マイクロフォーサーズ最高峰のハイブリッド機 パナソニック LUMIX GH7|映像クリエイター SUMIZOON
はじめに
LUMIX GHシリーズと言えば、「ミラーレス一眼カメラで動画を撮影する」という文化の発展に大きく寄与した機種だと筆者は考えています。今でこそ、ミラーレスカメラで動画を撮るのは当たり前となっていますが、その原点がLUMIX GHシリーズであるという認識です。
メーカーの過去のインタビューなどを見る限りGHの「H」に込められた意味は複数あるのですが、その意味の一つは「ハイブリッド」であり、動画性能・スチル性能を高いレベルで融合させた機種という事が言えます。
GH7は先日発表されたばかりのPanasonicミラーレスの最新機種。その魅力についてなるべく初心者の方にもわかりやすいように紹介したいと思います。
GH7スペック概要
主要なスペックをメーカーページから抜粋すると下記の様になります。
マウント | マイクロフォーサーズマウント |
イメージセンサー | 4/3型 裏面照射型(BSI)CMOSイメージセンサー |
カメラ有効画素数 | 約2,520万画素 |
記録メディア | CFexpress Type Bカード / SDメモリーカード |
AF方式 | 像面位相差AF/コントラストAF |
連写撮影 | メカシャッター使用時の最大秒間連写枚数 14コマ/秒(AFS/MF時)10コマ/秒(AFC時)(LV) 電子シャッター使用時の最大秒間連写枚数 75コマ/秒(AFS/MFのみ、AFCは不可)60コマ/秒(AFS/AFC/MF) |
手ブレ補正方式 | 撮像素子シフト方式、5軸補正、Dual I.S. 2対応 |
EVF | 約368万ドット 有機EL(OLED) |
サイズ | 幅 約138.4mm×高さ約100.3mm×奥行約99.6mm |
質量 | 約805g(本体、バッテリー、SDメモリーカード1枚含む) |
GH7はLUMIX GH6/G9PROIIに続く、3台目の2,520万画素センサー搭載のLUMIXになりますが、例えば先代のGH6と比較した場合、見た目はほぼ同じでもGH7はかなり違う機能を有しています。その代表例が像面位相差AFを搭載している点です(G9PROIIは像面位相差AFを搭載)。
LUMIXはGH6の世代までは独自のコントラストAF技術を採用しピントを素早く合わせる技術を確立していましたが、その技術は動画撮影においては使いこなしが難しいものでした。GH7ではより正確に誰もが扱いやすい像面位相差AFが搭載されています。
また、ダイナミックレンジブーストと呼ばれるダイナミックレンジをフルサイズ並みに拡張する機能の使い勝手に関しては先代のGH6に対して大きなアドバンテージがありますし、LUMIXとして初めて動画のRAW記録が本体のみで収録できる点は、こだわりを持った映像クリエイターに響くものです。
一方で静止画に関してはスチルフラッグシップのG9PROIIを引き継いだ形のカメラがGH7ですが、言ってしまえば
G9PROIIの高性能スチル機+GH6の高性能動画機+新機能+機能向上 = GH7
という欲張りなカメラという事ができます。スチルも動画も高画質に撮りたいという方にもお勧めできるカメラだと感じます。
動画撮影性能の凄さ
GHシリーズと言えば、動画性能の高さが特徴の一つです。その部分に関して述べたいと思います。
作例
まずはGH7で撮影した映像を紹介したいと思います。
この映像はセクション毎に「ダイナミックレンジブースト」、「ProResRAW収録」、「ハイフレームレート」、「手ブレ補正機能」を活かしたクリップを順に並べているものです。GH7には、こんな映像が撮れるというポテンシャルを感じて頂けたらと思います。なお、撮影時に三脚以外には特殊な機材は使わずにシンプルに撮影しただけの映像になります。
AFの進化
前述のようにGH7はオートフォーカスが大きく進歩しました。特に認識AFが人物・動物・車・バイク・列車・飛行機と、今までのLUMIXに比べて認識する被写体が増えました。また、ピントを合わせる部位もそれぞれの被写体の中で選択することが可能になっています。
また、動画ではいかに映像が綺麗であっても、AFが前後に迷う挙動が映っていたりすると、一気に現実に引き戻されてしまいます。そのため、ピント合わせの挙動は視聴者に対して如何に違和感なく見せるか、違和感のない動きができるかが映像品質向上の鍵になってきます。その意味ではGH7は、ほぼカメラ任せにしても違和感が無く撮れるカメラに仕上がったと言えます。
フルサイズセンサーに迫るダイナミックレンジの広さ
ダイナミックレンジとは、一枚の画像の中で暗いところから明るい所までを表現できる性能のことを指します。ダイナミックレンジが狭いと一つの画面の中で明るいところは白く飛び、暗いところは黒潰れしてしまいます。このダイナミックレンジはセンサーサイズが小さいカメラでは特性が出ず、余裕のない写真や動画になってしまう傾向にありました。
それを技術で補うものがGH7に搭載されている「ダイナミックレンジブースト」です。
