LUMIXの転機となるか?像面位相差AFを搭載した初号機LUMIX S5IIの動画性能
はじめに
いよいよ本日2023年2月16日に発売となったPanasonic LUMIX Sシリーズの最新機種LUMIX S5II(DC-S5M2)。シリーズの中では弟分的な存在であり、コンパクトなボディのエントリー機といった立ち位置となっている。この記事を読まれたころには、すでに手に入れた方もいるかもしれないが、筆者は発表前からS5IIをレンタルし様々な現場で使い込んできた。本記事では2ヶ月ほど使い込んできたS5IIを動画性能にフォーカスして進めていきたい。
予想を超える予約数となる
さて、S5IIの予約数が当初の予想を大幅に上回り供給不足になりそうだと先日メーカーが告知をしている。S5IIがこれほど注目を浴びている点は大きく2つ。
1つは圧倒的なコストパフォーマンス。他社の同クラス機種が30万円を超える中、ボディ単体で25万円前後とかなり戦略的な価格で登場した。加えてお手頃なレンズキットを考えると、これだけ注目を浴びるのも十分に頷ける。
レンズキットは2種類
※2023年2月16日キタムラネットショップ価格
もう1つはLUMIXとして初めて像面位相差AFを搭載したこと。これまでLUMIXは画質にこだわり、かたくなにコントラストAFを採用し続けてきた。結果、「LUMIX=AFが弱い」と言われ、画質や操作性が優れているにもかかわらずシェアを伸ばせなかった。そんなLUMIXがついに像面位相差AFを搭載したのだ。これは注目をされないハズがない。
そんなわけで大注目のS5IIだが、実際のところ「旧モデルS5と撮影した映像にどれほどの違いがあるのか?」と聞かれれば、大きな違いはない。極端な言い方をすれば「像面位相差AFが載っただけ」とも言える。しかし、順当な進化をとげながら、もともと評価の高かった画質や操作性、絶対に熱停止しない安心感に高速AFが搭載されたことで他社に肩を並べるどころか、一気に追い越してしまったといっても過言ではない。
LUMIX画質の特徴
S5IIは評価の高いLUMIX画質のDNAをしっかりと受け継いでいる。そんなLUMIX画質の筆者が思う特徴を上げておこう。
圧倒的にナチュラル
LUMIXの画質と言えば「圧倒的にナチュラル」この一言に尽きる。悪く言えば「つまらない絵」とも言えるが、その透明感と立体感のある絵は唯一無二と言えるだろう。
透き通る白
白をより白く、透き通るような色で表現できる。当たり前のように聞こえるかもしれないが、非常に重要なポイントなのだ。
人肌の美しさ
ポートレート撮影等において、人物の肌をナチュラルに美しく表現できる。多くの美容系映像クリエイターがLUMIXを選択している理由もココにありそうだ。
このように非常にナチュラルなLUMIXの画質はカラーグレーディング等で色を処理する場合にも非常に扱いやすくなっている。
旧機種LUMIX S5から進化したポイント
それでは旧機種であるS5から動画性能がどのように進化したのか見ていこう。
外観
ぱっと見の大きさはS5とほぼ同じだが、S5IIがやや大きくなり重量も26gほど重くなった。これは後述する空冷ファンを搭載したためであろう。
空冷ファン
S5には非搭載だった空冷ファンを搭載したが、これは高解像度撮影時の無制限記録に対応したためであろう。コンパクトなボディに空冷ファンを搭載するために、これまでにない革新的なデザインとなっている。
HDMI タイプA
S5ではHDMI端子がmicro HDMIだったがS5IIではタイプ Aとなり、HDMIケーブルをがっしりと接続することが可能となった。外部モニター等を接続する際にやはりmicro HDMIでは心もとないため、タイプ Aになったことはありがたい。
EVF
S5では約236万ドットだったEVFがS5IIでは368万ドットにアップグレードされている。筆者は動画撮影時でもファインダーを覗くことが多い。コレは撮影時に没入感を得たいからなのだが、正直S5のEVFでは物足りないと感じていた。EVFの解像感は筆者にとって重要なファクターである。
