絶対的な信頼性と先進技術を兼ね備えた職人気質の二代目カメラ OM SYSTEM OM-1 Mark II
はじめにOM SYSTEM OM-1 Mark IIというカメラについて
OMデジタルソリューションズより2024年2月に発売された「OM SYSTEM OM-1 Mark II」は、マイクロフォーサーズ規格に準拠したミラーレスデジタル一眼カメラである。2022年3月に発売されたOM SYSTEM OM-1の後継機となり、同社がラインナップする現行機の中でのフラグシップモデルとなる。イメージセンサーは有効画素数約2037万画素の4/3型 裏面照射積層型 Live MOSセンサーを採用。センサーのサイズからレンズの実効的な焦点距離(35mm判換算)は実焦点距離の2倍に相当する。
カメラ外観および基本的な仕様の多くが前機種のOM-1から継承されており、一見では新しくなった点を判別することはできない。そこでここでは、OM-1を発売当初から使用してきたリアルユーザーの視点から、OM-1 Mark IIの進化した点と変わらぬ点について検証を行おう。
OM-1 Mark IIの特徴と主なスペック
■マイクロフォーサーズ規格準拠レンズ交換式カメラ
■有効画素数約2037万画素4/3型裏面照射積層Live MOS センサー採用 スーパーソニックウェーブフィルター搭載
■画像処理エンジンTruePic X
■アスペクト比4:3他
■5軸補正撮像センサーシフト式ボディ内手ぶれ補正 8.5段分(対応レンズ使用でシンクロ8.5段分)
■視野率約100%/約1.48倍~約1.65倍 アイポイント約21mm 約576万ドットOLEDビューファインダー
■3.0型2軸可動式背面液晶モニター 約162万ドット(静電容量方式タッチパネル)
■スロット1/スロット2 UHS-I/II対応 SD/SDXC/SDHCメモリーカードスロット
■常用ISO感度200-25600 拡張ISO感度 L80・L100(ISO80・100相当)51200-102400
■メカニカルシャッター1/8000~60秒/バルブ・電子先幕シャッター1/320~60秒・電子シャッター1/32000~60秒
■連写H 最高約10コマ/秒・低振動連写 最高約10コマ/秒・静音連写 約20コマ/秒・静音連写SH1 最高約120コマ/秒(ブラックアウトなし)・静音連写SH2 最高 約50コマ/秒(ブラックアウトなし)
■プロキャプチャー 最高約20コマ/秒・連写SH1 最高約120コマ/秒・連写SH2 最高約50コマ/秒(要対応レンズ使用)最大99コマ記録
■ハイスピードイメージャAF 1053点(クロスタイプ位相差AF)/1053点(コントラストAF)
■被写体検出機能 あり(人物/車、オートバイ/飛行機、ヘリコプター/電車、汽車/鳥/動物 (犬、猫)
■ライブND あり(ND2/4/8/16/32/64/128)
■ライブGND あり(ND2/4/8) Soft / Medium / Hard選択・位置・回転可能
■三脚ハイレゾショット(JPEG 80M/50M/25M・RAW 80M画素相当)/手持ちハイレゾショット(JPEG 50M/25M・RAW 50M画素相当) 記録ビット数12bit / 14bitの選択可
■MOV(MPEG-4AVC H.264/HEVC H.265) C4K・4K ・FHD・ (60p/50P/30p/25P/24P), 4Kタイムラプス動画対応、縦位置動画対応
■無線LAN(2.4GHz/5GHz)・Bluetooth(Ver.4.2 Bluetooth Low Energy)内蔵
■電源 リチウムイオン充電式バッテリーBLX-1 撮影可能枚数 標準:約500枚/低消費電力撮影モード:約1010枚、USB充電対応、USB/PD規格デバイスより給電可能
■防塵防滴IP53/IPX1 OMDS(オリンパス)製IP53/IPX1対応レンズとの組み合わせ時に有効
■耐低温仕様 動作保証気温-10℃~+40℃(動作時)
■大きさ 約134.8mm(W)×91.6mm(H)×72.7mm(D)
■質量 付属充電池およびメモリーカード含む、アイカップなし599g
