくしても明部が飛びにくくなります。1/3EVずつ細かく調整しながら、明部が白く飛ぶギリギリの値を選んでいます。
花の配置にも注目
黒い花は作品として美しく仕上げるのは結構難しいものです。ピンクなど彩りのあるクリスマスローズがある中で、あえて挑戦しようとは思いませんよね。しかし、どんな花でも綺麗に撮ろうと思う気持ちが大切です。1枚目の作品のようにホワイトバランスで色を青く変えてしまうのも手ですが、ここでは背景をシンプルにぼかしました。黒と言っても深い紫色をしているので、同じ寒色系の緑のボケで統一感を出しています。また花の配置にも注目しましょう。3つの被写体があるとき、不等辺三角形を描く配置がお勧めです。上下左右に並ばず、動きが出て、バランスも取れるのです。黒系の色をした花は他の種類でも見られるので、ぜひトライしてみてください。
さいごに
クリスマスローズは公園の花壇や植木鉢で育てられていることが多いです。花の少ない時期に咲くので、花撮影ファンにとってはありがたい花ですよね。花がうつむいたように咲く、可憐な姿が素敵ですが、花を正面から撮るにはローアングルで撮る必要があるので、撮影時の姿勢がキツくなるのが難点です。地面に寝そべるようにするか、しゃがんでなるべく低く構えましょう。特に前ボケを入れるなら、より低く構えなくてはいけません。可動式の液晶モニターが搭載されたカメラであれば楽な姿勢でローアングル撮影をすることができます。うまく利用してみましょう。
■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。