はじめに
パナソニックのカメラとの出会いはミラーレス一眼のパイオニアG1が最初だ。元々フォーサーズ規格が自分の撮影スタイルと合っていてデジタル一眼レフのL1が登場した時は「欲しい!」と思っていたが、当時の私の経済力では手が届かない価格設定だった。ボディは買えなかったがズミルックスは頑張って手に入れて愛用していた。
ミラーレス一眼G1が発表された時は「これぞ自分が求めていたカメラ」だと思い、すぐにカメラ屋さんに実機を触りに行った。そのままG1を購入してパナソニックデビューを果たし、GF1を購入し、GHシリーズも流れるように導入した。私の初めてのGHシリーズは「GH2」で、当時そのモンスタースペックに驚愕した。元々学生の頃から動画の仕事をしたいと思っていた自分にとってスチルカメラでムービーが撮影できるのは願ったり叶ったりで、当時勤めていた広告写真スタジオでも動画の撮影が少しずつ増えていた時期だったのでちょうどいいタイミングだった。それからはGH3、4、5と導入しGHシリーズは発売されるたびに導入していった。
今回発表されたパナソニックGH7はGH6のボディを継承しつつも、中身はさらにブラッシュアップされたハイブリッドカメラとなっている。GH6だけ導入のタイミングが合わず代わりにG9PROIIを導入したのだが、G9PROIIユーザーとしてもGH7は魅力的な機能や性能がてんこ盛りだ。
GH7の動画性能についてはいろいろな場面で紹介されていると思うので、私の場合はスチルをメインに日常シーンや風景をメインに撮影した。スチルメインの方にもかなり楽しめるカメラになっているので作例と合わせて紹介しようと思う。
外観
GH7のボディデザインはGH6を踏襲。GH6用のケージなどのアクセサリーがそのまま使用可能だ。私自身GH7の導入が決まっているのでGH6のケージがディスカウントされていたタイミングで先にケージだけ購入しておいたのだが、今回お借りしたGH7にピッタリだった。他にもGH7発売のタイミングでGH6用のアクセサリーがディスカウントされている可能性があるので狙ってみるのはアリだろう。
現在はパナソニックのカメラはG9PROIIをメインに使っているが、GH7はガッチリとしたデザインで背面の冷却ファンがいい感じに主張していて「フラグシップ感」があって嬉しい。マイクロフォーサーズのカメラとしては重量級かもしれないが、個人的にはフラグシップなら大きくて重たいのは全然OKだと思っている。レンズとボディのバランスは流石のマイクロフォーサーズで、どのフォーマットよりも安定感がある。
G9PROIIを普段から使用しているのでGH7を手にした時にすんなり使う事ができた。グリップがかなり大きいので掴み心地も良く、大きなレンズを組み合わせてもホールド性は抜群だろう。バッテリーもG9PROIIと共用できるのでお互いにサブ機として使える。ただフロントダイヤルの向きがG9PROIIは横、GH7は縦だったのでG9PROIIを使っているときの癖で人差し指のポジションに少し戸惑った。
EVFはG9PROIIと同じく368万ドットOLED。細部までしっかりと確認できピントの山も非常に掴みやすい。特に最短距離で撮影の時はMFにして最短にピント位置を固定し撮影する事が多いのでEVFの見え具合は重要だ。
LUTで自分の世界観を作る
パナソニックのカメラの特徴的な機能の一つに「リアルタイムLUT」がある。
LUTとは簡単に言えば動画の仕上がりプリセットのようなもので、パナソニックのカメラは自分の好きな雰囲気の仕上がりのLUTをカメラに登録しておく事が可能だ。そのLUTをスチル撮影に応用したのがリアルタイムLUTとなる。
GH7では39種類のLUTをカメラ内に登録しておく事ができ、なんとGH7では好きなLUT同士を組み合わせて自分好みの仕上がりをその場で作る事が可能だ。先日発売されたフルサイズミラーレスLUMIX S9ではすでに搭載済みで、今回マイクロフォーサーズのGH7にも搭載された。絵の具を混ぜるような感覚で好きな仕上がりと好きな仕上がりを混ぜて、また新しい仕上がりを作って撮影する……いやはや、すごい時代になった。
さらにパナソニックの面白いところは、このLUTをスマートフォンアプリ「LUMIX Lab」を使ってスマホの中で作る事ができるのだ。さらにプロの写真家が作ったLUTをインストールして使うこともできるので「この人の仕上がり好みだな」と思えばその設定をカメラ内に登録して撮影する事ができる。スチルだけでなく動画撮影でも使えるので仕上がりのバリエーションは本当に無限大だ。
最初に見ていただいた写真がLUTを適用したもので、下2枚はフォトスタイルをスタンダードとビビッドに設定して撮影したもの。それ以外はLUTを適用しているか否かの違いだ。
スタンダードやビビッド設定は見た目に忠実な写りをしているが、LUTを当てた一枚は実際とは色味は違う(白い花びらが青かぶりしている)。もちろん色味に忠実に変化を持たせるLUTもあればさらに極端に変化を加えるLUTもあるので、自分が何に重きを置いて撮影をするのかを決めてフォトスタイルやLUTを選ぶと良いだろう。まずはいろいろな仕上がりを試してみて、一通り楽しんでから自分の方向性や好みに合わせて仕上がり設定を決めていくのもいいだろう。自由度が高いということはそれだけ迷う材料にもなることなので、いろいろな人の写真を見て自分の引き出しを増やしておこう。
最後の植物の写真は強めのLUTを当てているのでかなり差が出ているが、私の場合は自己表現(アート)としての写真は自分さえ納得していればどんな仕上がりでもOKだと思っている。自分のフィルターを通じて生まれたイメージをGH7の中で作り撮影する。そんな撮影体験が簡単にできてしまうのだから楽しくないわけがない。