OM-1 Mark IIの仕様を前機種のOM-1と比較する。表ではOM-1 Mark IIで新しくなった仕様を赤文字で表している。OM-1とOM-1 Mark IIではセンサーの画素数は約2037万画素、画像処理エンジンもTruePic Xと、仕様に変更はない。そのほか多くの基本的な仕様もOM-1のものを継承していることがわかる。一方でいくつかの機能に向上が図られており、OM-1に搭載されていたものより効果が高くなっているものもある。
製品外観
カメラを正面から見る。ボディはマグネシウム合金製で堅牢でありながら軽量。マウント部を中心に凝縮感のあるプロダクトデザイン。フィルムカメラ時代のペンタプリズム部を彷彿とさせるファインダー部の形状と大きく握りやすいグリップが、フラグシップモデルが持つ力強さを感じさせる。
OM-1 Mark II(左)とOM-1(右)を並べて比較する。前機種のOM-1とはシルエットのみならず寸法、質量ともに全く同じ。外観の違いは、OLYMPUSからOM SYSTEMに変更されたブランドロゴとマウント部右下に嵌め込まれたMark IIであることを示す「II」バッヂのみだ。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROを装着。PROレンズであることもあり標準ズームのなかでは太めの鏡筒だが、OM/OM-Dシリーズのなかでは大きめのボディサイズであるOM-1 Mark IIとの組み合わせならアンバランスと感じることもない。太めのグリップでホールディングもバッチリだ。なおED 12-100mm F4.0 IS PROのようにL-Fnボタンが備えられているレンズでは、OM-1 Mark IIのボタン設定からL-Fnボタンに好みの機能を割り当てることもできる。
背面および上面。ボタン・レバー類の形状および配置もOM-1のものをそのまま踏襲している。OM-1ユーザーであれば何の戸惑いもなくすぐに操作できるだろう。
ファインダー部の右側上面には大きな露出モードダイヤルダイヤル、リアダイヤル、露出補正ボタン、ムービーボタン、右肩部にISOボタンが配置。背面の右手側に十字ボタンとOKボタン、その左上にマルチセレクターとAF-ONボタン、下側にはINFOボタンと再生ボタン、消去ボタンが配置されている。いずれもカメラをホールドした状態で親指もしくは人差し指のみを動かして操作できる配列だ。
ファインダー部左側面には視度調整ダイヤル、LVボタンとMENUボタンが、上面には電源ON/OFFレバーとドライブ/フラッシュ切り替えボタンおよびフォーカス/測光モード切り替えボタンが配置。なおMENUボタン以外、十字ボタンも含め各ボタンはカメラメニュー内のボタン機能設定にて、好みの機能を割り当てることができる。またこのOM-1 Mark IIでは消去ボタンにもMENUボタンの機能を割り当てることできる。これにより右手指の操作のみでもMENUを呼び出せるようになった。特に望遠レンズを構えたままの状態において、左手を持ち替えなくともMENUを呼び出すことができるのはとても便利だ。
約576万ドット・視野率100%のOLEDビューファインダーを搭載。接眼すると背面モニターが消えてビューファインダーに切り替わるセンサーが設けられている。ファインダーの右横にはAELボタンとFn切り替えレバーが設けられており、このレバーをFn1/Fn2それぞれに切り替えることで、フロント/リアダイヤルの機能を入れ替えたり、電源ON/OFFレバーとして使用することができる。これらはMENU内の「Fnレバーの設定」にて設定できる。
カメラフロント部。カメラを構えた状態でグリップにかけた右手の中指・薬指で押せるマウント脇の位置に、ワンタッチホワイトバランスボタン(上)とプレビューボタン(下)が設けられている。これらもMENU内のボタン設定にて好みの機能を割り当て可能。右手をかける大きなグリップの上にはシャッターボタンとフロントダイヤルが配置さている。
そしてOM-1 Mark IIでは新たにフロント/リアダイヤルの表面にはエラストマー加工が施された。これにより指触りの感触が良くなりダイヤルの操作性が極めて良くなった。筆者個人的にはこの改良による操作性はとても心地よく、この点だけでもOM-1から買い替えたいと思うほどだ。
カメラに向かって右手エプロン部には外部フラッシュを接続する端子が設けられている。近年のカメラでは外部フラッシュシンクロ端子は省かれることが多いが、フラグシップ機であるOM-1/E-M1系では継続して設けられている。これはスタジオ撮影にて大型ストロボを使用するプロユーザーにとって、とても有難い配慮である。
