その先までも克明に描き出す新世代の超望遠ズームレンズ M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 IS
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISというレンズについて
2024年3月に発売された「OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 IS」は、マイクロフォーサーズ規格に準拠した望遠ズームレンズだ。35mm判換算にして広角端300mm相当から望遠端1200mm相当までをカバーする。同じくOM SYSTEMの「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」と並び35mm判換算1000mm相当を超える超望遠撮影が可能なレンズである。
これまでマイクロフォーサーズ規格のレンズではM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROがもっとも長い焦点距離を持つレンズであったが、このM.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISではそれを上回る超望遠撮影が可能となるなど、撮影時の画角が実焦点距離の2倍になるマイクロフォーサーズ規格の特徴を最大限に活かしたレンズとして注目されている。そこでここでは、比類なき望遠効果を獲得したM.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISの特徴と実力について、実写を交えて検証したい。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISの主なスペック
■マイクロフォーサーズ規格マウント
■広角端150mm~望遠端600mm (35mm判換算300~1200mm相当)
■レンズ構成 15群25枚(スーパーEDレンズ4枚,EDレンズ2枚,HRレンズ6枚,HDレンズ1枚含む)
■最短撮影距離 0.56m(150mm時) 2.8m(600mm時)
■最大撮影倍率 広角端0.35倍/望遠端0.20倍(35mm判換算 広角端0.70倍/望遠端0.39倍相当)
■絞り羽枚数 9枚(円形絞り)
■開放絞り値 150mm時 F5.0 / 600mm時 F6.3
■最小絞り値 F22
■手ぶれ補正機能 あり 5軸シンクロ手ぶれ補正150mm時7.0段・600mm時6.0段補正(使用ボディ:OM-1 Mark II)/ レンズ手ぶれ補正150mm時6.0段・600mm時5.0段補正(使用ボディ : E-M10 Mark IV)
■大きさ 最大径109.4mm 全長264.4mm フィルターサイズ95mm
■質量 2065g (レンズキャップ、レンズリアキャップ、レンズフードを除く)
■防塵防滴仕様 あり 保護等級1級(IPX1)OM SYSTEM/オリンパス製防滴ボディとの組み合わせ時
レンズ外観を見る
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISをOM SYSTEM OM-1 Mark IIに装着した。レンズ鏡筒の最大径109.4mm、縮長264.4mm、フィルターサイズ95mmとマイクロフォーサーズ規格のレンズのなかでは大きいうえ、しっかりとした三脚座が付属しているので、バッテリーグリップ付きのOM-1 Mark IIとの組み合わせは見た目、バランスともに最適と言える。
鏡筒の先端側に設けられた太いズームリングは先端に向かうにつれ細くなる形状で指の掛かりもよい。三脚座リング側には細めのフォーカスリングが配置されている。いずれもラバーリングには滑り止めの細い直線状のパターンが配置されており、操作時の滑り止めとなる。
レンズ右手側面にはズームを操作する際のトルクを変更する、トルク切り替えスイッチがある。[S:スムース]ではズーム操作が軽くなり、頻度の高いズーミングでも軽快に操作できる。[T:タイト]ではズーム操作が重くなることで、設定した焦点距離位置を保持しやすくなる。[L:ロック]はズームをワイド端に固定し短くすることで収納時や持ち運ぶ際に扱いやすくできる。
レンズ左手側面にフォーカスリミットスイッチ、フォーカス切り替えスイッチ、IS ON/OFF切り替えスイッチ、L-Fnボタンが配置。L-Fnボタンは鏡筒周囲に三つ備えられており、撮影しながら登録した機能を呼び出すことができる。
