OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ|ボディキャップがわりになる電動パンケーキズームレンズ
はじめに
OM SYSTEMでは前身のオリンパス時代より、いわゆるキットレンズとして14-42mm(35mm判換算で28-84mm)が標準ズームレンズとなっており、初代のM.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6からMZD 14-42mm F3.5-5.6 II、 MZD 14-42mm F3.5-5.6 II Rと経て本レンズが4代目となります。4代目になり「EZ」の文字が加わりましたがこれは「Electric Zoom」、つまりズーム機能が電動となりました。そして先の3代と比べて格段に小型化され、電動式パンケーキズームレンズとなったことが大きな特徴です。
そのサイズは直径約6cm、厚み約2cm、重さ93g(なんと100g以下!)という小ささで、女性の手にすっぽり収まるほどです。発売は2014年2月とほぼ10年前になりますが、10年もの間変わらず活躍し続けているこのレンズを、今回改めてご紹介します。
35mm判換算28-84mmの標準ズーム画角
最近ではもう少し広めの画角(35mm判換算24mm)を持つものが増えてきたものの、フィルムカメラの時代から、標準ズームレンズといえば28mm~85mm付近のものが多かったのではないでしょうか。その焦点距離は、人間の肉眼での見た目に近い遠近感とされる50mmを中心に、それぞれほどよい広角と望遠を1本で賄えるレンズということで、日常生活における様々な場面での写真撮影で活躍してくれます。
本レンズはその画角域を持つレンズですが、センサーサイズが小さなマイクロフォーサーズ規格ということで、同じ画角を得るためにはレンズの焦点距離が半分となり、14-42mmとなっています。
14mm(35mm判換算28mm)では、肉眼での見た目よりも広く写ると共に、遠近感が強調されたり、望遠側よりも被写界深度が深くなる(同じF値でもぼけにくい)といった特徴があります。逆に42mm(35mm判換算84mm)では、見た目よりも狭く、手前から奥までの距離がぐっと縮まる圧縮効果が生まれ、また被写界深度が浅くなりボケやすくなるといった特徴があります。
広角端の14mmと望遠端の42mmでの画角は、このように感覚的に「広い風景」、また「遠くのものを大きく」撮れることがわかります。
▼14mm
▼42mm
明石海峡大橋を真下から撮影。同じ場所から撮影しているのですが、14mmでは橋脚までの距離が随分長く感じられますが、反対に42mmだと橋脚がぐっと手前に近づいた感じとなり、橋全体の長さも短くなったように感じられます。
▼14mm
▼42mm
最短撮影距離が短く、被写体に寄れる!
本レンズの最短撮影距離(カメラ本体の距離指標マークから被写体までの距離)は広角側で20cm、望遠側で25cm。被写体にかなり近寄ることができ、またそうすることで大きなボケを得ることが可能です。
同じ被写体(ハイビスカス)に対して、14mmと42mmでそれぞれピントが合うギリギリまで近寄ってみました。広角側でも絞りを開放(F値を一番小さくする)にして被写体にできるだけ近づくことで、背景は広く入れつつある程度ボケることがわかります。
▼14mm
一方で望遠側ではマクロレンズほどの近接撮影ができるわけではないものの、被写体の大きさによってはかなり寄ってその特徴を大きく捉えられることがわかります。
▼42mm
望遠側の42mmでの開放F値は5.6となりますが、最短撮影距離(25cm)まで近づくことで「案外ボケる」ということが体感できます。
動画撮影で活躍してくれる電動ズーム
「MZD ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」の最後の「EZ」とは、Electric Zoomつまり電動ズームのこと。この電動ズームの良いところは一定のスピードで焦点距離が変わる=画角が変わることで、特に動画撮影中の画角変更時に一定速度での滑らかなズーミングを実現してくれます。ズーミングのスピードはカメラ側の設定で「低速/標準/高速」の切り替えができるようなっています。(作例動画では「低速」にしています)
機内で活躍してくれる超小型軽量
レンズ収納時には厚みがわずか2cmちょっと、重さも100g以下という小型軽量ゆえに、旅のお供にもオススメの本レンズ。特にカメラを携帯してはおきたいものの、大きな機材は厳しい飛行機内への持ち込みにぴったりです。
神戸在住の筆者は上京時には神戸空港から飛行機で向かうことが多いのですが、往路は進行方向左手、北側の窓際席を選びます。それは気象条件が良いと富士山を望むことができるから。日常生活では富士山を見ることができない関西。あの美しい姿が見えると格別の嬉しさを感じるのは私だけではないはずです。
