パナソニック LUMIX S5の星空適性を検証|写真・動画の両立を実現した良質な一眼!

成澤広幸

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はじめに

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 Panasonic「LUMIX DC-S5」(以下、LUMIX S5)は、2020年9月に発売されたフルサイズミラーレス一眼カメラです。同社のフルサイズ一眼で先行機であるDC-S1、S1R、S1Hと比べて非常に小型・軽量化されたモデルで、価格も20万円前後とフルサイズ一眼にしては比較的手に入れやすい価格が話題となりました。

 LUMIXと言えば、みなさんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。初めてミラーレス一眼を作ったメーカー、動画に強いメーカーなど……正直に申し上げると、星空撮影に向いているという印象を持っている方はいないんじゃないかと思います。

 実は私、以前から同社のカメラに関心が高く「そのうち使ってみたい」と思っておりました。そして発売から一年が経った2021年9月にLUMIX S5購入しました。私はほぼ全てのメーカーで星空を撮影した経験があるのですが、LUMIX S5はその中でも星空撮影への適性が高いカメラだと感じています。今回はLUMIX S5の魅力について星空撮影の観点からレビューしたいと思います。

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高感度特性を星空撮影の面から検証

 星空はゆっくりと動いており(地球が自転しているので実際は地面が動いている)、ずっと止まっている被写体ではありません。そのため、可能な限り速いシャッタースピードでの撮影が必要となります(と言っても10秒~20秒くらいはかかります)。その上で、適正露出を得なければなりませんので、星空撮影ではISO6400前後の高感度撮影が必要となります。でもそんなに感度を上げるとノイズがたくさん出るじゃん!と思いますよね?そうなんです。だから高感度撮影時の描写性能が気になるわけです。まずはLUMIX S5の高感度性能について見てみましょう。

 以下の画像は、それぞれISO3200、ISO6400、ISO12800、ISO25600で撮影した画像です。同じ露出になるように、感度に合わせてシャッタースピードを変化させています。

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 次に、この画像のオリオン座の部分を拡大して比較してみます。

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 ちょっとびっくりしませんか。いや、私はびっくりしたんですけども。ISO12800のノイズの少なさ!なんじゃこりゃ!LUMIX S5にはGH5SやS1Hに搭載されている「デュアルネイティブISO」が採用されています。以下、メーカーHPより抜粋。

LUMIX S1から受け継いだ高感度性能に加え、当社製シネマカメラ VARICAMに搭載している独⾃技術「デュアルネイティブISOテクノロジー」を搭載。例えばV-Log撮影時にISO4000以上を必要とする低照度環境下では、ベース感度がISO4000に自動的に切り替わり、低ノイズ・高ISO回路を使用した撮影になります。これにより、通常の低ISO回路(V-Log時ベース感度640)で撮影した場合と比べてノイズを抑制した映像クオリティを実現します。作品の品質を大きく落とさず、照明機材のコンパクト化や定常光を活かした撮影が可能となります。

⼀般的なイメージセンサーは、単⼀の感度・ゲイン回路構成を有していることから、⾼感度になるほどノイズも同時に増幅されてしまうという課題がありました。1画素ごとに専⽤回路を2系統備えたデュアルネイティブISOテクノロジーは、「低ISO感度回路」と「低ノイズ・⾼ISO感度回路」の2系統を自動的に切り換えることで、⾼感度時もノイズを抑えた、より⾃然で美しい絵作りを可能にします。

 前半は動画性能についての記述、後半は静止画についての記述です。つまり、ISO3200よりもISO4000以上の方が低ノイズということになってしまうと!この傾向を理解していないとLUMIX S5の性能を引き出せないことになってしまいますので注意しましょう。

 上の画像でISO3200とISO6400を拡大して比較して見ていただきたいのですが、確かにISO3200と6400ではあまり差を感じないんですよね。そしてISO12800が一般的なISO6400くらいのノイズレベルに感じます。これが「デュアルネイティブISO」の力なのか……!!

