OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL ED 75mm F1.8で描く旅と日々|クキモトノリコ
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はじめに
現在、OM SYSTEMの単焦点レンズのうち、PREMIUMシリーズで最も焦点距離の長いレンズがこのM.ZUIKO DIGITAL ED 75mm F1.8です。前回の記事でも書きましたが、OM SYSTEMはマイクロフォーサーズ規格のセンサー(17.3mm×13mm)を採用しています。これにより撮影時の画角(ファインダーを覗いた時や液晶モニターに映し出される画角)は、同じ焦点距離のレンズをフルサイズ(36mm×24mm)のカメラに装着したときよりも狭くなります(焦点距離の2倍相当)。ですので本レンズの場合、フルサイズで150mmのレンズと同等の画角になります。
通常、150mmの画角の単焦点レンズと聞くと「大きい」や「重たい」イメージの方も多いのではないかと思いますが、そこは小型・軽量が強みのOM SYSTEM。重さは305gとOM SYSTEM PREMIUMシリーズの中では一番重たいものの、
PROシリーズの単焦点レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO (390g φ68.2×87mm)
PROシリーズのズームレンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO (382g φ69.9×84mm)
と比較すると80gほど軽く、大きさ(φ64×69mm)もひと回りほど小さいので、女性の掌にも収まる大きさです。また本レンズは長年に渡って画質の良さで高評価を得ており、発売(2012年7月 ※ブラックは2013年6月)から10年が経とうとする今でも、OM SYSTEMレンズの中で1、2を争うと言われるほどの画質の良さを誇っているのも大きな特徴です。
レンズ本体の造りは金属外装で、別売の専用レンズフードも金属製と「上質なレンズ」を体現したものとなっています。
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さて、この150mmの画角を持つ単焦点レンズで何を撮りましょうか。一般的にはポートレートが真っ先に思い浮かびそうですが、ここは敢えて150mm画角でのスナップ撮影がどんなものなのか。今回も旅と日々のスナップでご紹介します。
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■撮影環境:A(絞り優先), F1.8, 1/320秒, -1.0段, ISO 500, WB 日陰, Natural
解像度の高さを楽しむ
マイクロフォーサーズはセンサーサイズが小さいためどうしても画質面で不利と言われる中で、上記の通り解像度の高さには定評のある本レンズ。実際にどうなのかを見てみましょう。
大きなダルマに囲まれて、ちょこんと鎮座していた小さなダルマさん。ピントを合わせた目を拡大してみると、願い事が叶って書き足した際のマジックペンの筆跡がしっかり見て取れます。
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■撮影環境:A(絞り優先), F1.8, 1/1000秒, 0.0段, ISO 200, WB 晴天, Natural
水面の揺らぎと背景のボケもなんとも綺麗ですが、ピントを合わせた紅葉の後ろの石の表面が非常にリアルで、拡大するとその粒ひとつひとつまでが鮮明に描写されています。また、背景の大きくて綺麗な丸い玉ボケも印象的です。
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■撮影環境:A(絞り優先), F1.8, 1/640秒, 0.0段, ISO 400, WB 晴天, Natural
日没後の薄暗い軒下の提灯は、その紙質や垂れ下がる紐の質感がよく伝わってきます。
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■撮影環境:A(絞り優先), F1.8, 1/320秒, -1.7段, ISO 800, WB オート, Natural
夕暮れの街灯にピントを合わせましたが、灯を覆うカバーも含めて蜘蛛の巣が張り巡らされている様子が見て取れます。
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■撮影環境:A(絞り優先), F5.6, 1/50秒, +0.3段, ISO 1600, WB 曇り, Natural
兵庫県西部、赤穂市にあるきらきら坂から瀬戸内海越しに対岸の家島を臨んで。家島までは地図上で調べて約11km離れているのですが、海岸線から高台まで広がる住宅地や、採石の島らしく山肌が削られた跡なども確認することができます。
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■撮影環境:A(絞り優先), F8.0, 1/500秒, +0.7段, ISO 400, WB 晴天, Natural
