OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PROで描く旅と日々
はじめに
OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PROは35mm判換算で24-90mmの画角を持ちながらズーム全域で開放F値がF4.0、かつ非常に小型・軽量であることが大きな特徴のレンズです。今回はレンズのサイズ感から相性のよいOM-5とともに、9月に訪れた四国旅行と2020年3月の発売からこれまで、日々撮りためていた写真から本レンズをご紹介いたします。
小型で軽量、ズーム全域で開放F4.0の標準ズームレンズ
本レンズの第一の大きな特徴は12mmから45mm、つまり35mm判換算で24mmという広めの広角から90mmという中望遠の画角を1本で賄えつつ、手のひらにすっぽり収まるほどの小さなサイズとその軽さ。その上ズーム全域で開放F値F4.0が使えるとなると、日常から旅先まであらゆる場面で活躍してくれること間違いなしです。
かねてより行ってみたかった予讃線の下灘駅は聞きしに勝るかわいらしい駅でした。プラットホーム上の小さな屋根が、12mmの広角端ではそれなりに長さがあるように感じられますが、45mmの望遠端では圧縮効果もあり、こぢんまりとした印象になりました。
ダリアをそれぞれ一番広角と望遠、かつ絞り開放で撮影してみました。広角と望遠の特徴として、広角は画角が広い分背景が広く入るのに対して、望遠は背景が非常に狭くなること、また広角は被写界深度が深く(ボケにくい)、望遠は浅い(ボケやすい)ことが挙げられます。このことから同じF値であっても、望遠の方が背景ボケが大きくなり、今回の作例ではしっかり玉ボケもできています。
松山を訪れたら食べてみたかった鯛めしをいただきました。鯛のお刺身の他に郷土料理であるじゃこ天やしらすをのせたサラダなど、数々の品を載せたお膳は広めの17mm(35mm判換算34mm)で。その後、メインの鯛めしは24mm(同48mm)でアップ気味に。客席にて着座のままで撮影できるのはありがたいです。
クリアでシャープ、高い描写力
本レンズはPROレンズシリーズとして、ズーム全域において優れた解像力を持つことも大きな特徴です。
高知県東部にある「モネの庭」マルモッタンを訪れました。フランスの画家 クロード・モネが描いた連作「睡蓮」をモチーフに、モネがこよなく愛したフランス・ジヴェルニーの庭をモデルに作られた庭園は、本当にモネの絵画の世界に迷い込んだかのような素敵な場所でした。12mmと45mmのどちらも絞りを開放のF4.0で撮影しましたが、画面の中央から周辺部まで鮮明な描写となっています。
夜の道後温泉本館は、カメラ本体側に強力な5軸の手ブレ補正が搭載されているため手持ちで撮影。それぞれISO1600と3200の設定ですが、簾や屋根瓦の細かな描写に解像力の高さがわかります
以前、移動中の機内で撮影したものですが、飛行機の窓越しでも富士山だけでなく、麓の町や遠くの山々までしっかり描写されています。
逆光時に絞りを絞って光条を出してみました。レンズによっては絞ってもあまり綺麗な光条が出ないものもありますが、しっかりした光条が出ました。
こちらは真正面からの逆光で松の木が真っ黒になってしまうため、カメラのHDR機能を使用して撮影。存在感のある光条とともに、針のような松葉とその木肌や海岸の岩肌、波飛沫もしっかり解像されています。
高速フォーカシング設計
ピント合わせに用いるフォーカシングレンズも小型軽量化され、スピーディーなオートフォーカスが可能な点も特長として挙げられます。これにより、動きものの撮影時のピント合わせがスムーズで、ストレスなく撮影することができます。
オレンジ色の夕陽の中をやってきた予讃線の列車。徐々にスピードを落とす場面ではあるものの、どんどん近づいてくる被写体に対してピント合わせの速さは大きなポイントです。
まだ観光客の少ない朝の温泉街を散策していたところ、前方に浴衣姿の女の子たちを発見。咄嗟に撮った一枚ですが、素早いピント合わせが功を奏しました。
高知市内を走る路面電車に何故か新幹線(笑)!気付いた時には発車寸前でこちらも慌ててシャッターを切りました。
ちょっとわかりにくいかもしれませんが、白い曼珠沙華(彼岸花)に黒い蝶がやってきました。パタパタと羽根を動かしながらじっとはしてくれない蝶も、素早いAFのありがたさを実感した場面でした。
