星空のタイムラプス動画を制作しよう!その2:撮影計画を立てる

はじめに
みなさん、こんにちは。写真家の北山輝泰です。今回は「星空のタイムラプス動画を制作しよう!その1:機材の準備編」の続編として、撮影計画の立て方についてまとめたいと思います。
写真とは違う動画の面白さは「時間の流れ、またそれによって生じる変化」を表現できることですが、一般的な動画に比べるとタイムラプス動画はより長時間の変化を見せることができます。星空のタイムラプス動画では、1枚あたりのシャッタースピードが長くなるため短時間でたくさんの枚数を撮影することができず、1時間程度撮影しても数秒〜数十秒程度のタイムラプス動画を一つ作ることが精一杯です。ですが、撮影時間をかけただけ多くの変化を見せることができるのも事実で、実倍速の動画に比べると非現実感のある面白い動画になります。
タイムラプス動画の作品を作る上で大事なことは「どのような構成で変化を見せ、最終的に何を伝えるか」で、そのためには様々なバリエーションのタイムラプス動画が必要になります。今回の記事では、具体的な撮影事例と共に、どのようなプロセスで撮影計画を立てるかと、様々なバリエーションの素材を撮影する方法について解説したいと思います。
撮影計画を立てる
星空のタイムラプス動画における撮影計画とは「いつ」「どの方角に向けて」「どの被写体を」「どれくらいの時間かけて」撮影するかということです。これらを決めていく上では星空の動きをシミュレーションできるソフトやアプリが必要になります。今回は私が監修している「やまのは」というスマホ向けアプリを使ってタイムラプス動画のシミュレーションをしてみたいと思います(やまのはアプリについてはページの最後にHPのリンクを掲載しておきます)。
まず、はじめに大事なことは作品のテーマ決めです。例えば「これまで様々な場所で見てきた美しい星空」や「雪景色と星空のタイムラプス」といった地上の四季をテーマにしても良いでしょう。視聴者が見る時にこれは一体どういうテーマの動画なのかを明確に伝えることはとても重要です。今回は「富士山をテーマにした30秒のタイムラプス動画作品」を作るという題材で撮影計画について考えてみたいと思います。
30秒といってもどのような構成にするかは様々ですが、30秒まるまる使って一つのタイムラプス動画を見せるということは視聴者が飽きてしまうため殆どしません。10秒の異なるタイムラプス動画を3つ作り、それぞれを繋げて30秒の作品を作るといった具合に、ある程度異なる構図のものをミックスすると飽きずに見てもらえるでしょう。今回はこのパターンで組み立てたいと思います。
例として、
1. 富士山と昇る星々
2. 富士山に沈む星々
3. 富士山とぐるぐる回る星々
4. 月明かりが昇り照らされて明るく輝く富士山と星々
5. 月明かりが沈みシルエットになる富士山と星々
といったパターンの中で撮影計画を考えたいと思います。1~3は方角、4~5は方角に加えて月齢を意識した考え方です。これらの中から撮りたいものが決まったら普段お使いの地図アプリを立ち上げて撮影する場所を決めます。1の場合は富士山の西側から東側に富士山を見られる場所で撮影する必要がありますが、今回は星景写真の定番スポット「朝霧アリーナ」で撮影することにします。
続いて、やまのはアプリを立ち上げて撮影場所の選択を行います。

場所を選択できたら自分が撮影できる日とおおよその時間を入力します。今回は「2025年4月26日(土)の22時ごろ」撮影することにします。あとは時間を変えるボタンを操作しながら、富士山と一緒にどの星をどれくらいの時間撮影するかを決定します。あとで忘れないためにも、スマホの画面収録を使いながらシミュレーションの仮定を保存しておくことをおすすめします。
シミュレーションした結果、22時30分〜翌0時30分までのおよそ2時間撮影すれば、富士山と昇る夏の大三角形というテーマのタイムラプス動画を作ることができることが分かりました。あとはこの2時間をどのような設定で撮影するかを考える次のプロセスへと移ります(どのようにして撮影を行うかは後日また改めて記事としてまとめたいと思います)。この時大事なことは、地上の風景にどの星を合わせるかということです。今回は夏の大三角形でしたが、有名な星座や惑星など、視聴者が見て認識・共感できる被写体を選んだ方が、動画の魅力は増します。
続いて2つ目のテーマです。また同じように地図アプリとやまのはアプリを併用しながらシミュレーションしていきます。2つ目は山中湖明神山パノラマ台から富士山と沈む星を撮るというテーマで構図と時間の検討を行います。
4月26日の20時00分から21時30分ごろまで撮影を行えば、冬の大三角形のうち、ベテルギウスとシリウスが富士山近くに沈んでいくタイムラプス動画が作れることが分かりました。
さて最後の一つのテーマですが、これまで星が題材でしたので、月と富士山で何か撮影できないかを検討します。