開放絞りF1.8のボケ感
開放絞りはF1.8ですが焦点距離が長いこともあり、非常に大きなボケが得られ、背景が大きくボケる故に、ピントを合わせた主題がはっきりと浮かび上がります。また、75mm(35mm判換算150mm)という望遠に相当する焦点距離だからこそ、同じ条件下で焦点距離が短いレンズと比べて玉ボケの大きさも大きくなります。
少し距離のある紅葉を選んで撮影。お寺の山門の焦茶と、奥の緑の大きなボケがオレンジ色の紅葉を引き立ててくれています。また明るいグレーの屋根瓦が、距離があるために小さなボケとなっていますが、規則正しくきれいに並んでいることがわかります。
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■撮影環境:A(絞り優先), F1.8, 1/1600秒, -1.0段, ISO 200, WB 曇天, Natural
今度はできるだけ紅葉を大きく捉えてみました。背景のボケの中には大きくてきれいな円形ボケが。ピントのあった葉が浮かび上がるとともに、ここでも解像度のよさがしっかり感じられます。
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■撮影環境:A(絞り優先), F1.8, 1/500秒, +0.3段, ISO 400, WB 5000K, Natural
西陽に照らされたススキの穂がキラキラとしていたので、手前のススキにピントを合わせると、奥のキラキラが大きくてきれいな丸い玉ボケになりました。
尚、風で揺れるススキにピントを合わせるのはなかなか根気が要ります。私はカメラ側の設定としてAF方式を「S-AF+MF」にしてオートフォーカスベースにマニュアルフォーカスも併用していますが、本レンズはピントリングが大きくて滑らかに動くのでMFの操作がしやすく、またフォーカスピーキングをONにしておくことでピント合わせがとてもしやすくなります。
さらにレンズの表面に施された「ZEROコーティング」により、このような逆光下でもゴーストやフレアがかなり抑えられています。
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■撮影環境:A(絞り優先), F1.8, 1/2500秒, -0.3段, ISO 200, WB 曇天, Natural
夜の御堂筋で、イルミネーションを背に人物をシルエットにしてピントを合わせ、大きな玉ボケをたくさん入れてみました。画面の端は口径食が出るものの、綺麗なまぁるい大きな玉ボケがたくさんできて、一眼カメラで撮る楽しさを実感する一枚です。
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■撮影環境:A(絞り優先), F1.8, 1/80秒, -1.0段, ISO 800, WB オート, Vivid
大きな前ボケ越しに、おしゃれな街灯を撮影。街路樹の葉をぼかしているのですが、ボケの部分は葉の形がわからないくらいに大きくボケつつ、程よく抜けた部分ができ、ふんわりとした雰囲気を作っています。
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■撮影環境:A(絞り優先), F1.8, 1/250秒, +0.3段, ISO 200, WB 晴天, Natural
35mm判換算150mmの画角と圧縮効果
焦点距離が75mmということは35mm判換算では150mmとなり、標準ズームレンズではなく望遠レンズ(70mm付近~200または300mmが多い)で撮影する際の画角に当てはまります。望遠レンズの特徴としては、
・同じF値でも広角よりボケが大きくなる
・画角が狭くなり、被写体を大きく写すことができる
・被写体の歪みが小さくなる
・手前から奥までギュッと圧縮されて遠近感が減少する
といったことが挙げられます。
紅葉の葉は目線よりかなり高いところにあるため、さほど大きく捉えられてはいませんが、背景のお寺の屋根がかなり大きく入り込み、非常に近く感じられます。
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■撮影環境:A(絞り優先), F3.5, 1/200秒, -1.3段, ISO 640, WB 5400K, Natural
路地裏で出会った猫ちゃん。かなり人懐っこい子で、このあと足元までよってきてくれたのですが、最初は怖がらせないように望遠レンズで少し離れたところから撮らせてもらいました。
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■撮影環境:A(絞り優先), F2.8, 1/1250秒, -0.7段, ISO 200, WB 晴天, Natural
「久しぶりに海外に来ました!」とSNSに投稿したらきっと信じてもらえそうな気がするのですが、いかがでしょうか(笑)。 実際には長崎のハウステンボスで、園内はヨーロッパ調の建物で統一されているとはいえ日本語の表記などが散見されます。でも画角が狭いため、それらのものを一切入れずに撮ることで、まるで本当にオランダにいるかのような一枚になりました。