センサー・エンジン
キーデバイスであるセンサーとエンジンが新しくなった。新センサーはS5と同じ2420万画素だが、像面位相差AFに対応したセンサーとなっている。新エンジンはS5に対して約2倍の演算性能となっており、像面位相差AFを搭載しながらLUMIX画質を更にパワーアップさせている。
オートフォーカス
S5からの最大の進化ポイントはやはりオートフォーカスである。詳しくは後述するが、像面位相差AFを搭載したことで撮影の幅が広がることは間違いない。
手ブレ補正
もともと評価の高いLUMIXの手ブレ補正が更に進化した。新開発のアクティブI.S.は動画の手持ち撮影時の手ブレを極めて自然に補正してくれる。特に縦揺れの補正に関してS5から大きく進化している。
撮影記録形式
S5では4K 60p(連続記録時間制限あり)までだった動画記録形式が6K(3:2)30p 420 10bit、5.9K(16:9)30p 420 10bit、C4K(17:9)60p 30p 422 10bit、等高解像度の無制限記録に対応した。また、FHD(16:9)120p 422 10bitのハイフレームレート撮影にも対応している。
4Kオーバーの高解像度撮影が可能になったことで、編集時にデジタルズームさせる等、編集時の表現の幅が広がった。
多くのユーザーが待っていた像面位相差AF
兎にも角にもS5IIが注目されている最大のポイントはAF。先述した通りLUMIXとして初めて像面位相差AFを搭載したのだ。LUMIXがこれまで採用していたコントラストAFは撮像した映像のコントラスト(明暗差)からフォーカスを合わせる。それに対してS5IIに搭載された像面位相差AFはイメージセンサーが被写体との距離を計測しフォーカスを合わせる。
▼コンティニュアスAF時の特徴
コントラストAF | 像面位相差AF | |
速度 | △ | ◎ |
精度 | ◎ | 〇 |
動体の追従 | △ | ◎ |
画質 | ◎ | 〇 |
これまで、多くのLUMIXユーザーがマニュアルフォーカスを多用する中、筆者はオートフォーカスを積極的に使用してきた。確かにクライアントワーク等で失敗できない現場などではマニュアルフォーカスを使うことがセオリーであり、像面位相差AFが搭載されたからといって変わることはないだろう。
ただし、ジンバルにカメラを搭載して動く被写体を追い続けるシーンやドキュメンタリー作品等で撮り逃しを抑えたいような現場ではAFが有効だ。
また高速なAFを多用した新しい表現等も可能となるだろう。エントリーユーザーもカメラを被写体に向けるだけで高速に正確にフォーカスを合わせ続けるAFがあれば安心して使用できる。このように像面位相差AFを搭載したことは既存ユーザーだけでなく、すべてのユーザーにとってプラスとなることは間違いない。
実際にAFを使用してみると、今後のファームで更に進化し続けるとは思うが、像面位相差AF搭載の初号機としては合格点と言える。AF任せで安心して撮影することがが出来るだろう。他社製の最新カメラと比べてもAF速度や正確性は申し分ないと言える。
ただ、現在のところ認識対象が3種類しかなく、他社製のカメラに比べてやや物足りなくなっている。この辺りは今後のファームに期待したい。
痒いところに手が届くLUMIXの操作性
LUMIXは古くから動画性能に力を入れており、「LUMIX=動画機」という認識の方も多い。熱停止しない安心感や操作性からプロの現場でも多く使われてきた。そんな動画畑で成長を続けてきたLUMIXには他社にはない動画撮影において便利な多くの機能があり、S5IIにも継承されている。
V-Logビューアシスト・LUTライブラリ
ポスプロでのカラーコレクションやカラーグレーディングを前提としたLog撮影ではコントラストと彩度の低い、いわゆる「眠たい映像」で撮影する。この際LUTと言われるファイルを当てることで、ファインダーや背面液晶、HDMI出力した外部モニター等に仕上がりに近いイメージの映像を表示することができる。
リアルタイムLUT