レンズ構成はスーパーEDレンズ4枚,EDレンズ2枚,HRレンズ6枚,HDレンズ1枚含む15群25枚。各レンズにはZEROコーティングが施されており、透過率を上げることでゴーストやフレアの発生を抑えている。開放絞り値はワイド端150mmでF5.0、テレ端600mmでF6.3となる変動タイプ。フィルター径は95mm。前玉レンズ表面には傷や汚れを着きにくくするフッ素コーティングが施されており、雨・雪、埃などが付着しても取り除きやすくなっている。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISは2kg超えのレンズだが、堅牢な金属マウントを採用しているので安心して装着・撮影できる。マウント外周には防塵防滴のための防滴シールドリングが備えられている。
付属のレンズフードLH-103を装着。深い被せ式でレンズに差し込む不要な光をしっかりと遮る。
三脚座のプレートはアルカスイス規格互換形状となっており、対応する雲台にそのまま固定することができる。もちろん従来のネジ穴もあるので、一般的な雲台にネジで固定することもできる。
ズームによる鏡筒の長さの変化。左が広角端150mm時、右が望遠端600mm時の鏡筒の長さ。繰り出し量は大きいが重心移動によるバランスの変化は最小に感じる。
カメラに装着した状態での、M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROとのサイズ比較。M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISの大きさがわかるだろう。
男性の手で持ってもかなりずしりと重さを感じる。ただレンズ筐体は絶妙な太さの変化と段差が設けられていることで、左手でのホールド感はとても良い。
太く指がかりの良い段差が設けられたズームリングと二段階で調整できるリング回転トルク調整機構のおかげで、状況に即したズーム調整が可能。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISのズーム機構は回転リング式となっているが、トルク調整を[S:スムース]にしたうえで、レンズ先端部の段差に指をかけ伸縮させることで、直進式ズームとして操作することもできるようになっている。回転式ズーム操作は正確な焦点距離に合わせるのに向いているが、直進式ズーム操作は動きの速い被写体を追いかけながらのズーミングや、ステージの撮影など、いわゆる引きの画角から望遠のクローズアップ画角まで、撮影のなかでの頻繁な画角調整を必要とする撮影に向いている。
これまでの常識を超えた超望遠領域での撮影が可能
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISはマイクロフォーサーズ用レンズのなかでは、この記事執筆時(2024年6月)において、もっとも長い焦点距離を得ることができる超望遠ズームレンズだ。マイクロフォーサーズ規格のセンサーサイズの特徴である、レンズの実焦点距離の2倍相当の画角となる望遠効果を最大限に活かしたレンズといえる。
そこで、ここでは焦点距離の違いによる被写体の大きさの変化を見ていただこう。一般的には35mm判換算300mm相当でもかなり実用的な望遠効果となるが、レンズ単体で最大35mm判換算1200mm相当まで撮影が可能なこのレンズは、これまで以上に離れた位置にある被写体を大きく撮影できる。このレンズが持つ望遠撮影へのアドバンテージはとても大きい。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISは1.4倍および2倍のテレコンバーターと併用することができる。1.4倍のMC-14との組み合わせでは最大840mm(35mm判換算1680mm相当)、2倍のMC-20との組み合わせで最大1200mm(35mm判換算2400mm相当)の画角を得ることができる。この写真は2倍テレコンMC-20と組み合わせた状態。
東京湾に浮かぶ海上保安庁の船艇を、千葉の海岸からレンズ単体の望遠端600mmと望遠端600mm+MC-14装着840mm、望遠端600mm+MC-20装着1200mmで撮影した。レンズ単体600mm(35mm判換算1200mm相当)でも十分すぎるほどの超望遠撮影となるが、さらにテレコンバーターを組み合わせることで通常では捉えることが難しい、海上遠方の被写体でもここまで大きく撮影できることに驚きを禁じ得ない。さらに背景には、東京湾を挟んだ対岸の横浜ベイブリッジや港湾施設姿が大きく写っている。これは望遠レンズの圧縮効果によるものであるが、2400mm相当ともなるとその効果も驚くほど大きなものとなることがわかる。
なお、さすがにここまでの超望遠撮影となると、強力な手ぶれ補正がなされていても、風が強い状況などでは風圧でカメラが揺れるので、手持ちで被写体をフレーム中央に捉え続けるのは難しくなる。必要に応じて三脚や一脚と組み合わせて撮影を行うと良いだろう。
