香りに癒されながら撮りたいラベンダー|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~
はじめに
ハーブの女王として知られるラベンダー。昭和期に北海道の富良野で大々的な栽培が始まり、ラベンダーオイルの生産が盛んに行われました。花を蒸留させて採取するオイル、花を乾燥させるポプリなど、芳香を身近に楽しむことができます。ラベンダーの花自体は小さいのですが、いくつもの株を植えた広大な花畑は紫色の絨毯となり、観光植物としても人気が高いです。花色は主に紫色で、赤紫や白色のものもあります。育てやすい花なので、庭先で育てている方もいらっしゃるでしょう。
ラベンダーは花自体が小さいので、たくさんの花を取り入れて、ボリューム感を出すのがおすすめです。一輪をアップで撮るだけではなく、一つの株をひと塊の主役として捉えたり、主役の前後にボケを入れたり、花がいっぱい咲いている雰囲気を出してみましょう。
ハイキーで爽やかに
ラベンダーの株は弧を描くように丸く咲きますが、その左側を切り取りました。すると、やや斜めの構図となり、動きが出ますね。爽やかで明るい雰囲気にしたかったので、逆光を選び、露出はプラス1.7EVとハイキーに仕上げました。ソフト効果も取り入れてふんわりとした感じになっています。ガラスフィルターやデジタルフィルターでも、明るめの露出を選んだ方が滲んだ感じは強まりますので、白飛びしない程度に明るく写してみるのもいいですよ。また、主役の花と同じ高さのアングルから狙うことで、背景にあるラベンダーの紫色が入ります。ラベンダー畑は紫一色なので彩り豊かとはいきませんが、花の色が入った方が美しいので、土の茶色や茎の緑は避け、紫色をぼかして入れました。
奥行きでボケの効果を楽しむ
観光農園ではラベンダーの株が縦に列となって植えられている姿を見かけます。それを横から狙うと、株と株との間に隙間があるので、奥行きの差が生じます。いちばん手前の花にピントを合わせがちですが、最初に一列奥の花にピントを合わせました。すると、手前の花と奥の花とに距離があるので、前後の花がうまくボケました。この作品は手前から2本目の列に合わせていますが、より奥にピントを合わせれば前ボケのゾーンが増えます。ピントの位置を手前、中、奥と変えて、ボケの位置の違いを見てみましょう。ちなみに、ピントは点で合わせますが、同じ距離の花は全てシャープに写るので、横一列の花にはすべてピントが合います。
広角レンズで見上げるように
広角レンズで花を見上げるように撮りました。広角は景色を広く撮れるだけではなく、遠近感が強まるので、ラベンダーがぐんと空へと伸び上がるように感じさせることができます。ヒマワリのように背の高い花ならば花を見上げやすいのですが、ラベンダーの丈は1メートルぐらいなので、花の下に自分の体を入れるのは難しいですし、株に踏み入れるわけにもいきませんので、ここでは地面すれすれに手を伸ばして、可動式のライブビュー画面を見ながらフレーミングしました。液晶画面が固定式のカメラの場合はノーファインダーで撮影しながら確認するといいでしょう。広い画角なので順光を選び、青空を広く取り入れることもできました。逆光と比べ、花の色がはっきりと写り、空の色も濃くなります。
主役と脇役に差をつける
ラベンダーといえば紫色ですが、こちらは珍しい白色品種です。主役は白色なので目立ちにくいですが、全体が紫色の中の白色なので目を引きます。このように主役と背景に色の差をつけることで、主役を引き立たせることができます。ほかにどのような差をつけられるかと言うと、シャープとボケの差。主役だけにピントが合い、それ以外がボケていればシャープに写った主役だけが目立ちます。また、日向と日陰などの明暗の差、色の濃度などで差をつけることもできます。このときは光がフラットだったので、明暗差は付けられないぶん、シャープとボケの差、色の差で主役を目立たせました。
多重露光はボケの位置を考えながら
ラベンダーに丸ボケを重ねました。近くに林があれば木漏れ日をぼかすことで、円形のボケを作ることができます。ただ、ほどよい距離に丸ボケになるような木がなかった場合は、多重露光でボケを重ねてしまうという手もあります。第一露光ではシンプルにラベンダーを撮り、第二露光で木漏れ日のボケを写します。それらを重ねることで、何もなかった空間に輝くボケを入れることができます。ボケが主役に重なると、主役がぼんやりしてしまうので、丸ボケを重ねるときは主役の位置を考えて、それを避けるようにボケを配置してください。
前ボケは大きめにぼかす
株と株の間から、奥の花を狙いました。アングルは花よりもやや低い位置に構えています。すると、手前の株が前ボケとなって、奥行きを感じさせることができます。高い位置から狙うと、前ボケが入らないので平面的に写ったでしょう。花の高さと全く同じアングルだと、主役が前ボケに被ってしまいます。そこで、手前の花よりも少し低いアングルから狙えば、前ボケが入るし、高さの差が少しあるので前ボケに主役が被ってしまうことがありません。前ボケは花の輪郭がわかる程度のボケ具合だとかえってうるさく感じるので、形がわからないくらい、大きめにぼかす方がいいですよ。
色の組み合わせでバリエーションをつくる
ラベンダー畑は紫一色なので彩りのバリエーションを作るのが難しいですが、別の花を一緒に植えてある場合は積極的にその色を取り入れていきましょう。背景に見える赤色はサルビア、オレンジ色はマリーゴールド。真後ろの白いボケは白色のラベンダーです。寒色系の紫と暖色系の赤とオレンジですが、淡い色同士なので、ぶつかり合うことなくまとまりました。逆に、マリーゴールドを主役にラベンダーの紫色を背景に入れることもできますから、主役を変え、色の組み合わせを変えて、バリエーションづくりを楽しんでください。
わざと主役に露出を合わせない
3作品目と同様、広角レンズを使ってラベンダーを見上げています。違っているのは光の選び方。前の作品は順光なので花も青空もくっきりと写っていました。一方、こちらは太陽に向かっているので、花に対しては完全な逆光となります。このとき、露出を花に合わせることもできますが、その場合、露出差が激しいので、空は白くなってしまいます。むしろ、マイナス1.3EVの露出補正をかけ、空に露出を合わせることで、ラベンダーはシルエットになりました。主役はラベンダーですが、必ずしも主役に露出を合わせなければいけないとは限らないのです。青空に雲がうねり、太陽の周りの雲に色がついていたので、ラベンダーを感じさせつつ、空を見せる撮り方にしました。
まとめ
ラベンダーは紫一色になりがちなので、バリエーションを作るにはレンズの使い分け、寄り引き、光の選択など、変化をつけるための工夫が必要になってきます。同じような撮り方ばかりしてしまうと思ったら、いつもは選ばないようなレンズを使ってみたり、アングルを変えてみたりと、新たな挑戦をしてみてください。すべてうまくいくとは限りませんが、工夫する中で、新しい発見があることでしょう。ラベンダーの香りにはリラックス効果があると言われています。写真では香りを伝えることはできませんが、潜在的にラベンダーの写真を見ると、心が落ち着きますね。あれこれ悩みつつも、花に癒されながら、楽しく撮影してみましょう。
■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。