S5IIで初めて搭載した注目の新機能。前述したLUTファイルを表示するだけでなく実際に当てた状態で記録することができるようになった。いわゆる「カケドリ」というやつだ。LUTは様々な所からダウンロードできる他、自分好みの色を作って保存できるため、気軽に人とは違う映像の撮影を楽しめる。
古い考えの筆者の場合、この機能をどう使うか悩ましいが、新しい表現方法として今後広がっていく可能性はありそうだ。
フォーカスリミッター
これまでのLUMIXではコントラストAFを採用していたため、どうしても背景抜等の意図しないAFの動きをすることがあった。フォーカスリミッターはフォーカスの動きの範囲を制限することができ、意図しないAFの動きを回避できる。像面位相差AFでは不必要かもしれないがリスク回避という意味で使用してもよいだろう。
フォーカストランジション
S5で省かれた機能がS5IIでは搭載された。最大3つのフォーカス位置を登録すると、ボタンひとつでフォーカス位置をスムーズに変えることが可能となる。
筆者はフォーカスの動きで製品を際立たせたいようなシーンで活用している。
ウェーブフォーム
筆者はLog撮影時に白飛び、黒つぶれを回避しつつ、輝度を少し持ち上げて撮影するために、必ずウェーブフォームを表示している。Log撮影時にV-LogビューアシストをONにすると実際に撮影している映像と表示されている映像が異なるため、ウェーブフォームで確認するというわけだ。
AWBロック
LUMIXで初めてオートホワイトバランスのロック機能が搭載された。通常オートホワイトバランスに設定した場合、シーンによってはコロコロと色温度が変わることになる。そこで、オートホワイトバランスで決めた色温度をシャッターを押した際やファンクションボタンを押した際に固定することができる。
カスタムモード登録
動画撮影時の設定は画質、フォトスタイル、絞り、シャッタースピード、ISO感度等、多岐にわたる。故に一度決めた設定は保存しておきたいと誰しも思うだろう。LUMIXでは現在の設定内容に名前を付けて保存することが可能だ。また、モードダイヤルのC1~C3にアサインすることでダイヤルを回すだけで保存した設定を呼び出せる。
4ch 24bit収録
昨年発売されたGH6に搭載された4ch 24bitのオーディオ収録がS5IIにも搭載された。別売りのDMW-XLR1をホットシューに付けることで、4ch 24bit収録ができる他、チャンネル別のモニタリングも可能となっている。
筆者はインタビュー撮影等の高音質で撮影したい現場で外部マイクを使い収録する機会も多い。こういった現場で高音質かつ4ch収録できるため、別途マルチトラックレコーダーを用意する必要がないのはありがたい。
今後期待したいこと
4K 60pがS5同様にAPS-Cクロップされ、GH6で搭載された4K 120pでの撮影はできない。これらはセンサーの読み出し速度に起因していると思われるため、諦めるしかないだろう。とはいえ、筆者の撮影スタイル的にハイフレームレートで撮影した映像をスローモーション表現したいシーンも多いので今後に期待したい。
総括
これまでLUMIXを使い続けてきた1ファンとしてS5IIに像面位相差AFが搭載され、多くの方が注目しているという事実は非常に喜ばしい。筆者自身これまで他社に比べAFが弱いという理由でLUMIXを自信をもってオススメすることができなかった。しかし、それでも使い続けてきた理由はLUMIXが持つ唯一無二の画質、操作性、安心感があったからだ。
S5IIはスチル撮影と動画撮影のバランスが取れた、誰もが使いやすいカメラに仕上がっている。筆者は同時発表されたS5IIXを購入予定なので、手元に届いた際にはまたご報告させていただきたい。
■執筆者:エマーク
広告代理店にて主にプロモーション業務に従事後、フリーランスとしてプロモーション、デザイン業務に携わる。現在はマルチクリエイターとして映像制作、株式会社TOMODY COOとしてオンラインLive配信サービス「WRIDGE」の開発・運営をおこなう。