実写による画像から解像力を検証
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISの解像力を海辺の岩場を撮影した画像で確認する。望遠撮影では被写体との距離が広がることから、レンズから被写体までの間の空気の状態が画像により影響を及ぼしやすくなるため、この撮影では比較的近い距離(100m程度)の被写体で、晴天のもと水蒸気による霞や揺らぎの影響が少ない状況にて実施している。
広角端から望遠端まで、焦点距離を変えつつ撮影した画像を、ピクセル等倍に表示したうえで、中央部を切り出しレンズの解像力を確認した。撮影時の焦点距離はそれぞれ150mm/200mm/300mm/400mm/500mm/600mmで、絞りはF8.0まで絞り込み被写界深度を適度に深めてアウトフォーカスによる影響を除いてある。
それぞれの拡大画像を確認すると、いずれも岩の荒い造形をくっきりと描写しており、極めて解像力が高いことがわかる。焦点距離の違いによる画質変化も少ない。ただし望遠端600mmに至るとわずかではあるが、コントラストの低下が見受けられる。ただ35mm判換算1200mm相当であることを考えると空気中の微粒子による影響も無視できなくなるため、この程度のコントラスト低下であれば極めて高い解像力であると判断しても構わないだろう。
最短撮影距離でのテレマクロ撮影
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISの最短撮影距離と最大倍率(35mm判換算)は広角端150mmで0.56m/0.7倍相当、望遠端600mmでは2.8m/0.39倍相当となり、望遠ならではの画角の狭さと組み合わさることにより、被写体を大きく捉えるテレマクロ撮影が可能だ。さらに1.4倍のMC-14および2倍のMC-20テレコンバーターとの組み合わせでは、さらに拡大率の高いクローズアップ撮影を行うことができる。
レンズ単体での広角端150mmおよび望遠端600mmと、それぞれにテレコンバーターMC-14/MC-20を組み合わせて最短撮影距離で撮影した花の大きさを比較する。超望遠レンズでありながらこれほどまでに最短撮影距離が短いことも驚きだが、テレコンバーターとの組み合わせで更なるクローズアップ撮影を行える点がとても興味深い。なおテレコンバーターの装着では、拡大率は上がるが最短撮影距離は主レンズが持つものから変化しない。ただしテレコンバーターを使用すると、その倍率に比例して開放絞り値が暗くなることから、シャッタースピード低下による手ぶれ・被写体ぶれには気をつけたい。(MC-14は1絞り分、MC-20は2絞り分暗くなる)
疑似的に被写体深度を深くできる深度合成に対応
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISは深度合成機能にも対応している。深度合成機能は対応するカメラ(ここではOM-1 Mark IIを使用)において、被写体に合わせたピント面から前後にピント位置をずらしつつ連写し、得た複数の画像から、ピントの合った部分を抽出し重ね合成することにより、手前から奥に至るまでピントが合った状態の画像を生成する機能である。この機能を利用することで、擬似的に被写界深度を深めた撮影を行うことができる。
深度合成撮影機能を使用して花畑の花を撮影した。この撮影では185mmの望遠かつ開放絞りに近いF5.6となっていることから、フォーカスを合わせた手前の花にのみピントが合う。そこで深度合成撮影機能によりフォーカスブラケットで連続的に撮影した画像を、カメラ内で自動的に合成することにより、手前の花から奥の花までピントが合った画像を得ることができた。ここでは深度合成機能の設定でフォーカス位置を手前から奥まで10ステップ移動させながら撮影するように設定してある。
この機能を利用することにより、本来なら被写界深度の範囲に収まらない状況であっても、まるで絞り値を大きく設定した画像のように深いピント幅の画像を得ることができるのだ。これは、被写体との距離が近くなることでより被写界深度が浅くなる特性を持つマクロ撮影でも有効な機能だ。また深い被写界深度を得ようと、絞りを極端に絞ることで発生するレンズ解像力の低下(小絞りによる光の回折が原因)を回避することにもつながる。なお深度合成撮影機能で生成される画像は、元画像から周囲がおよそ7%切り取られた画角となるため、撮影時にモニターに表示される枠に収まるように構図を整える必要がある。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 IS実写作例
