OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8で描く旅と日々|クキモトノリコ
はじめに
数ある単焦点レンズの中でも、50mmという焦点距離のレンズはフィルムカメラ時代から「標準レンズ」と言われており、「単焦点レンズの1本目は50mmを買うべし」と言われた方も多いのではないでしょうか。
OM SYSTEMが採用しているマイクロフォーサーズ規格のセンサー(17.3mm×13mm)は、フルサイズ(36mm×24mm)と比較してその対角長が約半分、つまりイメージサークルが約半分であり、フルサイズと同じ画角を得るためには1/2の焦点距離を持つレンズが必要となります。そこで「(フルサイズでの)50mmの画角」をマイクロフォーサーズで得るには、焦点距離が半分である25mmのレンズが必要となります。上記のことから、M.ZUIKO DIGITAL (以下、本文中ではMZDと表記) 25mm F1.8は、マイクロフォーサーズ規格においてはいわゆる「標準レンズ」と位置付けられるものとなります。発売は2014年2月と10年近く経ちますが「標準レンズ」として愛用され続けてきているこのレンズを、最新機種のカメラで改めて使ってみました。それを筆者の所感を交えた旅と日々のスナップでご紹介します。
尚、OM SYSTEMには、PROシリーズに同じ画角の25mmで開放絞りがF1.2のレンズがありますが、今回は開放絞りがF1.8のPREMIUMシリーズに属するレンズのレビューです。
「標準レンズ」と呼ばれる画角を楽しむ
「標準レンズ」と言われる所以は諸説あるようですが、そのうちのひとつに「肉眼に近い写真が撮れる」という説があります。ただ、50mmの画角と肉眼での視野とを比べると、圧倒的に後者の方が広いことがわかります。一方で「注視していない時に視認できる視野に近い」という説や「奥行き感が肉眼に近い」という説などもあり、個人的にはこの点に関して「肉眼での見え方に近く、自然に感じられる」ように思います。
いずれにしても長らく「標準レンズ」と呼ばれて愛されてきたこの画角には、それだけの理由があるはずです。それを探るべくいくつかのシチュエーションで撮影してみました。
自然に感じられる奥行き
上記の通り、個人的にこの画角は「奥行き感が肉眼に近い」、つまり遠近感に関して違和感なく受け入れられることが多いように思うのですが、勿論それは撮り方次第で変わり、常にそのように感じられるわけではありません。基本的に被写体とある程度の距離をおいて撮影すると、このように感じられます。
夕暮れの京都・嵐山の渡月橋を望んでほんのり染まったサーモンピンクの空と、それを映す川面を撮影。手前にボートを入れましたが、ボートまでの距離があることから特別デフォルメされたりすることもなく、画面全体として極端な遠近感や圧縮効果が感じられることなく収まっています。
瀬戸内を一望できる高台の休憩所には、海に向けて椅子が並べられていました。そばには休憩所の屋根にまで覆い被さるような大きな木。椅子の並びを伝えつつ、背景の海とその向こうの島影、傍の木の大きさまでがしっかり伝わる1枚を、この場に到着した際の印象に近い遠近感でまとめられました。
兵庫県西部に位置する坂越(さこし)にある大避(おおさけ)神社の随神門から海を望んで。この随神門は、大避神社が神仏習合時代には裏手にある妙見寺と一体だった歴史から、表に神社を守る随神像、裏に仁王像がそれぞれ左右に安置されている珍しい門です。ここから海を望むと短い距離で海抜が上がることがわかるとともに、海の向こうの生島までの距離も近いことが見て取れます。全体として伝えたいことが伝わりやすい奥行きでまとまっています。
同じく兵庫県西部、赤穂市にある伊和都比売(いわつひめ)神社にて。鳥居の先は階段になっており、まるで鳥居のすぐ前に海が広がっているように見えます。ちょうど通りかかった漁船が鳥居の前にやってくるのを待ってシャッターを切りました。鳥居と海をゆく船のバランスが程よく画面に収まっています。
