パナソニック LUMIX S5 レビュー|今使いたいフルサイズミラーレス機
はじめに
パナソニックのフルサイズミラーレスカメラ、Sシリーズの小型・軽量モデル「LUMIX DC-S5(以下LUMIX S5)」。発売よりすでに1年半が経っていますが、筆者自身が出会ったのは2021年10月。
ミラーレス一眼が初めての人にも扱いやすいボディの機能・操作面、キットレンズとは思えない写りのLUMIX S 20-60mm F3.5-5.6と共に、一番注目した点は写真表現の根幹を担う精巧な色づくりでした。美しさだけではなく、表現するためのカメラとして今注目すべきLUMIX S5の魅力をお伝えします。
パナソニック「Sシリーズ」の小型・軽量モデルLUMIX S5
普段APS-C機を使用している筆者ですが、LUMIX S5を手にしてまず感じたことは、ボディ外装に備わるボタン・レバーによる基本機能の操作性の良さ・わかりやすさです。
メニューから呼び出すよりもスムーズに設定することができるAFモードダイヤル、連写モードダイヤル、AFモード切り替えレバーや、ドライブモードダイヤル、個別に設置されたWB,ISO,AFエリアボタンなど、主要な操作系が単機能で割り当てられているので、初めて使う方にもわかりやすいのが特徴です。
ファインダーを覗いたままでもAF範囲を選択しやすいジョイスティックは4方向移動で、フォーカスポイントの細かい調整もファインダーから離れてパネルで選ぶ必要がないため利便性が高く、静粛で正確なAFにはLUMIX独自の「空間認識AF+コントラストAF」を採用しています。
秀逸な空間認識AF、気軽に撮れる動画撮影
ミラーレス機で一般的な「像面位相差AF+コントラストAF」ではなく、「空間認識AF+コントラストAF」を採用することで被写体を捉えやすく、頭部認識・人体認識の他、動物認識も働き、一度捉えた被写体の追従精度は高く、不意に動く予測不能な子どもたちの様子も、迷わず素早く自然な表情をキャッチしてくれました。
空間認識AFは、被写体の合焦点とボケを判別しながら動体の移動方向を検出して画面の中の動きを読み予測する高度な方法で、素早くかつ的確なピントが得られるというもの。ファインダー内では捉えた被写体を追い続けるフレームの動きの正確さに驚きつつ、これならきっと「パパママたちも動体撮影や動画撮影が気軽にできる!」と実感。
私自身も珍しく「動画撮影してみようかな?」という気分にさせてくれたのは、この独自AFのおかげで、動画撮影時の機能拡張性の高さも併せ、動画クリエイターに人気なのも納得です。筆者は動画撮影に関してはほぼ初心者。ジンバルなしの手持ちでの撮影ですが、友人親子と出かけた時の子どもたちの動きをご覧頂ければ、AF性能の優秀さなどがわかるのではないかと思います。
シャッター速度5.0段分の手ブレ補正
スナップ撮影において「ぶらす、流す、止める」が必要なシーンは多くあり、フルサイズミラーレス機ともなると夜間の撮影ではわずかなブレも目立ちます。しかし、シャッター速度5.0段分のボディ内手ブレ補正機能は定評があり、1秒を超えるシャッタースピードでも手持ち撮影が可能。体を支えることのできるガードレールや支柱、柵などがあれば2秒でも手持ちで撮影可能です。三脚が使用できない場所での撮影が増える昨今ですが、撮影シーンが広がり美しく鮮明な画像を残すことができます。
幅広く扱いやすいキットレンズ LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6
普段は単焦点レンズばかりを好んで使う筆者ですが、LUMIX S5のキットレンズとなっているLUMIX S 20-60mm F3.5-5.6は、キットレンズと呼ぶにはもったいないほどの高画質に驚かされます。慣れ親しんでいる焦点距離28mm~50mmに加え、“より広く、少し遠く”をカバーしてくれる超広角20mmから中望遠域60mmの絶妙な3倍ズームレンズです。
広角端ではマクロ的表現、ダイナミックな風景写真、狭い場所での撮影と、望遠端60mmではスナップやポートレートにも相応しく、様々なシーンに対応できる万能さが魅力。
センサー面からの最短撮影距離も広角端で15cm、望遠端では40cm、最大撮影倍率は0.43倍となります。開放F値は3.5ですが、大口径により光を取り込む量があり、暗さを感じることもなく、このレンズ一本あればほとんどの被写体が撮影可能と言えます。
防塵・防滴、耐低温-10℃で水滴やほこりなどからレンズを守り、レンズ最前面にはフッ素コーティングを採用するなど、天候に左右されることなく撮影できるのもキットレンズとは思えない嬉しい仕様です。
抜群な色領域でこだわりのフォトスタイル設定を作り出す