富士山の北西にある富士ヶ嶺公園でのシミュレーションの様子です。4月26日の3時30分ごろから5時30分ごろまで撮影を行うことで、ペガスス座の秋の四辺形が昇り、それを追いかけるように金星、土星、海王星、細い月、そして水星が昇り、最後に太陽が顔を出して終わるというタイムラプス動画が撮れることが分かります。薄明の時間での難しい撮影になりますが、印象的なタイムラプス動画になることは間違いないでしょう。
さて、これらのシミュレーションをまとめると、
1. 4月26日の3時30分〜5時30分まで撮影
2. 4月26日の20時00分~21時30分まで撮影
3. 4月26日の22時30分~翌0時30分まで撮影
といった撮影計画を立てることができました。日中は次回の撮影のためのロケハンをしてもいいですし、夜の撮影に備えて仮眠をしてもいいでしょう。撮影の時間が決まれば他の予定も立てやすくなりますので、この撮影計画は大変重要なプロセスになります。
やまのはアプリは山の起伏と共に星空の動きをシミュレーションできるアプリですので、より厳密なタイムラプス動画のイメージを組み立てることができます。ぜひ使ってみてください。以下は以前仕事で制作した富士山と星をテーマにしたタイムラプス作品です。
タイムラプス動画のバリエーション
タイムラプス動画の撮影計画では「撮影日時」、「方角」、そして「被写体の選択」がとても重要な要素になることがお分かりいただけたかと思いますが、他にも重要な決め事があります。それは「レンズの焦点距離」です。星空と風景の撮影では、超広角〜広角レンズがよく使われますが、同じ焦点距離ばかり使っていると、例え風景が変わったとしてもあまり変化を感じられないタイムラプス動画になってしまいます。超広角や広角が主体でもいいのですが、たまに標準や中望遠を使って撮影したタイムラプス動画が混ざるだけで作品の雰囲気は大きく変わります。以下も以前仕事で撮影した動画です。
こちらの動画の中の0:13~、0:42~、1:15~のシーンなどはまさに標準または中望遠を使って撮影したものになります。星空の綺麗さを伝えるということでいえば必ずしも風景が写っている必要はありませんし、天の川やオリオン座など特徴的な被写体であれば、クローズアップして撮影しても見応えのある動画になります。焦点距離では35mm〜100mm程度のレンズがあると良いでしょう。
合わせて覚えておきたいのが「モーション機材の使用」です。モーションとはタイムラプス動画用の素材撮影をする最中に、少しずつカメラの構図を変えながら撮影する技法のことです。動きは大きく分けて、水平の回転運動「パンまたはパニング」と、上下の回転運動「チルト」、この2つの動きを組み合わせた斜めの動き「パンチルト」です。他にもレールを使った横や前後の動きもありますが、始めやすいのが上記の3つです。私はSyrpのGenieという機材や、ビクセンのポラリエUなどの機材を使って撮影しています。動画の後処理でパニング風の動きやチルト風の動きを付与することもできますが、動画を一部切り出して擬似的に動いているように見せるという処理のため、カメラの画素数によっては必要な動画の解像度が足らなくなるということも起こり得ます。そのため、私は撮影中にモーション機材を使用することが多いです。
以下の動画はポラリエUを使ったモーションタイムラプス動画になりますので、参考にご覧いただければと思います。
まとめ
今回はタイムラプス動画の撮影を始める前の撮影計画の立て方を中心にご紹介いたしました。どのようなテーマの作品を作るか決めてから細かい撮影計画を立てていくプロセスは非常に面白く、また無駄な撮影が無くなり効率的に時間を使えるため、他のご予定との両立もしやすくなります。
今回ご紹介した、やまのはアプリについては下記URL先に詳細が載っておりますのでぜひご覧ください。
星景写真シミュレーションアプリ
「やまのは」ホームページ
https://yamanoha.official.jp/
次回はいよいよ素材撮影の方法についてご紹介したいと思います。次回の更新もお楽しみに!星景写真家の北山輝泰でした。
■写真家:北山輝泰
東京都生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。天文台インストラクター、天体望遠鏡メーカー勤務を経て、2017年に写真家として独立。世界各地で月食や日食、オーロラなど様々な天文現象を撮影しながら、天文雑誌「星ナビ」ライターとしても活動。また、タイムラプスを中心として動画製作にも力を入れており、観光プロモーションビデオなどの制作も行っている。星空の魅力を多くの人に伝えたいという思いから、全国各地で星空写真の撮り方セミナーを主催している。セミナーでは、ただ星空の撮り方を教えるのではなく、星空そのものの楽しさを知ってもらうために、星座やギリシャ神話についての解説も積極的に行なっている。