メモリーカードスロットとしてUHS-I/II対応のSD/SDXC/SDHCカードスロット2基を搭載。2枚のカード間で継続撮影を可能とする自動切り替え、同じファイルの同時記録、RAW/JPEGをそれぞれのカードへ振り分けての記録などが選べる。防塵防滴対応のためスロットカバーには浸水防止リングが装着されている。バッテリー室は底部にあり充電池はOM-1と共通のリチウムイオン充電式バッテリーBLX-1を採用。
外部入出力端子部。上から3.5mm径マイク端子/3.5mm径ヘッドフォン端子/タイプD HDMI端子/USB Type-C端子となる。HDMI出力は外部モニターへ映像とカメラ情報を表示させる[モニターモード]、外部レコーダーへ保存用の映像を出力する[記録モード]、外部レコーダーへ保存用RAWの映像を出力する[RAWモード]が選択できる。
カメラに向かって右端、グリップの脇にはリモートケーブル端子がある。オプションのリモートケーブルRM-CB2、RM-WR1(有線ケーブル使用時)が接続可能。なおRM-WR1はOM-1 Mark IIとBluetooth接続することでワイヤレスリモコンとして使用可能。
背面液晶モニターはバリアングル方式を採用。約162万ドット3.0型。静電容量方式タッチパネルを採用。OM-1 Mark IIではMENUのタブとページの選択がタッチ操作で可能となった。
縦位置グリップとして使用できるパワーバッテリーホルダーHLD-10に対応。OM-1 Mark IIボディ内に収められる充電池に加え、HLD-10内にも1個の充電池を追加できる。シャッターボタン、フロント&リアダイヤル、ISOボタン、露出補正ボタン、AF-ONボタン、マルチセレクターが設けられており、縦位置でも横位置撮影と同様の操作が可能だ。なおHLD-10はOM-1とも共有できる。
OM-1 Mark IIとOM-1の基本画質の比較検証
OM-1 Mark IIとOM-1のスペックを見る限りでは、基本的な画質に関しては同等と考えられる。そこでここでは、あえて両機の撮影画像を比較して基本画質を確認する。確認事項は通常撮影時の解像力と高ISO感度撮影時の解像感とノイズの発生具合である。
OM-1 Mark IIおよびOM-1で海の岩場を撮影。撮影画像をピクセル等倍に表示したうえで、中央部を切り出し両機の画像を比較した。撮影時の焦点距離は150mm(35mm判換算300mm相当)、絞りは開放絞り値であるF2.8から二段分となるF5.6まで絞り込み、レンズの解像力を高めた状態にすると同時に被写界深度を適度に深めてアウトフォーカスによる影響を除いてある。
OM-1 Mark IIおよびOM-1のイメージセンサーは共に有効画素数約2037万画素4/3型裏面照射積層Live MOS センサーを採用しており、画像エンジンも同じくTruePic Xである。この組み合わせは、OM SYSTEMのデジタル一眼カメラのイメージセンサーとしては現在もっとも高画質を引き出す組み合わせとされている。実際にピクセル等倍に拡大した撮影画像を見比べても、いずれも同等の解像感となっていることから両機に解像力の点において差異はないと判断してよいだろう。
OM-1 Mark IIにてISO感度を拡張感度域の下限80から標準感度、そして拡張感度域上限102400まで1EVごとに変えながら撮影した画像の一部を等倍で切り出し比較した。注目点は建物壁面のノイズとディテールの精細さとする。
まず、常用感度域であるISO200から1600までは遜色なくこの感度域を選択できる画質。ISO3200ではISO200と比較すればわずかながら暗部にノイズを感じるが、目を凝らして比べなければ判らない程度だ。ISO6400になると暗部のノイズもそれなりに増えるが高感度撮影としては十分に許容できるレベルだろう。ISO12800を超え25600となると暗部でノイズが目立つようになり壁面のディテールが緩くなってくる。拡張感度域のISO51200を超えるとカラーノイズが目立つようになり、最高感度のISO102400ではディテールが大きく崩れノイズも盛大に発生している。
