パナソニック LUMIX S9 レビュー|LUT機能でより自由な写真表現を
はじめに
今回はPanasonicから新しく発売されたカメラ、LUMIX S9についてレビューさせていただききます。このカメラはミラーレス一眼のボディに2420万画素のフルサイズセンサーを搭載しており、レンズマウントはLeica Lマウントになります。サイズは幅約126mm × 高さ約73.9mm × 奥行約46.7mm、重量403gとフルサイズセンサー搭載のカメラとしては非常に小型軽量なボディに設計されていますので、気軽に持ち出しやすいですね。
高性能なAFがポートレートにも最適
S9はファインダーレスなので背面の液晶モニターを見ながらの撮影になります。基本的にファインダーを覗く習慣がついている私としては少し不安な気持ちも有ったのですが、撮り始めてみると意外にも撮影し易くてすぐに馴染むことが出来ました。
特に日中に屋外での撮影の場合、今までは背面液晶だと見えづらくなったり、全く見えなくなったりしていたのですが、S9の場合では普通に見えるので構図が把握できて驚きました。ピントに関しても液晶にタッチ操作で、ピンポイントでピント位置を決める事が可能。高性能なAFが高速かつ正確に捉えてくれますので、気持ちよく撮影することが出来ました。
この写真は、構図の中で前ボケに大きくアジサイを入れており被写体のモデルは比較的小さいのですが、ピント面の浅いLUMIX S 85mm F1.8を絞り開放F1.8で撮影していても、キッチリ瞳にピントが来ています。
こちらのカットもLUMIX S 85mm F1.8を使用しているのですが、ボケ感が柔らかく、AFも速いので私の好きなレンズです。LUMIXのSシリーズでのポートレート撮影には欠かせないレンズになっています。1枚前のカットはポートレートモードを使用して優しい雰囲気を柔らかく表現したのですが、こちらのカットはLUTを使用して陰影を強く取り入れ、コントラストと彩度を強調した少しドラマチック且つノスタルジックな雰囲気に撮影した1枚になります。
LUTとは
LUTとは最近よく耳にするカメラ用語なのですが、映像の表現に用いられることが多く、撮影者自身がカラーやトーンをプロファイルして個性的な世界観を表現できます。プロファイルを作成する事自体に煩雑な作業が必要な時だったり、編集や現像時に用いる事が大半だったのですが、LUMIXではより身近にLUTを表現に用いることができるように、専用のアプリで既存のクリエーターが作成したプロファイルをダウンロードして使用することが出来るのです。ご自身でも簡単にLUTを作成し、編集現像時では無くカメラ本体に取り込んで撮影時に使用出来るように進化しています。
中でも特徴的なのは、S9のボディ本体には既存でLUTボタンが搭載されていて、ワンタッチで取り込んだLUTにアクセスして使用出来るので、より拘った表現を簡単に使用して撮影する事が可能になっています。
こちらがS9購入時にプリセットされているLUTによる画像の違いになりますので見比べて下さい。
▼LUT無し
▼LUT1
▼LUT2
▼LUT3
▼LUT4
LUMIX S9で下町スナップ
私の気に入ったLUTを使って、下町感の残る東京をスナップしてみましたのでご覧下さい。
作例は全てLUMIX S 20-60mm F3.5-5.6で撮影しています。このレンズは本当にスナップに適しており、私がもともと広角スナップが好きという事も有るのですが、20mm始まりというのが嬉しい点です。
最初の1枚は昭和感の残る居酒屋さんの前で撮影。大衆酒場の文字が私にレンズを向けさせました。その前を、後ろ髪を引かれながら帰路に就く人たちをシャッタースピード1/15秒で残像にして撮影した1枚です。
カメラ機材の進化も凄いですがコインロッカーも負けずに進化していますね。タッチパネルや交通系ICカードまで使えて便利になっていますが、コインロッカーという呼び名には未だ少し哀愁が残っているような気がします。
私は東京の鉄道の階段はフォトジェニックに感じるのでよく撮影するのですが、細くて長くて所々はげ落ちたりしている階段には特に惹かれます。そこには幾万の人が通った痕跡が無数に残っているように思えてドラマチックな印象を受けるのですが、今回の東京スナップに使用しているLUTは、コントラストと彩度を高くしてノイズ感も残しつつ青味を加える事で、都会の裏表や冷たさ、そこで暮らす人々の生活感を表現したくて設定してみました。皆さんには、どう映っているでしょうか?
