神秘的な美しさを持つハス|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~
はじめに
ハスはインド原産の水生植物で、7月から8月にかけ、白やピンクの大輪を咲かせます。仏教では極楽に咲く花として親しまれ、お盆の頃になると生花店に並びます。一度開花すると3日間、午前中に開いては午後にはしぼむという咲き方を繰り返します。そのため、開花のピークは午前中の7時から9時ごろ。ただ、晴れた真夏の日中は日差しが強いので、花に強い影ができやすくなります。私は優しい雰囲気で撮りたいので、薄曇りのような光がやわらかい日を選ぶことが多いです。ハスは水生植物なので、当然、花の下は沼です。花に容易に近づけないことが多いので、遠くの花でも大きく写せるように望遠系のレンズを使うと便利です。もちろん近づける場合はマクロでクローズアップしたり、広角で遠近感を出すといったバリエーションを作ることもできます。
多重露光でボケの彩りを重ねる
ハス畑で周囲にあるのはハスの花と葉っぱのみで、チューリップやバラのように、カラフルな画面を作ることはできません。そこで、多重露光を使って彩りのボケを重ねました。核となる1ショット目のハスの画像は背景を日陰にした黒っぽい背景を選んでいます。この記事の3作品目のような背景です。一方、ぼけの画像は花壇の彩りのある花々をぼかしました。黒い背景を作ると、2ショット目に重ねる色がそのまま出てくるので綺麗に仕上がりやすいのです。豊かな彩りで花を囲むことができました。どんな色を重ねるのがいいかは実際に撮って、試してみるといいですよ。
ハス畑で爽やかな雰囲気に
早朝のハス畑を望遠レンズで切り取りました。6時ごろに撮影したので太陽の位置が低く、逆光で撮ることができました。はじめにハスの開きを考えると、撮影のベストとされるのは7時から9時だと書きましたが、そのころは太陽の位置はかなり高くなっているので、強い光が真上から降り注ぎ、このような爽やかな雰囲気にはなりにくいのです。群生を撮るときは満遍なく咲いている部分を選んでバランスよくフレーミングしましょう。一部だけたくさん咲いていたり、咲いていなかったいという偏りがない方がいいですね。
背景を黒くしてハスを浮かび上がらせる
雨が降る中で撮影しました。ハス畑の奥には林があり、天気が悪いために暗く、実際に写してみると黒になりました。当然、花に露出を合わせるので、光を遮るものがない花と暗い林とでは明るさの差があり、黒く写ったわけです。もちろん、この黒い背景は意図的に選んだもので、黒の中からハスの白さが浮かび上がるように引き立てられて美しく感じられます。しかし、肉眼では黒くは見えないので、どの程度の明暗差があれば黒く写るかは経験で覚えていく必要があります。一枚目の作品は多重露光で撮影したものですが、このような黒バックで撮ると、第二露光で色を重ねやすくなります。
大きな前ボケでハスを包む
大きな前ボケでハスを包みました。前ボケは主役の花より手前側にある花をぼかすことで作ることができ、ソフト感がありながら、花の周囲にある煩雑な茎や葉を隠す役割も果たします。背景ボケを作るのと同じように、望遠系のレンズを使い、絞りを開けるのに加え、前ボケになる花に近づきつつ、主役と前ボケの花が離れているのもポイントです。この4つの要素を満たせば、大きな前ボケを作ることができます。大きなボケが作れても主役がすべて隠れてしまってはいけません。ハスの花の中でも目を引くのは花びらの先端です。全体的にはボケが重なっていますが先端部分はくっきりと見えるようにポジションを細かく調整しています。
前ボケで奥行感を出す
前の作品と同じ前ボケを使っていますが、前ボケの役割が異なります。前の作品では花の形が分からないくらいに大きくぼかし、ソフト効果を引き出していますが、こちらはハスとわかるくらいのボケ量に抑えています。それにより、奥行き感を感じさせることができました。前ボケを作るといっても、このように効果の違う2パターンがあるのです。しかし、どちらも同じ300mmの望遠レンズ、同じF4の絞り値で撮影しています。前ボケになる花に近づけば大きなボケになるし、離れれば小さなボケにとどまります。前ボケになる花との距離感をうまくとりながらボケ量の違いを掴んでいくといいでしょう。
クローズアップして撮る
沼地に咲くハスでは水に阻まれるので容易に近づくことができませんが、鉢植えのハスなので花に近づくことができました。しかし、ひと鉢に一輪咲いている程度で花数は少ないため、花の前後にボケを入れて撮ることはできませんでした。そんなときはマクロレンズでハスをクローズアップしましょう。ハスは花びらだけ写しても綺麗な花です。ちょうど降っていた雨が小降りになったところで、花びらの先端に水滴が付着していました。主役が花ではなく水滴なので、とにかくフレーミングはシンプルにして水滴を目立たせましょう。ここまでクローズアップするとシャープに写る範囲は極めて浅くなるので、ピント合わせは慎重に。多めに撮影しておくと安心ですね。
水に映るハスをハイキーに仕上げる
画像の天地が逆さまのようですが、これは水に映ったハスです。しかし、実際にハスが咲いている沼はたいがい茶色く、こんなに透明感はないですよね。そこはテクニックの使い所です。まず、水面に空が反射した部分を探します。風景で水辺を撮るときはPLフィルターを使って水面の反射を軽減させますが、むしろ反射は大歓迎。晴れていたので青空が水に写っていました。しかし、青空ではなく薄い水色に見えます。これは露出補正を思い切りプラスにしたからです。プラス3EVの補正をかけてハイキーに仕上げました。それでも見えている花の裏側はもともと影になっているので飛んでしまうことはありません。最後にホワイトバランスを3500Kに設定したので、全体的にうっすら水色になっているのです。露出を明るくしただけでは茶色っぽさが残るので、色合いの調整も必要です。このようにして茶色い沼の水が澄んでいるように写るというわけです。
大きく空を入れてハスをシルエットに
日の出間近の朝5時に撮影しました。空は段々と明るくなり始めていますが、地上にはまだ光が差し込まないので、明暗差からハスがシルエットになりました。ハスを明るく写すこともできますが、それでは空が明るくなってしまいます。ここは空に露出を合わせましょう。ハスは開花してから3日間、午前中に開いて、午後には閉じてを繰り返すのですが、開花4日目となると開いたままになり、花びらを落とします。ハスらしい綺麗な形は崩れ、開き切った状態です。隣にあるのは花が咲き終わった後に膨らむハスの種。広角域で空を広く撮影しつつ、花は小さめに。夏の終わりを感じさせる、ちょっと寂しい雰囲気に仕上げました。
さいごに
大きな花は一輪だけでも見応えがありますね。さらに前後にボケを重ねれば華やかな印象に仕上げることができます。花自体が大きいので、前ボケの面積も広くとりやすいです。ただ、水辺に咲くために撮影ポジションが限られるのは難点です。主役と前ボケになる花が一直線に並ぶような場所を探して、前ボケにチャレンジしてみてください。また、大きな花は部分的なクローズアップがしやすく、花びらの美しい色と曲線を強調するように撮影するのもいいでしょう。真夏の花なので、光が強く当たるため、花びらに強い影ができやすくなります。光の弱い天候で撮るか、葉影に咲く花を選ぶなどの工夫も必要です。光の選び方や撮影テクニックを工夫し、神秘的な美しさを持つハスの美しさを引き出してみましょう。
■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。
・日本写真家協会(JPS)会員
・日本自然科学写真協会(SSP)会員