OM システム M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PROで描く旅と日々
はじめに
2021年12月にOM SYSTEMから発売された「M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO」は、開放の絞り値がF1.4と大口径のレンズでありながらその重さが僅か250g弱、全長も6.2cm弱と非常に小型軽量です。そして、マイクロフォーサーズで20mmという焦点距離はフルサイズ換算で40mmに相当しますが、これまで25mm(換算で50mm)よりも17mm(換算で34.5mm≒35mm)の画角の方が撮りやすいと感じていた筆者が実際に使ってみてどうだったのか。今回は年末年始を通して撮影した、日常と冬の但馬地方(兵庫県北部)ロケでの写真と感想をご紹介します。
ボケの大きさと滑らかさ
このレンズの大きな特徴のひとつが、なんといっても開放F値が1.4という明るさ。絞りをこれだけ大きく開くことができるということは、非常に大きなボケを得られるということ。さらにこのボケ味がやわらかくてなめらかに滲み、非常に美しいボケなのです。
同じ条件下(F値やレンズの焦点距離)において、ボケの大きさはセンサーサイズと比例するため、センサーサイズの小さなマイクロフォーサーズ規格のカメラはどうしてもボケが小さくなりがちですが、「センサーが小さいとボケない」とは言わせないパフォーマンスを持つレンズだと感じます。
また、20mmという焦点距離だと小さくなりがちな背景の玉ボケも、F1.4という大口径の絞り値により存在感のある玉ボケになりました。
窓際の席から軒先の看板を見上げると、店内側は輝度差により暗くなりますが、そこに吊るされた灯りがとろりとやわらかくボケながら加わりました。このボケ味をおつまみにビールが飲めてしまいそうなのは私だけでしょうか。
暗所での撮影に有利な開放F値1.4
開放F値が1.4と絞りを大きく開くことができるということは、集光能力の高いレンズであるということ。つまり光の少ない暗い場所での撮影時に、ISO感度を低く抑えてもブレの心配が少なく高画質の写真を撮影できるというメリットがあります。
外湯めぐりが有名な城崎(きのさき)温泉に夜の帷が下りた頃。歩くには不自由ない明るさですが、一般的な一眼カメラ用のレンズでは手ブレや被写体ブレが心配です。そこでISO感度をかなり上げることになるのですが、このレンズは絞りをF1.4まで開くことができるので、ISO800でもシャッター速度は1/100秒で撮影することができました。
レトロ建築をリノベーションしたホテルには宿泊客用にクラシカルな雰囲気が漂う素敵なラウンジがありました。ただ、写真を撮影するには非常に暗い……。そんな場面でも絞りを開放のF1.4、ISO感度は800に設定、カメラの5軸手ブレ補正のおかげで1/30秒でも安心して撮影することができました。
夜の市場内でいい雰囲気の居酒屋を発見。ほとんどのお店はとっくに閉じられ、外は雪が積もる寒い夜はこんなあたたかな灯りに吸い寄せられてしまいます。屋根のある屋内市場は肉眼でもほぼ真っ暗で、軒先の明かりが頼り。このような環境でもISO800、1/160秒でシャッターを切ることができました。
換算40mmの、程よく使いやすい画角
20mm(フルサイズ換算40mm)という焦点距離を持つレンズの画角は、一般的に標準の画角と言われることの多い50mm(マイクロフォーサーズでは25mm)と、それより少し広角寄りの35mm(同17mmや17.5mm)の中間に位置します。先述の通り、個人的には50mmの画角は狭く感じられることが多く、35mmの画角を持つレンズを使用することが多いので、OMデジタルソリューションズのレンズでは25mmよりも17mmを愛用しているのですが、一方で時々少し広く感じられることも。
今回、20mm(換算40mm)という画角のレンズを使用してみて、テーブル上に並べられたお料理を撮るには、座ったままだとファインダーを覗くのは難しいながらも、カメラを自分の目線よりも少し高いくらいに持ち上げつつ、バリアングルやチルト機能を活かしてモニターを見ながら撮影することで、わざわざ席を立つこともなく撮影できることを確認しました。
次から次へと運ばれてくるお料理を、みんなでいただいている最中の1コマ。テーブル端には空いたお皿もある中、運ばれてきてすぐのお料理が並んだところを捉えつつ、円卓の賑やかな雰囲気が伝わる1枚に。また、被写体に寄ってのカットも押さえておきたい場面ですが、カメラもレンズも小型ゆえに場の雰囲気を壊すことなく撮影しやすいのが有難いです。
宿泊したホテルのキーがなんともレトロ!前方後円墳のような鍵穴に金属製の鍵を差し込むのですが、鍵と一緒にずっしりとした重みのある部屋番号のチャームがついていました。せっかくなので、手のひらにのせて鍵穴と一緒に撮ってみましたが、主題も背景も程よい大きさに収まりました。
旅のスナップあれこれ
年明け早々にこのレンズ一本をつけて、年末に降った大雪が残る兵庫県北部、但馬地方の豊岡、温泉で有名な城崎(きのさき)、そして出石へ出かけました。実際にどんな場面でどのように撮ったのかをご紹介します。
