パナソニック LUMIX S 85mm F1.8|この価格でこの描写力!驚くほどコスパの良い中望遠単焦点レンズ
はじめに
LUMIX Sシリーズ用の中望遠単焦点レンズ「LUMIX S 85mm F1.8」が、11月26日に発売されました。小型、軽量の本レンズは、85mmという画角とF1.8の明るさなので、ポートレートを撮る方が特に気になるレンズだと思います。ですので今回は、人物撮影に特化してレビューをお送りします。
空気感も描き出す高い描写性能
筆者はポートレート撮影では、開放F値での描写性能をとても大切にしています。人物が浮き出るような、見ている人の目線を被写体の瞳に惹きつけるような立体感のある表現を、開放F値で隅々まで綺麗に描き出してくれるレンズであることは重要で、特にF1.8前後の開放F値のレンズでは、マストであって欲しい性能です。
この作例では、少ししっとりとした雰囲気を出したくて、筆者にしてはアンダー目に仕上げています。絞りはもちろん、開放のF1.8です。照明などは使用せず、窓からの自然光のみで撮影しています。パカッと明るくしすぎないことで、モデルの肌の質感や、優しい空気感を描くことができます。
レンズ構成は8群9枚で、EDレンズ2枚を使用しています。ピントが合っている箇所のくっきり感は素晴らしく、ボケている箇所の優しいなめらかな描写、立体感のあるディティール表現など、価格を考えるとびっくりするほど高性能なレンズに仕上がっています。また、色収差の補正能力も高く、寄りから引きの撮影まで、繊細な描写で仕上げてくれます。ポートレートではアップから全身まで、これ一本で問題なく撮影できるでしょう。
小型・軽量なF1.8単焦点シリーズ
本レンズはサイズや操作性を統一した、F1.8単焦点シリーズのレンズの第一弾になります。今後発売予定の24mm、35mm、50mmとサイズ(最大径Φ73.6mm、全長82.0mm)、フィルター径(Φ67mm)、フォーカスリングの位置、AF/MF切替スイッチの位置、前枠の外径が同じになる予定なので、NDフィルターなどを何枚も用意する必要がなくなります。また、動画撮影時、レンズ交換後のジンバルの調整も最低限で済むのは、とても助かります。
実際にカメラにつけて撮影してみると実感するのですが、85mmにしては小さくて軽い!筆者は人間サイズが小型なので、85mmレンズで撮影していると、とても大きなレンズを持っているように見えてしまうのですが、本レンズはそんなにオーバーに見えず、外での撮影も違和感なく行えました。LUMIX S5とのバランスも良く軽量なので、立ったりしゃがんだりと、フットワーク軽く撮影できたのも、メリットのひとつです。
くっきり感の強いレンズ
絞り羽根枚数は9枚で、円形虹彩絞りを採用しているので、光のボケもなめらかで綺麗に描写します。フレアーやゴーストも抑えられていて、余計なことを考えずに撮影に没頭できるレンズに仕上がっています。
本レンズの第一印象は、線の一本一本までしっかりと丁寧に描くレンズだと感じました。髪の毛やまつげの描写が綺麗なので、顔だけではなく、モデルの色々な「線」に注目して撮影すると、さらに楽しいと思います。そのように、ピントを合わせた範囲はくっきり感が強いので、ポートレートでは開放、もしくはF2.8程度までの絞りが使いやすいでしょう。逆に、背景までしっかりと描き出したいときは、絞ることで詳細な描写の、スナップ的なポートレートを撮ることもできます。
ポートレート撮影だと、目線ありなしに関わらず、モデルの正面のカットが多くなりがちですが、横顔や斜めの顔も意識して撮るようにしてみましょう。正面からは気が付かなかった、新たなモデルの魅力を感じられるかも知れません。
緩やかにカールしたまつげのラインをくっきりと、唇の膨らみを艷やかに表現するためには、光の状態を見て撮影位置を決めます。85mmの画角なら、大きな声を出さなくてもモデルとコミュニケーションが取れる距離から撮影できると思いますので、光とモデルの位置を見ながら、ポージングの微調整を行いましょう。また、自分が低くなったり左右にずれてみたりと細かく動いてみると、綺麗な背景が見つかります。
モデルの瞳を印象的に描いてくれる0.8mの最短撮影距離
最短撮影距離は0.8mなので、かなりアップまで近寄ることができます。とはいっても、85mmの画角なので、通常の撮影ならモデルが圧迫感を感じるほど近づかなくても、モデルの瞳を印象的に捉えたポートレート撮影ができるでしょう。
作例のカットは外で撮影しています。かなり天気のいい日だったので、日陰に入り、左頬を透明のガラスに近づけてもらって、反射を利用して明るさを作っています。レフ板は使用していませんが、モデルの白い衣装が、下からのレフ板効果となっています。
ポートレート撮影でモデルに衣装をリクエストできる場合、迷ったら白い衣装をお願いしてみましょう。露出が測りやすかったり、腕を伸ばしてもらって自身の服でレフ効果を作ってもらえたりするので便利ですよ。
ストレートな描写で使いやすい、コストパフォーマンスの高いレンズ!
普段、50mmを好んで使用する筆者ですが、本レンズはクセが強くないので、とてもすんなりと撮影に馴染めました。人間を相手に撮影するポートレートでは、機材に振り回されている余裕はないので、自分の好みの画角のレンズを使用しやすいのですが、本レンズはストレートな描写のお陰で、様々な撮影シーンでも戸惑うことなく使用できました。
今回はそれほど過酷な撮影シーンはありませんでしたが、本レンズは防塵・防滴仕様(LUMIXの防塵・防滴対応カメラボディ装着時)で、マイナス10℃の耐低温設計なので、波打ち際での爽やかなポートレート撮影や、雪山での幻想的なポートレート撮影なども楽しめます。ポートレートを撮影しなくても、望遠画角がお好きな方は、一度使用するとバランスの良い性能にハマっちゃうと思います!
AFはもちろん素早く、そして静かに合うので、静止画はもちろん、動画撮影でも活躍するレンズになりそうです。LUMIX Sシリーズをお持ちの方、もしくはこれから手に入れようと思っている方は、ぜひ一緒に使って欲しい、コスパのいいレンズです。
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。 (社)日本写真家協会(JPS)会員。
■モデル:愛咲しおり