もう少し続きもご覧下さい。
今までの写真は夜や地下でしたが、日中の地上で撮影しました。大きな女性が描かれた壁画の前で大きなキャリーバッグを置いて熱心にスマートフォンの画面を見つめる様が、アンバランスなのにバランスが取れていて、東京を見ているような気持ちになってシャッターを切りました。
構図右側の路地裏側は無数の落書きが有り、歩道側の平和な日常を行く日傘を持った女性とは無縁の雰囲気に惹かれてシャッターを切りましたが、その瞬間に路地裏側から視線を感じたので、そちらを向くとクローズや東京リベンジャーズの世界も見えました。同じ場所でも向く方向が違えば世界も変わるのが都会のスナップの醍醐味だと思います。
次の路地裏もアナザーワールドな世界観が広がっていてシャッターを切らずにはいられませんでした。飲料水の自動販売機の電飾の落書きが更に世界観を高めてくれました。
Uberの待ちなのでしょうか、二人ともフードを深く被りながら一心不乱にスマートフォンを操っているのが印象的だったのでシャッターを切りました。ちなみに私の活動拠点である滋賀県高島市にはUberどころか宅配ピザも有りませんww。
自虐ネタはさておき、このように同じLUTを用いる事で、夜、地下、日中での撮影にも関わらず統一感を持った表現が可能になりますので、ぜひLUTを活用して御自身の表現に一貫性を持たせてみてはいかがでしょうか。
LUMIX S9を使用していて、凄いと感じた事の一つに手ブレ補正機能が有ります。
手ブレ補正機能の優秀さはS5IIやS5IIXでも感じていましたが本当に素晴らしく、この写真は手持ちで4秒露光しているのですが殆どブレていないのが解ります。
1枚前の写真は歩道橋の上でじっとしながら撮影した写真ですが、こちらはエスカレーターを下りながら手持ちで5秒露光した写真になります。エスカレーターが動いているので廻りは流れていますが、エスカレーターの足元の板は殆どブレずに撮影出来ています。
こんな撮影が手持ちで出来るなんて、これから少し変わった表現が簡単に出来そうでワクワクします。
LUMIX S9で清水港スナップ
東京の帰りに静岡の清水に立ち寄ったので、清水の港でも少し撮影してみました。
清水での撮影にもLUTを使用しているのですが、東京スナップで使用したLUTの改造版になります。具体的には、風景寄りなスナップ撮影をしたかったので、ノイズ感を減らして青味を少し強め、色彩を少しフラットにしつつ彩度は上げて、ハイライトを少し飛び気味にして心象的な雰囲気にイメージ変更してみました。
コンテナヤードで雨上がりのリフレクションを見つけたので撮影してみました。
実際はもっとカラフルなのですが、そこを抑えて心象風景感を演出しています。
撮影時は手持ち撮影しているのですが、この写真のようにマルチバリアングルの背面液晶モニターを使用することで、水面すれすれのローアングル撮影が凄く楽に行えるのは嬉しかったです。
ハイライトを飛び気味にしているので、雲と波の白さがより強調された表現になっており写真に広がりを与えています。
静岡の3枚は水と空という共通項にLUTを使用する事で『いつか夢で見た事があるような』というテーマを持って撮影したのですが、伝わりましたでしょうか?
動画も自然で滑らか
S9は主に動画に用いられる方も多いと思いますので、手持ち編集無しの動画を撮影しました。参考にしてくださいませ。
こちらは、車窓からLUT無しで撮影した動画になります。手持ちですが窓ガラスに手を当てながら撮影しています。
4K30pでの撮影ですが、電車の動き出しも含め滑らかに自然な動きで撮影出来ていて、電車内の計器類も確認することが出来ますので解像感も高いと思います。
こちらの動画も4K30pで撮影しておりますが、前半の写真のポートレート撮影時に撮影した動画になります。写真と同じLUTを使用して撮影しているので少しノスタルジックな雰囲気になっています。静止画と動画に同じLUTを使用出来るのも最近のLUMIXでは素晴らしい機能だと思うのですが、S9でも可能なのでとても嬉しいです。
撮影時にモデルさんに寄りすぎてピントが外れたりしていますが、撮影可能距離に戻った瞬間に素早くピントが合うのも信頼感が高く、改めて動画撮影に向いていると認識しました。
おわりに
LUMIX S9を撮影に使用して色々撮影した感想ですが、想像以上に素晴らしいカメラでした。当初はS5IIのダウングレードの初級者向けカメラだと思っていたのですが、使用してみると、小型軽量ゆえの軽快感とレスポンスが素晴らしく、懸念していたファインダーレスも背面モニターが高性能なので、日中野外や暗所撮影でも全くと言ってよい程ストレスを感じる事無く撮影に挑めました。
画質や発色もS5IIと遜色が無くLUTも使い易くなって、価格的にもフルサイズセンサーのミラーレス一眼としては、かなりお買い得なのでオススメ出来るカメラだと思います。オススメと言えば、今(2024年6月現在)購入すると、このレンズが付いてきます。
LUMIX S 26mm F8のパンケーキレンズ。MFですが凄く軽いのでS9にとても似合っていてスナップに持ち出したくなります。おまけでレンズが付いてくる感じがして嬉しいですよね。
S9は本体単体購入も可能ですが、私の好きなLUMIX S 20-60mm F3.5-5.6の標準ズームキットや、こちらも評判の良い超小型高倍率ズームLUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S.の、これ1本で何でも撮れてしまうレンズとのキット販売も有りますので、用途やレンズも合わせて、更にお買い得に購入できます。
本体もブラックとシルバーの2色があり選べるのが嬉しいのですが、購入後に有償ですがボディのエクステリア部分を3色から選んで張り替え出来るサービスも有り、自分好みに外観を仕上げる事が出来ます。
自分色のカメラに仕上げて、LUTで自分が表現したい撮影が可能、小さく可愛いのに超高性能で気軽に持ち出しやすく、静止画も動画も思い通りに自分を表現することが出来る、最高のカメラだと思います。
■写真家:葛原よしひろ
ジャンルに捉われず何でも撮影するマルチプレイヤースタイルの写真家。カメラメーカー等の写真セミナー講師としても全国的に活動している。大阪芸術大学写真学科卒/滋賀県高島市公認フォトアドバイザー/JPS(日本写真家協会)正会員