ネモフィラの丘|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

吉住志穂
ネモフィラの丘|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

はじめに

ゴールデンウィークの頃に合わせて、各地にある大規模な公園では広大な敷地を利用して、ネモフィラを栽培しているところが増えましたね。国内にとどまらず、外国人観光客にも人気があり、見頃の頃は多くの人で賑わいます。ネモフィラの花一輪は小さく可憐ですが、群生になるとそれは見事で、まるで青い絨毯を広げたようです。群生のボリューム感を出すために、なるべく広く撮りたいところ。しかし、人気観光地となれば観光客や人工物が写り込んでしまいます。これらを避けながら、いかに多くの花を写せるかを工夫することが大切です。今回はネモフィラを題材に、群生した花の撮り方と群生の中から一輪の主役を見つけるというテーマでお話をしていきます。アングルやレンズの選択、被写体との距離を変えながら、さまざまな捉え方でネモフィラ畑の魅力を引き出してみましょう。

「国営ひたち海浜公園」みはらしの丘

■撮影機材:OMシステム E-M1+ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・12mm・F8.0・ISO200・1/250秒

ネモフィラを一躍有名にした、茨城県にある「国営ひたち海浜公園」のみはらしの丘です。開花期が大型連休と重なることもあり、絶景をひと目見ようと絶えず丘に人が列を作っていました。花畑全体を撮りたいところですが、「広角の引き」ではどうしても人が写り込んで普通の観光写真になってしまいます。そこで、斜面の高低差を利用して、ネモフィラを下から見上げつつ、「広角の寄り」で撮影しました。すると、手前の花が奥を歩く人々を隠して、人がいない様に写すことができました。下から見上げることで青空も入ってきましたね。ネモフィラの花色は青空との相性抜群です。

明暗差を利用して主役を目立たせる(1)

■撮影機材:OMシステム  E-M1 MarkII+ M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F3.2・ISO200・1/1250秒

明暗差を利用して主役を目立たせてみましょう。ネモフィラ畑は青一色なので色の差を出すことはできません。しかし、日向と日陰を取り入れれば、濃度の差を作ることができます。主役の部分は木陰にあるので日陰になり、背景は日陰から抜けた日向の部分です。日陰は暗いですが、露出補正をプラスにすれば明るく写すことができます。ここでは+1.7EVという大幅なプラス補正をかけました。プラス補正をかけたことで、もともと明るい日向はより明るく、白っぽく写ります。そのため、主役は水色で背景は薄い水色になっているのです。日陰なので花びらも柔らかな優しい印象に見えますね。

明暗差を利用して主役を目立たせる(2)

■撮影機材:OMシステム OM-1+ M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO400・1/8000秒

こちらも明暗差を利用した作品ですが、前の作品とは逆に主役は日向、背景は日陰です。主役に比べて背景が暗いので、黒く写っているのです。黒いとはいえ、肉眼では黒く見えているわけではなく、実際には濃い緑色程度に見えています。人間の目よりも、写真で再現できる階調は狭いので、目ではトーンが見えている部分も黒くつぶれて写るのです。それを利用して黒バックを作り出しているので、決して黒いものを背景に入れる必要はありません。どの程度の明暗差があれば黒く写るのかは実際に写して、再生して確認しましょう。経験が積まれていけば、どれくらいの明るさの差があれば黒く写るかの判断ができる様になります。

たくさんのネモフィラの密集感を出して撮る

■撮影機材:OMシステム E-M1+M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・100mm・F4.0・ISO200・1/2000秒

たくさんのネモフィラが密集して咲いているのが伝わりますね。密集感を出すには望遠系のレンズを使うのがポイント。望遠レンズには圧縮効果と言って、前後の花がぎゅっと詰まった様に写る特徴があります。また足元近くの花を見下ろすよりも、遠くの花畑を狙った方が花の重なりを感じます。1枚目の作品は「広角で寄る」でしたが、こちらは「望遠で引く」です。望遠で寄るとクローズアップになりますが、望遠で遠くを引いて撮影しているので花畑の花を多く入れることができます。それでいて、広角で引くよりも部分的に写せるので人や人工物を入れずにフレーミングできるというわけです。

