RICOH GXR|独創的カメラ、もう一つのGR
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はじめに
オールドデジカメ礼賛、第三弾は2009年に登場したRICOH GXRだ。これほど独創的なカメラは類を見ない。レンズとセンサー、画像処理エンジンが一体化したユニットごと交換してしまおうという発想、言われてみれば理にかなっているが実にユニークだ。こんなユニット交換型システムは後にも先にもGXRしかない。
全6種類発売されたユニットの中でも今回は「GR LENS A12 28mm F2.5」(2010年発売、以下「GRユニット」)にフォーカスして紹介したい。
レンズ交換のようにセンサーごと交換
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■撮影機材:RICOH GXR + GR LENS A12 28mm F2.5
■撮影環境:F8 1/1400秒 ISO200
シャッターボタンや背面液晶のある本体側はデータの受け皿に過ぎず、画像処理エンジンといったカメラの中枢までもユニット側に搭載されている。実に近未来的な発想を実現させてしまったのがこのGXRシリーズなのである。
レンズとセンサー一体型の強みは、それぞれのポテンシャルを最適化できる点にある。これはSONYのRXシリーズやGRシリーズでもそうだが、デジタルカメラにおいて一つの理想形である。さらにユニットにすることで自由な設計が可能となる。普通のカメラなら固定されるセンサーですら目的に応じて変えられるのだ。
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ユニットの交換はカチッと言うまでスライドさせるだけ。筆者のようなファミコン世代にはこの作業が懐かしくもあり、どこか合体ロボットのようで男心をくすぐるギミックである。
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■撮影環境:F6.3 1/1250秒 ISO200
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■撮影環境:F8 1/3200秒 ISO200
実際使ってみるとユニットを交換しただけで、あたかも違うカメラを手にしているような感覚に驚く。ユニットによって最適化されたデータは非常に高品質でレタッチの幅も広がる。
早すぎたユニット交換型システム!?
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■撮影機材:RICOH GXR + GR LENS A12 28mm F2.5
■撮影環境:F3.5 1/1600秒 ISO200
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■撮影環境:F6.3 1/850秒 ISO200
一つのボディに多くの機能が詰め込まれている昨今、その日の気分や被写体に合わせて自由にユニット交換のできる後継機が出てくれたらと、常々思う。
中判センサーユニット、高感度特化型ユニット、爆速AFと高速連写ユニットなど妄想するだけで楽しい。ストリートスナップをしていて、お、ここは中判でがっちりと抑えたいからユニットを交換しようなんてことができるのだ。
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■撮影環境:F6.3 1/2500秒 ISO200
2012年にシステムが終了するまで全6種類のユニットが発売されたが、その構想を実現するのに技術が追いついてこられなかったのかもしれない。
GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO
GR LENS A12 28mm F2.5
GXR MOUNT A12(ライカMマウント)
RICOH LENS A16 24-85mm F3.5-5.5
RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VC
RICOH LENS P10 28-300mm F3.5-5.6 VC
これが発売された全ラインナップである。筆者がよく使うのはGRユニットとライカMマウントのレンズが装着できる「MOUNT A12」だが、フォクトレンダーのNOKTON classic 40mm F1.4(本体全長29.7mm)を装着していることもあって普段出かけるジャケットのポケットにすんなり入ってしまう。
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右:GXR MOUNT A12 + NOKTON classic 40mm F1.4
被写体や気分にあわせてセンサーごと変える、こんなことができるのはGXRしかない。強いて言えば1998年発売のMINOLTA Dimage EXも似たような構想であったが、ここまで完成されてはいない。
GXR発表当初は、プリンター、プロジェクター、ストレージ、無線撮影ユニットなど様々なコンセプトがあったがどれも実現には至らなかった。
もうひとつのGRデジタル
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愛用者の多いAPS-Cサイズのセンサーを搭載したGRデジタルシリーズの初代機が出たのが2013年。GXRが発売された2009年は1/1.8型ないし1/1.7型センサーのGR DIGITALシリーズが展開されるなか、早く大型センサーを搭載したモデルが待ち望まれていた時期であった。
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■撮影機材:RICOH GXR + GR LENS A12 28mm F2.5
■撮影環境:F4.5 1/2000秒 ISO200
今となってはフルサイズセンサーを搭載したGRを望む声もあるが、スナップ撮影を意識したカメラということを踏まえて言えば、被写界深度的にも一つの正解なのかもしれない。
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■撮影環境:F6.3 1/1900秒 ISO200
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■撮影環境:F7.1 1/570秒 ISO200
どんなカメラでもその時その瞬間手にしていなければ意味がない。そうした携帯性と、作品を生み出すクリエイティブ性を両立させたGRのイデオロギーには脱帽する。
正直に告白するとGRデジタルは1と3を買っては手放してきた。これがGRという名前でなければ違ったかもしれないが、銀塩時代に森山大道氏の使うGRに憧れてGRシリーズに相当フィルムを通して来た身としては、「何か違う」と感じてしまうのだ。
