桜の撮影は引き出しを多く持つことが大事|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

吉住志穂
桜の撮影は引き出しを多く持つことが大事|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

はじめに

桜が満開になるのも、もうすぐですね。みなさんは撮影の計画などされているでしょうか。ひとくちに桜を撮るとは言っても、撮り方はさまざま。漠然と向き合うだけではなかなかうまくいかないこともあります。そこで、事前に撮りたいイメージを持っておきましょう。こんな写真が撮りたいなというパターンをいくつか頭に入れておくのです。撮る時に、光、時間帯、構図というような撮影に必要な要素を思い出せるようにしておきましょう。ただ、天候や桜の状態など、まったく同じようにはいきません。しかし、引き出しを多く持っておくことで柔軟に対応できるようになります。今回はいくつかのパターンをお見せしますので、ぜひ今年の桜撮影に活かしてみてください。

太陽の位置を確認する

■撮影機材:OMシステム E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・12mm・F18・ISO200・1/20秒・PLフィルター

青空を見上げると色の濃さに違いがあるのがわかります。太陽との位置関係によって青色の濃度が変わるのですが、太陽に近い逆光側は薄い水色に見え、太陽の反対側となる順光では青色が濃くなっています。また、地上に近い、低い部分よりも天を見上げた高い部分の方が濃く見えます。そのため、順光で桜を見上げて撮ると濃い色の青空を背景にすることができます。また、PLフィルターを使用するとより鮮やかになり、白い雲とのコントラストも強調することができます。標準ズームの広角側を選び桜の枝の広がりを感じさせつつ、順光を選んだことで青空も桜もくっきり写っていますね。

望遠レンズの特性を活かす

■撮影機材:OMシステム E-M1 Mark III + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F14・ISO200・1/20秒

桜並木を望遠レンズで狙いました。望遠の画角は“圧縮効果”と言って、被写体同士が密集しているように感じさせる効果があります。そのため、並んだ桜がぎゅっと密集しているように感じます。しかし、望遠ではボケが多くなるので、F14まで絞って奥側のシャープ感を増しています。八重の桜が濃いピンク色だったので、濃淡混ざり合って可憐な色合いになっていました。光を見ると、前の作品とは真逆の曇天です。やわらかな光はコントラストを抑え、優しい雰囲気を感じさせてくれます。ただ、色が濁りやすいので、明るめの露出を選択するといいでしょう。ここではプラス1.7EVの補正をかけて実際よりも明るめに写しています。

マクロレンズで旬の花を選ぶ

■撮影機材:OMシステム OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
■撮影環境:絞り優先90mm・F3.5・ISO200・1/200秒

桜は形が綺麗なので、クローズアップで写すのもいいですね。枝が写らないよう、枝先の花を選んで、マクロレンズで迫りました。ここまで寄ると背景は大きくボケるのですが、アップにするほど粗が目立つので、傷みや花びらの欠損がない、旬の花を選びましょう。ピントは雌しべの先端あたりに合わせておくと自然です。天気が良かったので日差しはたっぷりあったのですが、この木のいちばん下側の花を選んでいるので、きつい直射日光は遮られ、木漏れ日がところどころに差し込む程度のやわらかな光になりました。日陰の花も曇りの時と同じように色が濁らないよう、ここではプラス2EVの補正をかけてハイキーに仕上げています。

はじめに背景を探す

■撮影機材:OMシステム E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO200・1/400秒

枝垂れ桜をクローズアップしました。春はナノハナ、スイセン、ヤマブキなど黄色い花が多く見られますが、この黄色い背景はレンギョウです。公園の生垣として植えられていたもので、それを背景に利用しました。ピンクと黄色は華やかなので大好きな組み合わせです。桜をアップで写したとき、主役と背景が淡いピンクの桜どうしでは、背景が単純な白だけになってしまいます。濃いピンク色の桜や、周囲にある色の鮮やかな花を探してみるのもいいですね。先に主役にする桜を選ぶのではなく、まず背景になりそうな花を選び、その近くにある桜の中で主役になりそうな部分を探すという手順でやってみてください。