一方、低感度の拡張域となるL80およびL100ではISO200の描写とほぼ違いは見られないので、スローシャッター撮影時など必要に応じて選択すると良いだろう。なお比較サンプルとしてOM-1で撮影したISO6400画像も掲示してあるが、双方の描写に違いは見られないことからISO感度特性は両機において同等と判断できる。
このようにOM-1 Mark IIおよびOM-1で撮影した、画像の解像力および高ISO感度撮影の画像を比較した結果、両者の画質に違いを見出すことはできなかった。このことからOM-1 Mark IIとOM-1は同じ画質であると判断して構わないだろう。
ハイレゾショットが14bit RAW画像記録に対応
OM-1 Mark IIになり進化した機能には、ハイレゾショットRAW画像の14bit記録への対応がある。ハイレゾショットとはカメラ内に搭載されたセンサーシフト方式の手ぶれ補正機構を転用した機能で、イメージセンサーを0.5ピクセル単位でずらしながら複数枚の画像を撮影し合成処理することにより解像度を補完するというものだ。
これまでハイレゾショットでは12bitでの記録しか行えなかったが、OM-1 Mark IIではRAWに限り14bitでの記録も選択できるようになった。これによりRAW現像処理を行う際に発生し得る、明るさやコントラストなどの調整に伴う画質劣化に対する耐性が上がった。ただしハイレゾショットRAWの現像は基本的にOM SYSTEM純正のOM Workspace以外のRAW現像ソフトでは現像ができない。なお14bit RAWからの現像でも、JPEGやTIFF画像に書き出した時点で8bitに変換されるので、あくまでもRAW現像時の画像調整への耐性が対象となる。
ハイレゾショットにはカメラを三脚などに固定して撮影を行う「三脚ハイレゾショット」と、手持ちでの撮影を行う「手持ちハイレゾショット」の二種類がある。OM-1 Mark IIおよびOM-1では通常約2037万画素(5184 x 3888)で記録される撮影画像を、三脚ハイレゾショットでは8枚の画像を撮影し合成処理することにより最大で約8000万画素相当(10368 x 7776)にまで拡張し保存することができる。また手持ちハイレゾショットでは12枚の連写が行われ、そのコマ間に撮影者の揺れで発生するわずかな画角のずれを、ハイレゾショットでの補完用画像サンプルとして利用し合成処理を行うことで、最大5000万画素相当(8160 x 6120)にまで拡張した画像を保存できる。
通常撮影の解像度(5184 x 3888)画像と手持ちハイレゾショットで得られる解像度(8160 x 6120)画像を、被写体が同じ大きさになるように画像の拡大率を調整したうえで、赤枠の範囲を切り出し双方の精細感を比較した。通常撮影の画像はおよそ160%の拡大率となり解像の上限を超えているため、建物の細かい窓枠などが滲んでいることが見て取れる。一方手持ちハイレゾショットで撮影し得た画像は、8160 x 6120の大きな画像であることから解像限度の範囲内に収まっており、窓枠などが滲むことなく表現されていることがわかる。
これはより高解像度の画像は部分のみを拡大して切り出したとしても、画質が破綻せずに使用できることの模式である。一般的にマイクロフォーサーズ機は35mmフルサイズの高画素機と比較することで画素数の低さをデメリットとされることがあるが、このハイレゾショットを適切に利用することで高解像度機での撮影にさえ匹敵する画質の画像を得ることができる。以前は三脚などに完全に固定された状態で撮影を行うことが必須であったが、手持ちハイレゾショット撮影の実現により、動きのある被写体以外であれば手持ち撮影であっても、最大50M相当の高解像度画像を得ることができるようになった。さらに今回OM-1 Mark IIで実現した14bitRAW記録を利用することにより、階調の豊かな画像を得ることも可能である。OM-1 Mark IIのユーザーであれば、ハイレゾショットは積極的に使用したい機能だ。
補正効果が高められた手ぶれ補正機構
OM-1 Mark IIでは5軸補正センサーシフト方式の手ぶれ補正機構がより強力なものとなっている。OM-1ではボディ単体7.0段分/シンクロ手ぶれ補正8.0段分であった補正値が、OM-1 Mark IIではボディ単体8.5段分/シンクロ手ぶれ補正8.5段分に引き上げられた。これにより三脚を使用せずとも手持ち撮影において、よりスローなシャッタースピードで、より望遠域での撮影であっても手ブレを起こしにくくなった。
