OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROレビュー|次世代に繋ぐ高画質と信頼性を纏った超広角ズーム
はじめに
デジタル専用設計として2003年に制定されたフォーサーズ規格は、2008年にマイクロフォーザーズ規格として再設計され、それから今年ですでに14年もの月日が経過している。この規格に賛同している各メーカーからはこれまでに多くの製品が発売されており、賛同メーカーの中核であるOMデジタルソリューションズ(前オリンパス映像部門)においても、光学性能や耐候性が高いレベルの製品を「PROレンズシリーズ」として確立している。
今回紹介する「M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO」もそのうちの1本だ。発売は2015年6月とすでに相応の時間が経ってはいるが、OMデジタルソリューションズ製広角ズームレンズのなかでも、開放絞り値F2.8の明るいズームレンズとして長年人気を誇っている。そこで今回はこの「M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO」というレンズが持つポテンシャルを検証することで、このレンズを選ぶ理由についてあらためて考えてみたい。
M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROの主なスペック
■マイクロフォーサーズ規格マウント
■広角端7mm~望遠端14mm (35mm判換算14~28mm相当)
■レンズ構成 11群14枚(EDAレンズ2枚、DSAレンズ1枚、スーパーEDレンズ3枚、EDレンズ1枚、HRレンズ2枚含む)
■最短撮影距離 ズーム全域0.2m
■最大撮影倍率 0.12倍
■フォーカシング方式 ハイスピードイメージャAF(MSC)
■絞り羽枚数 7枚(円形絞り)
■開放絞り値 F2.8
■最小絞り値 F22
■大きさ 最大径78.9mm 全長105.8mm
■質量 534g (レンズキャップ、レンズリアキャップを除く)
■防塵防滴仕様 IP53相当
*OM SYSTEM(オリンパス)製防滴対応カメラとの組み合わせ時に有効、防塵機構搭載
レンズ外観
OM-1に装着したED 7-14mm F2.8 PRO。35mm判換算では広角端が14mm相当の超広角レンズとなることから、レンズ前玉がドーム型に張り出すいわゆる“出目金”レンズとなる点が大きな特徴だ。金属外装の外観はPROシリーズ特有の高級感のあるデザイン。
鏡筒はドーム形状の前玉群が収められている前部がもっとも太くなる形状。中にはDSAレンズ・HRレンズ・スーパーEDレンズなど特殊な成型のレンズ群が収められている。最大径は78.9mm。ズームリングはマウントに近い位置に太いリングが、レンズ先端側にすこし細めのフォーカスリングが配されている。AFとMFをフォーカスリング操作で瞬時に切り替えることができる「マニュアルフォーカスクラッチ機構」を搭載。
レンズ鏡筒マウント部にはファンクションボタン「L-Fn」が用意されている。カメラの「ボタンの設定」メニューから好みの機能切り替えを割り当てることが可能。これを利用することで、カメラ本体に用意されている「Fn」ボタンに加えてもうひとつFnボタンを増やせることになる。
M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROは開放絞り値がF2.8と明るいレンズであることからも、マイクロフォーサーズの広角レンズのなかでは大きなレンズだ。それだけにOM SYSTEMのカメラの中でも大ぶりとなるOM-1となら存在感の高い組み合わせとなる。ただ、大きなドーム状の前玉群に重厚なレンズが集まっているだけに重心が先端側に存在することから、E-M10 Mark IVなど軽量級のカメラとの組み合わせでは、若干バランスが偏るように感じるかもしれない。
このレンズの最大の特徴でもあるドーム状に張り出した前玉レンズ。この中に収められた特殊形状のレンズ群により、超広角レンズで発生しやすい収差や像の歪みを最大限抑えている。ただしこの形状であるがために、レンズ前にねじ込み式のフィルターを装着することはできない。
バッテリーグリップを装着したOM-1との組み合わせ。この形態であればさすがに前玉レンズの大きさもあまり気にならなくなる。もちろんカメラを構えた時の安定性も上がるし、なにより見た目に迫力が出てカッコ良くなる。これは結構大切なポイント。
M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO実写作例
マイクロフォーサーズ用としては大きさも重さもあるレンズだが、高品質なガラスレンズを用いた11群14枚の贅沢な組み合わせ構成により、高い解像力と収差の少ない描写を実現している。この高い解像力のおかげで、OM SYSTEM/OM-Dのカメラに搭載されているハイレゾショット撮影でも、得られる高解像度画像を最大限に活かすことができる。この描写力は自然撮影での樹々や岩場などの細やかな対象物を表現するシーンにおいて大きな力を発揮する。
M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROの最大広角7mmは、35mm判換算にして14mm相当という超広角撮影を可能とする。これにより、より広い範囲の風景を画角に収めることができると共に、建築物の内観・外観の撮影においては余裕のある構図を得ることができる。なにより超広角撮影で発生しやすい歪みや収差がほとんど発生しないので、建物の水平垂直を正しく再現するにも最適なレンズとなる。
このレンズのもうひとつの大きな特徴である、開放絞り値F2.8の明るさもこのレンズを選ぶ大きな理由のひとつとなる。広角端7mmから望遠端14mmまで絞り値の変動がない大口径レンズは、低照度化での撮影でも効果的にかつ、より多くの光を取り入れることができるからだ。特に夜景撮影や星景撮影時には、最大画角の114°という広い画角は夜空を捉えるには都合がよく、また開放絞り値F2.8の明るさは、限られた光を最大限に活かした撮影を行えるメリットがある。レンズの画角周辺部においても収差が少ないうえ、星々の揮点も滲むことなく点像としてとらえることが出来ることからも、夜景・星景撮影において最適なレンズとなる。
どっちを選ぶ? M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO/M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO
