OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PROで描く旅と日々
はじめに
2016年11月に発売されたM.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PROは開放F値がF1.2という大口径を持つレンズで、とろけるようなボケと高い解像力が特徴です。35mm判換算で50mm相当の画角となる本レンズはいわゆる「標準レンズ」としての画角を持ちつつF1.2と非常に明るいレンズであり、発売(2016年11月)から時間は経っていますが、画角の使いやすさとレンズの明るさから今も人気の高い本レンズを改めてご紹介いたします。
開放F値1.2の大きくてきれいなボケと高い解像度
本レンズの大きな特徴は、まずなんといっても開放F値がF1.2であるということ。F値が小さいほど絞りを大きく開くことができ、それと比例して大きなボケを得ることができます。一般的にレンズは開放絞りよりも少し絞った方がパフォーマンスは良いとされますが、本レンズは開放のF1.2でも非常に美しく滲むボケを得ることができます。
見事に苔むした木の幹を見上げると、ピントの前後は滑らかにボケる一方で、拡大するとピントの合った箇所は細かな苔がしっかり描写されており、解像度の高さがわかります。
金沢で美味しいお鮨をいただいたのですが、お鮨の手間にピントを合わせると、ガラスのお皿の細かい柄がキラキラの玉ボケとなりました。F1.2とF1.8で比較してみるとそのボケ感や玉ボケの大きさの違いがよくわかります。
▼F1.2
▼F1.8
絞り開放のF1.2では少々レモン型になった玉ボケも、2/3段絞ったところでは綺麗な真円となりました。
▼F1.2
▼F1.4
▼F1.8
雨の夜も安心の集光能力の高さと防塵防滴機能
開放F値が小さいと、それだけ一度にたくさんの光をカメラに取り入れることができるため、暗い場所でもISO感度を上げずに速いシャッター速度を得ることができます。本レンズはF1.2とかなりの大口径を誇るレンズゆえに、室内や夜の撮影でその威力を発揮してくれます。また、防塵防滴機能を備えているため、雨の日の撮影でも安心して持ち出すことができます。
夜の帳が下りる頃、土壁を雪から守る薦(こも)掛けが続く街並みで、雨で濡れた石畳に落ちた灯りが反射してとても綺麗でした。絞りを開放のF1.2にすることでISOは800でも1/100秒のシャッター速度で撮影することができました。
暗い路地裏に佇む日本家屋の窓ガラス越しの灯りがやさしく感じられてシャッターを切りました。ガラスの表面と外壁の質感がしっかり見て取れます。
コロナ前ですが香港へ行った際に、定番ではあるものの夜景を手持ちで撮影しました。ピントを合わせる被写体までの距離があるため、絞り開放のF1.2でもボケるようなことがなく、またシャッター速度が1/40秒ですがカメラ本体の手ブレ補正のおかげもあり、ISO400で撮影することができました。
雨の日に猫カフェで撮影させていただきました。室内での動物撮影はなかなかに難しいシチュエーションですが、絞りを大きく開くことができることでISO感度をそこまで高くせずとも速いシャッター速度での撮影が可能となったとともに、やわらかなボケで猫のモフモフ感を表現することができました。
最短撮影距離0.3mの高い近接撮影能力
本レンズの最短撮影距離は0.3m(30cm)。当然マクロレンズほどの接写は叶わずとも、35mm判換算で50mmのレンズと考えるとかなり被写体に寄って撮影することができます。被写体に近づくほどに背景は大きくボケるため、開放絞りF1.2と相まって非常に大きなボケを得ることが可能です。
鉄分と塩分を多く含む有馬温泉の源泉が湧き出る施設で、湯の花が付着しているのかと思いきや、塩の結晶であると教えていただきました。最短撮影距離ギリギリまで近付きマクロ的に撮ってみましたが、拡大してみると半透明の薄い花弁のような結晶の模様までしっかり解像しています。
有馬名産の炭酸せんべいをいただきました。手に持ったおせんべいにピントが合うギリギリまで近付いたことで、背景にあったお店の灯りが大きくボケました。