寄って撮れる!最短撮影距離が12cm、最大撮影倍率0.25倍のマクロ撮影が可能
本レンズの最短撮影距離は広角側の12mmで0.12m(12cm)、望遠側の45mmで0.23m(23cm)。広角側の12cmという最短撮影距離は、レンズの先端から被写体までのワーキングディスタンスで表すと約2.5cmと被写体にギリギリまで近づけます。撮影倍率は広角側・望遠側ともに0.25倍(センサー上に実物の1/4の大きさで写る)で、35mm判換算では0.5倍、つまりフルサイズ機のセンサー上に実物の1/2の大きさで写る場合とほぼ同等となり、かなりのマクロ性能を持っていることがわかります。
とはいえ、文章だとピンとこない方も多いのではないかと思います。私の人さし指の先ほどの大きさのお花に、ピントが合うギリギリまで近づいて撮影してみました。指と比較していただくとお花の大きさが伝わるかなと思います。マクロレンズでもないのにここまで近づいて大きく撮れると、撮影の幅が大きく広がります。
最短撮影距離が近いと片手に被写体、もう片方の手にカメラを持っての撮影が容易にできます。今回は松山名物(笑)、蛇口から注いだオレンジジュース、そして今では大都市圏ではほとんど見かけなくなった紙の切符を、それぞれ関連する背景を入れながら撮影しました。
望遠側の最短撮影距離は23cm。45mm=35mm判換算で90mm。90mmの望遠レンズで最短撮影距離が23cmと考えると、驚異的な近さと言えるでしょう。被写体に近付けることで背景のボケも大きくなり、絞り開放値のF4はF2.8やF1.8には及ばずとも大きなボケを得ることができます。
旅と日々のスナップ
最後に旅先と日々のスナップを、焦点距離順にご紹介します。
高知県東部、太平洋沿いをトコトコと走る土佐くろしお鉄道のローカル感と、窓の外に広がる素晴らしい光景のどちらも伝えたくて一番広角の12mmで撮影。レトロな印象のボックス席(窓も懐かしい両サイドをつまんで上げるタイプ!)と、窓の外の、ちょうどカーブに差し掛かったことで淡くきれいなブルーの海と沿岸に続く町の両方をうまく取り入れることができ、車内と車外の遠近感の差が印象的な一枚になりました。
桂浜の龍王岬の上まで遊歩道を上ってみました。画面内の輝度差が大きく、日陰の部分をレタッチで持ち上げていますが、土佐湾越しに遠くの山影、場所によって異なる海の色、そして荒々しい波飛沫までしっかり描写してくれています。
ハイキングで六甲山系の摩耶山とその周辺を歩いた際の一枚。荷物はできるだけ軽くしたい山行時において、小型かつ軽量なOM-5と本レンズの組み合わせは山歩きにもピッタリな相棒となります。
予讃線の下灘駅からの瀬戸内海。この日は雲にも表情があり、空を広めの配分としつつも穏やかな海に映る雲の影を意識しながら撮影しました。ファインダーを覗いて画面の端を確認しながら、好きな画角で撮影できるズームレンズはやはり便利です。
大阪港での夕景撮影で、ライブコンポジット(カメラ内比較明合成)機能を用いて星を流れるように撮影。この日は夕焼け空も綺麗だったのですが、雲の色にその名残が感じられつつ、しっかり星を描いてくれました。
カフェの片隅の席がとても素敵でした。かなり暗いシチュエーションだったため、ISO感度を1000まで上げて撮影。黒板素材の壁のテクスチャーがしっかり伝わる仕上がりとなりました。
藤の撮影に出かけた日はあいにくのお天気でしたが、本レンズは防塵防滴仕様ゆえ、カメラ本体も同様であれば雨の日も多少濡れることを気にせず撮影が楽しめます。
高速道路の高架下の公園で、午後の光がまるで稲妻を落としたかのように見えました。機材が小型・軽量だと日々の外出時にもストレスなく連れ出すことができます。
まとめ
私自身、OMシステムで標準域のズームレンズは、似た画角で開放F値が一段明るいM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROを持っていますが、F2.8の明るさにこだわりがない時にはレンズの大きさの点からこちらのレンズに軍配が上がります。また、OM-5やE-M5シリーズに装着時のバランスもよく、機材の小ささ・軽さを重視したい時にはOM-5と本レンズの組み合わせにすることが多いです。サブ機(サブレンズ)としての役割の他、これまでエントリーモデルのレンズをお使いだった方のステップアップレンズとしてもおすすめの1本です。
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員