 星空撮影では高感度撮影時のノイズの少なさも重要ですが、同時に「画像処理がしやすいか」も重要だと考えます。高感度撮影時はダイナミックレンジが狭くなるため、もやっとした描写になりやすく、低ノイズであっても画像処理がしやすいかどうかは、実は別問題だったりします。

 星空の写真はただでさえ高感度撮影でノイズが多い上に、光害などの余計な光を軽減したい場合があるので、画像処理をすることは前提と言っても良いでしょう。LUMIX S5はこの点においても合格で、高感度特性に優れていると同時に、撮影されたデータは非常に画像処理のしやすいものであると感じました。

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■撮影機材:Panasonic LUMIX DC-S5 + SIGMA 14mm F1.8 DG HSM | Art + Lee ソフトフィルターNo.1
■撮影環境:ISO12800,f2.8,SS10秒,WB:オート
Adobe Photoshop Lightroom Classicで画像処理
(シャドウ+30,明瞭度+20,シャープ0,ノイズ低減+20,カラーノイズ低減+30)

 左が元データで、右が画像処理を加えたものです。ご覧の通り、元データが非常に優れていることがわかりますね。これなら左の元データからの撮って出しでもそこそこ使えそうな感じがします。画像処理があまり得意でない初心者の方にも良いカメラであると感じます。

シャドウ部の豊かな階調が魅力的

 LUMIX S5を使用していて感じたことは、シャドウ部の画像処理がしやすいという点です。シャドウ側に余裕を持たせているのか、画像処理時にシャドウを明るく補正したときの諧調が非常によいのです。これは完全な私の感覚で根拠がない話ですが、反面、白飛びしやすいような印象もあり、画像処理での白飛び復元がしにくいようにも感じます。

 通常は露出アンダーなシャドウ部にノイズが発生しやすいため、画像処理時にシャドウ部が復元しやすいよう”多少白飛びしても少し露出オーバーめに撮影”することが多いのですが、LUMIX S5を使用するときは白飛びに注意しながらカメラの設定をします。多少黒つぶれしていても、画像処理時にきれいに明るさを補正できる感じが、他社カメラよりも優れていると感じました。もちろん限界はありますが、露出アンダーと、露出アンダーによる暗部ノイズの発生を恐れずに撮影することができます。

■画像処理前の元データ
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■上の写真のシャドウを大きく補正
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 顕著な例をお見せします。上の画像は画像処理をしていない状態の元データです。完全に同じ撮影データではないのですが、どちらも露出アンダーで黒つぶれ気味の画像です。もうひとつの画像は、景色が確認できるくらいにシャドウを明るく補正したデータです。このように、露出アンダーのシャドウ部分を明るく補正すると、ざらつきや赤いアンプノイズなどが発生しやすいのですが、LUMIX S5の場合はこのようなノイズが発生しにくい印象です。

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 もうひとつ作例をお見せします。これは完全に露出アンダーで撮影したものを、大幅にシャドウ部を明るく補正しました。素直な感じで明るく補正できていることがわかります。ただ、さすがにここまでやると、拡大して見れば白い輝点ノイズもありますし、ダイナミックレンジが低下して不明瞭な感じになっています。露出アンダーすぎるとこのようになってしまいますので、失敗作品をカメラの力でなんとかできるわけではないことに注意しましょう。

 また、星空を撮影するユーザーは「赤」の写りを気にします。HⅡ領域という、近赤外(656nm)あたりの波長のことを指しますが、大手メーカーではホワイトバランスに影響があるということで、ここを大幅にカットしており、星空の空間に存在する赤い色が写りにくくなっているのです。LUMIX GH5Sを使用したときは、HⅡ領域があまり映らないイメージでしたが、LUMIX S5はこの領域をそこそこ通してくれており、星のみを撮影する天体写真の分野でも活用できると感じました。

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■撮影機材:Panasonic LUMIX DC-S5 + LUMIX S50mm f1.8
VIXEN 星空雲台ポラリエUで追尾撮影
■撮影環境:ISO12800,f4,SS60秒x10枚(総露出時間600秒),WB:太陽光
Astroarts ステライメージ9で10枚を加算平均合成
Photoshop CCで画像処理

 ゴリゴリに画像処理した天体写真を見せても意味がないと思いますので、加算平均合成後に彩度を+50した画像をご紹介します。オリオン座付近を撮影したものですが、左上にあるバラ星雲やオリオン座付近のバーナードループなどが写っていることが確認できます。一般的なカメラとしては、まずまずHⅡ領域が写る機種だと感じました。

豊富なLマウントレンズ:星空撮影時のベストレンズは?