デジタル一眼カメラに手ぶれ補正機構が搭載されることが一般的になった現在では気にされることは少なくなったが、フィルムカメラの時代から手ぶれを起こしやすくなるシャッタースピードは、レンズ焦点距離の逆数より遅くなった場合だと言われている。たとえば500mm(35mm判換算)のレンズでは1/500秒より遅いシャッタースピードになると手ぶれを起こしやすくなると判断されるのだ。メーカーが公表する手ぶれ補正の能力値はこれを基準にしており、たとえば「5段分の効果」であれば500mm(35mm判換算)のレンズであっても1/15秒までは手ぶれ補正の効果が期待できることになる。
これをOM-1 Mark IIの補正値「8.5段分の効果」に当てはめると、計算上では約0.7秒までは手ぶれ補正の効果が期待できる。実際の撮影ではさまざまな要素が絡み合うため必ずしも計算通りの効果が出るとは限らないが、500mm相当の望遠撮影が約0.7秒というスローシャッタースピードであっても、手ぶれを起こさずに撮影できる可能性が高まるわけだ。
なお前機種のOM-1では7.0段(ボディ内手ぶれ補正のみの場合)であったので数値としては1.5段分の向上となるが、露出に換算して1.5EV分露出を稼げると考えると、その意味の大きさがわかるだろう。2004年に登場したレンズ交換式デジタル一眼レフとして世界初ボディ内手ぶれ補正機構搭載のコニカミノルタα-7 DIGITALが約2~3段分の効果であったことを思えば、この20年間での進化は実に驚くべきものである。
水平線から上ったばかりの月をM.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISで600mm(35mm判換算1200mm相当)での手持ち撮影。1/8秒のスローシャッターだがフレームの中心に捉えつつ手ぶれも起こさずに撮影ができている。これ以上遅いシャッタースピードでは月そのものの移動速度で被写体ぶれが発生するだろう。なお水平線から高度が低いため大気の影響で揺らぎや光の屈折により月の形状がすこし歪み潰れて写っている。
太陽が沈んだ後の海岸にて天空の星空を魚眼レンズで撮影した。星空AFで星にフォーカスを合わせたうえで15秒間の長秒手持ち撮影を行った。可能な限りカメラが動かぬように両手でしっかりとホールドするも呼吸や立っている体のふらつきなどによりカメラは揺れてしまう。それでも強力な手ぶれ補正機能のおかげで手ぶれすることなく撮影することができた。ぶれが目立ちにくい超広角の魚眼レンズでの撮影といえども、三脚を使わずに手持ちで星空撮影が可能であることは驚きだ。
OM-1譲りの自由度の高いAFシステムと人物認識が追加されたインテリジェント被写体認識
OM-1 Mark IIのAFシステムは、ミラーレス一眼であることを最大限に活かしたOM-1譲りの自由度の高いものだ。撮像素子のほぼ全面に広がる1053点像面位相差AFセンサーには、イメージセンサーひとつひとつの画素のフォトダイオードを4分割とするクアッドピクセルAF方式を採用。これにより縦横両方向での位相差情報が取得できる。これに画像エンジンTruePic X による高速演算能力と新しいAFアルゴリズムを組み合わせることで、さまざまな被写体において高い精度でのAFおよび低輝度AF限界-5.5EVでのAFを可能としている(ISO 100相当、F2.8レンズ装着時)。
AFエリアはAllターゲット(1,053点)、Singleターゲット(1点)、Smallターゲット(9点)、Crossターゲット(39点)、Middleターゲット(63点)、Largeターゲット(165点)などと、ユーザー自身で点数と移動ステップ数を設定できるカスタムターゲット(4パターン設定可)が選択可能。フォーカスモードはシングルAF、シングルAF+MF、コンティニュアスAF、コンティニュアスAF+MF、マニュアルフォーカス、追尾AF、追尾AF+MF、プリセットMF、星空AF、星空AF+MFなどのうちから任意のモードを選択できる。
AI被写体認識AFには新たに「人物」被写体認識が追加された。OM-1では顔検出AFとされていたものからより検出率を上げたことで、人物の動きや向き、装飾品の有無によらず狙った被写体の追尾が可能となった。また顔が隠れた横向きや後ろ向きでも認識することができる。