これは写真、動画の撮影時において暗い部分は高感度回路、明るい部分は低感度回路というように一枚の写真や動画フレームの中で、カメラ側が画素ごとに明るさを判定し最適な回路を使って読み出しを行う技術です。
少々難解に思われるかもしれませんが、これは全てカメラ内でユーザー側は意識する事なく動作します(よって、この機能のON/OFFするためのメニューは存在しません)。
一部の超高価なシネマカメラで採用されている技術ですが、ミラーレスカメラでは現状はGH6/G9PROII/GH7にしか搭載されていないはずです。
また、先代のGH6ではこの機能は高感度撮影でしか有効にならなかったのですが、GH7では低感度から使用することができます(G9PROIIでも低感度での使用が可能)。これらのことは動画とスチル撮影の双方において言えることです。
GH6で初めて搭載されたダイナミックレンジブーストというテクノロジーはGH7では成熟の域に入ったと言えます。
繊細な描写を実現した25MPセンサー
これは初めてGH6(25MPセンサー搭載)で撮影した時に感じた事ですが、LUMIX GH6/G9PROII/GH7に搭載されているイメージセンサーはスチルと動画撮影の双方で非常に繊細な描写を可能とします。はじめて25MPのイメージセンサーの画像を見た時の印象は、線が細くフルサイズの描写に匹敵するというイメージを持ちました。
GH7も画質に関しては共通していますが、先の述べたダイナミックレンジブーストが低感度から使えるようになったおかげで、日中の撮影でもシャドーからハイライトまで美しい描写で撮影をすることができます。
動画ファイルフォーマットの多彩さ
GHシリーズは数多くのフォーマットで動画撮影することができます。20万円台のカメラでは異常なほど多彩であり、これはGH7の特徴の一つと言えます。主要なものをいくつか列挙すると下記の様になります。
5.7K 60p/30p/24p
4K 120p/60p/30p/24p
FHD 240p/120p/60p/30p/24p
これらは色情報が豊かな10bitフォーマットで撮影することができます。
一方で、初心者の方や低スペックPCを使用している方でも扱いやすい4K/FHD 8bitフォーマットも備わっているのがGH7です。実は先代のGH6では基本的には10bitフォーマットで動画撮影を行う事が前提の機種でした。ですが、8bitフォーマットは初心者だけでなく、色編集をしない「撮って出し」の業務使用においても有効なフォーマットであり、8bitフォーマット搭載を望む声は少なくありませんでした。
GH7では8bitのFHDフォーマットから、ProResという映画制作でも使われる様な超高品質なフォーマットまで大きな振り幅があります。
さらにはProResRAWという動画のRAWフォーマットまで撮れるモンスター級の動画撮影カメラという事ができます(ProResRAWは5.7K30p/24pおよび4K60p/30p/24pに限られます)。
いずれのフォーマットも高品質な映像で撮る事ができますが、ほとんど動画を撮ったことの無い方は、まずは4K 30p 8bitフォーマットもしくはFHD 30p 8bitフォーマットで撮影をしてみるとよいかと思います。いずれも扱いやすいフォーマットですがGHシリーズの高画質映像のポテンシャルを感じる事ができます。
空冷ファンでの排熱機構
以前からGHシリーズには共通点があります。それは熱で撮影が止まらないカメラという点です。これはメーカーの「GHシリーズは熱で撮影が停止することがあってはならない」という信念とも言えるもので、多くのプロの映像撮影現場で支持されてきた理由の一つです。
本サイトをご覧の方の中には動画撮影中に熱停止で撮影ができなくなったという経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。今ではほぼ全てのデジタルカメラにおいて動画撮影ができるようになりましたが、安心して連続撮影できるミラーレス一眼カメラは数えるほどしかありません。プロの現場でもプライベートの記録でも撮り逃しできないケースはあります。そういった撮影において強い味方がGHシリーズでしょう。
多くのミラーレスカメラで発生する熱停止問題ですが、GHシリーズではGH6から空冷ファンを搭載することでカメラの温度上昇を抑える機構になっています。
空冷ファンが入っていることで「動画の記録音声にファンの回る音が入りそう」と心配される方もおられるかもしれませんが、GH7に搭載されているファンは静音性が高く、さらにはファンの音声をキャンセルする機構が入っているため心配は不要です。また防塵防滴に関しても対策がなされています。
私は空冷ファンを有するLUMIXを現在3台所有し、かなりの頻度で使用していますが、空冷ファンに関するトラブルは一度も経験がありません。
圧倒的な手ブレ補正性能
LUMIXは他のカメラを圧倒する手ブレ補正機構を有しています。スチル撮影でも手ブレ補正の有効性を感じることができますが、驚くべきはその動画撮影時の手ブレ補正の効きです。