 Lマウントアライアンスはパナソニック、シグマ、ライカが提携したレンズマウントの規格。この3社が発売しているレンズをLUMIXでは使用することができます。シグマから発売されているMC-21を使用すれば、キヤノンEOSマウントからの変換も可能ということで、非常に豊富な選択肢が生まれることになります。

 私は現在、SIGMA 14mm F1.8 DG HSMにMC-21を介してLUMIX S5で使用しています。ここまでご紹介した星景写真はすべてこの組み合わせで撮影しています。LUMIX S5ユーザーとしてはぜひ持っておきたいアダプターです。

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マウントコンバーター MC-21を使用してレンズを装着

 ですが、所詮は一眼レフ用のレンズなので、ミラーレス専用設計のレンズ精度には及びません。おそらくLUMIX S5と最も相性の良いレンズはSIGMA 14-24mm F2.8 DG DNでしょう。星景写真のために設計されたレンズとSIGMAがうたっている通り、もともと素晴らしいレンズですし、やはりミラーレスならではの短いフランジバックを生かした専用設計となると、非常に高画質で周辺までピシッとシャープな写真が撮れます。今回は残念ながら時間がなく、この組み合わせでの十分な作例を撮ることができませんでしたが、最もおすすめできる組み合わせなのは間違いないでしょう。

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LUMIX S5にSIGMA 14-24mm F2.8 DG DNを装着

使ってみて良かったところ

①液晶モニター拡大時の詳細な設定

 星を撮影するときはピント合わせをマニュアルで行います。液晶モニターに写っている点光源を拡大し、ピントリングを回す。点光源が大きくなったり小さくなったりしますが、もっとも小さくなったときがピントが合っているときということになります。

 液晶モニターの拡大率が20倍まで上がるので、非常に精度の高いピント合わせが可能です。また、拡大ポイントを非常に細かく選べるのもポイントが高いです。他社のカメラでは拡大ポイントが細かく設定できず、点を真ん中に配置したいのにできず、カメラの構図ごと変えなければならないときがありますが、LUMIX S5は非常に細かく拡大ポイントを選択することができ、それをタッチパネル方式で選べるのも便利な点です。液晶をピンチアウトしても拡大することができます。

②液晶ブーストモード:ライブビューブースト(MODE1,2)

 星空撮影地は真っ暗なので構図の確認がしにくいのですが、LUMIX S5に搭載されている「ライブビューブーストモード」がとても心強いです。

■ライブビューブースト
MODE1:明るさ弱め、液晶表示のなめらかさを優先。
MODE2:明るさ強めの設定で、星空撮影時には天の川の位置も確認できる。星景写真の構図決めで頻繁に使用する設定。

 カスタム設定に割り振っておくと、一発で呼び出せるのでとても便利です。注意点としてはライブビューブーストをONにすると、液晶画面のフレームレートが遅くなるため、カクカクした動きになります。構図を決めるときや、ピント合わせに明るい星を探すときなどはONにし、実際にピント合わせ(フォーカスリングを動かす)をするときはOFFにすることをおすすめします。

③ライブビューコンポジット

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■撮影機材:Panasonic LUMIX DC-S5 + SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:ISO1600,24mm,f2.8,SS10秒
ライブビューコンポジットモードで撮影、撮影時間約20分。

 カメラ内比較明合成で、星を軌跡にして表現することができます。どこまで軌跡になっているのかが常時表示されているので、撮影終了のタイミングがつかみやすいです。合成途中の画像は残らず、最終画像のみが保存されますのでタイムラプスへの応用などはできませんが、初心者にはとてもありがたい機能です。電子シャッターでは使用できない(メカニカルシャッターのみ)ので撮影時の設定に注意!

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ライブビューコンポジット撮影開始直後の液晶画面
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ライブビューコンポジット16分経過時の液晶画面。
時間が経つほど軌跡が長くなっていきます。このように軌跡がどこまで伸びているのかをリアルタイムで確認できます。

 良いところばかり言いましたが、もちろん気になる点もあります。今後の改善に期待したいですね。

①カメラボディはPD非対応だが、バッテリーチャージャーはPD対応
 電気を供給し続けながら撮影できるUSB給電に対応していますが、バッテリー切れの心配がなくなる便利なUSB給電方式・PD(Power Delivery)は非搭載。そのため、長時間の動画・タイムラプス撮影でUSB給電をすると、いずれは電池が切れるというリスクがあります。でも充電器はPDに対応しています。

②レリーズ端子
 レリーズやマイクの端子には3極と4極があります。プラグに黒い線2本が3極、3本が4極です。カメラのメーカーの多くは3極を採用していますが、LUMIXは4極のレリーズ端子が採用されているんです。LUMIXだけ使用している方は問題ないですが、私のように他社カメラと併用している人は要注意!