デジタル時代に復権した超望遠レンズの抗えない魅力
今回取り上げたM.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISは、レンズ単体で1200mm相当に、さらに外付けの2倍テレコンバーターを併用することにより最大2400mm相当の驚くほどの望遠効果を得ることができるレンズだ。これはもはや現在の一眼タイプのカメラシステムとしては、限界に近いとさえ思える領域に踏み込んでいる。
だが、それは単なる望遠に強いだけのレンズではない。最新の光学設計と驚異的な効果が得られる手ぶれ補正機能などの先進的な技術の掛け合わせにより、高い実用性を兼ね備えたレンズとなっている。これほどの性能のレンズを実売40万円ほどの価格で手にいれることができるようになるとは10年前では全く考えられなかった。本当にカメラ機材の進化の早さには感心するばかりだ。
ところでOM SYSTEM(当時オリンパス)には、かつてのフィルム一眼レフカメラOMシリーズの頃に「ZUIKO AUTO-T 1000mm F11」という超望遠レンズが存在していた。このレンズは当時のオリンパスの交換レンズのなかでは、もっとも望遠となるレンズであったのだが、その極端な望遠効果が故に使用目的も限られた特殊な製品であった。当時のオリンパスショールームにはこのレンズの実機が展示されており、ビル高層階の窓から、新宿の街を覗き見ることができた。当時高校生だった筆者はそのファインダーを通し覗き見た街の浮き立つような光景に「これが超望遠の世界なのか!」と、すっかり魅せられてしまったのだ。
実は当時のカメラメーカーの多くは1000mmクラスの超望遠レンズを生産していたのだ。決して商売的なメリットは高くなかったと思われるのだが、そこは各社光学機器メーカーの誇りをかけて開発していたのであろう。しかしカメラがデジタルカメラに移行したころから、(各社の経営判断もあり)1000mmクラスの超望遠レンズを開発するメーカーも少なくなっていた。しかしここ数年になり、再び超望遠レンズの開発が進められ新製品が登場している。その口火を切ったのがマイクロフォーサーズ規格の利点を最大限に活かしたOM SYSTEMによる製品開発だ。
2020年に「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」(内蔵テレコンバーター使用で最大1000mm相当、2倍テレコンバーター併用で最大2000mm相当)と「M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS」(2倍テレコンバーター併用で最大1600mm相当)が相次いで発売された。その後2023年には、キヤノンからフルサイズミラーレス対応の「RF200-800mm F6.3-9 IS USM」(2倍テレコンバーター併用で最大1600mm)が発売されるなど、最新の技術を用いてデジタルカメラの画質に最適化された1000mmクラス超望遠レンズの新製品が登場している。
これらのレンズの開発が為された背景には、ここ数年で超望遠を十分に活かすことができるカメラが登場したことが大きい。これは各カメラメーカーが1990年代後半から取り組んできた、カメラのデジタル化という大きな局面が成熟期に入ったことで、さらなる撮影領域へと挑み始めた流れだと考えられる。技術的にも商売的にも決して容易くはない製品の開発にあえて取り組む理由は、1000mmという超望遠撮影が開発者・撮影者にとって、なにより特別で本能的にも抗えない魅力に溢れているからなのではないだろうか。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISを手にして思うのは、このレンズは通常では手にすることができない、その先の世界を引き寄せる、ある意味禁断の世界への入り口とも言える魅惑的な超望遠ズームレンズだということだ。かつてフィルム一眼レフ用交換レンズ「ZUIKO AUTO-T 1000mm F11」を初めて目にした時の衝撃を、40年後のいま最新のレンズで再び目の当たりにして思うのは、そう、このレンズは実に「ヤバい」のである(笑)。
■写真家:礒村浩一
広告写真撮影を中心に製品・ファッションフォト等幅広く撮影。著名人/女性ポートレート撮影も多数行う。デジタルカメラ黎明期よりカメラ・レンズレビューや撮影テクニックに関する記事をカメラ専門誌に寄稿/カメラ・レンズメーカーへ作品を提供。国境離島をはじめ日本各地を取材し写真&ルポを発表。全国にて撮影セミナーも開催。カメラグランプリ2016,2017外部選考委員・EIZO公認ColorEdge Ambassador・(公社)日本写真家協会正会員