スケール感やディテールの伝わる車窓と駅スナップ
今回、特急「こうのとり」で福知山線から山陰本線を北上したのですが、途中、篠山付近で朝靄の立ち込める風景が広がりました。このあたりは霧の発生しやすい地形なのですが、うまい具合に陽が差してとても幻想的な光景となりました。
山陰本線と合流する京都府の福知山を越えると一気に雪景色に。電車の窓ガラスは緑が被りやすく色が合いにくいためあとで調整をしてはいますが、ガラス越しでもしっかりクリアな画像を得ることができました。
ICカードの普及により乗車券もどんどん姿を消している昨今ですが、旅の記録として味わいを深めてくれる切符。ほぼ最短撮影距離まで寄って撮影。
城崎温泉から宿を取った豊岡まで、レトロな車両の普通列車で移動。ちょうど夕陽が差し込む時間だったので、敢えて向かい側の座席と窓越しに撮影。絞りはF8で、少しゴーストは出たもののやわらかい光条が出ました。
跨線橋になった駅の通路から撮影。しっかりと奥行きも表現できています。
風景と町並み、出合ったものたち
城崎での定番の光景も、やっぱり押さえておきたい一枚。とりあえずつけっぱなしにしておくと何かと便利、そんな画角だと認識した場面でもありました。
ロープウェイで見晴らしの良い山の上へ。中間駅での撮影ですが、手前のゴンドラから山上駅までの奥行き感も十分に伝わる1枚になりました。そして山上からは眼下の温泉街と円山川、その向こうに連なる山越しに日本海までが見渡せるのですが、奥行きのある光景ゆえに縦で撮影。風景にも十分使える画角です。
誰かが作った雪だるまにぐぐっと接近。石でできた鼻周りの雪の粒までしっかり解像してくれています。
城崎温泉は外湯めぐりが大きな特徴のひとつ。旅館の浴衣を着て歩くカップルの足元を咄嗟に撮影、道の端に避けられた雪がいい塩梅に画角に収まりました。
おいしい時間
皿そばで有名な出石へ。先輩写真家に教えて頂いたお店へ出向くと、雪の積もった中庭側の席に案内されました。目の前にどん!と置かれたお盆に広がるお皿を撮るのに、25mm(換算50mm)のレンズだと確実に狭すぎたところでした。
地ビールの飲み比べをしてみました。ちょっと泡が消えてしまいましたが、小ぶりなグラスが並んだ様はやはり押さえておきたいところ。座ったままで撮影しましたが、目の前に並んだグラスがちょうどピッタリ画角に収まりました。その後角度を変えて寄ってみることで、小さな泡をきれいに捉えることができました。
冬の日本海側に来たからにはカニ……ですが、実は姿カタチからしてあまり得意ではなく。ほぐされた身を使ったカニのペペロンチーノが精いっぱいでしたが、とっても美味しくいただきました。出来立てすぐの湯気が、とろりとボケながらもふわりと立ちのぼる様子が外の寒さを忘れさせてくれます。
日々のスナップあれこれ
今回の年末年始は1年前とは違い、友人や遠くに住む家族と会うことができた方も多いのではないでしょうか。私も久しぶりにそんな時間を、感染対策には気を配りつつ楽しみました。
友人宅にお呼ばれ。丁寧に切れ目が入れられた牛タンや、ご時世柄ひとりずつお皿に用意された数々のお肉を堪能。友人の丁寧な仕事ぶりを伝えてくれるレンズの描写に、この写真を見返すだけでもごはんが進みそうです。
大阪・新世界にて、久しぶりに通天閣に上りました。名物だった大きなフグがいなくなり、ぽっかり空いた空間越しに見える通天閣を、程よい遠近感で捉えてくれています。大きなフグを吊るしていた竿だけが残る光景がちょっぴり淋しいものです。
通天閣の展望デッキからの光景をアートフィルターのジオラマモードで撮影。眼下に広がる天王寺動物園からあべのハルカス、遠くに見える生駒山脈までをしっかり画角に収めつつ、ジオラマモードゆえの箱庭のような雰囲気はちょうど良いスケール感で写すことができています。
テレビゲームの許可を得るために宿題をがんばる小学2年生を隣で撮影。周囲の余計なものを写し込まない画角と、ピントの前後をきれいにボカしてくれるこのレンズはおうち撮影にもピッタリです。カメラ側で静音シャッターの設定にすることで、勉強の邪魔をすることなく撮影ができました。
まとめ
これまで、手持ちの17mm(換算で約35mm)のレンズが画角的に撮りやすく、また不自由も感じていなかった私は、20mm F1.4のレンズが発売になると聞いた当初はあまり食指が動きませんでした。ところが実物を手にしてまずその小ささと軽さに驚き、実際に撮影してみてPROレンズとしてのその画質は言わずもがな、非常に使いやすい画角に一気に引き込まれました。
小型軽量で画質が良くて明るいレンズ。この3拍子が揃ったところで自分にとって画角がピッタリはまるのであれば、これはもう買わない理由が見つからないほどです。屋内外のスナップ、暗い場所、テーブルフォトと、日常生活ではとりあえずつけっぱなしにしておくレンズとして活躍してくれること請け合い。そして今回はこのレンズ1本での旅でしたが、高倍率ズームレンズと合わせて旅の装備としても非常におすすめなレンズです。
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員