ボディ内手ブレ補正というメカ的な機構だけでも十分ですが、動画撮影時はさらに電子手ブレ補正を併用することができます。
例えば電子手ブレ補正(動画)を「強」にすると、あたかもジンバルやスタビライザーを使ったかのような映像を簡単に撮ることができます。
ミラーレス一眼での動画撮影はジンバルが要るという様な風潮が一時期ありましたが、私はプライベートの撮影でこの一年使用すらしていません。正確無比な撮影はジンバルを使わないと撮れないケースはありますが、それでも多くの場合は手持ち撮影と撮影後のポスト処理で補えることが多いからです。
SSD記録/動画RAW内部収録など
GH6/G9PROIIと同様に、GH7ではUSB-Cで外部接続したSSDに動画・写真を記録する事が可能です。
GH7では高品質な記録フォーマットで動画撮影ができますが、ProResなどの記録フォーマットで長時間の撮影のために大容量のCFexpressを用意するためにはメディアコストがかかります。一方でSSDはビット単価が比較的安価ですので長時間の撮影においてもコストパフォーマンスに優れた記録が可能となります。またSSDには動画だけでなくスチルのデータも保存が可能になっています。
GH7ではLUMIXとして初めて、動画のRAWフォーマットであるProResRAWの内部収録に対応しています。RAWであるが故に、ファイルサイズこそ大きくなりますが、撮影後の露出調整やホワイトバランスの調整など自由度の高い後処理ができます。
スチルカメラとしても高性能なGH7
超高速電子シャッター連写
静止画撮影性能はスチルフラッグシップのG9PROIIとほぼ同じと言えます。連写性能に関しては電子シャッターを使用した場合、60コマ/秒で追従撮影が可能です。バッファは190枚分でRAW撮影までもが可能です。
これは各社フラッグシップカメラと比べても秀でた性能であると言えます(シングルAF(追従無し)の場合、75コマの超高速撮影も可)。
そしてGH7の場合は高速なCFexpressが使えるためSDカードを使用した記録に比べて圧倒的にバッファの解放が速いのです。シングルスロットでの記録であればG9PROIIに比べてGH7は快適に連写撮影を楽しむ事が可能になっています。
なお、GH6とG9PROIIはスチル撮影時のバッファ200枚に対してGH7では190枚と5%少なくなっているため、ここはGH6/G9PROIIがGH7に勝っている数少ないポイントです。
手ブレ補正
手ブレ補正に関してはG9PROIIの8段分の補正効果に対してGH7は7.5段分(H-ES12060 焦点距離60mm時)の効きとなっています。スペック上はG9PROIIに軍配があがりますが、そもそもLUMIX Gシリーズのボディ内手ブレ補正の効きは異常なほどの補正効果がありますので0.5段分の効きの差を感じる人はほぼ居ないのではないかと思います。先のバッファの話と合わせてこの2点がG9PROIIからのデグレードポイントですが、いずれも軽微なものです。
焦点距離にもよりますが、広角の画角であれば手持ちで1秒程度のシャッタースピードでも歩留まりよく撮影できるのは流石と言えます。
最大1.5秒プリ連写
電子シャッター(秒間60コマもしくは20コマ)を使うことが前提ですが、シャッターを押した瞬間から最大1.5秒を遡って記録を行うことができます。野球のバッターのインパクトの瞬間や野鳥が飛び立つ瞬間を誰でも簡単に撮影することができます。
多くのカメラではこれらはRAWでの記録はできませんが、GH7ではJPGは当然の事、JPG+RAWでの記録が可能となっています。
1億画素相当のハイレゾモード
GH7には前述のとおりセンサーシフト手ブレ補正が備わっていますが、その機構を使用した機能がハイレゾモードです。もちろんこの機能は被写体の動きが少ない風景撮影の場合に有効な撮影方法ですが、ピクセルレベルでセンサーシフトを行うことで2500万画素のセンサーを1億画素相当まで向上させる機能です。
加えてGH7は手ブレ補正の精度が高いため、手持ちでもハイレゾモードが可能になっています。
ハイレゾ撮影は本来は三脚固定での撮影が基本ですが、手持ちで気軽に使えるところが素晴らしい点です。
LEICA モノクローム
LEICA モノクロームは最新のLUMIXに搭載されているモノクロのフォトスタイルになります。LUMIXには多くのモノクロのフォトスタイルが搭載されていますが、このフォトスタイルはG9PROIIに初めて搭載されて以降、多くのカメラマンに好評を得ています。コントラストが非常に高いながらもダイナミックレンジを感じさせる絵作りで、私自身このフォトスタイルを非常に気に入って使っています。
卓越した描写
GH7はGH6以前のマイクロフォーサーズとは別の写りをします。GH5は約2033万画素で、GH7は約2,520万画素ですので極端に画素数が増えたというわけではありませんが、その写りは画素数以上のものがあります。線の細い描写で、一言で言うなれば「繊細」という印象です。この話はスチルだけでなく動画にも当てはまります。
GH7に弱点はあるのか?