大阪市内をてくてく歩いていると、土佐堀川越しに天神橋を眺めるスポットに出ました。実際の視野は前述の通りもっと広いわけですが、あとからどんなものがあったかなど、思い返した際に浮かぶ景色、つまり記憶に近い画角のように感じられます。
尚、大阪は「水の都」と呼ばれるほどに水路と橋が多い街ですが、この場所で思い浮かんだのはフランスのパリ。左手の中之島がシテ島に、正面の天神橋がポン・ヌフに……見えませんか?(笑)
奥行きを強調する
単焦点レンズは自分が被写体に近づいたり遠ざかったりすることで、被写体の大きさや背景の入り方が変わります。25mm(35mm判換算50mm)という画角は自然な奥行き感を表現してくれる、という点が大きな特徴のひとつですが、カメラと被写体、そして背景との距離感によっては奥行きを強調することも可能です。
川岸の手すりにずらりと並ぶカモメに混じって一羽だけ違う子が (笑)。 人馴れしているようで、近づいても逃げないので彼らの規律を邪魔しない程度に寄ってみました。被写体に寄って大きく捉えつつ、長く続く遊歩道を入れることでこの画角でもしっかり奥行きが感じられます。
午後の斜光が正面からさす時間帯。飲食店が立ち並ぶ通りで、西陽が当たってキラキラと光る灰皿の金属感に目を奪われました。背景を大きくぼかしながらも縦構図で奥行き感を持たせて「いい光の時間」であることを伝えています。
奥行きをあまり感じさせないように撮る
今度は被写体に近づいて画面内での面積を大きくしたり、被写体に近づいた際の背景に遠景を入れないようにすることで、あまり奥行きを感じさせない写真となります。
神戸の路地裏をスナップ。店先の奥行きがない場面で可愛らしい木の看板にぐっと寄って撮影、看板の面積を大きくすることで主役をはっきりさせました。尚、日本語のものが入らないようにすることで外国っぽい印象となります。
異人館で有名な神戸・北野の夕暮れ時。ガス灯を模した街灯と狭い車道を隔てた教会の尖塔を組み合わせました。ピントは手前の街灯に合わせ、後ろの教会が大きくボケないように絞りをF5.6に設定。背景が空のみ故に奥行きを感じさせない1枚となりました。
開放絞りF1.8のボケ感
絞りは大きく開く(F値を小さくする)ほど、被写界深度が浅くなりピントの前後が大きくボケますが、本レンズの一番小さな絞り値(開放F値)はF1.8。同じF1.8でも、そのボケ加減は焦点距離によって変わる(焦点距離が長くなるほど大きくボケる)とともに、同じレンズでも被写体との距離感や背景の奥行きによっても変わってきます。
更に、同じ絞り値の場合において、センサーサイズが大きいほどボケは大きくなるもの。センサーの小さなマイクロフォーサーズは、フルサイズと比較すると確かにボケが小さくなるのは事実ですが、では「マイクロフォーサーズはボケない」と言い切れるのかどうか。いくつかのシチュエーションで撮影してみました。
スマートフォンのカメラを起動してイルミネーションにかざし、カメラ側のピントはスマホの画面に。スマホ画面内の巨大なツリーのイルミネーションがスマホの背後で大きな玉ボケとなっています。玉ボケはある程度の大きさが得られていますが、画面端のボケには口径食が認められます。
多くの人で賑わうクリスマスマーケットで、背景の人混みをできるだけボカすべく絞りは開放で撮影。灯り始めた明かりが画面中央付近では、ほぼまぁるい玉ボケとなっています。
食事をしたお店のシャンデリアが素敵でした。店内奥は大きくボケるとともに、画面端の玉ボケは同じく口径食が認められるものの、ピントの後ろ、小さいですが中央の玉ボケは綺麗な円形となっています。
水に浮かんだモミジの葉にできるだけレンズを寄せ、水に映る紅葉を背景に撮影。水面の映り込みは大きくボケていますが、水面のゆらぎも感じられます。全体的に大きなボケの中でピントの合ったモミジの葉が浮かび上がるとともに、水面の映り込みはそのゆらぎの効果もあって赤やオレンジ、緑の絵の具で描いた水彩画のような表現となりました。
歩道の植栽越しの街灯にピントを合わせることで手前の葉と花を前ボケに。前ボケは、ぼかしたい対象物をレンズの前にできるだけ近づけることでより大きなボケとなります。
レトロな町の路地で出会った猫。首輪はないものの、人に慣れているのかとてもフレンドリーで近付かせてくれました。背景の建物は様相がわかる程度のボケ感です。