LUMIXの一番の魅力は、「高い色再現性と階調表現」となるフォトスタイル。初めて撮影した際に、抜けが良く気持ちの良い画作りと幅広いレンジに「キレイ!美しい!」と驚きつつゾクゾクしてしまいました。都会的で美しく鮮明な印象も、柔らかくしっとりとした雰囲気も、優しく滑らかな階調もかなりの好印象です。
難しい色域表現である緑色のヌケ感や、赤色、黄色なども色飽和せず、しっかりとディテールが見られ、肌色の柔らかさもメリハリの利いた描写も得意で、印象的なのに強調され過ぎない絶妙な色づくりはLUMIXの特筆すべき点です。撮影時の設定のままでも美しいのですが、「MY PHOTO STYLE」機能でより自分らしい色を作り込むことができ、予め好みの設定を登録しておくことで撮影時に選ぶことができます。
伸びゆく青竹はそれぞれの濃淡も自然な描写で爽やかなグリーンに。
鮮やかな色も過度にならず、誇張し過ぎない素直な色です。
西陽を浴びてきらめく枯草はコントラストが効いて輪郭も明瞭に。渋色のグラデーションもしっかりと出ています。
しっとりとした深みのある赤。スカートやバラの質感が伝わってきます。
イルミネーションの輝きは、ギラギラするだけでなく透明感があります。
奥深く幅広いモノクローム表現
LUMIX S5を手にしてぜひ使いたいと思うのは4つのモノクローム。コントラストと階調のバランスが取れた「モノクローム」は「スタンダード」から彩度を抜いたもので、「L.モノクローム」は暗室で時間をかけて深く焼き込んだような仕上がり。さらに「L.モノクロームD」はハイライトとシャドウを強調しレンジ幅を効かせたコントラストの高い印象に。「L.モノクロームS」は階調表現をメインにした滑らかでソフトな仕上がりです。
さらに、「フィルター効果」を加えたり、フィルムの銀粒子のように様々な粒が存在している状態を表現することを目指して作られたという「粒状」設定では、ランダムノイズを付加させることもできるのでフィルムライクなモノクローム表現に相応しい機能となっています。
被写体を選んでフォトスタイル設定を変更する一定の型にはめ込むようなものではなく、デジタル世代のモノクロ表現として「MY PHOTO STYLE」を作り、本格的にモノクロ写真を追求してみるのもLUMIXらしい楽しみ方。これには私自身もハマってしまいそうな予感です。
表現力のある全22種のクリエイティブコントロール
フォトスタイルの自然な色再現、モノクロームでは深みのある階調表現ができると思えば、演出性の高いクリエイティブコントロール(フィルター設定)も全22種と豊富な点もLUMIX S5の驚くべきところです。見たままの再現性よりも、「こうありたい」という気持ちの表現にフィルターを活用するのも撮影手段であり写真表現の一つ。
撮影設定では「フィルターなし同時記録」も可能で、フィルター撮影した画と、していない画の2枚を同時に記録できるので、撮った後に比較してより良い方を選ぶことができます。RAW撮影していればカメラ内でフォトスタイルへの再現像も可能です。
快晴の日に使いたいクロスプロセス。
トイカメラのように周辺減光し、さらに彩りが鮮やかになるトイポップ。
冬枯れの草木、金属などコントラストを高めた彩度の低い表現にブリーチバイパス。
温かみのある懐かしい雰囲気づくりにオールドデイズ。
花や女性ポートレート、明るくソフトな色に効果的なソフトフィルターは強弱をつけられます。
フィルター設定はカメラの色づくりがしっかりとしていないとただのペインティングや、やりすぎた画像処理のようにも見えてしまう難しささえあります。しかし、レンズの描写力と画質設計によりクリエイティビティを発揮してくれるのがLUMIX S5。カメラ内のフィルター撮影はほとんどしないという方も多いと思いますが、使ってみることで新しい世界が広がることは間違いありません。
おわりに
人肌のぬくもりを感じる優しい階調、奥行きの深みを感じるモノクローム、メリハリの効いたヌケの良い色、高感度でもノイズの少ない美しい画質。妥協のない色へのこだわりと、動画も静止画も気軽に撮れるハイスペックな機能は、写真画質を求める人にも、動画に挑戦してみたい人にも、今使いたいカメラとして〝フルサイズミラーレスの標準機〟となり得るのではないかと感じました。また、豊富なライカLマウントレンズが使えることも魅力で、更なる表現に期待を寄せられる一台となっています。
■写真家:こばやしかをる
デジタル写真の黎明期よりプリントデータを製作する現場で写真を学ぶ。スマホ~一眼レフまで幅広く指導。プロデューサー、ディレクター、アドバイザーとして企業とのコラボ企画・運営を手がけるなど写真を通じて活躍するクリエイターでもあり、ライターとしても活動中。