欠点を見つけられないほどにスチル・動画撮影ともにスペックが高いGH7ですが、その弱点はあるのでしょうか?
まず、GH7はマイクロフォーサーズ機としてはかなり大きいカメラです。小型のフルサイズカメラが販売されている中でそこが一つの弱点であると言えます。
気軽にスナップシュートを楽しむと言うよりも長回しができる信頼性の高い動画カメラとしての使用用途が想定されます。
ですが、マイクロフォーサーズはボディが大きいとしてもレンズを含めたトータルシステムは小さいです。特に望遠域の撮影ではフルサイズ換算で約2倍の画角になりますので、超望遠撮影においてはシステムの小ささは私も気に入っている所です。なので、大きさとしてはシステムトータルとして考えてみるべきでしょう。
もう一つ弱点を挙げるなら、GH7はバッテリーの持ちが良くない、という点です。スチル撮影の場合はバッテリーの消費はあまり感じないですが、動画撮影においてはバッテリーを多く消費する事は否めません。これはGH6でも同様で高画質の代償と言えるものだと思います。
対処方法としては、バッテリーを複数用意するか、USBポートにモバイルバッテリーを接続すれば大幅に撮影時間を伸ばすことが可能です。なお、SSDを記録媒体とした場合、USBからの給電ができないためカプラーを使用するなどの工夫が必要となります。
※このカプラーは27W以上のアダプターとケーブルを使用し、ACアダプターでの使用が前提です。モバイルバッテリーの使用は推奨されませんのでACアダプター以外の使用は自己責任となります。なお、通常のバッテリーと異なり、動画記録中の電源喪失の場合、ファイルが正常に記録されない事になりますので、こちらも認識の上で使用してください。
まとめ
冒頭でも述べた通り、約2,520万画素センサーを搭載したマイクロフォーサーズ3台目のカメラがGH7ですが、このカメラになってGHシリーズは完成の域に到達したという印象があります。GH6も確かに素晴らしいカメラではありますが、その扱いやすさは初心者でも使えるほどユーザーに優しくなりましたし、上級者や業務で使用されている方や映像クリエイターの方にもお勧めできるカメラとなっていると感じます。そしてそのカメラが映し出す映像の品質は時にフルサイズの映りをも凌駕するもので、美しい描写には舌を巻く事が少なくありません。
私事ではありますが、映像を撮る楽しさはLUMIX GH2に教えてもらいました。そして今も新しい映像の可能性を見せてくれる存在がGH7です。時代はGH2の時代と大きく変わり、映像をミラーレス一眼で撮る事は当たり前となりましたが、GH7はそんな時代の中で他のカメラにはない映像表現ができる存在だと思うのです。
そして動画だけでなく、スチルカメラとしてもマイクロフォーサーズ最高峰の写りを楽しむ事が可能です。スチルフラッグシップG9PROIIと同等の写りと、LUMIXの技術が詰まった手ブレ補正の組み合わせは強力に撮影をサポートしてくれるものです。
ぜひGH7で動画・スチル撮影を楽しんでみてはいかがでしょうか。
■写真家:sumizoon
2011年よりサラリーマンの傍ら風景、人物、MV、レビュー動画等ジャンルを問わず映像制作を行うビデオグラファー。機材メーカーへの映像提供や映像関係メディアでレビュー執筆等を行う。Youtubeチャンネル「STUDIO SUMIZOON」登録者は1万人以上。Facebookグループ「一眼動画部」主宰。「とあるビデオグラファーの備忘録的ブログ」更新中。