水辺で遊ぶ親子の姿。顔の見えない位置からの撮影でも、人物認識により連続追尾しながらシャッターを切ることができる。被写体検出「人物」はポートレート撮影だけでなく、スナップ撮影やダンス、スポーツの撮影などでも有効だ。
被写体検出「鳥」に設定した状態のファインダー表示画面。鳥の全身を形状認識すると同時に鳥の頭部・目を認識することで白い追尾枠が現れる。
湖上の鉄柱に留まった鳥を被写体検出で捉えた状態のまま狙い、飛び立つ瞬間をプロキャプチャーモードで撮影し、そのなかからベストな瞬間をセレクトした。鳥の頭部を検出しフォーカスを合わせたうえで飛び立つ際の瞬間的な動きをしっかりと追尾してくれた。
木々の茂みの中に留まる鳥を、被写体検出「鳥」で捉えて撮影。被写体の前にかかるようにして木の枝や葉があるため、最初はなかなか鳥の頭を捕捉できなかったが、いったん捕捉してしまえば鳥が動いても目を認識して追尾し続けてくれた。
動物園のカピバラを撮影。被写体検出「犬・猫」での撮影だがカピバラでも問題なく捕捉した。犬猫でなくとも顔の輪郭と目鼻が似ていれば認識するようだ。
OM-1 Mark IIでは人物認識が追加されたことで、インテリジェント被写体認識が利用できる被写体が「人物/車、オートバイ/飛行機、ヘリコプター/電車、汽車/鳥/動物 (犬、猫)」に幅が広がった。ただ認識する被写体はそれほど厳密ではなく、各被写体の種類に近いものであれば概ね認識するようだ。また、いったん認識してしまえば、設定したAFエリアから被写体が出ない限りは追尾対象から外れることはほとんどない。厳密に検証している訳ではないが、感覚的にOM-1よりも被写体認識率が向上しているように感じる。
この機能が向上した被写体認識AFと、AFAEの追随が可能かつブラックアウトフリーの秒間最高約50コマ連写が可能な電子シャッターSH2を組み合わせることにより、動きのある被写体であっても苦労することなく捉えることができるだろう。さらにシャッターボタンを押し込むと同時に、時間を遡るようにして画像を記録してくれるプロキャプチャー機能を併用することで、鳥が飛び立つというような動きを予測することが難しい瞬間さえも、ほぼ確実に捉えることができる。
なおOM-1 Mark IIではカメラ内メモリーが増設されており、プロキャプチャー時の連続撮影枚数が約2倍にまで増えている。同時に静音連写SH1/120fpsではRAWで最大約213コマ、JPEG LFで最大約219コマ、静音連写SH2/50fpsではRAWで最大約256コマ、JPEG LFで最大約309コマに引き上げられていることも心強い。
ND128の追加で表現力の幅が広がったライブND
OM SYSTEMが提唱するコンピュテーショナルフォトグラフィ機能のひとつであるライブNDにND128が追加された。ライブNDはシャッター優先モード、マニュアルモードで使用可能な機能であり、カメラへ取り込む光量を減衰させるNDフィルター同様の表現効果をデジタル処理にて擬似的に得られるものだ。
OM-1では効果はND2(-1EV)から1EV間隔でND64(-6EV)まで選択が可能であったが、OM-1 Mark IIではND128(-7EV)が追加されたことで更に1EV分の減光効果が得られるようになった。筆者もライブND機能をよく使用してスローシャッター撮影を行っているが、ND64まででは減光量が足りないことが少なくなかった。そのような場合は従来のレンズNDフィルターを併用していたのだが、OM-1 Mark IIにライブND128が追加されたことでカメラ単体のみで完結できるシーンが増えた。
ライブND撮影モードに設定した状態のモニター表示。ライブNDは短いシャッタースピードで撮影した複数枚の画像を合成して、疑似的に露光時間を延ばして撮影したものと同様のスローシャッター効果を生み出すモードだ。撮影時にはモニターにもスローシャッター効果で生み出された映像が映し出されるので、撮影前に仕上がりのイメージを確認することができる。