紅葉シーズンはとっくに過ぎていたものの、足元にモミジの葉を一枚のせたうさぎさんと背後に灯籠が入るようにフレーミング。この構図で撮るためには、うさぎさんから少し離れることになり、この距離だと背景はさほど大きくボケている印象とはなっていません。また遠方の玉ボケも小さなものとなっています。
暗所撮影で活躍してくれる明るいレンズ
絞りを大きく開くことができるということは、それだけたくさんの光を取り込めるということ。つまり、光が少ない暗い場所でも集光能力が高く、その分シャッター速度を速めて手ブレや被写体ブレを軽減できるメリットがあります。さらにカメラ側の手ブレ補正機能の助けも借りることで、暗い場所での手持ち撮影を容易にしてくれます。
また逆にしっかり絞り込むことで点光源に光条(光芒)が現れ、華やかな印象の写真となります。この光条の本数は絞り羽根の枚数で変わるのですが、本レンズの絞り羽根は7枚。この枚数が奇数の場合、光条の数は羽根の枚数の2倍になるので、本レンズでの光条は14本となります。(尚、絞り羽根が偶数の場合は羽根の枚数と同じ数の光条となります)
あかりが灯り出した倉敷・美観地区で町並みの様子がわかるようにF2.8に絞って手持ち撮影。ISO感度は640とそこまで高くないですが、1/160秒でシャッターが切れました。
夕闇が迫る中、絞りは開放からカメラのダイヤルひとつ分絞ったF2.0ですが、ISO400で1/640秒と安心して手持ち撮影ができました。
絞りをF10以上に絞り込み、街灯や高速道路上の灯りに光条が出るように撮影。前述の通り、14本の光条が確認できます。(どちらも三脚を使用)
旅行にもピッタリ!食事の場での撮影
MZD 25mm F1.8は非常に扱いやすい、画角の明るい(集光能力が高い)レンズであり、さらにレンズ本体のサイズが小さいので高倍率ズームレンズと組み合わせることで旅レンズとしてもオススメです。旅先で撮りたい写真のひとつに必ず入るであろう「ごはんの写真」。食事場所が室内で、時間帯的にも暗い。旅先のみならず日常も含めてそんなシチュエーションでも活躍してくれるレンズです。
ホテルの朝食のスクランブルエッグを着座のまま撮影。極端にボカしたいわけではなかったため、被写界深度を確認しながら絞りはF2.8で落ち着きました。
姫路名物「アーモンドトースト」のモーニングセットをレトロな喫茶店でいただきました。お店のレトロ感も画角に入るように意識して撮影しました。
テーブル上のお料理全体をフレームに収めるためにはこのレンズの画角では少し狭く、椅子から少し立ち上がって撮影しました。
デザートプレートがまるで顔のようで可愛らしく、顔の表情を伝えるために立ち上がって俯瞰で撮影しました。
まとめ
2014年2月に発売されたMZD 25mm F1.8は、ミラーレス一眼(当時のオリンパス社での呼称はマイクロ一眼)として発売されたOLYMPUS PENの初号機であるE-P1の登場(2009年7月)から5年近くもの時を経て発売された単焦点レンズ。先に、MZD 17mm F2.8(2009年7月)、そしてMZD 17mm F1.8(2012年12月)と、35mm判換算で34mm、フルサイズカメラでの35mmに近い画角のレンズが相次いで先に発売され、(35mm判換算で)50mmのレンズはまだか、まだかと長らく望まれていたことを今でも覚えています。
そうして待ち望まれた発売から10年近くが経過。後にはMZD ED 25mm F1.2 PROという、美しくにじむボケを実現してくれるレンズも発売され、マイクロフォーサーズ機においてもより大きなボケを得られるようになりました。その点において、本レンズは「とろけるような大きなボケ」を期待できない側面はあるものの、レンズ本体の大きさ・軽さ・価格という点で3拍子揃った「手軽な標準レンズ」と言えます。
カメラ初心者さんの「初めての単焦点レンズ」としてオススメできるとともに、中・上級者さんもその日に使用予定がなくともカメラバッグの隙間に入れておきたい1本です。
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員