おそらくその一番の要因はファインダーがないことだろうと思う。確かGR1sにT-MAXのモノクロフィルムをつめて真夏の池袋をひたすら撮っていたことがあり、今でもその時覗いたファインダーを覚えているほどだ。
手に入れたいEVFファインダー
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■撮影環境:F8 1/2500秒 ISO200
GXR本体を手に入れたらEVFファインダー「VF-2」はぜひ入手して欲しい。背面液晶で撮るのと違った撮影体験が得られることは間違いないうえに、「VF-2」を付けてはじめてGXRは完成すると言っても過言ではない。
VF-2の表示は約92.2万ドット相当と数値的には見劣りするが、そこまで粗さは気にならない。これがどうしたことか、見た目は違えど撮影している感覚・体感としてはフィルムのGRを手にしている感じなのだ。まさに「もう一つのGR」なのだ。
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■撮影機材:RICOH GXR + GR LENS A12 28mm F2.5
■撮影環境:F8 1/3000秒 ISO200
アスペクト比を1:1のスクウェアにして、「VF-2」で上から覗くようにすれば二眼レフ感覚での撮影も可能だ。疑似ローライフレックス的につかえばテンションもあがる。かがむようにして撮るとなぜか被写体とじっくり対峙する感覚になるのはなぜなのだろうか。
この「VF-2」、腰に当たったりして不用意に動いてしまうことがあるのでロック機構が欲しかった。それと逆光時やや見づらいのが気になるところではある。
AFは弱いが快適なスナップシューター
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■撮影環境:F5.6 1/2100秒 ISO200
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■撮影環境:F2.8 1/800秒 ISO200
GR LENS A12 28mm F2.5ユニットの弱点をあげると、まずAF速度がある。これは発売時から一部で言われていたことなのだが、この類の話しは使い手の許容範囲によるので購入する際は実際に触ってみるのが良いだろう。
とはいえ、晴れた屋外などではさほど遅さは苦にならず、さらにいえばAF駆動をスキップしてあらかじめ設定した距離でシャッターが切れる「フルプレス スナップ」モードを使えばこの点は解決される。
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■撮影環境:F8 1/290秒 ISO200
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■撮影環境:F8 1/950秒 ISO200
28mmという画角のおかげで、絞りをf8あたりにし「フルプレス スナップ」モードを2.5mにしておけば深い被写界深度のおかげでピントを意識せず撮影できる。この1ステップがなくなることで、被写体を見ることだけに集中できる。これはスナップ撮影において非常に大きなメリットと言える。
筆者としては上記にふまえ、ISO AUTOで上限を800にしている。
それより問題は起動時間だ。これはユニットではなくボディ側の話しだと思うが、電源を入れてから撮影できるまで一秒ほどかかる。電源を入れて構えてもまだ起動中ということもあって、撮影中はなるべくスリープさせないようにしている。最新GRの起動時間が爆速なのでそこが羨ましいところだ。
GR初代が手元にあるのでメニューを比較してもさほど大きな違いはない。逆に言えばGRの思想がすでに確立されていたということなのだろう。
GRレンズの描写
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■撮影環境:F6.3 1/1600秒 ISO200
GRユニットはAPS-Cサイズの1230万画素CMOSセンサーを採用。ユニット型の恩恵もあってかなかなかの描写力を持っている。コントラストはやや強めのレンズなので曇天や暗い条件下でも良い絵が得られる。
28mmといっても実際の焦点距離は18.3mmなので歪みが気になる場合は、現像時Adobe系ソフトをお使いならGRのプロファイルを当ててあげればかなり改善される。ただGRレンズと言えどもアップデートされているわけで、現行機とくらべるとf4あたりの周辺画質はやや劣ると見える。
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■撮影環境:F6.3 1/2500秒 ISO200
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■撮影環境:F6.3 1/2500秒 ISO200
オールドデジカメあるあるなのだが、背面液晶の精度があまり良くないためヒストグラムを見る程度にしておくのがオススメ。実際Photoshopなどで撮影データを開いてみると、確かにこいつはGRだと確信できる。
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■撮影環境:F6.3 1/1250秒 ISO200
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■撮影環境:F2.5 1/60秒 ISO200
今回は紹介できなかったが、ライカMマウントレンズが使えるGXR MOUNT A12ユニットも描写を含め非常に優秀である。触って楽しい、撮っても楽しい早すぎたユニット交換システムGXR、まさにオールドデジカメ礼賛にふさわしい一台なのである。
写真系ポッドキャスト『トーキョー フォットキャスト – TOKYO FOTTO CAST』のご紹介
都市風景を撮ること23年、写真家・新納翔(ニイロショウ)が気になることを深く鋭く突っ込まずに探っていく番組です。週二回定期配信。番組の感想はSNS等気軽にいただけると嬉しいです。
https://podcasters.spotify.com/pod/show/sho-niiro
■写真家:新納翔
1982年横浜生まれ。麻布学園卒業、早稲田大学理工学部中退。2000年に奈良原一高氏の作品に衝撃を受け、写真の道を志す。2007年から6年間山谷の簡易宿泊所の帳場で働きながら取材をし、その成果として日本で初めてクラウドファウンディングにて写真集を上梓する。2009年から2年間中藤毅彦氏が代表をつとめる新宿四ツ谷の自主ギャラリー「ニエプス」でメンバーとして活動。以後、現在まで消えゆく都市をテーマに東京を拠点として活動をしている。日本写真協会(PSJ)会員。