群生の中から三輪ほどを主役にする

■撮影機材:OMシステム E-M1+ M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO200・1/3200秒

群生の中から三輪ほどの花々を主役にしました。花がたくさんある中で、主役を目立たせるのはとても難しいものです。ピントはもちろん主役に合わせますが、あちこちに視線がいかないよう、主役以外の花にはピントを合わせない工夫が必要です。まず、たくさん花がある中で、どんな花を主役に選ぶかというと、背の高い花がおすすめです。他の花より抜きん出ているので目立ちますよね。その主役をより目立たせるべく、前後を大きくぼかしましょう。望遠系のレンズを使い、アングルを下げると、手前の花や奥の花がボケてくれます。主役を探すときの立った位置からではなく、低くしゃがんで自身の視線を下げると、ぴょこっと飛び出した花をかんたんに見つけることができます。

花びら全体が白いネモフィラ

■撮影機材:OMシステム E-M1+ M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO(テレコンバーターMC-14使用)
■撮影環境:絞り優先・210mm・F4.0・ISO200・1/1600秒

ネモフィラにも種類があって、青色の品種はインシグニスブルーと呼ばれ、花びらの先は青く中心部が白いタイプです。写真のような花びら全体が白いインシグニスホワイトや、花びらの先端に紫色の点があるマクラータ、黒色の品種もみられます。青色がメジャーなので、違う品種を見つけると珍しくてつい撮りたくなります。この作品では主役が白色なので背景に青空を入れて目立たせました。ボケの中から顔を出す様に咲く姿がかわいらしいですね。望遠で撮影しているのですが、もっと寄って大きく写すこともできますが、あえて小さく写し、背景の面積を広くとっています。そのわけは“ポツン感”を出したかったためです。小さい花は画面上でも小さく写した方が、可憐な雰囲気に仕上がります。

ネモフィラとテントウムシ

■撮影機材:OMシステム E-M1 MarkII + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・12mm・F2.8・ISO200・1/1250秒

花と昆虫はとっても素敵なコンビです。花と青空、白い雲と、昆虫がいなくてもまとまりがある画面になっていますが、そこにテントウムシが入ることで、より目を引く作品になりました。花も空も青いので、ここで赤い色が一点入るとポイントになりますよね。しかし、昆虫は動き回るので、とにかくたくさんシャッターを切って、ベストな一枚を選びましょう。私は普段から、花ばかり撮影しているので動く被写体は苦手なのですが、昆虫の頭部にピントを合わせるべく、オートフォーカスでも細かくピントを合わせ直し、多めに撮影して、撮影後には必ず拡大してチェックしています。

花畑と一本の木

■撮影機材:OMシステム E-M1 MarkII+ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・15mm・F2.8・ISO200・1/1250秒

主役は緑鮮やかな一本の木ですが、ネモフィラが効果的な働きをしています。ネモフィラが手前でボケていますが、前ボケはソフトな効果をもたらせるだけではなく、奥行きを感じさせることができます。花畑全体がシャープだと平面的に感じられますが、手前がボケて奥がシャープということから距離の差を感じるのです。また、広角系の焦点距離を選んでいるのもポイントで、広角は遠近感がつきやすくなります。望遠の様な大きなボケは得られませんが、花に迫って絞りを開ければボケを作ることはできます。ボケが作り出す奥行き感、広角の遠近感で画面に手前から木へ向かっていく流れが生まれました。

さいごに

遠近感を活かす「広角で寄る」、密集感を強調する「望遠で引く」、クローズアップで可憐さを引き出す「望遠で寄る」を使い分けると、いろいろな表情が見えてきますね。それに加えて、「主役は日陰、背景は日向」「主役は日向、背景は日陰」の明暗差を利用する撮り方にも挑戦してみましょう。ネモフィラは小さな花なので一輪としての存在感は強いとは言えませんが、密集して咲く花畑の広がりはまさに絶景です。5月の爽やかな青空のもとで咲く姿を見ると心も躍ります。ぜひお近くのネモフィラ畑を探して、撮影してみてください。

 

■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。
・日本写真家協会(JPS)会員
・日本自然科学写真協会(SSP)会員

 

 

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