ライブNDの段数違いによる効果の様子を比較した。状況を判りやすくするため画像の一部分を拡大している。ここではNDを使用していない状態ではシャッタースピード0.1秒での撮影となるため多少なりとも海面がぶれて写るが、NDの段数を上げるに伴いよりシャッタースピードが遅くなることで海面の揺れが白く織り重なり、岩に打ち付けられる波飛沫が薄いベールのように広がる様が見て取れる。特にND64とND128では露出値では1EV分の減光効果となるが、この撮影時の明るさでは露光時間としては6.5秒も長くなるなど、よりスローシャッター撮影の効果が強くなる。これがND128を選択する大きな意味でもある。
日が沈んだ直後の海岸線に波が打ち寄せる様子をライブND128を使用することで、25秒のスローシャッタースピードで撮影した。通常肉眼では見ることができない時間の流れを、スローシャッター撮影で可視化できるところがNDフィルター効果の面白いところだ。
カメラ内でハーフND効果を生み出せる画期的なライブGND
OM-1 Mark IIにはこれまで実現が難しいと言われていた画期的な機能が搭載された。ハーフNDフィルターの効果を疑似的に再現するライブGNDだ。ハーフNDフィルターとは、レンズ前に装着するフィルターで、フィルター面にND効果を部分的に付与したものである。一般的にはレンズ前玉を大きくカバーするサイズのガラスや樹脂製の板に、ND効果を100%から0%まで段階的なグラデーションとして付与したフィルターだ。これを撮影画像に合わせてかけ具合を調整して、画像内の明るさを部分的に調整する。
ガラス製ハーフNDフィルター SOFT GND0.9(GND8相当)。これをカメラのレンズ前に専用ホルダーで固定することで、レンズに入る光量を部分的に調整する。フィルターは上下にスライド可能で画面内のどの位置にグラデーションを当てるか、ライブビュー画面(もしくはファインダー)を確認しながら調整する。ライブGNDはこのハーフNDフィルターの効果を疑似的に再現したものだ。
OM-1 Mark IIに搭載されたライブGNDは三段階のND度数(ND2,4,8)と三種類のグラデーションの強さ(SOFT,MEDIUM,HARD)をそれぞれ選択して組み合わせることができる。こちらは組み合わせ可能なGND効果を確認するため、実際に夕景撮影を行い一覧にしたもの。露出はNDなしの状態での撮影値に固定して、NDの度数およびグラデーションの強さを変更して撮影した。ND度数の変化による明るさの変化とグラデーションの強さの変化によるND濃度の遷移がわかる。
ライブGNDでは画面内の任意の位置にグラデーションの中心をセットすることができる。モニター画面に表示されたライブビュー画像を見ながら境界線を設定する。境界線の位置と回転軸はマルチセレクターもしくは十時ボタンで変更可能。フロントダイヤルで角度を15度ずつ、リアダイヤルで角度を1度ずつ回転できる。
ライブGNDのグラデーションの強さの違いによる画像の変化を確認した。段数はND8に固定。グラデーション境界線は水平線に合わせてある。HARDでは水平線を境に急激にNDの濃度が変化するため境目が目立ちやすい。その代わり画像下部はNDの効果が薄くなるので石畳の明るさにはほとんど影響を及ぼしていない。一方SOFTではグラデーションの範囲が水平線を挟み徐々に濃度が変化しているため境目が目立たずもっとも馴染みがよい。しかし画像下部の石畳にもNDの影響が出ており明るさが変化していることがわかる。このようにグラデーションを選択する際には、全体的な影響も考慮して選ぶ必要がある。
海岸で撮影した星景写真にライブGNDを効果的に使用して理想的な空の明るさに整える。ライブNDを使用せずに撮影した星景写真(左)では地上より空が明るく写ってしまうので、ライブGNDを空にかけて調整を行った。グラデーションの境界線は水平線に揃えている。船が沿岸を航行する海沿いの夜空は天頂よりも水平線近くの方が明るくなりやすいため、GNDのグラデーションの位置を調整して可能な限り均一化する。今回はSOFT,MEDIUM,HARDそれぞれで撮影したものを比較したうえで、地上への影響が最も少ないHARDでの撮影が適していると判断した。
