春一番に咲く花 モクレン|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

吉住志穂
春一番に咲く花 モクレン|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

はじめに

春になるとハクモクレン、シモクレン、コブシなどが花を咲かせます。これらモクレン科モクレン属の花々は学名の読み方でマグノリアとも呼ばれています。春先になると枝先に花芽が膨らみ、次々に大きな花が咲いて、木全体を覆い尽くします。開花期は3~4月で、ソメイヨシノよりも少し前に咲くイメージでしょうか。花の美しさもさることながら、樹形も整っているので、観賞用として公園や庭木に植樹されています。また、コブシは日本に自然分布し、早春の山地で白い花が目を引きます。花びらは大きく、厚みがあり、真上に向かって花を広げます。そのため、花を横から見るか下から見上げることがほとんどです。木の花を撮る時は枝の処理に注意しながらフレーミングを行っていきましょう。

青空を撮るときは順光で

■撮影機材:OMシステム E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・12mm・F11.0・ISO200・1/400秒

青空とハクモクレン。澄んだ空に花の白さが冴えています。青空を撮る時は順光がおすすめです。太陽に近い逆光は水色に見えますが、太陽と反対側になる順光は青色が濃く写ります。実際に青空全体を見ると、どこが最も濃いかがわかるので、花だけではなく、背景となる空の状態も観察しましょう。順光の空にはPLフィルターが効果を発揮するので、程よく効果をかければ、青空と白い雲のコントラストが際立ちます。また、広角レンズで見上げることで木が伸び上がる姿を表現することができます。左右対称型になるようなポジションを選び、雲のバランスも考えてフレーミングしました。

影の部分が濁らないようにプラス補正する

■撮影機材:OMシステム E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
■撮影環境:絞り優先・60mm・F2.8・ISO200・1/1250秒

こちらはコブシの花です。コブシとハクモクレンはどちらも白くて似ていますが、コブシは広がって咲くのに対し、ハクモクレンは閉じ気味です。また、コブシの花びらは6枚ですが、ハクモクレンの6枚の花びらと3枚の萼片も含めて9枚に見えます。ハクモクレンに比べるとコブシの方がすっきりした印象ですね。この日は晴れていましたが、枝に遮られて木漏れ日がところどころに射しています。直射日光が当たると光がベタっとして見えるので、これくらい影になっているほうが私の好みです。しかし、影になった部分が濁らないように、+2EV補正をかけて、白さが感じられるように露出を決めています。

なるべく枝や幹の存在感をなくす

■撮影機材:OMシステム E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO200・1/500秒・アートフィルター「ファンタジックフォーカス」

木の花は枝の処理がポイントになります。黒い直線は目立つため、背景になるべく枝や幹が入らないようにしたいものです。そこで、主役にはいちばん外側に咲いている花を選びましょう。しかし、背景に花の色が欲しいとなると、少なからず枝が写り込むので、大きくぼかす必要があります。背景をぼかす4つの要素である「望遠を使う」「絞りを開ける」「花に近づく」「主役と背景が離れた場所を選ぶ」を全て取り入れました。ボケていても黒い直線は目立ってしまうので、枝の面積は極力抑え、画面全体を淡い色で統一させるといいでしょう。

先端に咲いている花を選ぶ

■撮影機材:OMシステム OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO200・1/640秒

枝が入らないようにするためにいちばん先端の花を選んでいます。主役の花には光が当たり、背景の木々は逆光で影になっていたので、主役に露出を合わせると、明暗差から背景は黒く写りました。しかし、背景が平面的な黒一色では寂しいので、輝きを感じる丸いボケを入れています。このボケの正体は木々の木漏れ日の部分で、花とうまく重なるように上下左右に細かく動いて、ポジションを選びました。ハクモクレンは白いのでプラス補正が必要と思いきや、背景が黒いので、白と黒の面積を足すと約半々になります。そのため、補正なしで適正露出となりました。

花に厚みがあるモクレンは大幅にプラス補正

■撮影機材:OMシステム E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO200・1/800秒・アートフィルター「ファンタジックフォーカス」

モクレンで前ボケを作るのはなかなか苦労します。桜のように花の重なりが少ないので、前ボケを入れたとしても部分的になりがちで、前ボケの面積を広く作りにくいのです。できれば2、3輪の花の並びを前ボケにしてボケの面積を出したいですね。それと、花自体に厚みがあって、手前側が影になりやすいのです。前ボケは明るく柔らかに表現したいので、暗い色は避けたいもの。主役が白く飛ばない程度に、露出を明るめに仕上げるといいでしょう。ここでも+2.7EVの補正をかけて、かなりハイキーに写しています。

ローキーは光の見極めが大切

■撮影機材:OMシステム E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
■撮影環境:絞り優先・60mm・F4.0・ISO200・1/4000秒

夕暮れの光を浴びた様子を表現するために、露出をかなりアンダーにしています。ハイライトを強調したいので、−1.7EVの補正をかけていますが、ただ暗くすればローキーの写真になるわけではありません。光の当たったところと、当たってないところという明暗差が必要になってきます。露出はハイライト部が見た目に近い明るさになるように調整して、ここではその結果が−1.7EVでした。光が当たってない部分や背景はハイライト部との明暗差から暗くなるので、暗い中に明るい部分だけが目立ちます。明暗差のない部分でただ暗く写すと、露出アンダーの失敗写真になるので、光の見極めはとても大切です。

広角レンズで迫力を出す

■撮影機材:OMシステム OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・12mm・F16.0・ISO800・1/200秒

東京の新宿御苑には各所にハクモクレンの木が植えられています。中でもこの古木は江戸時代に植栽され、都内随一の巨樹と言われています。木を離れた位置から見るのも良いですが、内側に回り込んでみると、頭上に広がる枝いっぱいに花が咲き、圧巻のひとことです。ポイントは左右の幹で、この2本を左右対称に置いてバランスをとっています。また、広角レンズで狙うことで遠近感が生まれ、左右は低い位置の花を、中央は高い位置の花が入るようにフレーミングしました。すると、見る人の視線が自然と中央へ向けられます。

広角レンズの遠近感でメリハリをつける

■撮影機材:OMシステム E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・21mm・F2.8・ISO200・1/500秒・アートフィルター「ファンタジックフォーカス」

広角レンズで低い位置の花に迫り、見上げました。すると、主役はアップで写せますが、画角が広いので周囲の木々が写り込み、花の賑わいを感じます。広角は遠近感もつくので、主役は大きく、周囲は小さくというメリハリも出ますね。主役の花と周囲の花が重ならないように注意してフレーミングしました。太陽側の空を見上げているので自然と逆光になるため、手前側が暗くなります。逆光の空は白っぽく写るうえ、手前側が影になって暗く写らないようにしたいので、+2,7EVという大幅な補正をかけています。明るい雰囲気が春らしく爽やかです。

まとめ

春になると桜の開花が気になりますが、それよりひと足早く咲くモクレンもまた素敵な花ですよね。ハクモクレンやシモクレンは公園などでよく見かけますし、マグノリアを集めた植物園もあります。花びらに厚みがあるので、曇った日はどことなく色が濁って見えますので、晴れた日や薄曇りの日がおすすめです。特に、青空との組み合わせは最高です。光の違いでバリエーションが作れますので、順光、逆光、柔らかな光、夕暮れの光など、シーンを変えて楽しんでみてください。

 

 

■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。

 

 

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