RICOH GR IIIx ~日常を切り取るもう一つの眼~|木村琢磨
はじめに(GRとの出会い)
GR IIIが発売されたのが2019年3月。GR IIIのカタログを手にして「これだ!」と思った。私のシステムはミラーレスがメインとなり全体的に小型・軽量化されていたが、それでもレンズ交換式はそれなりのスペースを取る。慣れとは怖いもので、小型ミラーレスカメラがあればコンパクトカメラの出番はもうほとんどないかもしれない…そう思っていたにもかかわらず「やはりコンパクトカメラも欲しいな」と思い始めていた。気がつけばGR IIIの発売日にはGRistになっていたのだ…。
写真家にとってカメラはもう一つの眼であり自己表現をするためのツールであり、写真は言葉の垣根を超えたコミニュケーションができるグローバルな表現技法だ。写真は記録する道具でもあり表現をするツールでもある。そして、どちらの場合でも言えることはそこにカメラがないと写真は撮れないということ。個人的にカメラに求めるものは「気軽さ」と「楽しさ」だ。そして「画質」が良ければ尚良い。そんな条件を満たしているカメラが私の中ではGR IIIだった。そして今回、突如としてGR IIIから派生した標準レンズを搭載したGR IIIxが登場し、発売前にお借りすることができたので使用感などをまとめていこうと思う。今回はRAW現像は一切なしの全て撮って出しの作品で構成しているので、一人でも多くの方にGRシリーズの雰囲気が伝わってくれると嬉しい。
似て非なるもの、2つのGR
今回発売されたGR IIIxは2019年に発売されたGR IIIの派生版であり、何が違うかというとレンズの焦点距離だ。GR IIIは換算28mmの広角レンズであるのに対し、GR IIIxは換算で40mmの標準レンズが搭載されている。焦点距離が伸びたにもかかわらずボディサイズはそのままに、若干レンズ部分が伸びた程度(約2mm増)に収まっている。
GR IIIでも評判の高かった「切れ味の鋭いレンズ」はGR IIIxにも継承されている。GR III、GR IIIxともにAPS-Cサイズの有効画素数2424万画素のセンサーが搭載されているが、レンズの性能が突出しすぎていてセンサーの性能が追いついていない印象だ。今後GR IIIの後継機種に3000万画素オーバーのセンサーが搭載されても余裕で対応できる性能だ。フルサイズのGRを望む声もあるが、GR IIIの様にスナップ的に撮影したいカメラの場合、被写界深度が浅すぎても使いにくいのでAPS-Cセンサーはちょうどいい落とし所なのではと思う。
GR IIIの操作系は片手で完結する様に設計されているためシャッターチャンスにも強い。背面液晶モニターも3.0型と、構図を確認するには十分なサイズでタッチパネルが採用されている。個人的にはタッチパネルで撮影することも多いので嬉しいポイントだ。
GR IIIxのボディサイズは非常にコンパクトなので各ボタン、ダイヤルに指が届かないということはないだろう。逆に手が大きい人には小さすぎるかもしれないが、このコンパクトなボディにAPS-Cサイズのセンサーが搭載されていて且つ換算40mmの標準レンズが内蔵されていると考えるととてもワクワクする。50mmではなく40mmなのがまた絶妙だ。GR IIIに魅力を感じていたが28mmは自分には広角すぎる…と悩んでいた人も多いかもしれない。GR IIIxは間違いなく近年の40mmブームを助長させる一台になるだろう。
GR IIIとGR IIIxとふたつのGR IIIがラインナップされたことで、GRだけで撮影が完結することも増えるだろう。さらに11月にはGR IIIx用のテレコンバーションレンズGT-2が発売され焦点距離が75mmまで伸びる。GR IIIとGR IIIxに加えてワイドコンバーションレンズとテレコンバーションレンズを揃えると、換算21mm〜75mmをGRでカバーできる様になる。GRのデザインで100mm以上の焦点距離はあまり実用的ではないしGRでなくてもというところだ。どうしてもという場合はクロップ機能で107mm相当までカバーできるので必要十分だろう。
眼前の景色を切り取る
GR IIIxの魅力はなんといっても軽快さだ。とにかく気になったものを切り取る、一眼よりもより能動的にシャッターを切ることができるのがGR IIIxの魅力だ。40mmのレンズは標準よりも少し広く、自分が見た構図が綺麗に収まる焦点距離だ。GR IIIの28mmはスマートフォンのカメラに近い画角でスマホで撮影している様な感覚で気軽にシャッターを切ることができたが、GR IIIxはさらに「自分の視点」をより明確に写すのに向いている。50mmは自分が見ている景色よりも若干狭いので写したい被写体などをより明確にするのに向いているが、スナップ的に撮影する場合は自分の視野によりイコールに近い40mmの方が軽快に撮影を行える。
GR IIIxには自分好みの画作りを楽しめる「イメージコントロール」という仕上がり調整機能が搭載されている。自然な写りを楽しめるスタンダードや彩度とコントラストが強めなビビッド、銀塩経験ユーザーには嬉しいポジフィルム調にモノトーンなど基本的な設定はもちろん、クロスプロセスやHDR、ブリーチバイパスなども搭載されている。プリセットのイメージコントロールをベースにさらに自分好みのカスタムイメージコントロールも登録できる。個人的にGR IIIはちょっと荒っぽい写りが好きで設定をかなり調整している。カスタム設定は最大2つまで登録することができるが既存プリセットのイメージコントロールも調整ができる。私の場合はポジフィルム調とブリーチバイパスをベースにしたカスタムイメージコントロールを2つ登録している。既存プリセットはなるべくオリジナルのまま残しておきたいのでカスタム設定を活用している。
写真を撮るなら「絶景」を撮りに行かなければ!とまるで強迫観念にかられたように思ってしまう人もいるが、写真とは純粋に自分の撮りたいもの、残したいものを撮ることが大切だと思う。何より、自分が撮っていて楽しいことが最重要で、私の場合は何気ない日常や散歩で出会う綺麗な光や植物のディティールが大好きだ。GR IIIxの気軽さは私の様な撮影スタイルにぴったりで「日常を切り取るのにちょうど良いカメラ」なのだ。撮るものに合わせてカメラを使い分けることでより写真の幅が広がると私は思う。
まとめ
家の中、近所の散歩、田んぼ、海…遠出はあえてせずにちょっと出かける範囲にGR IIIxを持ち出してみた。私の目の前に広がっている景色が気持ち良いくらいちょうどのサイズ感で切り取られて行く心地よさがGR IIIxにはある。GRといえば21mm、28mmでなければ…その思い込みを払拭してくれる一台に仕上がっている。とにかく撮影が楽しいというのが素直な感想で、GR IIIユーザーとしてはGR IIIxは互いに良い相棒になってくれると確信した。
今後テレコンバーションレンズも発売され、さらに対応できるシチュエーションも増えるわけで、GRの進化はまだまだ止まらないようだ。
■写真家:木村琢磨
1984年生まれ。岡山県在住のフリーランスフォト&ビデオグラファー。広告写真スタジオに12年勤務したのち独立。主に風景・料理・建築・ポートレートなどの広告写真の撮影や日本各地を車で巡って撮影。ライフワーク・作家活動として地元岡山県の風景を撮影し続けている。12mのロング一脚(Bi Rod)やドローンを使った空撮も手がけ、カメラメーカー主催のイベントやセミナーで講師を務める。
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