温室の花を撮りに出かけよう!|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~
はじめに
冬になると極端に花の種類が減ってきます。そんな時こそ、おすすめの撮影スポットが温室。植物園の温室は冬も暖かく、熱帯・亜熱帯の珍しい植物を見ることができます。また、温室をメインとした大規模なテーマパークもあり、毎年、冬の時期になると花を求めて各所の温室に出かけています。
冬の温室撮影でもっとも厄介なのがレンズの結露です。寒い場所から急に暖かい温室に入るとレンズの表面が結露して曇ってしまうことがあります。カメラバッグにカイロを入れるなどして機材をほんのりと温めておき、急な温度変化が起こらないように気をつけましょう。もし、結露してしまったら、時間をかけて曇りが取れるのを待ってください。寒い冬でも温室は花がいっぱい。暖かな場所で、ゆっくり花の撮影を楽しみたいですね。
フクシア
フクシアは下向きに花を咲かせ、大きく反り返る萼(がく)と美しい色の花びらがまるでドレスを着た女性のように見える、愛らしい姿をしています。そのイメージに合わせ、明るくハイキーな露出を選び、青みを加えて爽やかな印象にしました。
この温室では鑑賞しやすいように、天井に吊った鉢に植えられていたので、ちょうど目線ほどの高さで見ることができました。もっと近づいて大きく写すこともできましたが、可憐さを感じさせたかったのと、背景に彩りを多く入れたかったので、あえて小さめに写しました。ここは大規模な温室なので、花と花とがゆとりを持って植えられていて、背景との距離を取ることができたので、すっきりぼかすことができました。
ハイビスカス
温室で見られる大輪の花といえばハイビスカス。ハワイや沖縄といった南国のイメージが強く、見た目も華やかなので人気があります。赤、白、ピンク、オレンジなどの花色で大きな花びらが目を引きます。写真のハイビスカスはちょっと珍しいオレンジとくすんだグレーの色を持った品種でした。
明るめの露出と逆光で写していますが、それ以上にちょっとソフトがかって見えるのは多重露光をしたためです。一枚は通常通りピントを合わせたカットを撮り、2枚目は同じ構図のまま、わざとピントを外して写します。すると、シャープな像にボケ像が重なって、滲んだようなソフト感が出てきます。試してみてください。
ハイビスカスの雌シベの先端は赤や黄色の丸い形をしています。もともと大きな花なので、雌しべだけでも存在感がありますね。温室でハイビスカスを見つけるといつもこのようにアップで撮りたくなります。ここまでのクローズアップをするには通常のレンズではピントが合わないので、マクロレンズを使いましょう。
使用したマクロレンズでも最大の倍率(等倍)付近で撮影しました。拡大率が高いのでピンボケとブレに注意。三脚を使用するか、三脚が禁止されている温室では多めに撮って失敗を防ぎましょう。ピントを合わせていると気がつくのですが、細かい毛のようなもので覆われていて、それがシャープに見えるようにマニュアルフォーカスで合わせました。
ヒスイカヅラ
温室内の開花期は3~5月で、名前の通り翡翠のような青緑色の花をつけます。ブルー系でも青や紫、緑の花はありますが、青緑色をしている花はとても珍しいですね。房状に花をつけ、形は鋭く尖った爪のよう。多くが高い位置から垂れるように咲かせています。
どこの温室でも見られるとは限らず、栽培している施設でも数が少ないところもあり、撮影の自由度は低め。ここでは花を見上げていますが、天井の人工物が入らないように葉っぱの緑が重なるポジションを探し、逆光のなるよう回り込んで、背景の緑が明るく輝くよう写しました。珍しい花ですが、ただ記録のために写すのではなく、作品として、何らかの工夫をしたいものですね。
ハナキリン
ハナキキリンはハイビスカスやブーゲンビリアに比べると、ちょっと控えめな存在ですが、一年中花を咲かせる温室の定番です。小ぶりな花の割には、茎が太く、サボテンのような大きな棘が目を引きます。花色は赤やピンク、オレンジ、黄、白があります。
花の付きが良かったので、前後にボケを入れての撮影も考えましたが、夕方の鋭い光が射し込んできたので、明暗差を利用しました。露出を光の当たった花に合わせると、日陰になった部分が黒く写り、メリハリのある画面になりました。背景をぼかしにくい温室では、このような黒バックで主役を引き立てるテクニックを知っておくと役に立ちますよ。
ブーゲンビリア
ブーゲンビリアは日本では夏場のみ開花しますが、温室内では通年、華やかな花を咲かせます。しかし、花びらのように見える部分は苞葉(ほうよう)といい、その中に筒状の小さな花が3輪咲きます。被写体としての大部分がこの苞葉なので、葉っぱや花びらを写すのと同じ感覚で、逆光で狙いました。順光の硬い光とは違い、光が透過して明るい雰囲気になります。
温室は直射日光が当たらないので、ある程度光が拡散していますが、それでも順光と逆光の違いは出るので、光の方向は常に意識しておきましょう。画面の周囲にあるのは前ボケで、手前の花の間から望遠レンズで奥の花を覗くように写しました。ボケで包まれ、ふんわりとした雰囲気に仕上がりました。
熱帯スイレン
夏に屋外で見かけるのは温帯性のスイレンで、温室で多く栽培されているのは熱帯性のスイレンです。いちばんわかりやすい見分け方は茎の違いで、水面より高く伸びて咲くのが熱帯性で、水面間際に花を咲かせるのが温帯性です。熱帯性のスイレンには温帯性のスイレンにはないブルー系の花色があり、鮮やかで派手目な印象。
撮影時の注意点は背景です。背景に水面が入るので、温室の窓枠などが映り込まないポジションを探しましょう。PLフィルターを使えば、反射を除去することができます。この写真では、花そのものはフレームアウトさせ、映り込んだ部分だけを写しました。水を美しく見せるため、ホワイトバランスで青みを強めています。
グズマニア
主に鑑賞されるのは花ではなく、葉が変化した苞(ほう)と呼ばれる部分。パイナップルの仲間と聞くとイメージが湧くかもしれませんね。鮮やかな色合いの赤やオレンジ、黄、赤紫色があります。いちばん目立つのは先端なので、逆光で透けた先端にピントを合わせ、背景をぼかしました。
背景の色彩が豊かなので、それだけでも彩りがあってきれいなのですが、より華やかにするために丸ボケを重ねました。これは多重露光を使って、周囲の植物の反射した部分をぼかして重ねています。主役自体は花ではありませんが、彩りのボケと輝きの丸ボケを使って、花写真にも負けない、華やかな画面になりました。
さいごに
温室内での撮影の難しさとしては、温室内の撮影は三脚が禁止されているところが多く、手持ちでの撮影になります。薄暗い温室内ではISO感度を上げてブレないように気をつけましょう。また、温室とはいえ自然な雰囲気を出したいので、壁面や天井、植物の名前が書かれたプレートや茎を支える支柱といった人工的なものを入れないように、アングルやフレーミングの工夫が大切です。花の珍しさに惹かれて、記録だけの写真にならないよう、さまざまな撮影テクニックを使って、素敵に写してみてください。
■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。
・日本写真家協会(JPS)会員
・日本自然科学写真協会(SSP)会員