もう少し雲が少ないと駿河湾の海岸線まで綺麗に見えるのですが、この日は雲海から頭をのぞかせていた富士山。一番望遠側の42mmで十分に山頂付近の山肌の様子を捉えてくれました。
かなり高度を落としてあと少しで着陸、という頃に、横浜の街の向こうに大きな頂が見えました。こちらも42mmで、画面の左右に富士山と横浜ランドマークタワーやベイブリッジがぴったり収まりました。
西へ向かう帰路はどうしても暗くなってからのことが多く、たいてい眺望は諦めているのですが、いずれにせよ富士山は往路の反対、今度は進行方向右側に見えるものとばかり思っていました。
ある時、珍しく少し早い時間の飛行機に乗った私は、右側席が空いていなかったため左側の窓際席を選びました。そうして離陸後しばらくして、日没直後のマジックアワーの空がきれいなことに気付いてふと窓の外へ目をやってびっくり!眼下に巨大なクレーター……って、富士山じゃないですか!慌ててカメラを取り出して数枚撮影したのですが、E-M5 Mark IIIに本レンズという組み合わせだったからこそ手元に置いておけたのであり、コンパクトカメラ並の気軽さで携帯できることの有り難さを実感したのでした。
尚、この時初めて神戸行きのスカイマーク機が海上ではなく陸上を飛ぶということを知りました。
気が向いたらすぐ撮れる!日々のスナップでも大活躍
なんといっても収納時のコンパクトさが魅力の本レンズ。もうボディキャップがわりにつけておくことができます。ゆえにどんな場面にも連れて行き、気が向いたらすぐに撮れる、日々のお散歩カメラのレンズとしても抜群におすすめです。
友人の写真展鑑賞帰りに川沿いの道を歩いていると、制服姿のままでシャボン玉を楽しんでいる女の子ふたり組に遭遇。午後のいい光の中でとても楽しそうだったので、声をかけて撮らせていただきました。小型のカメラとレンズゆえ、一眼カメラでもあまり気負わず撮影に応じてもらえました。
同じ川沿いで、今度は仲良しな2羽の鳩を発見。そーっと近づいて、逃げられない距離から一番望遠側で撮影しました。
通りすがりの駅のコンコースで、ビルに反射した西陽が作り出す影が面白くて思わず立ち止まりました。撮影目的での外出ではなかったこの日、カメラを持っていてよかった!と思ったものです。
電車の窓から気になりつつ、また時間のある時に……と、なかなか撮れずにいた光景。長期に渡る工事も日々どんどん進んでいき、気がついたら終わってた……なんてこともしばしば。スキマ時間にさっと撮っておきたいものですが、こういった際にもカメラを持っていることが前提であり、常に持ち歩けるという利点は大きいものです。
印象的な建物の構造を広く入れるために一番広角側でレンズを向けつつ、こちらもガラスに反射した西陽が印象的だったので絞りをF16まで絞って撮影。反射した光ですが、しっかり光条が出ました
孫文記念館(移情閣)の背景に明石海峡大橋が撮れるこの場所は、神戸の舞子公園では鉄板の撮影スポット。ポストカード的な写真ではありますが、この場所に来たら誰しもがとりあえず一枚は押さえておきたい写真ではないかと思います。肉眼での視野よりはかなり狭いものの、頭の中に残るイメージを端的に表す画角として、一番望遠側の42mm(35mm判換算84mm)が非常に使いやすい画角であることがわかります。
友人たちとの夕食での一枚。この時もまた、カバンに忍ばせておいた小さな機材が活躍してくれた瞬間でした。
「星を撮るなら明るいレンズ」というのが定説ではありますが、本レンズでも十分、星の撮影は可能です。また、カメラの中で比較明合成をしてくれるライブコンポジットという機能を使うことで、この通り街なかでも星景撮影が可能です。
まとめ
大事なことなのでもう一度書きますが(笑)、とにかく小型軽量な点(特に収納時)が抜群に素晴らしく、カメラ本体もOM-5やPENシリーズなどの小型のものを選べば、コンパクトカメラ並の手軽さで持ち出せるので、撮影目的ではない外出時でもストレスなく携行することができます。
別売の自動開閉レンズキャップ「LC-37C」を装着すると、電源のON/OFFに応じてレンズキャップが開閉し、レンズキャップを外したりつけたりする手間、そしてレンズキャップを紛失する心配がなくなり、まさしくコンパクトカメラと似た感覚で撮影を楽しめます。
通勤途中やお散歩時にふと気になった光景や友人・家族と過ごす時間など、気が向いたらすぐに撮ることができる、そんな手軽さからOMユーザーにはぜひボディキャップ代わりという使い方も含めて、日常使いレンズとしておすすめです。
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員