GRより気軽なのはGRだけ?ゼロから始めるGR III&GR IIIx – 自分好みに育てていこう
ゼロからの復活
不注意でGR IIIxを壊してしまい、工場出荷状態になって戻ってきました。いつかこの日が来るかもと思いつつ、元々の設定を残してありません。
携帯電話の時代から、バックアップは定期的にしなきゃと思いつつ怠りがちで、壊れたときに大事さに気づくんですよね。写真のバックアップは慎重になりましたが、iPhoneもMacも設定を引き継ぐのが楽になり、つい油断していました。
GRもIIIになってメニューがかなり複雑になり、いちいちメモに残すのも面倒です。メーカーが項目をまとめたシートをPDFで用意してくれたら、マルをつけて数字を書き込むだけで楽かも。いや、そもそも令和の時代に手書きでメモをとるってどうなの? 外部ファイルにして保存できるといいですよね。
文句ばかり言っても仕方ないから、とりあえずAF補助光*だけはオフにしてテスト撮影に出ました。
*AF補助光
ONにしている人を見たことがないです。AFが合わない、と文句を言われないように初期設定にしてあるのかもしれないですが、最初に変えたい設定の第一位。ちなみに第二位は再生画像の自動回転。背面液晶が小さくEVFもないから、なるべく画像は大きく見たい。
ほぼ初期設定のGR IIIxを手に散歩しているとチャンスの予感が。これだからGRはスナップシューターと呼ばれているんだ、と心が躍ります。「この光だったらこれだぁッ!」と十字キーの左を押したのに何も起こりません・・・あれ? 呪文を失った勇者の気分。古くはアイスラッガーが飛ばなくなったウルトラセブンのよう。
そうか、初期設定はISO感度だった。
あとに詳しく触れますが、十字キーのなかでも左は特別で、GRを持ち替えることなく、シャッターボタンから指を離さずに、最も早く押せる位置のひとつです。いわばゴールデンポジション。
ぼくのGRはIIIもIIIxも十字キーの左にはイメージコントロールを入れてあります。これは富士フイルムXシリーズとの使用感を揃えるためです。
魅力と個性を引き出すチューニング
GRは、レンズ付きフィルムやフィルム時代のコンパクトカメラのように、構図とチャンスのことだけ考えてシンプルに扱うカメラだと思われがちです。確かにそれも魅力ですが、自分の使い方に合わせてビシッとチューニングすると生まれ変わります。
レンズ固定式で、つまりはそれ自体で完結しているカメラなので、他メーカーの一眼と併用している人も多いのではないでしょうか。つまりはボディのついた28mm、GR IIIxなら40mm。どちらも250gちょいだから、APS-Cで開放F値が抑えてあることを考慮しても、交換レンズ単体と変わらないくらい軽いわけです。
ポケットに入れておいて、サッと取り出せるからGRを愛用している人も多いです。サイクリストにファンも多いのはこれが理由。片手で起動からシャッターまでスムーズに扱えて、キャップ要らずでケースに入れておく必要がなく、サブ機としても優秀。
となるとなおさらメーカーごとの違いを揃えたり、ポートレートでモデルのオフショットを撮るなど使う機会が多いシチュエーションに合わせるのもいいですし、メモ感覚で目についたものはじゃんじゃん撮りたいからとにかく早く動くようにしたい、など用途に合わせて最適化するのがおすすめ。
ついでに書いておくと、ここを読んでいるなかにGRを使ったことがない人がいるかもしれません。どうしてこんなに人気があるのかわからないのでは?
