江戸時代から楽しまれる梅雨の花 ハナショウブ|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

吉住志穂
江戸時代から楽しまれる梅雨の花 ハナショウブ|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

はじめに

ハナショウブは原種のノハナショウブの園芸種でアヤメやカキツバタと同じ、アヤメ科アヤメ属の植物です。それぞれの違いは花びらを見るとわかります。アヤメは網目模様があり、カキツバタは白い筋、ハナショウブは黄色い筋があります。掲載した8作品はいずれもハナショウブですので、黄色い筋が見られますね。一般的な花のピント合わせは基本的にめしべ、または花芯とお話ししていますが、ハナショウブの場合は形が複雑でどこにピントを合わせるべきか迷うかもしれません。手前の花びらがもっとも目立つので、そこにピントを合わせると良いでしょう。その中でも黄色い筋のある付近が最適です。品種豊富な梅雨の花、ハナショウブを写してみましょう。

やはり望遠レンズで狙いたい

■撮影機材:OMシステム E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・130mm・F2.8・ISO200・1/1250秒

全国各地に花菖蒲園がありますが、こちらは東京にある水元公園です。菖蒲田には水が張られ、木道や岸から撮るようになるので、望遠レンズがあると便利です。近い距離に咲いている花もありますが、背景をぼかすならば、やはり望遠系のレンズで狙いたいですね。濃淡の異なるハナショウブが株ごとに植えられ、水に映る姿も素敵でした。濃い色の方が目立つので、この作品は手前の紫色の株にピントを合わせましたが、奥の花にピントを合わせて手前の紫をぼかすのも良いでしょう。望遠レンズで絞りを開けつつ、前後に奥行きの差があるので背景がほんのりとボケてくれました。ボケとシャープの差ができることで、どの株を主役として見せたかったのが伝わります。

ホワイトバランスで梅雨を表現

■撮影機材:OMシステム E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO200・1/200秒・WB4800K

ソフトフィルターがかかったようにやわらかな印象に仕上がっていますが、これは前ボケが入っているためです。手前の花を輪郭がわからなくなるほどに大きくぼかし、主役の下部に重ねました。大きな花びらは前ボケがかかっているのでぼんやりしていますが、中心の小さい花びらはボケがかかっていないのでシャープに見えますね。そのため、ここでは小さい花びらを主役にするようピントをそちらに合わせています。ホワイトバランスを4800Kに合わせていますが、これは少し青みを加えることで梅雨時の雰囲気を出すためです。以降の作品にもホワイトバランスを変更したものは記載してありますので、撮影データも確認してみてください。

雨粒の表情も入れる

■撮影機材:OMシステム E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先96mm・F4.0・ISO200・1/200秒・WB4600K

アジサイもハナショウブも梅雨時の花なので雨がよく似合いますね。時期にあった雰囲気で撮りたいなら、雨の日を選んで出かけてみてください。もちろん機材の水濡れ対策は必要ですが、防塵防滴性能のある機材を選んだり、雨用の撮影グッズもいろいろと売られているので、試してみるといいですよ。せっかく苦労して雨の日に撮るのですから、花びらに水滴がついている姿を狙ったり、背景に雨を写すなどしてみましょう。雨を写すにはシャッター速度をやや遅くすると白い筋になって写ります。また、やや濃い色の背景を選ぶと白い筋が際立ちます。シャッター速度が遅くなるほど筋は長くなりますが、被写体ぶれに注意が必要になります。シャッター速度を変えながら何枚か撮ってみるといいでしょう。

背景選びに気を配る

■撮影機材:OMシステム E-M1 + ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5
■撮影環境:絞り優先・200mm・F3.5・ISO200・1/250秒・WB4600K・アートフィルター「ファンタジックフォーカス」

ハナショウブは株ごとに植えられているので、花と花との距離が近いと背景がごちゃごちゃしてしまいます。主役のすぐ後ろに花がない場所、背景が遠くになるところを選ぶのが大切です。背景をぼかすテクニックとして望遠レンズを使ったり、絞りを開けても、場所選びが適切でなければ背景をすっきりさせることはできません。ここでは背景ボケとともに前ボケも入れています。画面下は白いハナショウブの前ボケ、画面上は曇り空です。紫色のハナショウブの上下を白いボケで挟みました。花びらに水滴が付いているので雨の雰囲気も伝わりますね。