現在、OM SYSTEMのPROレンズシリーズには、広角域をカバーするズームレンズとしてM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROとM.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROの2本がラインナップされている。M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROも同じく高い画質や防塵防滴・耐低温性能が特徴となっており、広角端だけを見ると1mm(35mm判換算2mm相当)だけの差であるため、購入にあたりどちらを選べばよいか悩ましく感じてしまうかもしれない。そこでこれら二本のレンズの特徴の違いを簡単に紐解いておこう。
まず外観として大きさ・質量を比べる。M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO(左・最大径78.9mm 全長105.8mm)とM.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO(右・最大径77mm 全長88.5mm)をそれぞれカメラに装着して並べると、最大径はそれほど差がないものの、長さはM.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROの方が(沈胴機構の収納時で)17mmほど短い。また質量は123gもの差がある。
次に外観における両者最大の違いであるレンズ前玉の形状だが、M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO(右)がドーム状に大きく張り出したいわゆる“出目金”スタイルである一方、M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO(左)は一般的なレンズ同様にフラット形状となっている。この点に関しては、72mm径の円形フィルターを装着することができるM.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO の方が利便性も高い。
なお、M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROのフードは取り外し可能だが、M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROのフードは鏡筒一体型なので取り外しができない構造だ。
両レンズの性格の違いは、設定されたズームの焦点距離域の違いからもわかる。M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROは35mm判換算で14〜28mm相当に、M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROは35mm判換算で16〜50mm相当となる。ここで気になるのはやはり広角端での1mm(35mm判換算2mm相当)の違いだ。そこで実際に室内をそれぞれのレンズの広角端で撮影した作例を用意した。
これは撮影スタジオの内観を同じ位置からそれぞれのレンズの広角端で撮影したものだ。限られた位置からできるだけ室内が広く写るアングルを選び撮影しているので、M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROの8mm(35mm判換算16mm相当)の画角でも十分な広さとして撮影できてはいるが、M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROの7mm(35mm判換算14mm相当)の広々とした画角は、明らかにひとまわり広くそれにより、より多くの情報を写真に取り入れることができる。実焦点距離にしてたった1mmの違いではあるが、広角における画角の違いは想像以上に大きくなることを考えると、M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROには広角端での撮影に大きなアドバンテージがある。
一方、望遠端においてはM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROは最大で14mm(35mm判換算28mm相当)とあくまでも広角域の範囲に収まっているが、M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROでは25mm(35mm判換算50mm相当)と標準域までをこのレンズ一本でカバーしている。これにより広角域から標準域を多用するスナップ撮影などにおいてはM.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROはとても扱いやすいレンズだ。
このように一見わずかな違いと見える2本のレンズだが、その設計思想では明確な性格分けがなされていることが判る。広角レンズとして最高峰を極めるM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROと、高い画質はそのままに扱いやすさを極めたM.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO。開放絞り値はF2.8とF4とのひと絞り分の違いがあるが、それぞれにメリットがあることを理解できてさえいれば、撮影者は被写体に合わせた最適なレンズ選択ができるはずだ。
刷新されたブランドを支える信頼の高性能超広角ズームレンズ
OMデジタルソリューションズは現在、これまで前身のオリンパス時代より継承した「オリンパス」ブランドから新ブランドの「OM SYSTEM」へと全面的な移行を進めている。今回取り上げたM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROにおいても、店頭在庫以降はOM SYSTEMロゴ表記へと順次切り替えられていくだろう。
そして今年、OM-1といった次世代機が登場したことにより、マイクロフォーサーズ規格自体も更に洗練したシステムとして進化する可能性が高まった。それだけに基本性能の高いレンズの存在はこれまで以上に重要となるに違いない。
このM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROはすでに発売から7年が経過している製品ではあるが、その高い基本性能と長年にわたり育まれた信頼性により、新世代に突入した現在においても、まだしばらくは第一線での活躍をしてくれるに違いない。特殊な形状のレンズ前玉であるだけに取扱にも気を遣わなければならない製品ではあるが、実際に撮影に投入することで、それ以上の価値を感じることができるレンズなのである。
協力:
国立天文台水沢VLBI観測所 https://www.miz.nao.ac.jp/vlbi/mizhome.html
SLOWTIGER https://slowtiger.base.shop/
■写真家:礒村浩一
女性ポートレートから風景、建築、舞台、製品広告など幅広く撮影。全国で作品展を開催するとともに撮影に関するセミナーの講師を担当する。デジタルカメラの解説や撮影テクニックに関する執筆も多数。写真編集を快適に行うためのパソコンのプロデュースも担当。