35mm判換算50mmのスナップ撮影
マイクロフォーサーズ規格での25mmは、35mm判換算では50mmに相当し、いわゆる「標準のレンズ」と言われる画角になります。実際の「視野」よりは狭いものの、「注視していない時に視認できる視野に近い」という説や「見た目に近い遠近感が表現される」ことで「肉眼での見え方に近く、自然に感じられる」ということから、スナップ撮影においても被写体を極端にデフォルメしたりすることなく「見た目に近い自然な印象の撮影」ができると言えます。
前述の温泉街にて、別の源泉の採取設備のある場所を訪ねると、もくもくと立ち上がる湯気にちょうど太陽の光が斜めから差し込んで神々しい光景となっていました。刻々とその姿を変える湯気のスクリーン上に描き出される光の帯は見ていて飽きないものでした。
鉄分を多く含む茶褐色のお湯が特徴的な有馬温泉ですが、温泉街の一角に無料で利用できる足湯施設があります。足湯を楽しむ人の足元を画面内に収めつつ、周囲の余計なものが多く入り過ぎない、ちょうど良い画角でした。
元旦に訪れた近所の神社。毎年、この時期の朝の決まった時間に訪れると、手水舎にいる龍の首のところから太陽の光が差し込みます。今年はいいお天気に恵まれ、見事その場面を写真に収めることができたのですが、絞りをF9に絞ることで綺麗な光条が現れました。
金沢を訪れると必ずいただきたい郷土料理の治部煮(じぶに)。地元の陶器である九谷焼の豆皿に乗った生麩と共に、見た目にも楽しい御膳をいただきました。25mm(35mm判換算50mm)の画角は、座った状態でちょっと引き気味の位置から一人用のお膳がギリギリ収まる画角です。ここでも最短撮影距離の近さを利用して、生麩田楽のお皿をクローズアップするように撮影してみましたが、周囲の豆皿もいい塩梅に画角内に収まりました。
数年前に訪れた香港で市街地から少し離れたビーチを訪ねました。絞りを開放のF1.2に設定していますが、木陰に置かれたビーチチェア越しにアウトフォーカスながらも、浜辺にいる人々の様子と背景の海や島々の光景がしっかり伝わるボケ加減となっています。
南国らしいハイビスカスを見上げる角度で撮影しました。そこそこ広い画角ゆえに背景の緑や空をしっかり捉えつつ、F1.2ゆえに葉に当たった光がまぁるい玉ボケとなっています。
香港の街を走るミニバスがたくさん集まる通りを歩道橋から撮影。バスやタクシーでごった返す通りの様子が自然な遠近感で表現できています。
朝の繁華街で、開店前のレストランのテーブルをガラス越しに撮影。私のすぐ横を赤いタクシーが通り過ぎるタイミングを狙ってシャッターを切ったのですが、ガラス越しであってもテーブルの上に置かれたワイングラスの透明感が際立つ1枚となりました。
夜の繁華街を歩いていてふと、なんだか視線を感じてそちらへ目をやると……!(笑) 咄嗟にシャッターを切りましたが、やはり開放F値の小さな明るいレンズは夜スナップにはもってこいだと感じた瞬間でした。ちなみにどうやら美容業界向けの問屋さん的なお店だったようですが、翌日同じ場所を通るとマネキンたちはもうまったく別の方角を見つめていました。やはりスナップ撮影は一期一会ですね。
まとめ
35mm判換算で50mm相当という画角のレンズは、同じOM SYSTEMから発売されているものとしても以前ご紹介した M. ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8 がありますが、絞りを最大限まで開いて1.8なのと、1.2まで開くことができるのとではやはり「ボケ感」や「使えるシチュエーション」において大きな差があります。この2本のレンズを比較するとレンズ自体の大きさとしては少し大きくはなるものの、フルサイズ機用の同等のレンズと比べるとはるかに小さいと言えます。
また本レンズはPROシリーズのレンズとして非常に高い解像力や美しいボケを誇りつつ、防塵・防滴、さらには耐低温性能をも兼ね備えており、シチュエーションを選ばずワンランク上の撮影を楽しみたい方にはぜひおすすめの1本です。
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員