③ナイトモード(赤色表示)
 液晶画面を赤色表示することができる「ナイトモード」は、暗所での撮影で目に刺激を与えたくない場合にはとても有効的です。ただ、ナイトモードにすると撮影した写真を確認する際も赤色に表示されてしまうため注意してください。

④常時プレビュー
 露出やホワイトバランス、絞りなどの効果を液晶モニターに反映する「常時プレビュー」。他社にも搭載されている機能なので特に変わった部分はないように感じると思いますが、LUMIX S5では昼間に撮影するときはON、星空を撮影する場合はOFFにすることを推奨します。

 星空撮影で「常時プレビュー」をONにしたままにしておくと、露出効果がそのまま反映されてしまうため、例えばシャッタースピードを5秒に設定すると5秒おきに画像がモニターに表示されるようになり、構図などの確認がしづらくなります(液晶のフレームレートよりも露出効果が優先されてしまう)。しかしながら昼間の撮影では常時プレビューをONにしておかないと、シャッターを切った瞬間に全く違う露出の画像が表示されることになります。最初は戸惑いましたが、昼間はON、夜はOFFに切り替えしやすいよう、Fn設定などに振り分けておくことをおすすめします。

作例

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■撮影機材:Panasonic LUMIX DC-S5 + Vixen SD103S + SDフラットナーHDキット
■撮影環境:ISO25600,SS0.5秒,811mm,f7.9,WB:太陽光
DxO Pure Rawでノイズ低減後、Photoshop Lightroomで画像処理、トリミングなし

 富士山測候所の後ろから昇ってきた細い月。光が当たっている部分が測候所の両脇から顔を出した瞬間を撮影する、通称「イヤリング富士」。遠方にある地上風景を撮影するにはレンズ枚数の多いカメラ用レンズだと描写が甘くなってしまいます。しかしながら、遅いシャッタースピードだと月がブレてしまうため、可能な限り速いシャッタースピードで適正露出を得たい。速いシャッタースピードで撮影するには明るいf値と、月の面積比を増やすための望遠効果も必要です。

 いろいろと考えることが多い奥深い撮影ですが、ややf値の暗い望遠鏡でもLUMIX S5の高感度特性の良さでなんとか撮影することができました。左上にちょっと彩雲がでていて、それが構図内にもっと入っていればパーフェクトでした……。

まとめ

 いろいろと独特の操作感があるため良いこと悪いこと書きましたが、総じて私はこのカメラを気に入ってます!高感度性能は素晴らしく今回触れませんでしたが動画性能も素晴らしいです。特に絵作りに影響を及ぼす「フォトスタイル」はスタンダード、L.クラシックネオ、シネライクD2あたりはカラーグレーディングも必要としないくらいで非常に重宝しています。

 星空撮影者の中ではマイナーなLUMIXですが、今回使用してみて過小評価されているというか、こんなにもトータルバランスに優れた魅力的なカメラなのかと驚愕しました。現在すでにLUMIX S5を使用している人にも、今回の記事が参考になれば嬉しいです。

 私の過去のライブ配信では、LUMIX S5で撮影した星空画像を画像処理する過程をお見せしています。今後もLUMIX S5関連の動画をアップ予定ですので、ぜひチャンネル登録してみてくださいね!

■写真家:成澤広幸
1980年5月31日生まれ。北海道留萌市出身。星空写真家・タイムラプスクリエイター。全国各地で星空撮影セミナーを多数開催。カメラ雑誌・webマガジンなどで執筆を担当。写真スタジオ、天体望遠鏡メーカーでの勤務の後、2020年4月に独立。動画撮影・編集技術を磨くべくYouTuberとしても活動している。
・著書「成澤広幸の星空撮影塾」「成澤広幸の星空撮影地105選」「プロが教えるタイムラプス撮影の教科書」「成澤広幸の星空撮影塾 決定版」「星空写真撮影ハンドブック」
・月刊「天文ガイド」にて「星空撮影QUCIKガイド」を連載中。
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)正会員

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