水面への映り込みも面白い

■撮影機材:OMシステム OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・73mm・F3.5・ISO200・1/25秒・WB2800K

水辺の花は水に映り込んだ姿を狙ってみましょう。シャープに写したいなら水面にさざなみが立ちにくい、風の弱い日が理想的です。それでも小魚が水面をつついて波紋ができるのも面白いですね。この作品は主役だけはシャープに写っているカットを選びましたが、揺らぎが全体にかかってぼんやりしてしまっても水辺の花の映り込みらしくて、構わないと思います。波紋は意図して撮れるものではないので、何枚も撮った中で揺らぐ位置や揺らぎの量が良いものをチョイスしましょう。ここではホワイトバランスをかなり青くした2800Kに設定しています。菖蒲田は見た目は茶色い沼なので、ここまで青みを加えないと綺麗な色にはなりません。

午前中の撮影がおすすめ

■撮影機材:OMシステム E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO200・1/1000秒

梅雨の晴れ間はときに真夏のような陽が射すことがあります。ハナショウブの花びらは薄いので、強く陽が当たるとしなびてしまいます。晴れた日は光が透けて綺麗なのですが、早朝や午前中に撮影するのが花の美しさを考えても、熱中症対策としてもいいでしょう。光が透過する逆光を選ぶと、背景にボケている花も逆光で光を透かすので、ボケたときにきらきらと輝いた印象のボケになります。しかし、この画像では背景の林の部分は木々が重なって、光が透けないので暗くなっています。黒い部分と明るい花を重ねると花が引き立ちますね。花は明るい色ですが、背景に黒い部分が多いので、ここではマイナス1EV補正で適正露出となりました。

主役を際立たせる構図づくり

■撮影機材:OMシステム E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO
■撮影環境:絞り優先・300mm・F4.5・ISO200・1/200秒・WB4800K

ハナショウブにアマガエルがちょこんと乗っていました。雨が降っていたので観光客もおらず、警戒せずに出てきたのでしょうか。ここでは花が舞台であり、主役はカエル。そのため、カエルが目立つよう、逆に花は目立たないよう、ハナショウブの一部をカットしています。もちろん、カエルに迫れば主役としてより目立ちますが、花々の中にいる雰囲気を出したいので、あえて画面内に小さめに配置しています。主役が小さくなれば背景の面積は増えますが、背景をすっきりさせることで、小さな主役も目立たせることができます。まるで、雨を眺めて物思うような眼差しですね。

多重露出で自由な表現を

■撮影機材:OMシステム E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・120mm・F2.8・ISO200・1/1250秒・多重露出2コマ

全体的にソフト感がありますが、ソフトフィルターでも前ボケでもなく、多重露出によるものです。メインの画像は白いハナショウブを黒バックで撮影しています。そこに、形がわからないほど大きくぼかしたハナショウブの画像を重ねています。シャープな画像にボケ画像を重ねることで、芯はありながらソフト感のある画像になるのです。写真は塗り絵と逆で、色を足すほど明るく、白に近づいていきます。そのため、双方の画像を明るい画像同士を重ねるとオーバー気味になるので、やや暗めの露出で撮って、重ねるとちょうど適正露出になります。また、ぼかす画像はMFでピントを外してしまえば自由にボケ量を変えることができます。お持ちのカメラに多重露出の機能がある方はチャレンジしてみてください。

まとめ

江戸時代はさまざまな文化が発展しましたが、園芸文化も同様、花の品種改良が盛んに行われたといいます。それが現代へとつながり、いま菖蒲園を訪れると、彩りも、形もさまざまなハナショウブに出会うことができます。品種の区分として、江戸系、伊勢系、肥後系などと土地の名称ごとに系統が分けられ、咲きの形態では垂れ咲き、平咲き、受け咲きなどがあります。また、大きな花びらを「英(えい)」と呼び、3枚を「三英」、6枚を「六英」と呼びます。シンプルな「三英」かボリューム感のある「六英」のどちらを主役にするかで、撮影のイメージも変わってきますね。花の色も単色や二色、まだら模様やグラデーションがあるものなど、表情豊かです。自分のお気に入りを見つけて、じっくり撮影してみてはいかがでしょうか。

 

 

■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。

 

 

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