逆光で軽やかに

■撮影機材:OMシステム PEN E-P5 + M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8
■撮影環境:絞り優先・17mm・F1.8・ISO200・1/5000秒・アートフィルター「ファンタジックフォーカス」

八重桜はぼってりとした姿が愛らしいですね。しかし、花びらが重なっているので、重たい雰囲気にならないように明るく写し、ソフト効果のかかるアートフィルターを使用しました。1枚目の作品と同じ青空バックですが、こちらは逆光気味なので背景が水色に近い、淡い色で写っています。くっきりと鮮やかに写したい時は順光がお勧めですが、軽やかな雰囲気を出したい時は逆光の空を背景にするという手もあります。画面の上が太陽に近い側なので薄く、そこから離れた画面下ほど濃くなっていくのがわかります。桜をどのように表現したいかで光の方向、露出などの選択を変えてみましょう。

避けられない人工物は工夫して取り入れる

■撮影機材:OMシステム E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO200・1/640秒

都内を流れる神田川沿いの桜を写しました。桜は見事なのですが、両岸が護岸され、人工物が写り込んでしまいます。そこで、桜には光が当たり、護岸壁は日陰というシーンを選んで撮りました。すると、桜と背景とで明暗差ができるので、日の当たった桜に露出を合わせれば、背景の壁は自然と暗く写るというわけです。コンクリートの壁も黒くなったらわかりませんね。また、前ボケ、背景ボケの面積を増やし、なるべく桜で壁を隠しました。このように、家の近くの桜でも工夫次第で綺麗に撮ることができます。美しい部分を探して、うまく切り取ってみましょう。

大きな前ボケでふんわりと

■撮影機材:OMシステム E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
■撮影環境:絞り優先・60mm・F2.8・ISO200・1/125秒

マクロレンズで一輪だけをクローズアップしました。周囲のふわふわした部分は前ボケで、数輪の花の隙間から覗くように撮っています。前ボケを作る場合は主役と前ボケになる花との距離が離れていないと大きくボケません。また前ボケの花にはうんと近づくことで大きなボケが得られます。使用するマクロレンズも標準系より、中望遠や望遠系の、焦点距離の長めのものがお勧めです。しかし、ここまでクローズアップするとピント合わせがかなりシビアになるので、いつもよりピントは慎重に合わせましょう。多めに撮っておくのと、撮影したら再生して拡大しての確認をすると安心です。

長めのシャッタースピードはやはり三脚が安心

■撮影機材:OMシステム E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・52mm・F8.0・ISO200・4秒

月と桜の風景です。日没後、空が真っ暗になるまで1時間ほどかかります。日没時にはオレンジ色の夕焼け空だったのが、時間が経つにつれて青に変わり、そして真っ黒な夜空へと変化します。青く見えるのはホワイトバランスで調整したものではなく、自然の色なのです。撮影したのは日没から20分ほど経ったころでした。太陽の光が届かないのに桜の姿が写っているのは月明かりに照らされているわけではなく、空の反射など、辺りがまだほんのりと明るいためです。それでもけっこう暗いので、カメラを三脚に据え、4秒という長めのシャッター速度で撮影しています。手持ちでも撮影できますが、感度を高くすると画像が粗くなるので、三脚を使用した方が綺麗に写ります。

まとめ

春になると桜の開花情報が毎日のように報じられ、満開の日がいつになるのかとそわそわしてしまう方も多いのではないでしょうか。毎年見られるとはいえ、日本人にとって、桜は特別な存在と言えます。桜前線を追いかけて撮影の旅に出かける方、家の近くの桜をじっくり撮られる方、さまざまだと思います。どこのどんな桜であっても、目の前の桜に対し、自分がどう撮りたいのかを考えることが大切です。そして、それに合わせることができるよう、テクニックの引き出しを多く持っておかなければなりません。まずはトライ。たくさん撮って、考えて、また撮って。桜が見せる多様な姿に対応するべく、ご自身の引き出しを増やしていってみてください。

 

 

■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。

 

 

関連記事

人気記事