そして今回もう一つご紹介したいのがGH7の動画機能についてだ。
あまり深掘りはしないが(そもそも語らずともハイスペックムービーマシンなので)GH7ではオープンゲート収録というスチルと同じアスペクト比で動画を撮影する事が可能だ。
先ほどの植物の写真、撮影時には結構な風が吹いていて植物が揺れていたのだが写真では止まって写ってしまう。そこで動画で撮影してしまえば「風」も写す事ができるなと思い「スチルの設定」でそのまま動画を撮影。LUTもそのまま使用できるのでスチルと同じ仕上がりで動画を撮影可能なのだ。つまり、「動く写真」を撮影する事ができるというわけだ。
実際にLUTを当てる手順を紹介したい。外部モニター収録なので実際のカメラのプレビューとは違うが雰囲気を見ていただければと思う。
このような感じで自分に合った仕上がりイメージをカメラ内で作っていく。カメラ内に登録できるLUTは39種類だが入れ替えることもできるので、気分に合わせていろいろな仕上がりを楽しんでみよう。
驚愕の1億画素ハイレゾモード
GH7は有効画素数約2,520万画素のセンサーを搭載しており、そのままでも十分高画質なのだが、ハイレゾモードで撮影することで「1億画素」の静止画を撮影する事が可能となる。ハイレゾモードには「手持ちモード」と「三脚モード」があり、共に1億画素での撮影となるが「三脚モード」の方がより画質もよく撮影後の処理時間も早い。
ハイレゾの仕組みとしては複数枚の写真データを1枚にまとめる事で画素数を増やしているので、基本的には動体には使えない。滝や川のような被写体であれば使用は可能だが、スローシャッターで撮影したような表現に補正される。もちろんハイレゾモードでもLUTを当てた状態で撮影する事ができる。
今となってはハイレゾ撮影は当たり前になりつつあるが、撮影後にPCのアプリを使用して生成が必要だったり動体補正の精度が悪かったりで実用が難しいものが多い中、パナソニックのカメラは精度も高くカメラの中でハイレゾ画像を生成してくれるので、その場でハイレゾ画像を確認することが可能だ。背面モニターで拡大していくと「ここまで写っているのか……」と驚かされる。もちろん中判デジタルなどのラージフォーマットを使えば簡単に撮影できるのだが、そうではなくマイクロフォーサーズで1億画素の撮影ができることにロマンを感じる。
滝や川などの動体を撮影する時に役立つのが動体補正だ。
被写体ブレが残像のように見える「MODE1」、被写体ブレの残像を抑えるが補正した部分はハイレゾの効果が得られない「MODE2」と2つの補正方法がある。私の場合はMODE1を選ぶ事が多いがブレが気になる場合はMODE2を選択しよう。
MODEによって水面の表情に違いがあるのがわかる。この補正は三脚モードでしか使用できないので、ハイレゾ撮影で最高の仕上がりを得るのであれば三脚を使用しての撮影を心がけよう。
モノクロというカラー「LEICAモノクローム」
リアルタイムLUTとLEICAモノクロームにハマってしまって、思わず衝動買いしてしまった G9PROII。もちろん今回発表されたGH7にもLEICAモノクロームは搭載されている。このモノクロがまた良くて、モノクロなんだけど色味を感じるリッチなモノクロモードだ。モノクロ専用のデジカメも多く発売されているが、LEICAモノクロームのためだけにGH7を買うのも全然ありだと思っている。実際、私はそれでG9PROIIを購入してしまった前例があるからだ……笑。多くは語らず、実際に撮影した写真を見ていただければと思う。
自由作例
まとめ
GH7は奥が深すぎて一度のレビューで全てを語るのは難しい。スチルとムービーのハイブリッドということもあり、できることはかなり多い。ムービーカメラとして注目している人が多いとは思うが、私のようにスチルがメインでムービーもという人にもおすすめだし、これからムービーにも挑戦してみようかなという人にもオススメできる。機能がたくさんあるからこそカメラがカバーしてくれることも多く、特にワンオペの現場ではこんなに頼もしい機材はないだろう。
G1が発売されたのが2008年。あれから16年の月日が経ち(つい前日発売されたような気がするのに……)いま手元にはG9PROII、そして自分のGH7が早く届かないかと待ち遠しい状況だ。
撮影が楽しいカメラはいい写真が撮れる。まずは自分が満足する事が何より重要だ。GH7の自由度は撮影が楽しくなるだけでなく表現の幅も大きく広げてくれる。
G1の時もファインダーの中に仕上がりイメージが写っていて、自分の撮りたいイメージを確認しながら撮影する楽しさがあった。オールドレンズを組み合わせてもピントを拡大して簡単に撮影ができたり、今思えばかなり画期的な一台だった。
GH7が手元に来たら何を撮影しようかなと今から楽しみだ。ネイチャーか日常か、散歩しながらそのあたりの景色を撮影するだけでも楽しそうだ。皆さんもLUMIX GH7と共に目の前にある景色を自分のフィルターを通じて表現してみてはいかがだろうか。きっといつもと違う景色が見えてくるはずだ。
■写真家:木村琢磨
1984年生まれ。岡山県在住のフリーランスフォト&ビデオグラファー。広告写真スタジオに12年勤務したのち独立。主に風景・料理・建築・ポートレートなどの広告写真の撮影や日本各地を車で巡って撮影。ライフワーク・作家活動として地元岡山県の風景を撮影し続けている。12mのロング一脚(Bi Rod)やドローンを使った空撮も手がけ、カメラメーカー主催のイベントやセミナーで講師を務める。