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■撮影環境:A(絞り優先), F2.0, 1/8000秒, -0.3段, ISO 200, WB 晴天, Vivid
手前の風車と奥のホテルの窓の大きさからわかるように、実際にはそれぞれの高さはかなりの違いがあります。しかし望遠による圧縮効果で奥のホテルがかなり近づいて見えるとともに、手前の風車の羽根の方がホテルの屋根よりも高く写っています。
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■撮影環境:A(絞り優先), F5.6, 1/500秒, +0.3段, ISO 400, WB 5800K, Vivid
春節には間に合わなかった長崎訪問。お祭りの残り香を求めて中華街へ行ってみたところ、かろうじて提灯は残っていましたが明かりが灯されていないのが残念……!この提灯ですが、実際にはそれなりの間隔をあけて吊るされていますが、望遠による圧縮効果でまるでぎゅうぎゅうに見えます。
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■撮影環境:A(絞り優先), F2.8, 1/50秒, -0.3段, ISO 640, WB オート, Natural
旅と日々のスナップ
その他、このレンズで撮り歩いた旅先と日常でのスナップをいくつかご紹介します。
夕方、斜めにさす光がとてもきれいでシャッターを切ったのですが、その際に絞りをF10まで絞って光条を出してみました。
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■撮影環境:A(絞り優先), F10, 1/1000秒, -0.3段, ISO 500, WB 晴天, Natural
前回の記事でもご紹介した、兵庫県西部の坂越(さこし)。レトロな町並みが続く道をスナップしていると、前からかわいらしい親子が歩いてきました。人物が主役ではなく町並みがメインだったので親子が近づいて来る前、遠景のうちに撮影。緩やかなS字を描くカーブがいい感じに圧縮され、画面の中で親子がよいアクセントになりました。
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■撮影環境:A(絞り優先), F4.0, 1/1000秒, -0.7段, ISO 200, WB 曇天, Natural
倉敷の美観地区を撮り歩いていた最中の一枚。伝統的ななまこ壁、人力車、倉敷川にかかる橋の欄干と「THE 倉敷」を一枚に凝縮。
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■撮影環境:A(絞り優先), F2.8, 1/3200秒, 0.0段, ISO 200, WB 晴天, Natural
大寒波の1週間後に訪れた金沢。雪吊りが施された木と水亭をメインに、池の水が単調にならないように、水と氷を織り交ぜて画面を構成しました。
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■撮影環境:A(絞り優先), F8.0, 1/200秒, +0.3段, ISO 800, WB 6400K, Natural
金沢市内から電車やバスで1時間。市街地は生活に支障がないように除雪が進んでいましたが、山の方に来ると20cm以上の雪がそのまま残っている場所も。この神社の狛犬さんも頭に雪を乗せたままこちらをギョロリ。でもその雪がまるでインドのターバンのように見えて、思わず頬が緩んでしまいました。
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■撮影環境:A(絞り優先), F1.8, 1/4000秒, -0.3段, ISO 200, WB 晴天, Natural
まとめ
M.ZUIKO DIGITAL ED 75mm F1.8は、10年前の発売以来その描写力によるクオリティで高評価を維持しつつも、
・35mm判換算で150mmの単焦点レンズ=とにかく画角が狭いという点
・画質のみならず上質なレンズ本体の造りから価格もハイグレードという点
これらにより、ちょっと近寄り難い存在として見られてきたように思います。しかし、一度手に取って撮影してみるとこのレンズの良さはファインダーを通してダイレクトに伝わって来るはずです。謂わばこの「隠れた名品」にもっと光が当たってほしい、もっと多くの方にこのレンズの良さを知ってもらいたいと、今回改めてじっくり向き合ってみて実感しました。
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■撮影環境:A(絞り優先), F1.8, 1/500秒, 0.0段, ISO 400, WB 曇天, Natural
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員