OM-1 Mark IIに搭載されたライブNDおよびライブGNDは、本来レンズにかけるフィルターの効果をデジタル処理によって疑似的に再現する機能だ。OM-D E-M1XでライブNDが初めて搭載されたときにも驚いたものだが、今回のライブGNDの搭載では、カメラ内の処理だけでこれほどまでのことが出来てしまうのかと驚くと同時に感心してしまったほどだ。さらにカメラ内処理であるということは、レンズ前玉がドーム状のM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROや魚眼レンズのM.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROなど、通常であればフィルターを装着することが難しいレンズでも、特別なフィルターホルダーを用意することなくハーフND効果を活かした撮影ができる。これはフィルターワークを活用した表現方法においてとても大きなアドバンスとなるだろう。
ただし、これらを使用する際には制限もある。ライブNDおよびライブGNDと、ハイレゾショットなどの他のコンピュテーショナルフォトグラフィ機能は同時に使用ができない。つまりライブNDとライブGNDは同時に使えないのだ。実は筆者の撮影では、NDとGND(ハーフND)を掛け合わせることで光をコントロールする撮影方法をを頻繁に使用する。現時点においてはOM-1 MarkIIのライブNDとライブ GNDは同時に適用出来ないため、NDもしくはGNDのどちらかをガラスフィルターとしてレンズ前に装着することになるだろう。それでも同時使用するガラスフィルターの枚数を減らすことで、光がガラスを通過する際の画像劣化を最小限とするメリットが生まれるはずだ。
OM-1 Mark II実写作例
より完成形に近づいた先進的かつ実質重視のフラグシップカメラ
OM SYSTEMのフラグシップカメラとしてOM-1が登場したのが2022年3月。筆者はこれまでの二年間OM-1を日々の撮影において、言葉通りにまさに使い倒してきた訳だが、今もってまったく不満を感じたことがない。通常の業務使用において画質は十分に満足できるクオリティであるし、先進的なコンピュテーショナルフォトグラフィ機能も今となってはなくてはならないほど常用している。そして防塵防滴かつタフなボディはどんなにラフに使用したとしても根を上げることもなく、いまだ大きな故障も発生せず信頼に応えてくれている。まさに「めっちゃタフな相棒」なのである。それだけに、発売からたった二年が経っただけのこのタイミングでのOM-1 Mark IIの登場に、はたして、このタイミングで機種転換するほどの違いがあるのだろうかと、少し戸惑いを感じてしまったほどだ。
しかし今回のレビューを通じOM-1 Mark IIを日々使えば使うほどに、OM-1で感じていた「これでも十分だけど、できればもっとこうだったらいいのに」といった点がしっかりと改善されていることに、ついに気がついてしまったのである。立場上カメラ記事をより盛り上げたい身としては「世界初のライブGND搭載!!」のような、より人の目を引く話題を多く取り上げたいところではあるのだが、個人的には、より手ブレを抑制できる手ぶれ補正機能の向上や、ミックス光でのオートホワイトバランスの精度向上、ハイレゾショットRAWの14bit記録など、派手さこそないがより堅実となった改善点にこそ、このカメラの本質を実感してしまうのだ。
おそらくこのような地道かつ実直な改善と、多くのユーザーが待ち望む先進機能の実現といった、一見すると両極端にさえ思える前進こそが、OM-1というカメラが一歩一歩かけて完成形により近づいている証なのだろう。基本性能および画質はOM-1で確立したものをしっかりと継承したうえで成熟させ、挑戦すべき新しい試みは躊躇することなく取り込んでいく。このスタンスこそが私がOM-1に寄せる絶対的な信頼感の礎となっている。まるで頑強さと精密さを兼ね備えた、実質重視のプロ職人のための工具のようなカメラなのである。今後、代を重ねてもきっと信頼に応え続けてくれるはずだ。OM-1 Mark II。なんとも漢気に溢れた「二代目」ではないだろうか。
■写真家:■写真家:礒村浩一
広告写真撮影を中心に製品・ファッションフォト等幅広く撮影。著名人/女性ポートレート撮影も多数行う。デジタルカメラ黎明期よりカメラ・レンズレビューや撮影テクニックに関する記事をカメラ専門誌に寄稿/カメラ・レンズメーカーへ作品を提供。国境離島をはじめ日本各地を取材し写真&ルポを発表。全国にて撮影セミナーも開催。カメラグランプリ2016,2017外部選考委員・EIZO公認ColorEdge Ambassador・(公社)日本写真家協会正会員