じつはぼくもGR Digital IVから使い始めましたが、それまで人気の理由がわかりませんでした。知り合いの結婚式に出て、オシャレにスーツを着ている人を見ると、たいていポケットからGRを取り出して写真を撮っている。そんなにいいかな、他にもあるんじゃないかな、と思っていました。
実際に使ってみると、片手で操作できてシャッターまでの流れが気軽で速いことと、とにかく軽く、出っ張りがないためわずかなスペースに収納して持ち歩けることは、カメラにとって重要なんですね。細身のスーツを着て一眼レフだと大袈裟すぎるし、似合うカメラバッグもなかなか見つからないでしょう。みんなGRを持っていたことも納得。
がっつり写真を趣味にしているのでなければ、撮るのはほとんどスナップです。いつでも持っていられることが最強。
GRのちょっといい話
GRシリーズを使うようになって11年くらい。イベントに出たり、技術陣にインタビューしたり、ユーザーたちと接する機会も多かったので、そこで知ったことも多くあります。GRあるあるとして、印象に残っていることを、ここでふたつ紹介します。
育つカメラ
フィルム時代のブラックボディみたいに、使っているとペイントが剥げて真鍮が見えるとか、そういうことじゃありません。オフィシャルのイベントがあると、最後にみんなが自分の愛用しているGRをテーブルに並べて、「GRの集合写真」を撮ります。多いときは数十台。世代は違っても基本的に形は同じですし、レンズ前面のリングやストラップを付け替えても、たいして見た目は変わりません。
それなのに撮影後に「自分のGRをとってください」と言うと、すぐわかるんですね。これは不思議。設定を変えたり使い込むうちに、自分のGRに育つようです。
ただの箱じゃない デザインの秘密
GRは真四角な黒い箱だと思われがちですが、ゆるいカーブを描いたタル型になっていて、握ったとき自然に指が並ぶようになっています。バッグから取り出したとき、雑に握っても不安定にならず、自然にシャッターが切れるのはこのおかげ。握っているつもりが握らされている、と考えてもいいですし、指が正しい位置に導かれていると言うこともできます。
ダイヤルやボタンの位置など、いかに自然にスムーズに扱えるか追求して進化してきました。これは速さが求められるスナップを前提にしているから。
GR IIIか、GR IIIxか
ここまで読んでくださったなら、自分の好みに育てて、より早くスムーズに扱えるほどGRは魅力的な相棒になることがわかったと思います。次回以降から具体的な設定と、ちょっと高度なおすすめを紹介していく予定です。
初回に触れておきたい大事なことが残っていました。GR IIIとGR IIIx、迷ったときにどう選べばいいか。この二機種はレンズとその影響が出る部分以外、機能は全く同じです。
ぼくがGR IIIxを手にしたとき、「正直に言って、もうこれ一台でもいいかもな」と思いました。「前からずっと40mmのカメラが欲しかったんだ」
ライカCLとミノルタCLE(どちらも標準レンズは40mm)が好きだから、デジタルで同じようなフィーリングで扱えるカメラが欲しかったので。そもそも「くぅ、28mmって最高だぜ、これさえあればなんでも撮れる」と思ったことがないです。これは写真好きの知人たちもよく言います。GRのイベントでも話しましたが、現代の広角レンズとして考えたら24mmのほうがいいと思うくらい。
けれどもGR IIIxをメイン機にして時間が経ってくるに従って、GRのコンセプトは28mm固定だからこそ実現できたことも多かったのだと気づきました。
例えばGRの特徴的な機能として「フルプレススナップ」があります。これはシャッターボタンを一気に押し込むと、AF駆動を無視して設定された距離で撮れるもの。画期的! いまはレリーズ優先設定できるカメラもありますが、シャッターボタンを押したのに撮れないって最悪です。ちょっとくらいボケても、ブレても、まずは撮れてくれよって思う。
ロバート・キャパが倒れゆく兵士を前にしたとき、シャッターが切れなかったらどんな気持ちでしょう。やらせだって説もあるけれど、歴史的な瞬間にレンズを向けているかもしれない。だからフルプレススナップは、GRが何を大切にしているのかよくわかる機能です。
ところが40mmになると被写界深度が浅いためピントは繊細で、初期設定の2.5mだと合わないケースが多くなります。やはりこれは28mmが前提。フルプレススナップもいいけれどAFを早くしてよって声も聞こえてきそうです。
四年を埋める
そんなに設定を変えたほうがいいの? 初期設定ってメーカーのおすすめじゃないの? という疑問が湧いているかもしれないので、最後に。
GR IIIは2019年3月に発売されたカメラで、もう4年も経っています。デジタルで短い時間じゃないですよね。映像の世界のトレンドが動きました。映画やVlogなど動画を中心に超広角の人気が高まり、広角のスタンダートは24mmに、スマートフォンではそれよりワイドのレンズが搭載され機種も増えています。28mm、40mmの立ち位置が少しズレたわけです。
クロスプロセスとブリーチバイパスは時代の先端から後退して、ちょっと懐かしさを感じるトーンになりました。ポジフィルムよりネガフィルムの色調が人気になり・・・といったふうに四年前とは事情が違います。GR IIIxはGR IIIの操作系とそのまま踏襲したけれど、28mmと40mmを同じ設定でいいものか、この機会に検討してみるのもいいのではないでしょうか。
自分のGR IIIかGR IIIxがあったら次は手元に置いて読んでください。一緒に育てていきましょう。
■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist